FAIRY TAIL―SLAYER&WIZARD―   作:Crank

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侵入者達の会合

「あ~酷い目にあった~」

 

 愚痴をこぼしながら歩くルーシィを引き連れて、ナツ達一行はガルナ島内部を歩いていた。

 ガルナ島を〝呪われた〟と表現した船頭は、船を島の近くまで漕いだ後に突然その姿を消してしまったのだ。そして、船は渦に呑まれてしまったが、メンバーは奇跡的に全員目的のガルナ島に打ち上げられていた。

 びしょ濡れの服のままで、とりあえず依頼主を探すために歩き始めたナツ達だったが。やはり不満は消えはしない。

 

「う~着替えたいよ~。お風呂~」

「同感」

 

 ルーシィだけでなく晴人もその言葉に共感をする。対してナツとハッピーは特に気にした様子もなく、海岸からの一本道をどんどん進んでいった。

 

「お、何かあるぞ!」

 

 ナツが駈け出したので、他の面子も慌ててそれを追いかける。言葉通りに、目の前にバリケードの様ような木の壁が堂々と立っていた。明らかな人工物の登場に、人の存在を一行は確信する。

 近寄ってみたバリケードは三メートルにも届く高さで、周囲をぐるっと覆っていた。入口の上には見張り台もあり、おそらく常駐であろう見張りも立っている本格的なバリケードで中の人間が如何に身を守ろうとしているのかを伝えていた。

 

「あのー! 私達妖精の尻尾から来たんですけどー!」

 

 中に届くように声を張り上げるルーシィ。少し間をおいて、中から返事から返ってきた。

 

「…………依頼を受諾したという話は聞いていない!」

 

 見張りの一人の言葉にナツ達が慌てたのを晴人は見逃さなかった。小声でハッピーに問いかける。

 

「なあ、どうしたんだ?」

「……おいら達、勝手に依頼を受けちゃって」

 

 言い難そうに目を逸らしながらも、正直に話すハッピーに晴人はそれ以上の追及を止める。今更帰ると言ったところで方法もなければナツが首を縦に振るとは考え難い。

 

「本当だっつーの! 俺達は依頼を受けてやってきた魔導士だからな!」

 

 事実を知ってしまった晴人には、中に向かって怒鳴り散らすナツの姿は、後ろめたさを誤魔化しているようにも見えた。だがそんな叫びで納得されるような人間がいるはずはない。中にいる者はナツの声に耳を貸す気配はなかった。

 

「何か妖精の尻尾を証明する身分証とかないの?」

 

 晴人の問いかけにルーシィとハッピーが首を捻る。ナツはバリケードへの怒声に余念がない。

 

「う~~ん…………。あ、そうだ!」

 

 突如何かを思い浮かんだのか、ナツを押しのけて一番前に出て右手を振る。

 

「ねえ、これ見て! 妖精の尻尾の紋章よ!」

 

 振っていた手を反転させて手の甲を見せつける。見張りの男もそれをじっと見た。そこにはピンク色の刺青のようなものがある。

 

「あれは?」

「ギルドのメンバーは体のどこかに、そのギルドの紋章を刻んでるんだ。おいらも、ほら」

 

 晴人の問いに答える形でハッピーが背を向けると、そこにはルーシィと同じ紋章が刻まれていた。

 

「ならば全員紋章を見せろ!」

 

 見張りの要求に、ナツとハッピーをそれぞれの紋章を提示する。

 だが…………。

 

「……まいったな」

 

 当然だが晴人は紋章など刻んでいない。見せられるものがなく途方に暮れていると、見張りの男が催促をする。

 

「どうした! お前も紋章を見せるんだ!」

「この人は途中で会ったばかりだから、紋章はないの!」

「では、そいつを入れることはできん!」

 

 正直に事情を説明するルーシィの言葉に、見張りも簡潔に返答をした。それに怒るのはナツだ。

 

「んだよ! 良いじゃねえか! ケチくせえな!」

「駄目だ! 文句を言うならお前達も入れんぞ!」

 

