FAIRY TAIL―SLAYER&WIZARD―   作:Crank

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港の出会い

「――――ぇ――ねぇ」

 

 甲高い呼び声が聞こえ、自分が意識を失っていたことに男は気付く。潮の香りと波の音が、ここが海岸であることを告げている。

 

「ん……」

 

 薄くと目を開けると、太陽の光が目の中に飛び込んできた。直前に残る記憶が夜だったことを考えるとどうやら大分眠っていたらしい。

 眩しさに耐えながらゆっくりと瞼を挙げると、そこに自分の顔を覗き込む存在に気がついた。

 

「あい」

「え?」

 

 軽く手を掲げての挨拶に、男は呆然とするしかなかった。思考が現実に追いついていないためだ。

 だが相手は男の意識が戻ったことを確認すると、振り返って呼びかけを行う。どうやら他にも誰かいるらしい。

 

「ナツ~、目を覚ましたよ~」

「おお、本当か!」

 

 倒れていた男は上体を起こし、自分を目覚めさせてくれた人物達の姿をしっかりと捉えた。

 呼ばれてこちらに歩み寄ってくるのが二人。一人は鱗柄のマフラーを首に巻いた赤髪ツンツン頭の少年、もう一人はまだ喋ってはいなかったが金髪ロングの露出が少々激しい少女だ。

 そして、男を起こしたのは青い――。

 

「……猫?」

「うん。おいらハッピー。よろしく」

 

 唯でさえ鈍っていた思考が完全に止まった。

 

「……猫が喋った」

「まあ、普通はそういう反応よね」

 

 金髪の女が男に同情の眼を向けている。それは以前に本人も同様の感想を抱いたことの証左であった。だが問題の猫、ハッピーともう一人の少年の方は、そんなことは意にも解していない。自然に男に近づいて、腰を落とし屈みこんで、目線を男に合わせた。

 

「俺はナツ。妖精の尻尾《フェアリーテイル》のナツ・ドラグニルだ。こいつらは仲間のハッピーとルーシィ」

 

 少年の紹介で男はそれぞれの名前をようやく把握することができる。そして少年に握手を求めて手を差し伸べた。

 

「俺は操真晴人」

 

 ナツはその手をしっかりと握り返す。そしてお互い手を放し、次の相手に晴人は握手を求めた。

 

「よろしく。私はルーシィよ。ナツと同じ妖精の尻尾の魔導士なの」

 

 そう言って握手をしていない右手の刺青を見せた。ナツとハッピーもそれぞれ肩と背中の同じ形の刺青を提示する。

 

「おいらハッピー。好きな物は魚です」

「……よろしく、ハッピー」

 

 小さな手? を差し出すハッピーと晴人は戸惑いながらも握手をする。全員と挨拶を終えたところで、ナツが晴人に話を始めた。

 

「なあ、お前イグニール知らねーか?」

「………………いや、心当たりはないな」

 

 少し考え込むが、その言葉は晴人の知識の中にはない。知っているかと問われると明確に否と答えるしかなかった。

 

「じゃあ、お前も滅龍魔導士《ドラゴンスレイヤー》なのか?」

「ドラゴンスレイヤー?」

 

 今度は意味こそ分かるが、自分がそう呼ばれる理由が分からない。ドラゴンスレイヤーとは伝説に出てくるドラゴンを討つ伝説の人物のこと。いろいろなファントムは倒してきたが、ドラゴンを倒したことはない。

 

「珍しい。ナツの鼻が匂いを間違えるなんて」

「間違えてねーよ! こいつから少しだけどドラゴンの匂いがすんだよ!」

 

 ルーシィの言葉にナツが吼える。その様子を見てハッピーが解説を始めた。

 

「ナツは火龍イグニールに育てられた滅龍魔法の使い手、滅龍魔導士《ドラゴンスレイヤー》なんだ。それにすっごい鼻が良くてどんな匂いでも嗅ぎ分けることができるんだよ」

「…………なるほど、な」

 

