普通のガールズラブにしたかった筈なのに、変化球な作品となりましたが……。
──あ、遅刻する
寝起きに思う久しぶりの感覚だった。学校のホームルームが始まる前には席に着けるだろうが、朝練はサボりになるかもしれない。
今日は月曜日。昨日は
けたましく鳴る、聞き慣れないアラーム音を止めようと目覚まし時計をモソモソと右手を動かして探すものの見つからない。それどころか空を切り、机すら見つからなかった。
不思議に思い、目を開ける。
まだ薄暗かったので、目覚ましの時間をかけ間違えただけらしい。けれど問題は残っていた。
「……知らない、天井だ」
あの新世紀アニメ台詞を脳内で感じたのは、これで3度目になる。
最初は引っ越した新居での朝のことだった。
真新しい真っ白な壁紙とダンボールの山。そして窓から降り注ぐ朝日に驚きつつも、「本当にアニメみたいなこともあるんだ!」と嬉しくなったことを鮮明に覚えている。
その後にすぐ荷解きをしなければならなかったので、ゆううつにもなったことを覚えている。
二度目はもっと驚いた。これ以上のあり得ないことは起きないだろう、と思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
それが、最後の今。この時であった。
今、自身が認識しているのは、現代の
けれど異世界に転移した記憶はない。あるのは……そう、ナーヴギアで。
──そうだ。ここはSAOか
より具体的にはゲームの中。《アインクラッド》第一層、その南端にあり最大都市にあたる『はじまりの街』になる。
私は昨日、アインクラッドを舞台にしたゲーム、『
「……
これで学校も朝練も関係なくなってしまった。
そして、何度もネット小説を読んで覚えたような興奮や憧れの叶った感動。といったような気持ちはない。反対に、起きたら昨日のことが全部夢だったらよかったのに……なんて現実逃避もしていなかった。
悲壮感が今の気持ちの大半を占めていた。あるいは、異世界は異世界でも、
──こんなに解像度は良いのに、思ったより感動がないなぁ……
そう。リアルな異世界にいるのに、悩みは尽きなかった。
ゲーム世界や異世界での生活。というのはきっと、フィクションのチート主人公だからこそ楽しめるのだろう。「自分が体験しても喜べる」と思っていた過去の妄想とは決別する。
そろそろ起きようかうと考え、安っぽい毛布を剥ぎながら目線を下げる。
そこにあったのは、二本指でつるぶせるくらいに薄いマットレスと毛布代わりの布切れ。
寝心地はひどいものであるはずなのに、体の節々が痛くないので意外と快適だったのだろう。安っぽい見た目で不安になった割にはまともであったのは幸いだ。
とはいえ、木組みのはずなのにまるで硬いコンクリートの上で寝ているかのような不快感を伴ってしまうのは正直勘弁してほしい。
その理由は想像できた。
──ははぁん。見た目だけしか作ってないな。
木組みに見えるには、あくまで
それはゲーム会社である《アーガス》や下請けが作ったモデルか、使用権を買った素材に貼り付けられた画像であり、SAOのサーバー側で出力しただけの映像だ。当然偽物である。
そこに電気信号として、〔
──いやデバッグしてよ!