 喧嘩を売るに等しいナツの言動に、見張りも口調を荒げ始めている。

 このままでは揉め事になるのは目に見えていた。

 

「仕様がないか」

 

 晴人が溜息を吐いて、ベルトに右手をかざす。

 

〈ガルーダ・プリーズ〉

 

 目の前に現れるのは赤いプラモデル。それが空中で一人でに組み上がり、手乗りサイズの鳥の形になる。

 

「頼むぞ」

 

 指輪を外し鳥の胸に組み込むと、まるで意思を持つかのようにルーシィの傍を飛び回り、旋回する。

 

「これは?」

「俺の使い魔。何かあったらそいつを飛ばしてくれ」

 

 そう言って晴人はその場を後にする。

 

「え、ちょっと……」

 

 ルーシィが呼び止めようとするが、晴人が去ったのを確認した見張りが門を開けた。

 

「よし。お前達は入っていいぞ」

 

 躊躇いながらも中に入らなければ依頼が進められない。それを分かっているナツ達は、しぶしぶながらも晴人を置いて村の中へと入って行った。

 離れた場所からそれを見届けた晴人は、これからどうするべきかを考える。

 

「……一人で帰るってのは、無理だよな」

 

 流石に一人で海を越えるのは危険だと判断する。途方に暮れるしかない晴人は大きく空を仰いだ。

 

「…………異世界か」

 

 今にも目の前の青空が裂けて、元の世界に帰る道ができないかと夢想するが、空は穏やかに白い雲が流れるだけだ。

 

「変わらないのか」

 

 世界が変わっても青空の美しさは変わらない。それがどうしても元の世界を思い起こさせるのだ。

 

「……上るか」

 

 どうしようもないことを悩み続けることもないと、晴人はとりあえず島の中心に見える山の頂を目指すことにする。特に意味があるわけでもないが、とりあえず海に戻ってもすることがないのでその反対を向いたのだ。

 山道がそれなりに整備されているようで、歩くには問題はない程度に麓の森は開けている。晴人はゆっくりとその道を歩き始めた。

 現代人である晴人にとって、森や山を歩くことはハイキング以上の意味は殆どない。思わず注意を怠ってしまうのも仕方がなかったのではないだろうか。

 それが、晴人にとっても相手にとっても想像できない出会いを生んでしまう。

 

「……ん?」

 

 ガサガサと茂みの奥から音がする。枝葉をかき分ける音が明確に晴人の耳へと届いた。

 

「動物か?」

 

〈コネクト・プリーズ〉

 

 猛獣だったときのことを考えてウィザーソードガンをコネクトの魔法で取り出す。ガンモードなら生身でも十分に動物を追い払うことができるという判断からだった。

 近づいてくる音。そして、現れる影。

 

「面倒臭え道だな! 迷ってなんかねぇけど!」

 

 何故か叫びながら男が茂みから出現した。

 

「…………犬?」

「犬じゃねぇよ!」

 

 犬の耳を頭に付け、鼻周りも完全に犬のそれな男を見て思わず言ってしまう晴人であったが、正面から否定される。意味もなくハイテンションな男だった。

 

「何だよ、お前は! 村の奴じゃねえだろ!」

「分かる?」

 

 逆に怒声だか質問だか分からない言葉を叩きつけられるが、晴人は冷静にその言葉を受け止める。常時ハイテンションの男は慣れているのだ。

 

「村の奴らが神殿に近づく訳ねぇだろうが!」

「へぇ、あの遺跡っぽいの神殿なんだ」

「はっ!」

 

 男はしまったと露骨に顔で表現して、慌てて口を塞ぐ。

 

「で? その村の人が近づかない神殿んで、何してんの?」

「あ? 月の雫《ムーンドリップ》のことなんか教えるわけねえだろ!」

「いや、言っちゃってるし」

「はっ!」

 

 再びしまったと口を塞ぐ男だが、時既に遅しとはまさにこのこと。少なくとも計画の根幹であろう単語を教えてしまっていた。

 

