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2022年11月7日 午前4時
世界初のVRMMOタイトルである『ソードアート・オンライン』の世界において、朝の身支度はゲームらしくとても簡易的な作りになっている。
一つ。手全体をスマホをフリックするように上から下に動かしてメニュー画面を開く。
二つ。装備選択から外していた外装や武装をボタンをタップして装着する。
これに髪型のセットを加えたとしてもたったの3つの工程で終わり。
つまり、
パジャマを脱いで、洋服棚から衣類を選ぶことさえしなくて良いのは、まるで魔法のようであった。しかも、脱ぐ際には「全解除」のボタンさえ押せばいい。
ズボラ人間の多いゲーマーにとっては非常に有難い仕様だ。忙しい朝の身支度がたった数分で済んでしまうことはとても有り難い。とはいえ、SAO世界でやることは仕事といえるのか謎だけど。
ただし、朝の支支度で留意すべきことがある。それは、変化するのが外観だけあることだ。中身までは変わらない。はやい話が、眠気がとれないのだ。
──ゲームらしく単純化されていると不便なこともあるんだねぇ……
そんな発見を得るまでには思考力が働いている。けれど何もしないままでは、どうにも身体のスイッチが入らなかった。
それもそのはず。
そんなことを考えながら起き上がり、鏡の前に立った。そこには、肩が見えるまでネックラインが露出したオフショルダーのシャツ。その上に薄い皮よろい、そしてミニスカートを身にまとった一人の少女が映し出されていた。
──う〜ん、60点くらいかな?
超甘めの自己採点をしてみる。
寝巻きに使うには少し露出が多すぎるが、シャツはそのままだ(ついでに下着も変えが存在しないのでそのままだ)。身につけている
ゲームのアバターとしてならともかく、VRタイトルで四六時中こんな服を着ていたくはない。せめて、知らない人と会う前には装備を変えたいと思った。……本当は、男のアイツは兎も角として、
それ以前に今日は、手元には装備を買うコルが残らないことも確定している。
──将来の楽しみにしないとね。
かわいい服のことは今後のお楽しみとして諦める。けれどSAOにそういう衣装がない可能性もある。最悪は自作するしかない。「コスプレ力」を試す時である。
せっかく戦闘以外の要素が沢山あるのだから、
勿論、スキルスロットの制限があるので、早くても10レベルより後の話だけど。
ストレートのままだった髪も、装備選択によって初期設定のサイドテールになっていた。本当に髪型も装備扱いのようだ。
将来的には、シュシュやリボン風の装備。エクステやファンタジーらしいサークレットみたいな頭装備もあるだろう。そうした装備を装着すると髪型も自動で変化するのかもしれない。
将来が楽しみだ。
ついでに、ちらりと振り向いて後ろ姿も確認してみる。ふわりとスカートがなびくだけで、見た目に不備はなかった。
ゲームなので当たり前だがいつも通りの確認だ。ネクタイを閉め忘れてないか、形が不格好でないかを確認するより何倍も楽しい作業なのだからやらない方が損である。
──あとは剣……それは後にしても良いか。
食事中は邪魔になるだろうと武器を装備するのは後にする。
そうして、高いのか安いのか不明なままだった一泊《40コル》で借りた部屋の扉を開く。
現実のホテルのようにルームキーは存在しないので、扉を閉めたらそのまま1階の食堂と併設された洗面台に向かうことにした。
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階段を降りるはじめると、下には既に人がいることに気付いた。向こうも足音で私に気づいたらしく、「よっ」と軽く手を振りながら挨拶したきた。
その男はライ麦パンを片手に持ち、横長い長方形型のウィンドウを幾つも表示させて難しい顔をしていた。
そんな彼は、幼なじみであり学校のフェンシング同好会では2つ上の先輩、つまり高校2年生だ。そしてこれから長い時を過ごすであろうSAO生活での
因みにアルは、武器である槍をストレージに収納していない。まるで机に傘をかけるように武器を置いていた。それがカッコイイからだろう。その気持ちはわかる。
「せんぱい、おはよぉ~……」
