デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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8話

突然の事態に士道と十香はお互いに視線を合わせて固まる。

 

「――――――ッ!?」

 

ようやく脳の処理が追いついたのか、士道が声にならない叫びを上げる。

 

それはもう十香の唇の感触を味わう余裕を奪うほどの衝撃であった。

 

一拍おいて。

 

―――天に聳えていた十香の剣にヒビが入り、バラバラに霧散して空に溶ける。

 

次いで、十香がその身に纏っていたドレスのインナーやスカートを構成する光の幕が、弾けるように消失した。

 

【……成功!】

 

それを見ていた千早が喜びの声を上げる。

 

「な―――」

 

千早とは反対に十香は、狼狽に満ちた声を発する。

 

「…………ッ!?」

 

更なる事態に士道が驚く。

 

十香の衣装と剣が消えたことに、ではない。

 

キスをしたままで十香が喋るものだから、接触していた唇が蠢き、何かもう士道の語彙では表現しきれないカオスな状態になってしまったのだ。

 

まあ、ぶっちゃけるとお互いの舌同士が接触、絡み合ったというのが正しい。

 

これは千早のせいであるが。

 

士道はそれに気がつかない。

 

頭を下にしながら、唇を、身体を合わせながら、二人が落下していく。

 

十香の霊装が光の粒子となり、その軌跡を残していた。

 

【うんうん。やはり世界は美しい】

 

その光景を祝福するような顔で見ながら千早は士道から拝借した力を返す。

 

そして、二人が―――士道の身体を下にして地面に着地する。

 

そのまま少しの間重なりあったままでいたあと、

 

「ぷは……っ!」

 

まるで息継ぎでもするように、十香が唇を離し、身体を起こした。

 

「す……ッ、すすすすすすすまん十香ッ! あ、あれは……千早が……ッ!」

 

士道は身体の上から十香が退くなり即座に跳ね起き、後方に飛び退くと同時に身体を丸めて見事なジャンピング土下座を決める。

 

完全にキスをすることになった犯人は千早なのだが、十香の唇を奪ったのは士道なので土下座したのだ。

 

「アハハハハ! 謝る必要なんてないのに」

 

そこに完全に場違いな笑い声が聞こえてきた。

 

その声は士道にとって身近にあり、聞き間違えをする方がおかしい声だった。

 

ゆっくりと頭を上げて声が聞こえてきた方に顔を向けると、

 

「はーい!」

 

ニヤリといたずらが成功したような悪ガキ見たいな表情をした小学生ぐらいの少年がいた。

 

「……千早」

 

「大当たり! さっすが士道! あ、十香ちゃんもヤッホー!」

 

「う、うむ……や、ヤッホー」

 

拙いながらもちゃんと返事を返してきてくれたことに嬉しくなる。

 

なので千早はお礼代わりに()()()()して十香に着せる。

 

「士道……いくら半裸の十香ちゃんが見たいからって服を貸さないのはどうなの?」

 

ニタニタと性格の悪さが滲み出たような笑みを浮かべながらそう言う千早の声に士道が反応する前に十香が反応した。

 

「な……っ!?」

 

ばっと身体を隠すように両手で抱きしめて踞る十香。

 

「ちっ、違う! そんなこと思ってない!」

 

慌てて弁明する士道だが十香は顔を羞恥で赤くしながら「うぅ~」と唸りながら士道のことを睨みつける。

 

「……それは私の体に興味がないということか」

 

「いや、そうじゃなくて……えと、その……」

 

しどろもどろになりながらも、なんとか十香の誤解を解こうとするが、言葉にできない士道は千早に目を向けた。

 

「まあまあ、士道の態度を見て考えなよ十香ちゃん。興味津々だからこそ服を貸さなかったんだと」

 

「……そうなのか?」

 

「もちろん。恋愛遍歴0の初な少年なんだから大目に見てやってよ」

 

千早は士道にしかわからないような悪どい笑みを浮かべながら、流し目で士道のことを見る。

 

「そ、そうか」

 

安心したようにほっと息を吐く十香の様子に千早の言葉に文句を言おうと思っていた士道は思い止まる。

 

ここで変なことを言ってはまた、話が拗れると思ったからだ。

 

実際にその考えは当たっている。もし、ここで文句を言っていたら士道は確実に千早によって十香にあることないことを吹き込まれていたのだから。

 

間違いなくこの選択は英断だった。

 

「さあ、行こうか」

 

千早は笑顔で士道と十香に両手を差し出す。

 

いたずらするような雰囲気ではなく、その切り替えの早さに十香は驚き士道は馴れているとばかりに千早の手をとった。

 

「お疲れさま。ほら、十香ちゃんも手を掴んでさ」

 

千早は士道が手をとって立ち上がると、十香に向けて差し出した手を掴むように催促する。

 

「う、うむ」

 

ちょっと戸惑いながらも十香は千早の手を掴んで立ち上がる。

 

その瞬間。

 

パッと千早が生成した十香の服が消えた。

 

それはもう跡形もなく最初から存在してなかったように……。

 

「ぶは……ッ!?」

 

士道は一気に顔を真っ赤にして硬直した。

 

「―――ッ!」

 

士道の反応で十香もそれに気がついたらしく、慌てて胸元を隠す。

 

