FAIRY TAIL―SLAYER&WIZARD― 作:Crank
「はぁあっ!」
その掛け声で男を取り囲む怪物の一体が蹴り飛ばされた。五体の怪物が槍を持ち、円陣を組んでまで倒そうとする男は、赤い頭部を持ち黒い装束を身に纏っている。
「まったく……」
男は溜息を吐くと腰にぶら下げた指輪を外し、右手の中指にはめた。そして腰のベルトのギミックを起動させると、ベルトの手の形をした部分が動き、傾きを左右に揺すると同時に不思議なサウンドを奏でる。
〈ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー! ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー〉
そして右手の指輪をそのベルトの手の部分、〝ハンドオーサー〟にかざすと、内部の〝グリモワールストーン〟が魔力を増幅して輝き、空中に魔法陣を浮かび上がらせた。
〈コネクト・プリーズ〉
ベルトの音声が響き、男が魔法陣に手を突っ込むと、中からベルトと異なる、握りこまれた手の形をしたハンドオーサーの付いた銃が取りだされる。
「はっ!」
軽く息を吐いて、男はその銃を怪物に向けて発砲した。着弾と同時に火花が飛び散り怪物の一体が倒れる。
それを見て、怪物達は一斉に男に飛び掛かった。
男が銃身に手を添えて力を込めると、銃身がグリップとの接合部分を中心に九十度回ることによって、銃身が刀身へと変化する。銃と剣の二面性を持つ〝ウィザーソードガン〟で怪物の槍を受け流し、ガラ空きの胴体を斬り払う。
怪物の知能は低く、集団で襲ってきても連携はそれ程とれていない。男は各個撃破で怪物を駆逐していく。
しかし、響く足音が状況の変化を告げた。その場にいた怪物は斬り伏せたが、その数倍の数が男に向かって走ってきていたのだ。
圧倒的な数の暴力を前にして、しかし男は取り乱すことはない。
「団体さんのお出ましか。じゃあ、こいつで歓迎しようかな」
再びベルト、〝ウィザードライバー〟を動かし、別の指輪を右手にはめて、同様にかざす。
〈コピー・プリーズ〉
その音声で魔法陣が現れ、男を通過するとその姿が倍になった。そして再度。
〈コピー・プリーズ〉
手をかざし音が鳴る度に、男の姿は一人が二人、二人が四人と増えていく。
『さあ、フィナーレだ』
四人の男が異口同音に話す。サラウンドなのはセリフだけではなく、その挙動も一糸乱れぬものだった。四人が同時にウィザーソードガンを銃に戻し、ハンドオーサーの親指にあたる部分を開くと、連動して指全体が開き、掌部分のグリモワールストーンが露出して、音声が流れた。
〈キャモナ・シューティング・シェイクハンズ! キャモナ・シューティング・シェイクハンズ!〉
そして同時に右手で銃を構え、左手をウィザーソードガンのハンドオーサーにかざす。
〈フレイム! シューティングストライク! ヒー・ヒー・ヒー! ヒー・ヒー・ヒー!〉
銃口に炎が灯った。
『はぁ!』
引き金を引くと炎の弾丸が一斉に放たれる。それはあまりにも暴力的な威力で着弾した程度では治まらない。一撃が何体もの怪物を吹き飛ばし、地面に着弾すると同時に爆発を引き起こした。
爆音が空気を切り裂き、その余波が男にも届くが、その時にはもう爆炎は消え去っていた。その後を見ると先程までそこに存在していたはずの怪物が一体残らずいなくなっている。それを確認して男は軽く息を吐いて脱力した。
「ふぃ~」
いつの間にか男は一人に戻っている。
「グール共、いったいどうしてこんな所に……」
人気のない採掘場に怪物達がいたことを男は訝しむ。〝グール〟と呼ばれる怪物は〝ファントム〟によって生み出される存在だ。そしてそのファントムの大部分は人間に擬態して生活している。人気のない所に現れる道理はなかった。
そのとき、雲一つない星空に、突如稲妻が走った。
「何だ!」
空を見上げる男。その視線の先では稲妻が呼び起こすように、空に裂け目が現れたのだ。
「あれは……」
男はそれに見覚えがあった。かつて魔法の石、魔法石の中の世界に閉じ込められたときに、空中に現れた裂け目を通ってやってきた存在と出会ったのだ。