私の返事に覇気は無かった。「貧血」なんて「バッドステータス」は存在しない筈なのに、どうも身体はまだ活性化してないらしく重かった。理由は、朝食のせいかもしれない。
このお店で出るのは、アルも食べているライ麦パン。支払う値段も高いので黒パンよりは美味しいらしいが、レパートリー的には物足りない。
「おはようさん、まだ暗いのに起きることになってわりぃな」
アルからの謝罪に、私は「平気」と軽く返す。
眠くて気だるいのは間違いないが、頭痛も無いし耐えられない睡魔ではなかった。
「というかリコ。ゲームなんだからいつも通り《アル》でいいんだぞ?」
「あっ、そうでした」
「それから口調も」
「う、うん。そうだね」
まだ勘違いをしていたようだ。
蛇口らしき取手のモデルは存在するが、SAOで道具を使う時には回す必要はない。
少し触るだけでピロンっとシステム音が鳴って、水がチョロチョロと流れてくる。そうして、少し
「あっ。ハンカチないや」
どうやって手を拭こう。
目が冴えてからようやく、洗面所の側にも手元にもタオルが無いことに気づいた。
武器だけでなく日用品を買い足す必要があることが判明したが、問題は今だ。
──まぁ適当でいいか
どうせ
──早めに野営用にキャンプセットも用意しないとかなぁ〜……
これからの旅に必要な装備(防具ではない)の経費を考えるとゾッとするコルが必要になりそうだ。けれど少し楽しくなってきた。仮想世界でのキャンプに夢を膨らませていたが、それは直に遮られた。
「リコ~。良いのがあるぜ」
「ホントに!?」
「おうよ。これを使っておきな?」
そう言って、白い物体をほうり投げてきた。受け止めると正方形状の大きな布だと解った。
手拭き用のサイズでは明らかに無いだろう。けれどこのゲーム持ち運べるサイズの布があったことに驚きだ。
「あ、ありがと。……ってかこれ、いつの間に買ったの?」
「いや、そこにあった奴だ」
そう言ってアルが指さしたのは、パンの入った網目のバスケット。
本来ならパンの下に敷かれているはずの布がないので、それを投げてきたらしい。
「……うゲェ」
私物じゃなかった。
というか不衛生な部類の物である。清潔だった。が正しいけど、お手拭きでは断じてない。
「なんだよその顔は」
少しムスッとした彼に言い返す。
「常識的にパンくずついた布で拭かないでしょうが!!」
「拭ければ何でもよくねぇか? だって、
確かに、ゲームではある。
「そうだけどさぁ〜。ふつうはそんなの関係なく使わないでしょうが!!」
「おっ、ちょっと調子出てきたんじゃないか?」
「私の、眠気は、関係ないっ!」
「いや、関係あるだろ。眠気覚ましの為の洗顔なんだから、衛生面とかは問題じゃないし」
どんなに不潔だったとしても、ここでは病気にはならない。現に私も服で拭いても良いかと思ってはいた。しかし、不快なことにも変わりないのだ。
逆に、
「アルってば常識というか、デリカシーなさすぎじゃない?」
「はぁ!? それは関係ないだろ?」
互いに、にらみ合う。
「はぁ……まぁいいわ。用意してない私が悪いもの」
「お、おぅ」
「ちょっとは反省しなさいよね」
「……それで、目は冷めたかい。
アルは私の不満を無視して口にした。
顔だけは無駄にイケメンなアイツがキザな台詞を喋るのは、正直よく似合う。
「え、えぇ。それは……大丈夫、うん」
「そいつはよかった」
あぁやって
でもその笑顔は、なんか違うと思う。
「別に早く起きることには慣れてるから」
「そうか?」
「そうよ」
何故かアルには信用されてないが、眠くても早く起きることには慣れている。水のお陰で頭も冴えてきているので問題はない。
ハンカチくらい探せばSAOにもあるだろう。と必要なかったかもしれない思考を切り替える。タスクとしては優先すべきミッションだけど。
「というかこの時間でも、ビッグサイトのことを思えば……余裕だし」
「そりゃそうだ。湧き待ちと比べてもずっと寝れるから余裕だな!」
苦笑いと共に返答がきた。
困難さは人によりけり。ではあると思うが、MMORPGにおいてはチームメンバーが夜警のように交代で寝ながらながらレアモンスターやボスが
しかしそれよりも、東京台場にある巨大イベント会場ビッグサイトで行われる
