FAIRY TAIL―SLAYER&WIZARD―   作:Crank

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氷の魔導士

 夜、星が輝き月が顔を出す時間。晴人は一人森を抜け、島の中心、山の頂上の神殿を目指していた。闇にまぎれ姿を消し、周囲を警戒しながら山を登る。

 

「指輪が使えないなんて」

 

 足元の視界もはっきりとしない中歩くことに神経をすり減らし、晴人は一人そう愚痴った。

 島の中に侵入者がいることを知った晴人は、村に戻りナツ達と連絡を取ろうとしたが、村人は晴人を信用せず全く取り次いでもらえなかった。ガルーダを使っているので、向こうからのアクションは想定していたが、晴人の方からとは考えていなかったのだ。

 しかし単独行動を取ろうにも、現在変身できない晴人は自身の圧倒的な不利を理解している。昼間遭遇した犬っぽい男の身体能力は生身の晴人では対処が難しい。だが変身しようにも指輪が上手く発動しなかった。普通の魔法は使えたため、原因はドライバーや自身ではなく指輪にあると晴人は判断している。

 だがその魔法の指輪ですら、現状八個しかない。しかもその中で生身での先頭に使用できるものは半分以下だ。

 晴人は直接戦闘は避け、情報収集を優先した。夜の闇に紛れるように明るいうちは待機をしていて、日が沈むと同時に行動を開始したのである。

 神殿への道を避け、茂みをかき分けて森の中を進む。目の前の枝を払うときに根に引っ掛かりそうになったのは一度や二度ではない。現代人の晴人にとって、夜の山、夜の森はまともに歩くことすらままならない空間であった。

 

「大分近づいてきたな」

 

 それでも時間をかけてようやく頂上付近へと辿り着く。蔦や苔に覆われた神殿の姿がはっきりと捉えられた。神殿よりは祭壇もしくは儀式場と言った雰囲気で、屋根がなく空に向かって開かれている。

 そして、そこには数人の怪しい人影が月明かりに照らし出されていた。顔まで含めて全身を覆うその姿からは男か女かも分からない。その集団が円陣を組み謎の呪文を唱えていた。

 

「………………」

 

 気配を殺し慎重に近づく晴人。映画何かに出てきそうな露骨なまでの魔法儀式の様子に緊張が高まる。大規模な儀式には一つしか心当たりがないからだった。

 

「…………まさかな」

 

 〝サバト〟。

 自分の運命を変えた儀式が頭を過ぎるが、晴人はそれを一笑に伏す。魔力を集めるにしてもファントムを生み出すにしても、もっと大都市に近い場所でなければ意味がない。あからさまに辺境の島で行うにはリターンが少なすぎる。

 

「さて…………どうするか……」

 

 今、晴人が選べる選択はそう多くはない。魔法がろくに使えない現状では一人で儀式を止めることは不可能だ。

 このまま監視を続けるか、一旦引き返してナツ達と合流するか。

 

「ガルーダは連れてくるべきだったか」

 

 村での選択を後悔するが、それで何かが変わるわけではない。それも考慮に入れて判断をすることが晴人には求められていた。

 

「…………よし」

 

 覚悟を決めた晴人が、ウィザードリングを指に嵌めて躍り出ようとする。

 

「てめぇら! 何やってんだ!」

「っ!」

 

 咄嗟に晴人が足を止めてしまう程の怒声が夜の静寂をぶち壊す。その声に心当たりのある晴人は思わず目を見張った。

 

「……ナツ!」

 

 遺跡を挟んでちょうど反対側で、ナツが儀式中の集団に飛び掛かっていた。後ろから慌ててルーシィとハッピーも追いかけてきている。

 

「てめぇら、村の奴らに何しやがったんだ?」

 

 顔面を殴られて気を失ったのか脱力した人間の胸倉を掴んだまま集団を睨みつけるナツ。ルーシィも腰に下げた鞭を手に構えた。

 

「そうよ! 地下の化け物と関係あるわけ?」

 

 二人の詰問に集団は黙って構えを取る。徹底抗戦を決めたらしい。

 

「お前達が侵入者か……」

 

 背後からの声にナツ達が振り返る。そこには仮面をつけた男が三人の男女を引き連れて立っていた。その中には、晴人が会った犬男の姿がある。

 