 その説明でナツの言葉に納得がいった晴人は、思わず自分の体、そして通常のベルトに擬態しているウィザードライバーに目を落とした。そこには晴人が魔法を使うための魔力の源がいるからだった。

 

「……て、しまった、指輪」

 

 うっかり失念をしていたが、晴人は意識を失う直前に指輪が飛んでいったことを思い出す。慌てて衣服をあさると、胸ポケットのホープウィザードリングと指にはめたドライバーオンウィザードリング、フレイムウィザードは無事だった。

 

「…………良かった」

 

 ホープが残っていたことに安堵する晴人。その様子を見て言い争いをしていたナツとルーシィが興味深そうな、そして好奇心に充ち溢れた顔をした。

 

「おい、何だその指輪!」

「魔法の指輪さ」

 

 ナツにそう答え、見せつけるように晴人はフレイムウィザードリングを掲げる。

 

「魔法の指輪ってことは、ソウマって魔導士なの?」

 

 その言葉に晴人は吹き出しそうになった。ルーシィの発音が、明らかに晴人の姓と名を間違えていたからだ。

 

「ルーシィ、俺の名前は晴人。操真はファミリーネーム」

「あ、ごめん。でも珍しいわね、名字が先なんて」

「…………そうかもな」

 

 今のやり取りで晴人はある結論に達した。

 ここは異世界である。

 晴人に外国語を話している自覚はない。だが、ナツ達の名前は英語圏のそれだ。唯のテレポートならそんなことは起こり得ない。あの空に現れた亀裂は、やはり異世界への出入り口だったのだ。

 

「じゃあ、晴人もどっかのギルドに入ってんのか?」

「ギルド?」

 

 ナツの台詞の中に、聞きなれない単語を耳にした晴人は思わずそれを繰り返していた。そんな晴人の心情を真っ先に見破ったのか、ハッピーが再び解説を始める。

 

「ギルドっていうのは同じ職業の人達の集まりだよ。おいら達は魔導士だから魔導士ギルドに所属してるんだ」

「それがフェアリーテイルってやつか」

「うん。フィオーレ王国でも最強って言われてるんだ」

 

 あまりに解説が板についているので、晴人はいつもやってる猫なんだなと解釈した。異世界について早々にこれだけの情報が手に入ったのは僥倖と言える。

 この世界では魔導士、つまり魔法使いは職業なのだ。以前の様に生活の基盤を魔法に置いているわけではない。タナトスの器の様なことを心配する必要がないことは、晴人の気持ちを少しだけ楽にした。

 

「ギルドも知らないなんて、お前結構世間知らずなんだな」

「そうかもな」

 

 ナツの素直な感想に、晴人は苦笑せざるを得ない。文字通り知らないのだから。

 

「で? 晴人は魔法が使えるの?」

 

 質問がループするが、そう言えばまだ答えていなかったことを思い出し、晴人はルーシィに指輪を見せる。

 

「ああ、俺は指輪の魔法使いだからな」

「指輪の魔法?」

 

 首を傾げるルーシィの前で、晴人は右手の指輪をベルトにかざした。

 

〈ドライバーオン・プリーズ〉

 

『おお!』

 

 突然ベルトが形を変えたことに、三人は興味津々といった風だ。

 しかし。

 

「まあ、今はこれだけしかできないんだけどね」

「え~~何だよ、つまんねぇな」

 

 どこまでも素直なナツに苦笑して、晴人は事情を説明する。

 

「今は指輪がなくってね。指輪の魔法使いは指輪がなければ唯の人って訳さ」

「指輪……? ねえルーシィ、さっき拾ったやつじゃない」

 

 晴人の説明で何かを思い出したのか、ハッピーはルーシィのスカートをひっぱった。それを払いながらルーシィも考え込むが、すぐに思い至ったようでポケットの中をあさり始める。

 

「そう言えば……もしかして、これ?」

 

 両手を差し出したルーシィの掌の上には、まぎれもないウィザードリングが七個のっていた。

 

「これ、どこで?」

「近くに落ちてたの。何か分からないから後で鑑定してもらおうと思って拾っておいたのよ。まさか指輪とは思わなかったから」

 

