デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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9話

「……ふはあ」

 

あの一件から土日を挟んで月曜日。

 

復興部隊の手によって完璧に復元された校舎には、もう相当数の生徒が集まっている。

 

そんな中士道は、気の抜けた息を吐き、ぼうっと教室の天井を眺めていた。

 

【やれやれ、そんな浮かない顔してると幸せが逃げるよ】

 

霊体化した千早がそう注意をするも士道の気分は晴れないままだ。

 

「…………」

 

教室にいるから反応を示さないのはわかるが、こうまでぼうっとしてると話すら聞いていないのではと思うが、まさにその通りだ。

 

士道は十香と出会ってからめまぐるしく過ぎていった10日間のことに思いを馳せていた。

 

―――あの日。

 

〈フラクシナス〉の医務室で目覚めた士道は施設で入念なメディカルチェックを受けさせられたのだが―――気を失って以降十香に会えずじまいだった。

 

それが原因だと千早は睨んでいる。

 

「……本格的に気持ち悪いぞ。何やってんだ五河」

 

「! っ、殿町。いるなら気配発してろよ」

 

急に話しかけられ、士道は首の位置を戻す。

 

「普通にいたぞ。ていうか話しかけてたぞ。殿町さんは寂しいと死んじゃうんだぞ」

 

言いながら、無人であった前の椅子に馬乗りになって、士道の机に肘を突いてくる。

 

【寂しいと死んじゃうか……ウサギみたいだね】

 

千早の言葉を聞いてウサミミを着けた殿町を想像してしまい一気に士道の気分が悪くなっていった。

 

「……いや、知らねえよ。ていうか自分の席に戻れよ。もうすぐホームルームだぞ」

 

「だいじょーぶだって。どうせタマちゃん少し遅れるんだし」

 

「おまえ……一応担任だろ。そんな猫かアザラシのあだ名やめとけよ」

 

【色々な意味で賞味期限が切れてるしね】

 

おまえも余計なこと言うなと士道は思った。本人が聞いていたら泣きそうだからだ。

 

「はは、いいじゃん、可愛し。歳は離れてるけど、俺全然ストライクゾーンだわ」

 

「あー……じゃあプロポーズしてやれよ。多分受けてくれるぞ」

 

「は? 何いってんだおまえ」

 

と、そこで教室のドアをガラガラと開ける音がして、士道はぴくりと肩を揺らし、千早は一気に機嫌が悪くなった。

 

それはそうだろう。何しろあの鳶一折紙が、額やら手足やらを包帯だらけにして登校してきたのだから。

 

【ちっ……生きてたのか】

 

「……っ」

 

千早は隠す気もなく思いっきり舌打ちし、士道は息を詰まらせた。

 

顕現装置(リアライザ)を用いれば、大体の怪我はすぐに治るという話を思い出した。三日経っているのにこれだけの包帯が残っていることに少しだけ機嫌がよくなる。

 

「……」

 

折紙は教室中の注目を一身に集めながら、頼りなげな足取りで、士道の目の前まで歩いてきた。

 

「お、おう、鳶一。無事で何より―――」

 

士道が気まずげに言いかけたところで折紙が深々と頭を下げる。

 

一拍おいて、士道は折紙が深々と頭を下げていることに気がついた。

 

「と、鳶一……ッ!?」

 

教室が騒然とし、士道と折紙に視線が集中する。

 

しかし折紙はまるで意に介していない様子で、言葉を続けた。

 

「―――ごめんなさい。謝って済む問題ではないけれど」

 

【だよね~。謝って済む問題じゃないよね】

 

「な……五河、おまえ鳶一に何かしたのか……?」

 

「しとらんわ! してたら俺が謝る方だろうが!」

 

訝しげな視線を送ってくる殿町に士道がそう返す。

 

とはいえ、詳しい事情を説明できるはずもない。士道は折紙に向き直った。

 

まあ、この時点で千早の機嫌は折紙の謝罪により若干上方修正されたが、それでも機嫌は悪いには悪いのだ。

 

「い、いいから、とりあえず頭を上げてくれ……」

 

士道がそう言うと、折紙は存外侃に姿勢を戻した。

 

「でも―――」

 

と、次の瞬間、士道のネクタイが根本から引っ張られる。

 

「ぃ―――っ!?」

 

「はい! ストッープ! 」

 

折紙が士道にひんやりとした表情の顔を近づけようとした瞬間、千早が間にノートを差し込んだ。

 

「誰?」

 

ひんやりとした表情が氷のように冷たい表情に変わった折紙が邪魔をしてくれた少年に視線を向ける。

 

「ん~とねえ……あえて言わせてもらうならキミのせいでとっても不機嫌になった存在だよ」

 

明るい声でそう言いながら折紙に近づく少年にクラスの注目が集中する。その中で士道だけが少年の正体を知っているので一人だけ視線の色合いが違う。

 

少年―――千早は近くの椅子の上に立って折紙の耳元で囁いた。言葉と言う毒を……。

 

「自分が殺し損なった相手の目の前によくのこのこ出てこれたね♪ 士道の脇腹を抉ったくせにさ」

 

びしっと折紙の体が固まる。

 

その件に関してはごく少数の人しか知らないはず。ましてやこんな少年が知るはずもないのにと。

 

クラスはクラスで事の推移を見守っている。

 

と、それに合わせるように、ホームルームの開始を告げるチャイムがなった。

 

「ふふ、それじゃね」

 