「誰だよ、おめえら!」

「貴様が見た侵入者ではないのか?」

 

 何故か激昂している犬男に、小柄の特殊な太い眉毛の男が問い掛ける。

 

「ふ……関係ないな」

 

 仮面の男が手をかざすと、儀式をしていた集団がざわめいた。だがその雰囲気にネガティブなものは籠っていないように晴人は感じる。むしろ尊敬や感激が近いように思えたのだ。

 

「な、何じゃこりゃああああああ!」

 

 一瞬でナツの胴体が氷で覆われた。ボールのような球体の氷が突如ナツの胴体部分に現れたのだ。

 

「ナツ!」

「この野郎!」

 

 ハッピーが心配そうな声を上げ、ナツは掌に炎を出して氷に触れる。だがその氷は炎に曝されても全く融ける様子はない。物理的な論理を超えた現象であることを如実に物語っていた。

 ここが異世界であることを、晴人は強く再認識させられる。

 

「くそ! 何で融けねぇんだよ!」

 

 悪態をつくナツを無視して、仮面の男が後ろの三人に命令を下した。

 

「こいつらは島民に雇われた魔導士だろう。村を潰してこい」

『!』

 

 三人だけでなく、ナツ達や隠れている晴人も驚愕する。あまりに冷静に、冷徹な命令を下す男は、冷酷な心を持っているのだろうか。

 

「村の人は関係ないでしょ!」

「俺の邪魔をする者には…………消えてもらう」

 

 ルーシィの言葉も鼻で笑い飛ばして仮面の男が告げる。三人はわずかに抵抗の目をするが、男の視線を受けてすぐに動き出した。

 

「待て!」

 

 咄嗟に晴人が飛び出すと全員の視線が集まるが、そんなものは意に介さず、晴人は真っすぐに仮面の男の前へと突き進む。

 

「あぁ! お前ぇは俺が見た侵入者じゃねぇか!」

 

 犬男が叫ぶ。

 

〈エクステンド・プリーズ〉

 

 ベルトの音と同時に展開した魔法陣に左腕を入れ、柔軟に伸縮するようになった腕で仮面の男の後ろの三人を縛り上げる。

 

「村人に手を出させるわけにはいかない」

 

 晴人の言葉に仮面の男が不敵に笑う。予想外の第三者による乱入のはずだが、余裕のある態度を崩さない。静かに掌を晴人に向ける。

 

「アイスメイク――」

「それは!」

 

 仮面の男の呟きにナツが驚愕する。いや、ナツだけではない。ルーシィもハッピーも声も出ないほど驚いている。

 

「――〝大鷲《イーグル》〟」

 

 男の手から白い鷲が無数に生まれ、晴人に向けて襲いかかる。片手が使えない晴人に回避する術はなかった。

 全身に鷲が突っ込んでくる。それは氷でできた鷲であり、一羽一羽が晴人を凍らせんばかりの冷気である。

 

「グレイと同じ、氷の造形魔法だ!」

 

 ハッピーの声が晴人の耳に残った。

 ダメージで拘束が緩んでしまい、眉毛の男が腕を抜き掌を晴人の腕に向ける。

 

「波動!」

「ぐぁああああああああああ!」

 

 直後、伸ばした腕に激痛が走る。打撃とも斬撃とも異なるその衝撃に、晴人は伸ばした腕を引っ込めた。

 同時に仮面の男の命に従い三人が駈け出す。

 

「ハッピー! ルーシィ連れて村へ戻れ!」

「あ……あいさー!」

 

 ナツの言葉に反応し、ハッピーが背中に翼を生やしてルーシィを担いだまま空に飛び上がった。小さな体に見合わないパワーに晴人は感心する。

 だがそんなことをしている余裕はない。晴人は指輪をはめてベルトにかざす。

 

〈コネクト・プリーズ〉

 

 その音声で魔法陣が現れ、中からバイクが出てくる。晴人はそれに飛び乗ってアクセルを吹かせた。

 

「魔導二輪!」

 

 突然のことに初めて仮面の男が動揺する。その隙を見逃すほど、晴人は安穏とした生活は送っていない。一気にエンジンの力を解放し〝マシンウィンガー〟を発車させた。

 

