デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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7話

千早が十香と士道のことを見ているように、二人を見ている存在がいた。

 

AST―――対精霊用部隊である。

 

千早も〈フラクシナス〉のクルーの誰もがそれに気がついていない。

 

何故、ASTに士道と十香の二人が監視されているかと言うと……鳶一折紙が原因である。

 

折紙が十香の顔を間近で見る機会があったのが主な理由だ。

 

二人を見つけた折紙は観測機を組織の方から一台回してもらい、解析した結果―――

 

「……ふう」

 

折紙の上司である日下部燎子は目を細めながら唇を舐めた。

 

「存在一致率九八・五パーセント。さすがに偶然とかで説明できるレベルじゃないか」

 

精霊。

 

世界を殺す災厄。

 

そして、

 

「狙撃許可は」

と、静かな―――逆に言えば、底冷えするような声音が、燎子の背に投げられた。

 

燎子と同じくワイヤリングスーツにスラスターユニットを装備し、右手に自分の身長よりも長い対精霊ライフル〈クライ・クライ・クライ〉を携えている。

 

「……出てないわ。待機してろってさ。まだお偉方が協議中なんでしょ」

 

「そう」

 

安心した様子も、落胆した様子もなく、折紙がうなずく。

 

今十香がいる公園の一キロ圏内には、燎子たちAST要員が10人、二人一組の五班に分かれて待機していた。

 

二人がいるのもそのポイントのうちの一つである。

 

そしてこの後に起こる出来事をまだ誰も知らないのであった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

それは紛れもなく油断であった。

 

上から下にいる士道たちの様子を見ていた千早は今日のデートは何の問題もなく成功したと踏んでいたからだ。

 

【へ? 何をやっ……て……ッ!?】

 

そう突然、十香を突き飛ばした士道が脇腹をごっそりと()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

あまりにも突然で予想外の出来事に千早の頭の中が真っ白になる。

 

これは……何の冗談だ? 笑えないにも程がある。本当に……冗談じゃない!!

 

【……おまえが原因か】

 

この事態を引き起こしたのは誰か犯人探していると、腹ばいになり、ライフルを構えたまま身体を硬直させている折紙の姿を見つけた。

 

【ハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!】

 

まるで狂ったように哄笑する千早。その瞳には純粋な殺意が宿っている。

 

千早は自身の目的を達成することを一番に考えているが、それ以外では自分の好きなように、感じたままに動くことにしている。それ故に……例え自分がこうやって怒る必要がないとしてもだ。

 

「―――〈神威霊装・十番(アドナイ・レメク)〉……ッ」

 

【ボクは知らないよ。キミたちが自ら災厄を呼び覚ましたんだから】

 

千早は霊装を顕現させた十香に一瞬だけ、視線を向けてから再び折紙の方に視線を移した。

 

【……本当だったらボクも参加したいくらいなんだけど……運が良かったね】

 

「ああああああああああああああああああああああああああ―――ッ!!」

 

天に響かせ、地に轟くように喉を震わせる十香の声を聞きながら冷笑を浮かべる。

 

「よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくも」

 

十香は剣を握る手に力を込めると、視線の先まで()()()()()()

 

「な―――ッ!?」

 

「―――」

 

瞬きほどの間も置かず、十香は今し方見ていた場所に移動していた。

 

目前には、驚愕に目を見開く女と、無味な表情の少女がいる。

 

そこまで見届け、その女と少女の顔を記憶に刻みつけると、もう興味はないとばかりに千早は士道の近くへと降りていった。

 

【……はぁ、例えわかっていることなのに怒ってしまうなんてね】

 

千早は()()()に死んだ士道に語りかける。

 

怒る必要が全くないのに怒ってしまうことに呆れながらも嬉しさを感じる。自分がそれだけ士道のことを気に入っているかがわかって。

 

十メートル以上の巨大な剣を振るい、折紙ともう一人の女を殺そうとしている十香の様子を見つつ千早は言葉を紡ぐ。

 

【……さあ、キミが起きるのをボクは待ってるよ】

 

それから少し経つと―――

 

士道が燃え始めた。

 

精霊の生成物が消失しているわけでも、太陽光によって火がついたとかでは、ない。

 

燃えているのは士道の傷口の部分だからだ。

 

その炎は士道の傷を見えなくするくらいに燃え上がってから―――徐々にその勢いをなくしていった。

 

そしてその炎が舐めとったあとには、完全に再生された士道の身体が存在していた。

 

「ん……………………ぉ熱っちゃぁぁぁッ!?」

 

と未だ腹にくすぶっていた火を見て、士道が跳ね起きた。

 

【お帰り】

 

「あ……ああ……何か怒ってないか?」

 

【ふふふ、怒ってるって言うよりも殺る気満々と言ったところかな】

 

普段の千早からは考えられないような不気味なオーラを感じて士道が冷や汗を垂らす。

 

「……って―――十香は……っ!」

 

士道が十香な安否を心配して彼女の姿を探してあたりに目を向ける。

 

と、士道と千早のいる公園よりもさらに高台から、黒い光が発せられ―――次いで、凄まじい爆音と衝撃波が撒き散らされた。

 

「うぉ……ッ!?」

 

不意のことに力が入らず、士道は風に煽られる格好で地面を転がされる。

 

【……ボクも参加したかったな】

 

こうなっている原因を知っている千早は小さくそう漏らすが士道には聞こえていなかった。

 

