TS娘と仮想現実   作:蒼百合

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最初の夜明けⅡ

 会話の話題は、次第にSAOの話に移っていく。

 

 きっかけはおばちゃんに怒られたことだ。今が真夜中であることを思い出し、「私たちの声で他のプレイヤーを起こしてないかな?」とアルに質問したころ「問題ない」と言われた。

 彼が言うには、広場から離れたフィールド側にあるこの宿屋の他の部屋に宿泊するプレイヤーがいるかは解らない。けれど、宿屋にある部屋は中の音も外の音も、ノックのような例外以外はシステム的に聞こえない設定になっている。……らしい。

 それ故に、声がうるさくても問題ないそうだ。食堂のおばちゃんに怒られるから節度は必要だけど。

 

 私たちは、時折アルにシステムの確認をしながらの、何時もと変わらないじゃれ合いを交わしていた。

 否、いつも以上だった。それは年末までには戻れない(冬コミには参加出来ない)可能性が高いこと。それどころか、当分……年単位で現実世界に帰還できない可能性もあると理解していたからだ。

 そして、マイナスの懸念は他にもある。

 

「ねぇ、他の人はもう"ホルンカ"に向かってるのかな?」

 

 他のプレイヤーの動向だ。

 誰も行動していないのと、それはそれで困るが、先行者が多すぎても強くなれないので問題だった。 デスゲームが始まってからは、まだ半日も経っていない。けれど、私たちのように早くレベル上げの為に行動しているプレイヤーも確かに存在している。

 だから一案として、レベル上げの速度的には出遅れるが、《ホルンカ》周辺の狩り場が混雑している可能性もあるので、この場に数日は留まった効率が経験値効率が良い可能性さえ存在する。

 

 昨日はなすがままに連れられて、この宿に宿泊したのだったが。このままであると、右へ左へとパーティーメンバーのように着いて行くだけ。ということになりかねないので、実際のところどう動くべきなのだろうかと思い、経験者(ベータテスター)に教えを請うことにした。

 しかしその返答は、暫く黙っていたにもかかわらず曖昧だった。

 

「……わからねぇなぁ」

「ありゃ。先輩でも解らないんっすか?」

 

 思わぬ回答だったのでニヤニヤと少し悪い笑みを浮かべながら口にした。けれどアルは、「当たり前だろうが!」と声を荒らげた。

 返答は雷鳴のような怒号であった。

 

「いきなりリアルで死ぬぞ。と言われて“ハイそうですか”と行動に移せる奴らがどれだけいるかなんて解んなぇよ!」

「ッ!?」

 

 続けて言われた言葉に何も言い返せなかった。

 アルが正論だ。

 私の失敗だった。やりすぎだったのだろう。

 

「ミトと一緒にいた娘は死にかけたんだぞ! 危ねぇのに、なんで……なぜお前は平気なんだよ!?」

 

 アバター姿の彼(アルフォンス)の顔は真紅に変色し、鬼のような形相に豹変していた。角が生えているようにも見えた。しかし同時に困惑もしている。

 けれどそれが正常だと思った。この状況に恐怖を抱くのは当たり前なのだから。

 恐怖を抱いている理由は、たぶんそれだけではない。昨日私たちの友人であるミトから聞いた話を思い出したからだろう。

 

 彼女とは当初、昨日の4時過ぎには、合流する予定であった。けれどミトの()()()()()()がログインしていたため、彼女はSAOを案内することになった。なので、パーティーを組むのは夕食後にしようと後まわしにしていた。

 

 そこに茅場のデスゲーム宣言である。

 デスゲーム開始後は、ミトとアスナ(その女の子は)、は二人で外に出て、私たちとはホルンカにて合流する予定だった。二人が先行したのは、私が出遅れたせいでありミトも焦っていたからだろう。けれどその計画は直ぐに破綻した。

 クラスメイトの女子が死の危機にあってしまったからだ。

 

 アルやミトとは異世界転生への憧れを語り合った仲である。

 現に昨日の茅場の説明を聞いたアルは冷静だった。今とは違い、私を広場の外に連れ出してくれた。

 混乱し続けている私に、「異世界転移だぞ!」なんて言いながらゲームを買う前に語り合ったことを思い出しつつ正気になれたのも彼のお陰だった。

 

 しかし、一夜明けて冷静になれば、死の恐怖を抱くのは当然だった。

 否、違う。一番狂気に囚われているのは、私なのだろう。ましてや、その極限状態の中で他人がどう動くかと想像する余裕がある人の方が異質なのは間違いない。

 

 例外だと思う私ですら、広場の狂乱に呑まれて思考することさえ出来ていなかった。あのまま広場に居続けば私も混乱していた筈だ。

 けれどアルは、外に連れ出してくれた。冷静に判断を出来ていたから恐怖なんて感じてないだろうと思ってしまったのだ。

 しかし、たったそれだけを根拠にして彼も無意識に此方側(破綻者)だと思っていたことは、誤りだった。

 

 ()()は怖いのだ。

 簡単に克服出来るものではないし、恐怖を抱かない私みたいな人の方が少数であろう。

 考えが間違っていた。なんてアルに伝えるべきだろうか。

 謝罪?

