FAIRY TAIL―SLAYER&WIZARD―   作:Crank

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炎の魔法

「ったく……。勝手にS級の依頼なんか受けやがって」

 

 上半身裸のグレイが溜息を吐き頭を掻く。その姿を見てルーシィは体を小さく縮ませていた。

 

「おいらは依頼書を運んだだけです」

 

 全力で無関係を装うハッピーにツッコミもしないぐらいに。

 

「本当なら島に着く前に連れ帰らなきゃならねぇんだが……」

 

 そう呟いて空を見上げると、グレイが凍らせたゼリーの空に亀裂が走った。その亀裂は瞬く間に大きくなり、そして氷を砕く起点となる。

 バキィイイイと轟音を響かせて氷が割れる。そこから降って来る破片に村の住人は右往左往するが、グレイは視線を離さない。氷が割れた空間から巨大な鼠が急降下してきたのだ。

 鼠は地面に激突するであろう寸前まで速度を落とさない。巨体が動くことによって巻き起こる風が砂嵐を起こし、堪らずグレイ達も腕で目を庇う。そして地をかすめるように鼠は急上昇を始めた。

 背中に乗せていた二人の魔導士をその場に残して。

 

「てめぇも氷の魔導士かよ!」

「ああ。霊帝と同じ氷の造形魔法だ」

 

 叫ぶ犬面の男と静かに語る特徴的な眉毛の男。霊帝の部下であるこの二人はタイミングを合わせて鼠から飛び降りたのだ。

 

「俺と同じ氷の造形魔法……だと?」

 

 男達の言葉に対峙しているグレイが思わず反応をする。脳裏に浮かぶ一人の男の影。

 

「ねぇ、グレイ?」

「何だハッピー?」

 

 その思考がハッピーの声で中断される。後ろを振り返ると、ハッピーはどこか呆れ顔で空に向かって指を差していた。その指し示された方向に視線を向けると、急上昇した鼠が空を飛んでいるところだ。

 

「ルーシィ、あれに乗っちゃったよ」

「思わず掴まっちゃったの!」

 

 鼠の脚からルーシィの叫び声が返ってきた。自分の胴周りより太い脚にしがみつく姿は大変に情けないものだ。グレイは溜息を禁じ得ない。それでも「やっぱりルーシィって馬鹿かも」と声に出して言っているハッピーよりも情があるのかもしれないが。

 

「ハッピー、ルーシィを追いかけろ」

「グレイはどうするの?」

 

 その問いに、グレイは不敵な笑みを浮かべた。

 

「こいつらを叩き潰す。聞きたいこともあるんでな」

「良いの? S級クエストの手伝いなんかして?」

 

 少し不安気なハッピーに向かって、笑いながら自分の胸を親指で差すグレイ。そこには妖精の尻尾の紋章が……。

 

「勝手に受けちまったとは言え、妖精の尻尾(俺達)の依頼主を襲ったんだ。つまり妖精の尻尾に喧嘩を売ったってことだろが」

 

 その言葉を聞いて、ハッピーは満足そうに頷く。グレイの言う通り、既にナツが勝手に依頼を受けたという問題ではなくなったのだ。

 

「あい!」

 

 気合を込めてハッピーが飛翔をする。鼠を追いかけて宙を飛ぶ姿を、グレイは黙って見送った。

 そして、二人の男と相対する。

 

「さて、どっちからやる? 二人同時でも、俺は構わないぜ?」

 

 露骨なグレイの挑発に犬面の男が反応した。

 

「でめえ俺達を嘗めてるだろ! 嘗めてるだろ!」

 

 今にも飛び掛かりそうな犬面の男を眉毛の男が制止する。

 

「挑発に乗るな」

「乗ってねーよ!」

 

 嘘を吐けとグレイは思ったが口には出さない。言葉での戦いはあまり効果的な相手ではないと判断したのだ。

 どちらが戦端を開くか……。その緊張感が場を支配する。

 そして、時は来た。

 けたたましいエンジン音が轟いたのだ。

 

『あん?』

 

 予想外の音に三人が同時に村の入り口に目を向けた。そこにはバイクに二人乗りをした男達が見える。まっすぐに村に向かってきて入口をそのまま突っ切り――――――――消えた。

 

「何だ、今の! 消える魔法かよ!」

 