千早は怪しい笑みを浮かべながら教室から出ていく。

 

その姿をクラスの面々が見送る。

 

「誰だ……あの子は」

 

クラス中の疑問を口するように殿町が言った。

 

士道はその正体を知っているが、色々と説明が面倒なので何も言わずに席に着く。

 

 

◇◇◇◇

 

 

ガチャンと鍵を開ける音がして、キィと扉を開く音がする。

 

そして、中に入る男と女の姿があった。

 

「……ただいま」

 

「お邪魔するぞ」

 

その男女二人の正体はくたびれた様子の士道とワクワクした様子の十香であった。

 

「ん……おかえり&いっしゃい十香ちゃん」

 

そんな二人を出迎えるようにリビングから千早が歩いてくる。

 

さもこの家の主であるかのように当たり前にだ。そのことに士道は一回まばたきをしてから眉間をほぐす。

 

「姿を見ないと思ったら家にいたのか」

 

「そうだよ」

 

そう千早は学校から出るなりすぐに士道の住んでいる家に戻るとずっと録り溜めしていたドラマを消化していたのだ。

 

「まあまあ、これといって特に面白いものがあるわけじゃないけどさあ上がって上がって」

 

このまま玄関にいるのもなんなので中の方に入るように促すと、そのままキッチンに向かいお茶とお菓子を用意してリビングにあるテーブルに置く。

 

ちゃんと好みも把握しているので十香にはきな粉パンが用意されている。ついでにおかわりもある。

 

二人が手を洗ってリビングに来る。

 

「おお! これは……っ!」

 

十香の目がテーブルに置かれたきな粉パンに釘付けになる。

 

「それは士道が用意してたんだよ」

 

「本当か」

 

十香が士道の方に向き直る。

 

「ま、まあな」

 

気恥ずかしそうに頬をかきながら士道が肯定する。

 

「ささ、二人とも座って座って」

 

立ったままの二人に座るよう促す。

 

ちょうど千早と対面になるようにだ。

 

二人が座るのを確認すると話し出す。

 

「それじゃ、改めて……ボクが千早だよ。よろしくね」

 

「うむ。よろしく頼むぞ」

 

「早速だけど―――」

 

「なあ」

 

いざ本題を話そうとすると士道が割って入ってきた。

 

「何?」

 

話に割って入って来たのだからそれなりの理由があるのだろうと思い聞くことにする。

 

「千早ってさ……幽霊であってるよな?」

 

「あ~……つまり、こんな風に実体化してるから本当に幽霊なのか疑わしくなったと」

 

そう聞き返すと士道がうなずいた。

 

それについてこれから話そうとしていたので質問のタイミングが悪いなと千早は思った。

 

「これから話そうとしてたのがまさにそれなんだよね」

 

「そうだったのか」

 

「そうだよ」

 

千早は自分用に用意していたお茶の入ったコップを手に取り、それを口に運ぶ。

 

そのコップの中には十香や士道の分のお茶よりもずっと色の濃いお茶が入っている。

 

まだ味覚は戻ってないか。内心でそう呟くと千早は口に運んだコップをテーブルの上に戻す。

 

「簡単に言うとね士道が精霊の力を封じる毎にボクはパワーアップをするんだよ」

 

「……本当か?」

 

疑いの眼差しを向ける士道ではあるが、千早のことだから否定できないとも若干思っている。

 

「じゃあ今は何が出来るのだ?」

 

きな粉パンを食べ終わった十香が話に加わってきた。

 

「今、十香ちゃんがボクの姿を認識しているように実体化したり、幽体の時から使っていたポルターガイストぐらいかな。射程は二十メートルで五十キロまでならいくらでもモノを動かせるかな」

 

目の前でリビングのテレビなどを浮かばせる。

 

ちゃんと壊さないように細心の注意を払っているのでそこは安心してほしい。

 

テレビを壊したら千早もドラマを見ることが出来なくなってしまうので慎重に浮かばせている。

 

「ほうほう……なかなか便利なのだな」

 

「まあね……二十メートル圏内であればASTの連中が複数まとめてかかってきても問題ないくらいにはね」

 

感心したような十香の相槌にクククと悪どい笑いを浮かべる。

 

そんな千早に士道は冷や汗を流す。

 

十香は特に気にしてはいないようであった。

 

「ところでだ―――前々から聞きたかったんだけど……千早は何で俺が十香と話をしようとしたとき手伝ってくれたんだ?」

 

士道は前々から疑問に思っていたことを口にする。なぜ自分のことを手伝ってくれたのかと。

 

すると、千早はその少年の見た目に合わない昔を懐かしむような表情をする。

 

「それは……」

 

「それは?」

 

ゴクリと士道が喉を鳴らす。十香は十香で聞き耳を立てている。

 

「それは―――秘密だ」

 

人差し指を唇に当ててはにかむ。

 

「だああ」

 

ガクンとテーブルに士道が突っ伏した。

 

それを視線の端に追いやりつつ十香にも気になるかと聞けば、

 

「気になりはするが……無理に聞こうとは思わんぞ」

 

と、返事が返ってきた。

 

そっかと千早はうなずくと十香にきな粉パンのおかわりはいるかと聞く。

 

それは即断だった。

 

「じゃあ……ちょっと待っててね」

 

椅子から立ち上がりキッチンにきな粉パンを取りに行く。

 

そして、

 

「……そのうちに話してあげるよ」

 

と、小さくキッチンに行く途中で士道に囁くのだった。

 

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