 それとも、"外に出ることをやめよう"と提案?

 多分どれでもない。焦っていて混乱している彼を安心させるべきだろう。

 

「大丈夫だよ。私は強くなる。アルが不安なら、私が強くなって守るから」

「ははっ、なんだよそりゃ……あんた素人だろうに」

 

 答えだけは決まっていた。今度は私が助ける番だ。支えなければならない。

 アルは乾いた笑みを浮かべていた。彼の言ったことは事実である。私はVRMMOの素人である。フルダイブすら存在しない転生前に役立つ情報をもってはいない。

 今の私の知識なんぞ、素人に毛が生えた程度の物であることは事実である。けれど、前世を含めたら私の方が歳上である。オフライン(リアル)で助けられた恩を返す為にも、強くならねばならなかった。

 

「確かに、掲示板の僅かな情報と君が喋ってくれた知識しか、私はソードアート・オンラインのことは知らない」

 

 あの時茅場晶彦は、キャッチコピーでもあった「ゲームであっても遊びではない」と言った。命を強制的に賭けさせられている状態だ。

 

「でも……()()()()()()()()くらい私にでもやれるから。大丈夫」

 

 一般的なMMORPGの場合、大元のサーバーだけでなく、ユーザーである私達がゲームを操作するマシンの性能上の関係で、システムが表示(視認)可能なアバターの人数が制限される。人数が許容量を超えてしまうと非表示になるだけでなく、動かすアバターまで遅くなってしまうからだ。

 システムへの負荷や処理落ちを防ぐためにサーバーを何十も用意するタイトルが多いのはそのためである。

 

 けれどSAOは違った。

 1サーバーしかない。1万近くのプレイヤーが同じ場所に存在している。特異なのはそれだけではない。フィールド内を徘徊するモンスターだけで無く、採取するアイテムや宝箱も早いもの勝ちなのだ。

 同様のシステムを採用するゲームタイトルは存在するが、非常に珍しい。お金(コル)や武器に素材、そして経験値。単一サーバー内に1万人がいるからこそ、これらプレイヤー間で全てを奪い合う必要がある。

 だからこそ少しでも早く先に進むことがこのゲームの必勝法となる訳だ。

 

 PKのようなハードタイトルのMMO経験は私にもある。そこにソロでの対策も聞いた私なら、ベータプレイヤーに追いつけなくても勝ち抜けることは可能だろう。

 リアルでは、前世で剣道。今世では、(強制的に通わされた)空手教室とフェンシング同好会で練習してきた経験に加え、ソードスキルの練習も経験済みだ。

 身体に馴らすためには、もう少し素振りを加えたい所ではある。けれどそれ以上に実戦を早く行い、経験値を稼ぐ必要があった。そして一刻も早く、彼が私をこの一層で不安にならない安全マージン(レベル10以上)を超えるレベルまでは早く到達する必要がある。

 

 究極的にはゲームなのだ。やることはゲームプレイと何一つ変わらない。

 攻略本もWikiも最強ランキングも存在しない。初見殺しがあるかもしれないフィールドやボスに立ち向かうことは、本来のゲームプレイだ。

 縛りプレイで禁忌を犯したらデータリセット。あるいは、「HP=0」でキャラロストのMMO。リセット不可能で行うクラシックモードのファイアーエムブレム(手強いシミュレーション)。死ねないスタイルのプレイスタイルのゲームをなんて当たり前のように存在している。

 ようは、『危なくなったなら、すたこらにげろ』『死にそうになったら逃げろ』。こらを徹底すればいい。大破進撃は論外だ。

 

 だからこそ私は本気だ。無謀とは思ってない。

 死への恐怖が薄いことは問題かもしれないが、一番のリスクであるHPゲージが危険域(レッド)に変わっても冷静に動ける自信もあった。

 

 けれど、アルとの目線は合わせれなかった。

 鬼の形相に向き合う強さがなかったのだ。それが唯一の不安である。

 しかし、一瞬だけ目と合った直後にアルはハッとして、静さを取り戻したようだ。

 

「あっ。……わりぃ」

 

 謝罪の声はほとんど聞こえなかった。

 それでも、悪いのは()だ。

 

「私こそゴメン。色々考えてくれたのに無神経だったよね」

 

 今度は直ぐに口が動いた。

 

「……今からでも外に出るのやめる?」

 

 弱気な提案だったが、そうすべきだと思った。口は震えず、表情は明るく言えたと思う。

 ここはテレビでも、な○う小説でも無いのだから。ゲームであっても現実である以上、『いのちだいじに』は徹底していく必要があった。

 

「……ぃぃ」

「ん?」

「いらねぇよそんな気遣い。そりゃ行くに決まってるだろうが!」

 