 犬面の男は驚愕の声を上げるが、眉毛とグレイはその瞬間の音をはっきりと耳にしていた。

 落下音と激突音を。

 グレイは隙を見せないように注意しつつも、ゆっくりと入口に近付く。そこには落とし穴が作られており、中にはバイクと二人の男が落っこちている。

 

「何で……落とし穴……」

「と、止まった……」

 

 別の理由で目を回す二人に溜息がこぼれるグレイだった。だが、二人は即座に体を起こすと、自力で穴から這い出して来る。敵の二人組も、そのタフさにはわずかに感心したような表情を見せた。

 

「よっしゃあ! まだ村が残ってたな!」

 

 そう叫ぶナツは、マシンウィンガーから降りられたために体調も気力も十分に満ちていた。晴人も這い出して来ると右手の指輪をかさしてコネクトの魔法で落とし穴からマシンウィンガーを呼び出す。

 

「お前も魔導士なのか?」

「ああ。指輪の魔法使いだ」

 

 グレイの問いに晴人は指輪を見せて答えた。

 

「そいつは晴人ってんだ。で、そっちの変態半裸野郎がグレイ」

「誰が変態だ、このクソ炎! 暑苦しいんだよ、てめえは」

 

 ナツからの紹介が大層不服だったグレイは全力でナツを睨みつける。ナツも拳を構えて今にも喧嘩を始めそうな勢いだった。

 

「あれ? ナツ、氷割れてるな」

「ん?」

 

 そう言われてナツが自分の体を見下ろすと、胴体を覆っていた氷が晴人の言葉通りに砕けてなくなっていた。

 

「よっしゃあああああああ!」

 

 思わず飛び跳ねて喜ぶナツの姿に、晴人はどれ程苦痛に感じていたのかを、ぼんやりとだが理解する。

 

「これでお前達を全力でぶっ飛ばせるぜ」

 

 獰猛な笑みを浮かべて指の関節をボキボキと鳴らし、ナツは男達を睨みつけた。普通の者なら恐怖で動けなくなるであろう闘気を受けて、それでも男達は微動だにしない。実践慣れしている証拠だ。

 

「さてと……霊帝とやらの目的を話してもらおうか」

 

 晴人もコネクトで召喚したウィザーソードガンを構えて告げる。全面戦争の準備は整った。

 しかし、だからこそ、グレイはある提案をする。

 

「なあ、晴人って言ったか? お前の魔道二輪、貸してもらえるか?」

「良いけど、どうすんだ?」

 

 当然の晴人の疑問。

 

「ここはお前達に任せる。俺は一足先に霊帝ってやつのとこに向かう」

「へっ! 逃げんのか?」

「違ぇよ」

 

 グレイの言葉に挑発を投げかけるナツだったが、あっさりと否定される。

 

「ちょっと確かめたいことがあるんだ」

 

 真剣な目は、先程ナツと言い争いをしていた者と同一人物とは思えないほど鋭かった。そこには唯純粋な気持ちがあると晴人は読み取る。人の心《アンダーワールド》を覗いてきた経験からの勘だったが、晴人はそれを信じた。

 

「分かった」

「サンキュー!」

 

 晴人の承諾に短く礼を告げてグレイはマシンウィンガーに飛び乗る。一瞬ノーヘルのことを注意すべきか迷った晴人だったが、異世界で自分の世界の法律に基づいた常識を語っても仕方ないと思い直し、グレイに背を向けて敵と対峙した。

 だがその視界に入ったのは、敵以上に鋭い目つきで睨みつけるナツの顔。晴人の思考が困惑で彩られる。

 

「テメェ、ずりぃぞ! あの仮面野郎は俺がぶっ飛ばすんだ!」

 

 堂々とグレイを指差して怒鳴りつけた。

 

「おいおい……」

 

 あまりに感情的な言葉に晴人は溜息を吐くしかない。短い付き合いだがナツは自分に素直なのだろうと想像はできていたが、実戦という状況においてもこれ程とは思ってもみなかったのだ。

 だが呆れはするがそれがナツへの印象を下げたりはしない。晴人にとって感情を露わにするという行為はとても人間らしく映るもので、それを否定する気持ちは湧かなかった。

 直情的な友人が多いことも理由の一つではあるが……。

 

「じゃあこいつらはどうするんだ?」

「こいつらも俺がぶっ飛ばす!」

 

 当然の晴人の問いにはっきりと明確に回答を提示したナツだった。

 どう説得したものかと頭を悩ます晴人に、今度はグレイから質問が飛んでくる。

 