十香は見るもいやらしい半裸状態に戻ったのである。

 

「と、ととと十香、これは―――」

 

「み、見るな馬鹿者……ッ!」

 

キスよりもこっちの知識はあるようで、人並みに羞恥心はあるようだった。十香が頬を染めながら士道を睨んでいる。

 

「す、すまん……っ!」

 

泡を食って、士道は目をつむる。

 

「それでは駄目だ! 薄目で見ているだろう!」

 

「じゃ、じゃあどうしろってんだよ……!」

 

士道がそう言うと、数瞬の間のあと、身体の全面に温かい感触が生まれた。

 

「え―――」

 

士道が思わず、閉じていた目を開く。

 

目の前には、十香の漆黒の髪と、裸の肩があった。要は―――ぴたりと、身体を触れ合わせている。

 

「……これで、見えまい」

 

「っ、あ、ああ……」

 

士道は本当にこれでいいのだろうか、と思いながらも、身動きを取ることができず、そのまま固まる。

 

しばしのあと。

 

「……シドー」

 

十香が、消え入りそうな声を発する。

 

「なんだ?」

 

「また……、デェトに連れていってくれるか……?」

 

「ああ、そんなもん、いつだって行ってやる」

 

士道は、力強く首肯した。

 

そして……士道と十香は千早のことを忘れていた。それもう完全に。

 

そこからほんの少し離れた場所に千早はいた。

 

片手には超高性能ハンディカムを持った状態でだ。しかものその表情はにやにやとイヤらしい笑みに形作られている。

 

「後で十香ちゃんと士道がいる前でこの映像をな~がそっと」

 

それはそれは……とてもとてもいい笑顔だった。

 

後日、この映像のデータを破壊するために士道と十香が手を組んで千早を追いかけ回すのだがそれはまだ先の話である。

 

ちなみに、いつの間に移動したのかと言うと……、千早が生成した十香の服が消えて、士道が狼狽した瞬間にだ。

 

十香の力が封じられた影響でパワーアップした千早は自身をポルターガイストで浮かせながら高速でハンディカムを入手して戻ってきたのである。

 

どこら辺から撮影していたかというと、十香が士道に抱きついたときからだ。

 

「さてと、そろそろ行こうかな」

 

千早はハンディカムの撮影を終わらせるとそれのメモリーカードだけを抜き取ってズボンのぽっけにしまうとなにくわぬ顔で二人のところに行くのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「それで……何かな……琴里ちゃん」

 

〈フラクシナス〉に回収され、十香は検査に、士道は気絶して医務室へ。そして、千早は神無月を横に立たせて対面に座っている琴里に詰問されていた。

 

「あなたは何なの?」

 

()()幽霊だよ。士道にとり憑いたね」

 

「嘘ね」

 

チュッパチャプスを突きつけながら断言する琴里に対して千早はただ笑うだけ。

 

「今は幽霊だよ」

 

「……まるで()()みたいな言い方ね」

 

「死者は甦らないよ。甦るということは初めから死んでないんだから」

 

「何でそんなことがわかるのよ?」

 

懐疑的な視線でそう問いかけてくる琴里。

 

「秘密だ。こんななりでも士道よりも長くこの世界にいるからね」

 

いつの間にか千早が琴里のことを背後から軽く抱き締めながら耳元でそう囁いた。

 

「―――ッ!?」

 

「―――え?」

 

神無月も琴里も全く反応……いや、知覚できなかった。

 

「それぐらいで動揺しちゃ駄目だよ」

 

そしてまた、千早は琴里の対面に現れる。

 

「…………目的はなに」

 

必死に動揺を隠しながら琴里は問いかける。

 

たっぷり数秒おいてから千早が口を開く。

 

「そうだね……」

 

千早はここで一旦、言葉を切ると―――

 

「教えない」

 

と、明るい口調で近所の人たちに挨拶するように言うのだった。

 

ガリッとチュッパチャプスが砕ける。

 

「……なら、これだけは教えて」

 

「なにかな?」

 

「……千早―――あなたは私たちの敵なの?」

 

「敵ではないね……」

 

即答する。そして、本当に小さく……()()()と付け加えながら。

 

そのことに気がつかなかった琴里は深く椅子に腰をかける。

 

「それさえわかればいいわ。それを踏まえて聞くけど……千早は士道の味方なの?」

 

「基本的にはね」

 

「基本的には……ね」

 

千早の言葉を繰り返しながらその意味を吟味する。

 

基本的には……それはつまりその基本からハズレルト敵になると言っているのと動議だ。

 

「それでは私も聞きたいことが」

 

「ん? どうぞ。答えるかはわからないけど」

 

「ええ、構いませんよ」

 

真面目モードの神無月。普段からこの状態なら副司令として違和感がないのだが……、彼の変態性を知ると途端に真面目な神無月は偽物なんじゃないかと思えてしまう。

 

「何が聞きたいのかな?」

 

千早が促すと神無月は緊張した様子もなくいつも通りの彼のままで言葉を発した。

 

「……幽霊でなかったならあなたは何ですか?」

 

「ただの……敗北者だよ」

 

千早は自虐的な笑みを作るとそう言いきったのだった。

 

千早の言った敗北者の意味を彼らが知るのはまだ先の事である。

 

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