「でも、何で現実世界に……」
その疑問に対して答える者はいない。しかし、裂け目からは黄金の光が飛び出してきた。光は男の近くに落ちて来て、地面にぶつかると激しい土煙を起こす。
「……ファントム」
土煙から咄嗟に目を庇って左腕をかざしていた男が視線を戻すと、そこには獅子のような頭部を持つ黄金の怪物が立っていた。人に近い姿を持ちながら、明らかに人と違うその姿に男は既視感を覚える。
「…………すっげぇえええええええ! ここが異世界か!」
突如怪物が叫んで跳び跳ねた。物珍しそうに周囲をキョロキョロと見回すと、まるで子供の様に全身で感情を表現する。
そのあまりな様子に、男は呆気に取られた。
「………………おい、お前」
「ん? 俺か?」
思わず声を掛けた男に向かって、怪物は気さくに返事をする。男の溜息が深く響いた。
「なあ、お前ファントムだろ?」
「おお。よく知ってるな、ってだからこの世界に来たんだった」
怪物の自分へのツッコミは無視して、男は質問を続ける。
「いったい――」
「ああ! 皆まで言うな! 大丈夫、分かってるって! どうやってここに来たのかってことだろう?」
男の発言を遮って勝手にしゃべり始める怪物に、男の既視感はさらに強くなった。
「ギルドを介して優秀な星霊魔導士に頼んだんだ。異世界へのゲートを開けるプロだからな!」
「星霊魔導士?」
初めて聞くその単語に、男は強く興味を惹かれた。男自身、〝指輪の魔法使い〟と呼ばれる存在である。もしかしたら自分の知らない魔法技術があるのかと思ったのだ。
それは、自身に魔法を教えてくれた人物の行動から来る不安だったのかもしれない。
「しっかしここまで上手くいくなんてな。流石、俺!」
自画自賛をする怪物に男はどう対処するべきか考え、そして結論を出した。
右手に指輪をはめて、ウィザードライバーにかざす。
〈バインド・プリーズ〉
「お? おお!」
魔法陣が怪物の周りに現れる。その数は五。その一つ一つから鋼の鎖が出現し怪物を縛り上げた。
「おい! どういうつもりだ、これ!」
「とりあえず大人しくしてもらおうか。少し聞きたいこともあるからな」
もがく怪物に男は冷静に告げた。男は指輪の能力で発動した拘束の魔法を使用したのだ。
「さて。じゃあ、ゆっくりと話を――」
そう言いかけた男の言葉が止まる。それは空から再び稲光が届いたからに他ならなかった。
「……閉じる?」
視線を向けると、裂け目から稲光が起こっている。開いたときと同様にその裂け目は逆再生の様に急速に塞がろうとしていた。
開くと同時に、中から出現したものまた。
「ええ! おい、どうなってんだ!」
怪物は狼狽していた。体が浮き上がり、裂け目をと引かれていく。辛うじて魔法の鎖で繋がれているが、そうでなければとっくに吸い込まれていただろう。
「くっ! 俺が知るか!」
そして、男もまた地面に必死にしがみついていた。怪物と同じく男も吸い込まれそうになっているのだ。その吸引力の強さに対抗するために両手が塞がってしまい魔法が使えない。
しかしその強烈な吸引力は周囲の物体に一切作用していなかった。吸い込まれそうになっている二人を除いて、採掘場は静かな夜を謳歌している。
「……! 指輪が!」
男は自分の体でも、特に腰にぶら下げた指輪への影響が強いことに気付いた。チェーンの様にぶら下げた指輪が激しく揺れている。
このまま治まってくれるのか。男がそう心配した瞬間……腰の指輪が吸引力に耐え切れず外れてしまった。
「しまった!」
咄嗟に手を伸ばしてしまったことを男は後悔する。両手で限界の力に片手で抗える筈もない。男は落下するかのように空に吸い込まれていく。
と、どこか脱力させられるような悲鳴も聞こえてきた。
「どぁあああああああああああああっ!」
見ると魔法陣が薄くなり拘束力の弱まったバインドの鎖が切れて、怪物も裂け目に吸い込まれていったのだ。
「折角成功したのにぃいいいいいいいい!」
だが男は、その薄くなり消えかけの魔法陣を見て、この裂け目が何を吸い込んでいるのか理解した。
「魔力を吸い込んでいたのか……」
それを理解したとき裂け目は閉じ、男の姿は世界から消えていた。