「なあ、こいつのSEプラグはどこだ?」

「SEプラグ?」

 

 首を傾げる晴人にグレイが説明した内容はこうだ。〝Self Energy Plug〟通称〝SEプラグ〟は操縦者の魔力を魔道二輪に供給する部品である。これによって魔道二輪は馬車よりも速く走ることができる。

 最後までそれを聞き終わった晴人は短く答えた。

 

「いや、そんなのないし」

「マジか! じゃあなんで動くんだ、こいつ?」

「ガソリン」

 

 驚愕するグレイだったが、お互い優先事項が分かっている二人の会話だ。話しながらもバイクに跨り発車準備に入るグレイと、それを邪魔されないように警戒する晴人。お互いの役割分担は完璧にこなしていた。

 エンジンが入ったままだったマシンウィンガーの唸りがグレイの操作で大きくなる。

 

「入口の落とし穴のこと忘れたのかよ!」

 

 何故か犬男が怒鳴った。だがその指摘の通り落とし穴は未だにその口を全力で開いている。このままでは晴人とナツの二の舞だ。

 しかしグレイはそれに得意気な笑みを浮かべ、魔法を以って返事とした。

 落とし穴が氷の床で覆われたのだ。

 

「てめぇ何でもありかよ!」

「ありさ!」

 

 またしても激昂する犬面男にグレイは悪戯に成功したように口角を上げマシンウィンガーを走らせる。一気に加速して氷の橋も渡り村を飛び出して山の頂上を目指しその姿を消した。

 

「くっそぉおおおお! さっさとこいつらぶっ飛ばしてグレイの奴を追わねぇと!」

 

 悔しげに地団太を踏むナツだったが、眉毛男はその言動が気に入らないらしく、その特徴的な長い眉毛を震わせている。

 

「この俺をさっさと倒すだと? 随分甘く見られたものだ」

 

 眉毛の男は右手を大きく払った。

 

「波動!」

 

 その掛け声で眉毛男の正面から不可視の衝撃がナツに迫っていく。何故、不可視なのにその軌道が分かるのか。それは衝撃が地面を削りながら迫っていくからだ。

 しかし威力、大きさを共に物語る現象に対してもナツは余裕の笑みを消さない。

 

「は、こんなもの! 火竜の――」

 

 大きく息を吸い込むナツ。しかし突如その顔を歪め真横に飛び退った。

 回避で四つん這いになった体勢のまま、先程吸い込んだ息を吐き出す。

 

「――咆哮!」

 

 本物の(ドラゴン)に匹敵すると言われる滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)(ブレス)だ。それはその気になれば大地すら融かしてしまう。

 だが眉毛男は圧倒的な炎の(ブレス)を前にしても微動だにせず、不敵な笑顔を浮かべたまま再び右手を大きく払った。

 

「波動!」

 

 掛け声と共に今度は眼前に迫っていた炎が消える。

 その間にナツは立ち上がり体勢を立て直した。自分の魔法が無効化されたが、表情に焦りの色は浮かんでいない。

 

「ふ……。迎撃ではなく回避を選んだか。初見でよくぞ我が波動の性質を見破ったものだ」

「何か炎じゃ駄目な気がしたんだよな」

 

 余裕の籠った称賛にナツは冷静に返事をする。今までの感情的な挙動が演技かと思える程だ。戦闘に関してはある種プロフェッショナルなのかと晴人は密かに驚嘆した。

 

「つーか俺を無視すんなよ!」

 

 ずっと睨み合いをしていた犬面の男が晴人にキレる。ナツと眉毛の戦いに気を取られていたのはお互い様だと思いながらも、これがこの男の性格なのだろうと、どこか諦観する晴人。

 そんな晴人に犬面は得意気に自分たちのことを語り始めた。

 

「お前ら、俺達はあの聖十(せいてん)大魔導のジュラがいる蛇姫の鱗(ラミアスケイル)の所属だったんだからな!」

 

 自分語りも何故か怒鳴り散らしていたが、そろそろナツや晴人も馴れてきている。異世界から来た晴人には分からないが、その自信から聖十大魔導とはこの世界では一目置かれる存在なのだろうと理解した。

 それを裏付けるように、眉毛男も得意気にその右手の掌をこちらに向ける。

 

