テンザンだけど、質問ある?   作:チャーリー江口

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模擬戦

 EOTI機関には、様々な分野の専門家が在籍している。

 

 エキストラ・オーバー・テクノロジーの研究者をはじめとして、それを応用した装置を開発する者。

 

 それだけでなく、研究員の健康を診るための者たち。テンザンたちのトレーニングを監督しているインストラクターや、メンタルケアの専門家などもいる。

 

 EOTI機関の実質的なナンバー2の科学者『アードラー・コッホ』も、本来はEOTとは関係のない分野が専門だった。

 

 現在は機動兵器の開発部門にいるが、彼はかつて『スクール』という組織でパーソナルトルーパーの優秀な操縦者を生み出すため、非人道的な実験を行ったという過去がある。

 

 そのアードラーが今注目しているのが、テンザン・ナカジマをはじめとした『アドバンスド・チルドレン』と名付けた者たちであった。

 

 

「失礼します」

 

 

 ある日の夜。アードラー・コッホの研究室に、一人の研究員が訪れていた。

 

 

「結果は?」

 

「はい、報告します。テンザン・ナカジマは内向的な言動はあるものの、精神的には問題なしとのことでした」

 

「そうか……」

 

 

 アードラーは、テンザンに対して不信感を抱いていた。

 

 

(以前……我々がスカウトするために接触した時、分析したテンザンの思考パターンが正しければ、もうとっくにトレーニングと座学ばかりの環境に不満を爆発させている頃なんじゃが……)

 

 

 その分析結果は『テンザン』のことであり、今のテンザンは全く違う性格だということは、データでしか彼のことを知らないアードラーには気付けなかった。

 

 

(欲求不満になった奴にワシが楽な環境を用意し、ワシのことを信用させる手筈じゃったが、それは諦めるとするか)

 

「もうよい。下がれ」

 

「分かりました」

 

 

 研究員が退室した後、アードラーは顔に埋め込まれた金属片に触れながら考えた。

 

 

「……ここは一つ、試してみた方が良さそうじゃな……」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「戦闘機のテスト飛行? 俺がパイロットで?」

 

 

 朝のトレーニングが終わり休憩をしていたところを呼び出された俺は、アードラーの使いで来たという男が言ったことに驚いた。

 

 そんなこちらの様子は知ったことではないと言わんばかりに、男は淡々とした口調で話を続けた。

 

 

「はい、本日10:00に『F-32シュヴェールト』のテスト飛行を予定しています。今から渡す書類に目を通しておいて下さい」

 

「ちょっと待って下さい! いきなり言われても、無理ですよ! 戦闘機の操縦なんてやったことないし」

 

「ですが、操縦方法は既に学んでいるはずです。この件は既に決定されていることですので、変更することはできません」

 

「そんな勝手な……」

 

「あなたも了承済みのはずですが」

 

 

 男は一枚の書類――以前日本で渡された『テンザン』がサインしたものの写し――を取り出した。

 

 そこには、テンザンはアードラーの実験に対して決して拒否をしないということを誓わせる文がはっきりと書かれていた。

 

 

「それは……っ!」

 

 

 俺がサインしたものじゃない。思わず言おうとした言葉を飲み込み、焦りを見抜かれないように表情を引き締めた。

 

 余計なことを喋ると、良くない事態につながる気がしたからだ。

 

 

「それは……何ですか?」

 

「……いや、別に」

 

「それでは、以上で話は終わりです。それでは私はこれで」

 

 

 男が部屋から出ていった後、俺は溜め息を吐いた。

 

 

「……乗りたくねえな」

 

 

 本当のテンザンなら、絶対に言わなそうなことを呟いた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

(お、あれ『リオン』じゃねえか。こうやって見ると、やっぱり大きいな)

 

 

 時刻は10時の二、三分前。渡されたパイロットスーツに着替えて、指定された場所ーー格納庫の並ぶエリアーーへと向かうと、伏せたような姿勢のリオンがそこにいた。コックピットには梯子が掛けられている。

 

 リオンは俺のよく知る青色ではなく、白く塗装されていた。誰かの専用機なのだろうか?

 

 

(まあ、今はリオンじゃなくてシュヴェールトだ。確か、ここで待っていればいいんだよな)

 

 

 しばらく待っていると、隣の格納庫からシュヴェールトがタイヤを使ってゆっくりと出てきた。

 

 

(あれに乗るのか?)

 

 

 そう思っていたのだが、シュヴェールトは方向転換をして滑走路に向かって走りだし、そのまま離陸していった。

 

 続いて一機、もう一機と飛んでいき、気がつけば上空には三機のシュヴェールトが旋回しているという状況ができていた。

 

 

「……あれ?」

 

 

 途方にくれていると、リオンのコックピットが開き、作業服を着た男が降りてきた。

 

 男はこっちを見ると、近寄ってきた。

 

 

「テンザン・ナカジマだな?」

 

「え? はい、そうです」

 

「待たせて悪かったな。機体の点検はすませておいたから、後は飛ばすだけだ。頼むぞ? こいつはまだ数機しか造られていない貴重なヤツだからな」

 

「……あの、すみません」

 

「何だ?」

 

「俺が呼ばれたのは、シュヴェールトのテスト飛行ですよね?」

 

「うん? 何言ってるんだ。お前はーー」

 

 

 男は指差し、こう言った。

 

 

「ーーリオン(あいつ)に乗って、模擬戦をするんだろ?」




 第10話「アーマード・モジュール リオン」に続く
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