「ナツ! 掴まれ!」

 

 すれ違いざまに手を差し伸べるとナツは晴人の手を掴む。そのまま慣性の法則も利用して後部にナツを座らせた。胴体の氷が邪魔だたが、辛うじて座ることはできたようだ。

 

「――って、逃げるのかよ!」

「今は村を守るのが先、だろ?」

 

 ナツの抗議に軽口を返して更に速度を上げる。整備されているとはいえアスファルトなんかで固められていない土の道を走ると振動が半端ではないが、晴人はスピードを落とさない。

 

「逃がすか。アイスメイク――」

 

 後方から聞こえた仮面の男の声。

 

「頼んだ、ガルーダ!」

 

 晴人の声に反応して、ナツと一緒にいたレッドガルーダが男に襲いかかる。

 その間に晴人は仮面の男からの離脱に成功する。

 しかし、次のピンチはすぐ傍に迫っていた。

 

「うぅ…………」

「ナツ? 大丈夫か?」

 

 背後から聞こえる苦しげな呻き声に晴人は心配そうに声をかける。運転中のせいで振りかえることはできないが、晴人にとって未知な異世界の魔法が予想外の効果を及ぼしたのかと不安になった。

 

「………………………………酔った」

「はぁ?」

「吐きそう………………」

「おい!」

 

 衝撃的なナツの告白に晴人はバイクを止めようとする。このままでは悲惨なことになると確信したのだ。

 

「そういや、来るときの船でも…………」

 

 思い出すだけで血の気が引く。

 晴人がブレーキをかけようとしたとき、月明かりに照らせれた一つの姿が視界に入る。プロペラのように尻尾を回して空を飛ぶ巨大鼠の姿だ。

 

「あれは…………」

 

 思わず呟いた晴人。それは空を飛ぶという異常な光景より、その背中に件の三人組が乗っている様子が見えたからだ。あれが先に着いたら村を襲う、晴人はそう理解した。

 

「悪いナツ。飛ばすぞ」

「や~め~ろ~…………」

 

 今にも倒れそうなナツに心の中で頑張ってくれと祈りながら、晴人は速度を上げる。振動が大きくなり、ナツは声を出すこともできなくなったのか、ひたすら呻き声を上げるだけだ。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 その頃、先に村にたどり着いたルーシィとハッピーは村人と迎撃の準備をしていた。呪いで悪魔の姿になった人々は、月明かりの下にその身を曝しているが、四の五の言っている場合ではないと誰もが理解していて、それを気にすることなく唯一の村の入り口に集まっている。

 

「完璧な作戦ね」

 

 指揮をしていたルーシィが顎に手を当てて自賛しているが、周囲の目はとても反対にとても不安そうだ。ハッピーも呆れ顔である。

 

「おいらルーシィって馬鹿だと思う」

「失礼な猫ね!」

 

 反論をするルーシィだが、村人は誰も彼女を擁護しない。それは自信満々のルーシィの策があまりにひどいからに他ならない。

 

「落とし穴の準備が終わりました、姫」

「ありがとうバルゴ」

「お仕置きですか?」

「褒めてんの!」

 

 メイド姿の女性がルーシィと漫才を始める。彼女、バルゴはルーシィが契約する星霊だ。

 

「では、これで失礼致します」

「ありがとうね」

 

 そう言ってバルゴの姿が消える。星霊界に帰ったのだ。

 

「さあ! いつでも来なさい!」

 

 つまり、ルーシィの作戦とはこういうことだ。

 【敵は村に来る】【村への入り口は一つ】【入口に罠を仕掛ければいい】【罠=落とし穴】。

 

「やっぱ馬鹿だ……」

 

 ハッピーが嘆くのも無理はない。

 

「月はいつ壊せるのじゃ!」

 

 そこに凄い揉み上げの老人が一人やってくる。

 

「村長さん!」

 

 ルーシィはその姿を確認すると傍に駆け寄った。この村の村長であるモカはルーシィに対して怒りを露わにして怒鳴る。

 

「月はいつ壊せるのじゃ!」

「聞いて。今から敵がこの村に――」

「そんなことは聞いてはおらん! 月はいつ壊せるんじゃ!」

 