「俺はその中でも特に対魔導士を専門としていた。俺の手から放たれる〝波動〟は全ての魔法を中和・無効化する」

 

 ナツの勘は正しかった。もし魔法による迎撃を行おうとした場合、魔法を無効化され直撃を食らう筈だったのだ。

 説明は終わったのか、眉毛が沈黙しナツも殴りかかる構えをとった。だが晴人にはどうしても言わなければならないことがある。緊張感が高まる二人の間に、言葉を以って晴人は割って入った。

 

「なあ、眉毛君。あんまり派手にやらないでくれないか? 家が壊れる」

 

 先程ナツに向けて放たれた波動は、避けられたために目標を見失い、直線状になった民家を吹き飛ばしたのだ。

 

「変な渾名を付けるんじゃねぇよ! 俺はトビー! そいつはユウカだっての!」

 

 犬面――トビーがそう叫ぶがもはや誰も意に介さない。唯眉毛の特徴的なユウカがにやりと悪い笑みを浮かべた。

 

「丁度良い。俺達の目的は村の壊滅だ。このまま村ごとお前達を潰すとしよう」

「へっ、やらせるかっての」

 

 指を鳴らしナツが構える。腰を落とし姿勢を低くして――。

 

「火竜の鉄拳!」

 

 炎を纏った拳で殴りかかる。

 周囲に配慮しての接近戦だ。

 

「波動!」

 

 だがそれもユウカの波動に防がれる。

 そして仲間が優勢と見るやトビーも晴人に飛びかかろうとした。

 

「おっと!」

 

 だが晴人は手にしたウィザーソードガンを発砲して機先を制する。直接当ててしまうと大怪我では済まないため足元に着弾させたが。昼間の遭遇と今のナツとユウカの戦闘から見た晴人の、生身の身体能力はこの世界の魔導士に敵わないという考えゆえの行動だった。

 動こうとする先に銃を撃つことで動きを封じる。魔法の指輪の大半を失っている現状で晴人が打てる唯一の手だった。

 

「お前戦う気あるのか!」

 

 トビーが痺れを切らして怒鳴る。主体的な行動を制限されれば当然の反応ではあるのだが、常に叫びすぎてもはや誰からも気に止めてもらえない。

 しかしそれは逆に制止する者もいないということであり、トビーの絶叫はむしろ勢いを増していった。

 

「この俺の〝麻痺爪メガクラゲ〟にビビったのかよ! さっきから光らせてる指輪は見かけ倒しかつーの!」

「…………光る?」

 

 疑問に思い指輪を見てみるが、右のドライバーオンウィザードリングも左のフレイムウィザードリングも静かに指に鎮座しているだけだ。

 

「別に光ってないみたいだけど?」

「光ったんだよ!」

 

 自己の主張を変えるつもりはないらしい。晴人は層判断して、少しだけ意識を指輪に向けることにした。具体的には両手で銃を構えてその手を視界の中に収める方法だ。

 

「火竜の――」

「無駄だ。波動!」

 

 ナツとユウカの戦いは未だに膠着状態が続いている。村を破壊させない為に接近戦を挑み続けるナツとそれを防ぐ波動を放つユウカの図だ。

 

「――砕牙!」

 

 横薙ぎに炎の爪がユウカを襲うが、波動はその炎を一瞬で散らせてしまう。

 

「俺に魔法は効かん」

「魔法じゃなきゃいいんだろ?」

 

 ニヤリと笑ったナツは炎が消えてもなおその攻撃を止めなかった。爪を立てた右手がユウカの顔面に襲い掛かる。

 

「甘いな!」

「何だと――――ぐあぁああああああああっ!」

 

 迫る爪を前にしてもユウカは回避行動すら取らなかった。それは自らの波動の力を十分に知っているからだ。

 ナツは波動の超振動をその手に直接受けて悶絶する。

 

「我が波動は振動する魔力。肉体をバラバラにすることも簡単だ」

 

 説明をしているのは余裕の表れだ。ユウカにとってナツは(晴人も含めて)格下の相手でしかないという認識がある。

 それを感じ取るからこそ、ナツの魂は熱く燃え上がった。

 そして晴人も。

 

「…………光った」

 

 トビーの言葉が真実だと理解する。抜けて所のある言いだしっぺは気付いていないが、晴人にはその原因も把握できた。なのでトビーが動かないように警戒しながらも右手の指輪を交換する。

 

「物は試しだ」

 