「な、なんだ、一体……!」

 

叫びながら、高台に目を向け―――士道は身体を硬直させた。

 

そこから見える景色が、士道が意識を失う前とは、まったく別物になっていたのである。

 

その方向には住宅開発中の現場やら、三〇年前に地形が変わって以来まだほとんど手を入れられていない山などが広がっていたのだが―――

 

それらが、まるで空襲を受けたかのように無茶苦茶に崩壊していたのである。

 

否―――少し違うか。どちらかというと、巨大な剣で何度も何度も切り裂かれたように、鋭利な断面がいくつも覗かせていた。

 

「あれは……」

 

と、士道が呆然と呟いた瞬間。

 

「ぬぁ……!」

 

士道が〈フラクシナス〉へと転送された。

 

それに伴い千早も自分の意思に関係なく引っ張られるように移動する。

 

【どうせだったらボクも一緒に転送してくれればいいのに……】

 

そんな千早の呟きは誰にも聞かれることなく消えていくのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「十ぉぉぉ香ぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ―――ッ!」

 

〈フラクシナス〉の中へ行って士道と合流しようとしていた千早だが、〈フラクシナス〉が移動した影響でまた引っ張られ、士道と合流することができなかった。

 

【……また、引っ張られてくのね】

 

ぐんぐん下に落ちていく士道に引っ張られるようにして落ちていく千早。

 

「―――」

 

十香が、士道の声に気がついてか、長大な剣を振りかぶったまま、顔を上に向ける。

 

頬と鼻の頭は真っ赤で、目はぐしゃぐしゃ。なんともまあみっともない有様だった。

 

十香と士道の目が合う。

 

「シ―――ドー……?」

 

まだ状況が理解できていないような様子で、十香が呟く。

 

それはそうだろうと、千早は思う。

 

目の前で自分を庇って死んだのを見届けたのだから。

 

しかもその本人が何故か怪我もなく、上から降ってくるのだからなおさらだ。

 

千早自身も何で士道が十香の上から落とされたのか理解していない。

 

おそらく〈フラクシナス〉内で何かあったのだろうと予想しているがわざわざ十香の上から落とすほどなのかというところに疑問が尽きない。

 

だんだんと士道の落下速度が緩やかになり、士道は十香の両肩に手をかけた空に立つ十香の助力を得るような格好で、その場にとどまる。

 

「よ、よう……十香」

 

「シドー……ほ、本物、か……」

 

「ああ……一応本物だと思う」

 

【ちゃんと本物だからね】

 

士道の言葉に十香は唇をふるふると震わせた。

 

「シドー、シドー、シドー……っ!」

 

「ああ、なん―――」

 

と、答えかけたところで、士道の視界の端に凄まじい光が満ちた。

 

そして千早は、その光に目を奪われる。理由はもしかしたら自分の目的を達成できるんじゃないか、と。

 

十香が振りかぶったまま空中に静止させていた剣が、あたりを夜闇に変えんとばかりに真っ黒な輝きを放っている。

 

本当にもしかしたらと千早の胸に希望の光が灯る。

 

「な―――なんだこりゃ……」

 

「ッ……! しまった……! 力を―――」

 

十香が眉をひそめると同時、刃から光が雷のように盛れ出、地面を穿っていった。

 

「と、十香、これは―――」

 

「【最後の剣(ハルヴァンヘレブ)】の制御を誤った……! どこかに放出するしかない……!」

 

「どこかってどこだ!?」

 

「―――」

 

十香は無言で、地面の方を見た。

 

つられて士道と一緒に目をやると、そこには今にも死にそうな折紙の姿横たわっているのが見える。

 

【そこか……よし! 殺っちゃえ!十香ちゃん!】

 

千早は十香聞こえるわけはないのに軽い調子でそう言う。人が虫を殺しても何の感情も抱かないように、軽い口調でありながら淡白な声音であった。

 

すでに千早にとっては折紙は士道を殺した相手……つまりもう怨敵と言っても過言ではないのだ。

 

そのような負の感情は千早にとって本来は毒でしかない。

 

「……ッ! 十香、おまえ……っ! だ、駄目だぞ、あっちに撃っちゃ!」

 

「で、ではどうしろというのだ! もう臨界状態なのだぞ!」

 

【チッ】

 

露骨に舌打ちする千早に眉をひそめながら士道はこの事態を終息させる方法を必死に模索する。

 

十香の握る剣はあたりに黒い雷を撒き散らしている。まるで機銃掃射のように、連続して地を抉る。

 

と、そこで士道は〈フラクシナス〉内での琴里の言葉を思い出した。

 

―――十香を止め、その力を封ずる唯一の方法。

 

「……十香。あ、あのだな、落ち着いて聞いてくれ」

 

「なんだ! 今はそれどころでは―――」

 

「それを! 何とかできる……かもしれない可能性がある……んだよっ!」

 

その言葉を聞いたときピーン! と千早の頭に来るものがあった。

 

それは五年前の記憶。―――千早が士道にとり憑いた日のことだ。

 

【……命拾いしたね】

 

千早は地面に横たわり虫の息としか言い様のない折紙のことを冷たい目で一別すると士道から力の一部を無断で拝借する。

 

「なんだと!? 一体どうするのだ!?」

 

「……あ、ああ。その―――」

 

その瞬間。

 

士道の唇と十香の唇が重なった。

 

……士道の意思とは関係なく。

 

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