「くそぉ! ここまで聞かれたからには唯で返すわけにはいかねぇ!」

 

 一方的に喋っていた男が手の爪を伸ばしてキレる。あまりに一方的な物言いには晴人も呆れるしかない。

 

「やれやれ……。我儘なワンちゃんだ」

 

 溜息を吐いて相対する。

 

「犬じゃねぇつってんだろ!」

 

 伸びた爪を構えて今にも跳びかからんとする男に、晴人はどうしたものかと思案を巡らせる。人間相手に魔法で戦うことに対して、どうしても躊躇いが生まれてしまうのだ。

 

「行くぞ、しゃあ!」

「速い!」

 

 男の踏み込みの速度に驚愕する晴人。

 

〈ディフェーンド・プリーズ〉

 

 咄嗟に防御の魔術を発動する。

 魔法陣の壁が、晴人の直前で男の爪を防いだ。

 男は舌打ちをして、後ろに跳び退る。

 

「結構硬い防御魔法持ってんじゃねぇか! 別に褒めてねえけどな!」

 

 叫ぶ男に対して、晴人は冷や汗を禁じ得ない。生身の人間が出せる速度を超えていた。咄嗟に防御できたのは、日々の戦いで培われた経験と勘が物を言ったとしか言いようがない。

 

「この〝麻痺爪メガクラゲ〟は掠っただけで体が痺れて動けなくなるからな!」

 

 男の言葉を真実と捉え、晴人は気を引き締める。この男が強いのか、それともこの世界が異世界であるが故に、人間の基本スペックが違うのか、それは現状では判断できない。しかし唯一つ言えることがある。

 このままでは危険だ。

 

「………………仕方ないか」

 

〈ドライバーオン・プリーズ〉

 

 右手をかざしてウィザードライバーを出現させる。

 

「おん?」

 

 首を傾げる男を無視してドライバーのギミックを一度動かすと、ハンドオーサーが九十度傾いき、音声が流れる。

 

〈シャバドゥビタッチヘーンシーン! シャバドゥビタッチヘーンシーン!〉

 

 繰り返されるその音をバックに、晴人は左手に赤い指輪をはめた。

 

「変身」

 

 その手をドライバーにかざす。

 

〈エラー〉

 

 そして、何も起こらなかった。

 

「そんな……! まだ魔力だって残ってるのに……!」

「って何もねぇのかよ!」

 

 男すらツッコミの怒声を上げる。

 だがそれ以上に困惑するのは晴人本人だった。魔力は十分に残ってる状況で、何故魔法が発動しないのか。

 正確に言えば、何故フレイムウィザードリングの魔法が発動しないのかが分からない。ディフェンドやコネクトはちゃんと使えていたのに。

 

「大人しく俺の爪の餌食になれっつーの!」

「それはお断りだな」

 

 ドライバーのギミックを弄る。

 

〈ルパッチマジックタッチゴー! ルパッチマジックタッチゴー!〉

 

「あん? まだ何かやろうってのか?」

 

 男の問いに晴人は笑顔を向けた。

 

「ここは、逃げるが勝ちってね」

 

〈エクステンド・プリーズ〉

 

 魔法陣が空中に現れて晴人は左手をその中に突っ込んだ。陣を通過した晴人の腕は、まるでゴムか何かのように柔軟に伸びて形状を変える。

 

「気持ち悪っ!」

 

 悲鳴のようなツッコミに、晴人は爽やかな笑顔を向けた。

 

「じゃあな、ワンちゃん!」

 

 伸びた腕が遥か彼方の木の枝をしっかりと掴み、今度はその長さを縮め始めた。

 〝エクステンド〟。魔法陣を投下したものを柔らかく、そして伸縮自在にする魔法である。

 その結果、体が走るより遥かに速く収縮する腕に引っ張られる。木々の間を抜ける間に、もう既に見えなくなった男の声だけが響いていた。

 

「卑怯だぞ!」

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