〈エクステンド・プリーズ〉

 

 右手をベルトにかざすと、その音声と共に晴人の左側に魔法陣が展開された。銃を持ちかえ左手を魔法陣に突っ込むとその腕が伸び、奇妙な軌道を描きながらナツへと向かっていく。

 

「ナツ!」

「あ? て、どぅわ!」

 

 突然の晴人の呼び掛けにナツは反応するが、自分の許へと腕が伸びてきていることは想像できなかったようで、気持ち悪いと騒ぎ立てる。晴人はそんなナツを気にもかけずに要件を告げた。

 

「ちょっとその指輪を取ってくれ」

「これか?」

 

 右手の中指にはめられた赤い指輪をナツが外す。

 

「で、それを握って魔法を使ってくれ」

「あん? こうか?」

 

 ナツは指輪を握りしめると、その拳に激しく燃え盛る炎を灯した。バーナーのような火炎を纏った拳を誰もが注視する。

 

「つーか何のつもりだよ!」

「悪足掻きでもしようというのか? 面白い」

 

 トビーもユウカも、これから起きる出来事に興味がある様子。それは勿論余裕があるからこその行為ではあるのだが、晴人はむしろ楽しそうに微笑む。

 二人の驚く姿を想像しているのだ。

 

「な、何だこれ!」

 

 突如ナツが叫び声をあげた。

 そう、ナツの拳から激しい光が溢れ出したのだ。

 それは指輪そのものが放つ魔法の光。晴人は自分の仮説が的中したことを喜ぶ。

 

「よし。じゃあ指輪を返してくれ」

「お、おう……」

 

 呆然としている周囲を余所に、掌へとナツからウィザードリングが返却されたこと確認して伸ばしていた腕を縮める。七、八メートルはあったであろう腕は瞬く間に通常の長さへと戻った。

 

「やっぱり……」

 

 晴人は手の中の指輪を見つめる。そこからは先程までは感じられなかった強い力の存在がはっきりと伝わってきた。

 空間移動の際の魔力を吸われる感覚。それは晴人のものだけではなく、魔法石から生まれた指輪の魔力も奪っていたのだ。フレイムウィザードリングが使えなかった理由は指輪の魔力不足だった。

 では足りないものはどうすれば蘇るのか。答えは至極単純だ。足りなければ補えば良い。

 しかしそれは唯の魔力では駄目だった。フレイムウィザードリングは火のエレメントを持つ魔法石でできている。当然、補充される魔力も火の属性でなければならない。

 だからナツの炎に反応をした。火属性の魔法に魔法石が反応したのだ。

 

「さて…………」

 

 復活したフレイムウィザードリングを左手に填め、晴人はトビーに目線を向ける。何が起こったのか分かっていないトビーは大声で喚いていた。

 

「てめぇ、何したんだよ! あの光は何なんだ!」

 

 その問いに、晴人は不敵な笑みで答える。

 

「希望の光さ」

 

〈ドライバーオン・プリーズ〉

 

 ソードモードに切り替えたウィザーソードガンを地面に突き刺し、指輪を付け替えた右腕をベルトにかざす晴人。するとベルトにウィザードライバーが出現する。両手で左右のギミックを操作すると待機音が流れ始めた。

 

〈シャバドゥビタッチヘーンシーン! シャバドゥビタッチヘーンシーン!〉

 

 左手に赤い魔法の指輪を填め、晴人はその指輪に右手の指を添える。

 

「変身」

 

 その掛け声で指輪の側面につけられたメガネのような形の金属部分が降りてきて、まるで顔のような指輪になった。

 

〈フレイム・プリーズ・ヒー! ヒー! ヒーヒーヒー!〉

 

 晴人が左手の指輪をベルトにかざすと、その音声が鳴り全身を包むほどの魔法陣が現れる。左方向から迫ってくる魔法陣に手を伸ばすと、指先から順に魔法陣を潜っていき、晴人の姿が変わっていく。

 赤いマスク、黒い装束、マントのように翻った裾。

 文字通りの変身だ。

 

「さあ、ショータイムだ」

 

 突き刺していたウィザーソードガンを引き抜き、晴人はトビーに切りかかる。

 トビーもそれに反応し、伸ばした爪で晴人を襲う。

 生身であれば防ぎきれないであろうトビーの攻撃を、変身した晴人は県であっさり受け流した。

 

「おおーん!」

 