 確かに石の部分が指より大きいウィザードリングを一目で指輪と看破するのは難しいかもしれない。晴人はしっかりとそのリングを受け取る。

 

「お? じゃあそいつがあれば魔法が使えんのか?」

「ああ。ここにある分はな」

 

 再び興味を持ったナツの言葉に、晴人は指輪を一つ右手にはめながら答えた。ルーシィとハッピーも晴人を凝視している。

 

「じゃあ、こんな感じで」

 

〈コネクト・プリーズ〉

 

「きゃっ!」

 

 晴人が目の前に現れた魔法陣に手を突っ込むと、突然ルーシィがくすぐったそうに小さな悲鳴を上げた。

 

「どうしたのルーシィ?」

「えっと、何か後ろからくすぐられて――」

 

 三人が振り返ると、そこには小さな魔法陣と、そこから出ているピースサインしている手があった。

 

「おお、面白え!」

「空間をつなげる魔法かぁ」

 

 喜ぶナツと感心するルーシィの反応が対照的で、晴人は瞬平と凛子を連想して思わず笑顔になってしまう。

 

「ねえ、これならガルナ島まで行けるんじゃない?」

「おお! それだ!」

 

 ハッピーの提案を全力で肯定するナツだったが、その言葉は即座に晴人によって否定される。

 

「いや、これそんなに大きいものは通れないから」

 

 その言葉に、ナツは露骨にがっかりした。それはもう、擬音語が宙に浮くのではないかというレベルで。

 

「何だよ……使えねぇな……」

「おいらは通れるかな?」

 

 軽口を叩くハッピーは一先ず置いておかれたのか、今度はルーシィが説明役を担う。

 

「船に乗ろうと思ってるんだけど、ナツって乗り物に弱くて」

「それは……魔法に頼りたくもなるか」

 

 気迫が溢れているような少年の意外な弱点に、晴人の好感度はだんだんと上がっていく。一癖も二癖もある仲間達とどこかダブっているのかもしれない。

 

「やっぱ泳いでいくしかねーか」

 

 どうしても船を避けたいナツの一言にルーシィもハッピーも呆れ果てているが、返事をした人物が一人いた。

 

「あんた達、魔導士なのか?」

 

 泊まっていた手漕ぎボートの持ち主らしき男がそう声を掛けてきた。その表情には驚愕と恐怖が表れている。どうやら晴人が魔法を使うところを見ていたらしい。

 

「あの島の呪いを解きに来た魔導士なら乗せてあげよう」

「あ、はいはい、そうです!」

 

 勢い込んでルーシィが答える。よっぽどその船に乗りたい理由があるのだろうが、晴人にはその理由は分からない。しかし、ナツが本気で嫌そうな顔をしている理由は分かった。

 

「そんなに乗り物に弱いのか」

「あい!」

 

 晴人の呟きをハッピーが元気よくシンプルに肯定する。

 

「ほら! 早く乗りなさいよ!」

 

 船上で胸を張るように声を張るルーシィに、ナツは心底げんなりした表情を浮かべる。良いコンビだと晴人は再び実感した。

 

「ねぇ、晴人はどうするの?」

 

 船に飛び乗ったハッピーが問い掛ける。特にどうすると決めてはいなかった晴人は、その言葉に少し考え込む。

 だが、その思案はナツの一言で終了してしまう。

 

「何言ってんだよ。一緒に行くに決まってんだろ」

「決まってるの?」

 

 ルーシィが突っ込みを入れたが、ナツは意に介していない。まるで決定事項のように一方的に告げ、それを断られることなど微塵も考えていない表情で待っている。その様子にハッピーはやれやれと肩を竦めていた。

 ここで別れることも当然選べるが、異世界で一人歩きは危険すぎる。どんな文化や法の、もしかしたら物理法則すら違うかもしれない場に予備知識なしは危険だという判断が晴人の頭に過った。

 しかしそんな打算以上に、晴人はもう少しこの二人と一匹に同行したいという気持ちが生まれたいたのだ。

 

「………………ああ、行くか」

 

 そう答えて、晴人も船に乗り込んだ。

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