 事情を説明するルーシィの言葉を遮るほどで村長の激昂は治まりそうもない。村長が如何に月の破壊に執着しているのか、そしてその理由も分かっているルーシィには強く否定することもできない。周囲に助けを求める視線を送るも見事にスルーされる。

 どうしたものかと問題の月を見上げたとき、ルーシィの目には空飛ぶ謎の物体が。

 

「な、何あれ!」

 

 その声に村民が一斉に空を見上がる。

 そこにはバケツを抱えた巨大鼠が尾をプロペラのように回転させて飛行している様子だった。

 

「空から来たら落とし穴は意味ないよね」

「あの鼠飛べたの~~~!」

 

 ハッピーの指摘に悲鳴を上げるルーシィだったが、相手はそんなことに気を使うはずもない。一直線に村の上までやって来る。

 

「何をするつもりよ?」

 

 降下してこない相手の様子を訝しんでルーシィはそれを見上げる。

 すると、微妙に飛行で振動しているのかバケツの中身がわずかに零れ出した。緑色のゼリー状の何かが一滴落下する。

 

「ゼリー?」

 

 落下するそれに目を奪われ、ゆっくりと上から下へ視線が動く。

 そして地面に落下した瞬間…………。

 地面が融けた。

 

「な、何これ!」

 

 ルーシィが声を上げると同時に村中にどよめきが走る。一滴で直径三十センチの穴が空いたのだ。それがバケツ一杯に入っていることを想像できない者はこの場にはいない。

 誰もが最悪を想像したとき、非情にも鼠はその最悪を実行に移した。

 バケツの中身――大量の緑色のゼリーが村にぶちまけられたのだ。

 それは村とその住民を溶解させて有り余るものだった。

 

「に、逃げろぉおおおおおおお!」

 

 誰かの叫びをきっかけに全員が入口に向けて走り出す。だが村の入り口は外からの侵入に備えて閉じられている。外からの侵入ができないということは、中からも出られないということだった。

 急いで入口を開けようとする村人達の後ろで、ルーシィは自分の腰の鍵束を大慌てで探っている。

 

「タウロスは駄目だし、キャンサーじゃ……アクエリアスは水無いし!」

「どうするの、ルーシィ!」

「ふぇえええええええん!」

 

 緊迫した顔のハッピーとパニックに陥ったルーシィを気にすることなく、村人達はやっと出入り口を開けることに成功。一気に飛び出そうとすると……逆に男が飛び込んできた。

 

「ハッピー! 俺を抱えて飛べ!」

「え……あい!」

 

 その男の言葉を受け、ハッピーは翼を出して男を抱え飛び上がる。そして落下してくるゼリーに向けて急上昇をしていった。

 

「あれは……」

 

 ルーシィはその様子を見上げる。きっと何とかしてくれると信じて。

 男は手をゼリーにかざした。

 掌の部位を中心に巨大な魔法陣が現れる。

 それは青い魔法陣だった。

 

「凍っちまいな!」

 

 掌から放たれた冷気が空中の水蒸気を凍らせながら走り、ゼリーに到達すると一瞬で凍りつかせた。

 

「やった…………ってあんまり助かってなぁああああああああい!」

 

 瞬間的に歓喜するが、ルーシィの言う通り問題が解決したわけではない。凍ったゼリーの質量がそのまま村に襲いかかってきているのだ。

 

「降ろせ、ハッピー!」

「あいさー!」

 

 男の言葉で今度は降下を始める。両手を合わせて再び魔法を発動する準備を取ると、魔法陣が再び大きく展開された。

 

「アイスメイク…………」

 

 着地と同時に両手を地面につけ叫ぶ。

 

「〝支柱《プロップ》〟!」

 

 その叫びに合わせて血管のように氷が地面を走り、そしてある程度進んだ先で氷の柱を作りだした。量は多いとはいえ密度は軽いゼリーだ。強度が多少弱くても、数があれば十分に支えることは可能だった。

 

「来てくれたのね…………グレイ」

 

 氷の魔導士、グレイ・フルバスターは威風堂々と立っている。

 

「…………てか服は着なさいよ」

「うお! いつの間に!」

 

 上半身は裸だったが。

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