 犬のような雄たけびを上げトビーの左右十本の爪が迫る。

 だがそれを晴人は華麗な体捌きと剣捌きで体にかすりもさせない。

 変身することで晴人の身体能力及び知覚能力は劇的に向上しているのだ。

 

「ワンちゃんが引っ掻くってのはイメージと違うな」

 

 距離を取り晴人は軽口を叩く。頭部を覆うベゼルフレイムで表情は読み取れないが、その声色に現れた余裕はトビーもはっきりと感じ取った。

 

「お前本気でやってねぇだろ!」

「かもな」

 

 怒りのトビーだが晴人は気にも留めない。再び右手の指輪を交換し、ベルトのギミックを弄るとハンドオーサーが動く。

 

〈ルパッチマジックタッチゴー! ルパッチマジックタッチゴー!〉

 

 右手をかざす。

 

〈コネクト・プリーズ〉

 

 晴人の目の前に赤い魔法陣が現れた。晴人はそこに躊躇なく右手を突っ込む。すると、トビーは背後から自分の肩を叩く手に気が付いた。

 

「何だぁ! 誰だぁ!」

 

 勢いよく振り返ると、そこには赤い魔法陣と晴人の右手だけが浮いていた。

 

「あん?」

 

 トビーが状況を理解する前に晴人が動く。

 

「てい!」

「あ痛っ!」

 

 中指の開く力を親指で押さえつけることによって蓄積し、それを解放することで通常以上の速度と威力を持って中指による打撃をトビーの鼻っ柱に加えた。

 要はデコピンを鼻にしたのだ。

 突然の顔面への衝撃と痛みに、トビーは思わず打撃点を手で押さえた。麻痺爪メガクラゲの伸びた手で……。

 

『あ………………』

 

 晴人とトビーが呟くのは同時だった。予想だにしなかった事態と、うっかりミスを犯してしまった者が、別の意図ながら同じ呟きを発したのだ。

 だが、次の言葉は一人だけだった。

 

「あんぎゃぁあああああああああああああああああああああああ!」

 

 上がる悲鳴は当然トビーの物。掠っただけで麻痺して動けなくなると豪語するだけあり、トビーは一瞬で動けなくなって倒れ伏す。

 顔を押さえたとき、爪が刺さったのだ。

 

「チビレタ……」

 

 顔面も麻痺したのか、舌足らずな口調でトビーは倒れた。あまりに予想外な展開で晴人の方も閉口するしかない。

 

「………………変身した意味、ないじゃん」

 

 やっとそう呟いたとき、せめてナツの援護でもと考え視線を向けると、既に決着はついていた。

 

「火竜の炎肘!」

「そんな馬鹿な!」

 

 ナツは肘から炎を噴出させることによって拳を加速させユウカを殴り飛ばす。その一撃でユウカは完全に気を失い沈黙した。

 

「ようし! さっさとグレイを追うぞ、晴人! 急がねぇとグレイが仮面野郎をぶっ飛ばしちまうからな!」

 

 拳を握りしめるナツに晴人はやれやれと嘆息しながらも同意して頷いた。

 ナツはその姿に興味を持ったらしい。

 

「へぇ。エルザみてぇな魔法を使うんだな」

「似てる?」

「ああ。つうかやっぱり(ドラゴン)の匂いがするんだよな~。しかもさっきよりも」

 

 ナツの指摘は正しい。晴人の魔法は全て晴人の中にいるウィザードラゴンの魔力を基にしている。(ドラゴン)の匂いがするのも当然のことだ。

 しかし晴人にそれを説明するつもりはない。そうすると過去の出来事を話さなければならなくなるかもしれないからだ。晴人は自分の暗い過去を話すのを嫌う。苦しみを隠してしまうのは善か悪か判断はつきかねるが、操真晴人というパーソナリティの根幹であった。

 

「ま、それよりも早くグレイを追おうぜ?」

「そうだった! 急がねぇとグレイの奴があの仮面野郎を倒しちまう!」

 

 叫んで駆け出すナツに晴人は苦笑する。あれだけ喧嘩をして仲が悪そうなのに〝敗北〟を全く考慮に入れていない発言をするナツ。それは心からの信頼の表れなのだろうと感じたからだ。

 

「…………俺も行きますか」

 

 ナツの後を追い晴人も駆け出す。

 目指すは山頂。

 倒すべきは――――霊帝。

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