現場の苦労を含めて推測できたものの運営に不満をぶちまける。あるいはバグであるかもしれない。けれどそれ以上の問題が幾つもあるので放置する。
問題といえば、ゲーム部門以外の《アーガス社》も大変なことになっているだろうが、それも私には関係ないので後だ。
自分にとって一番重要であるのは、
目に映るこれまた安っぽい中世ヨーロッパ風の衣服を着た体。
そして、足元を遮るように昨日まではなかったのに、自己主張する2つの小さな膨らみ。これらも全て嘘、つくりものだ。
昨日ゲームプレイ前に着たのは普通のTシャツだし、胸もない。
そもそも
「ま、まさか!?」
ようやく違和感に気づく。
転げ落ちるようにベッドから出て、小さな姿見を確認しに行く。
はしたないと思いつつも、私の両手は、自然と、胸の膨らみと股下に触れていた。
「女の……女性アバターのままだ」
姿見を確認したことで、自分の姿にきょうがくする。
刹那、自然と目頭が熱くなって視界がおぼろげになった。そしてようやく、もやがかかっていたようや昨日のことも鮮明に思い出してきた。
このゲーム開発者である茅場氏が昨日、《はじまりのまち》の広場でチュートリアルと称したデス・ゲームの開始宣言を振り返る。
一つは
そして、私たちが
重大なのに抜けていた事実をようやく思いだした。
一夜明けても、あの出来事がフィクションにしか思えない程現実を受け止めきれていなかったらしい。それが今の正直な気持ちなのかもしれない。
余りにも
むしろ暴動が起きていたあの場で発狂せずに、昨夜今後の予定を話して、普通に寝て、今起きられていることの方が異質であるかもしれない。
どちらが正常なのか判断がつかないので、やはり今の自分も正気とは言えないだろと結論づけた。
デスゲームとなってしまったこと以外にも、この世界ではもう一つ特異なことがある。
アバターの見た目がリアルと共通していることである。
茅場がチュートリアルの中で、プレイヤーアバターをリアルとほとんど同じにした。美男美女だったのが一瞬に冴えない素顔に逆戻り。
その例に漏れず、私も練り上げたモデルがご破算になったのだ。性別も忌々しい男に戻ると思われたのだが、アバターもステータス表記も、性別は
本来ならば、ナーヴギアの初期登録時に性別も肉体運動も丸裸にされるため、
ただし私の場合は少し特殊だ。
初期設定を家庭用のナーヴギア以外を使用し流用していた。
購入した本体のスキャニングではなく、基本情報はアパレルショップと連携してバーチャルで衣装確認用なアバター兼、バーチャルモデル用の設定を流用していた。だからこそハグを起こしたのかもしれいないと考えた。
都内であったファンション系とコラボしたVR企画イベントでナーヴギアを体験した際に、無理を言って全身の基本データを女性に変更してもらったのだ。レディースモデルを買う為にスリーサイズだけ弄ったアプリ用データを流用したのが影響して女性のままのアバターが反映させたのが理由かもしれない。
──いや、単純に支払い情報の会員情報でも女にチェックしてたからだったり……?
その可能性も違うと否定する。
自分のではなく母名義だったからだ。いくら社会性を身につけた元成人女性だったといえども、今は未成年。バイトもしていなかったので、接続使用料を運営に払うためにクレジットカードの支払いは無理だった。
肉体が使用者依存でなければ、未成年のプレイヤーはほとんど見た目の違うことになってしまうだろうから。
ナーヴギア本体かサーバー側。どちらかのシステムが誤作動したのかまでは不明であった。
けれど本当は、原因を見つける必要はなかった。むしろ
これから先、下手したら死ぬまで過ごすことになる『ソードアート・オンライン』の世界では、正真正銘の
同じように性別が戻って無いプレイヤーがいるかもしれない。異性で過ごし続けるのはとても苦痛だから、彼らも苦労するだろうなと思った。
けれど私は違う。
気づけば私は笑っていた。
そして私は、初めて
そして同時に、
それは2022年11月7日午前4時。
世界初のフルダイブ型VR-MMORPG『ソードアート・オンライン』正式サービス開始と同時に、ログアウトが不可能のデスゲームと化した世界に閉じ込められた最初の夜明け前。
そして、TS転生者の私が、ようやく
若干無茶がある設定ですが、今作でTSした理由はこうします。この設定だと、もしかしたらオリ主ちゃん以外にも数名TSキャラがいるかも…?
〈追伸〉
・タグはそういうことです。
・若干病んでいる気もしますが、悪堕ちはないです。
◆tips
・神(茅場)に感謝している人間:PoHは微妙に違いそうだけど、シリカもそうらしい…!?
やっぱり神様転生だったかもしれない