開場前から何万人と並ぶため朝から準備し移動すればネトゲでローテしたり徹夜することの数倍過酷である。
──まっ、私はコスプレかサークルだったけどね
今でこそ、オタク趣味にのめり込んでいるが古い親友にコスプレに、それもメルヘン系のに誘われるまでゲームはほとんどしない人間であった。
それが今では「嫁」もいて、中学生から参戦しているので人生何が起こるかわからない……。それどころか、授業でしか触れたことのない「ミシン」や「ペンタブレット」を購入し創作活動もやっているのだから。
そんな作り手と買い手は、運営側も含めて同じ場を作り上げる参加者である。だからこそ、なのかは不明だが、日本で一番統率された集団。と警察に褒められたことがあるらしい。
実際は大多数を占める『俺ら』よりも、極一部の迷惑集団が深夜に騒ぎ参加者からも問題視されることが多いお祭りだ。それも時間制限付きの入場券で改善され始めたが──
なんであれ、早朝4時は間違っても中高生が活動すべき時間ではないのは間違いないが、私は慣れているのだ。普通の男s……女子中学生とは違うので諦めるしかない。
「そうとも! 修学旅行前に寝れなかった君よりは、今のテンションはアゲアゲですとも!」
「ぉ? 言ったな。そのカードを出すなら俺にだってコミケのことを言わせてもらうからなぁ……」
「アル君。そのカード出してしまいますか。それなら君がRの本を買おうとしてたことをだね──」
まだ夜中だというのに、システム的には安全だから人目を憚らず私たちはいつも以上に騒ぎながら、私はパンを口にした。
口がパサパサになったように思えた。菓子パンはなくていいが、せめて牛乳もあるか、おにぎりの方が良いな。なんてことを思いながら……。
「あのぉー冒険者さん」
「ひゃい!?」
背後から声をかけらた。思わず奇声を発してしまう。
そこにいたのはフライパンを持ったおばさんだ。他の人にいたのは驚いた。しかし彼女の頭上には、ある筈のカーソルカラーが存在しない。つまりは、NPCだった。
「食堂ではお静かにおねがします……」
怒られてしまった。
「「ご、ごめんなさい」」
この時は気づいていなかったが、SAOのNPCはまるで本物の人間みたいな言動をしていた。余りにもリアルすぎたからだろう。
そのことが、私たち
❏お待たせしました。SAO編本格始動です!
チョロいんと化したリコちゃんと相棒しかいませんが…
◆tips
・ドロっとしたような違和感のある冷たい水:こんなのお風呂じゃない! でもお湯加減が最高なの……(byアスナさん)
ただし、ステータスの奥深くにある設定を弄るとリアルな水になります(シュガーリーデイズなど)
・ハンカチ:アスナさんは常備してそうですね。
作者はSAOなら持ってないと思いますが!
・他のプレイヤーを起こしてないかな:本来は宿屋の部屋と廊下はドアが閉じていると向こう側の音は聞こえない。
しかし、
◆よろしければ、感想&評価+アンケートへの回答もぜひお願いします。
前回の4桁前半には「男の娘」でコス垢やれば絶対超えるけど、やったら負けなのよ…
一層後の予定についてのアンケートです。原作(特に映画版)とのズレが生じますが、ミトのいる2層以降のプログレ編とエルフクエをこのままやるべきですか?
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読みたい
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あれば読む
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早くSAO編クリアして(読みたいけど)
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早くSAO編クリアして(興味ない)
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どちらでも構わない
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いらない
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原作を知らないor閲覧用