 らしくない口調。きっと痩せ我慢として誰かを真似しながら言ったのだろう。けれど本気だった。

 迷いない決意は理解できた。

 

「そっか」

「応とも!」

 

 昨夜、街に出る結論を昨日出すまでに、1時間程度使ってしまった。その結果、夜明けと共に移動することを私たちは決意した。それを変えるつもりはないようだ。

 

 因みに、私は最初、あのまま夜に移動をしよう、と提案していた。けれどβテスターの彼がそれを却下した。

 HP(ヒットポイント)ゼロイコール現実世界での死。というリスクの前に「夜間行軍」というリスクと、精神的疲労を背負ったまま外に出るべきでない。というアルの主張を受け入れたからであった。

 

「なら、さっそく行っちゃう?」

 

 立ち上がり、提案する。

 一度決めたら後には戻れない。村までの距離は4時間程度。つまりモンスターが出ず、攻撃を受けることのない圏内から出て、死の危険もあるフィールドに長時間も居続ける必要があるのだ。

 ただし、道中の敵の大半はスライム程度の雑魚であるが。

 

「当然さね」

 

 そんなことを思い出したからだろうか?

 アルの覚悟はもう決まっていた。

 

「おばちゃん。ありがとな」

「ご馳走さまでした」

 

 私たちは直ぐに宿を後にした。

 

 

 

 

 2022年11月7日 午前4時55分

『はじまりの街』北西外周部

 

 宿を後にした私たちは、デスゲーム開始前にドロップアイテムとして手に入れた僅かな素材を素材屋で全て売り払った。そしてお金が尽きるまでHP回復用のポーションを買い込んだ。

 それから4つ程、《ホルンカの森》で多く出現する虫対策として毒消しのポーションも購入したために、絶対にHPを全損してはいけない。という行動指針のもとでは回復アイテムの数がかなり心細い。

 

 その道中で少なくないプレイヤーとすれ違った。

 誰もが壁にもたれかかるように疲れ果てて眠るか、うつろな目をしていた。

 広場での狂乱はまだ昨日のことなのだ。泣き出したり発狂する人たちが大勢いる中、昨日は逃げるようにして去った。中央の広場方面にいけば、今もまだ、乱が続いてのだろう。今日の移動も急ぎ足だった。

 

 だからであろうか。素材屋を出てから今まで、私とアルの間に会話はなかった。さっきはあれだけ異性のいいことを言いあったのに台無しである。

 直径約1キロの円弧を描いたような都市の境目にある《はじまりの町》とフィールドを分かつ城壁が見えてくると、緊迫感がさらに増す。

 どうやら、外に出る。たったそれだけのことが想像以上に恐ろしかったらしい。

 

 もしかすると、アルの顔を恐れたのかもしれない。けれどそれだけは違う。と思わなければ心が折れてしまいそうだった。

 

──大丈夫、今は圏内。外との違いはシステムの保護だけなんだよ、わたし

 

 己を鼓舞する。犯罪禁止(アンチクリミナル)コードという、Pk(プレイヤーキル)を含めたあらゆるゲージが減る行為から保護された究極の安全地帯。そこから外に出て、死のリスクのあるフィールドにいざ赴くとなるとアルも私も足がすくんでしまったのだ。

 フィールドに出ればHPの減らない安全圏は、《はじまりの町》を含めて6つしかない。次の階層に繋がる迷宮区近く、フィールドのゴール地点ともいえる《トールバーナ》を除けばたったの4つ。

 一番近い《ホルンカ》の町までたどり着くには、走れば3時間程度で到着する。けれど戦闘を全て避けて進むのは困難だろう。当然、道中の敵に殺されてしまう可能性だってあった。

 

「ねぇ、アル」

 

 自然と口が開いた。

 

 もしかしたらこれが、前回は言うことさえ出来なかった最後の言葉になるかもしれない。

 

「ん?」

「絶対、()()()()()

「当たり前だ」

 

 アルの返事は心強かった。

 

 そして私たちは、《はじまりの町》から出てデスゲームをプレイするための第一歩を踏みこんだのだ。

 

 そんな第三者からみたら恥ずかしくなりそうな風景を、()()()()に見られてた為にからかわれることになるとは知らずに……。




❒プログレ編を続けるかについてのアンケートは、今日の更新で最後です。
回答してくれた皆さん&お気に入り登録してくれた皆様ありがとうございます。


tips
・危なくなったなら、すたこらにげろ:『ファイーエブレムのテーマ』より。
 やり始めたら眠れないけど、周りの戦士はヘナチョコばりだ…
・死にそうになったら逃げろ:『ゴッドイーター』
 運が良ければ不意を突いてぶっつぶせ。とも言うけど、とりあえず死ぬな。と告げるリンドウ=サンはイケメン。気になったら、Ufotableさんのアニメを観よう! CV平田さん(クライン)やで!


「面白そうだから、そっとしておこうかナ」

一層後の予定についてのアンケートです。原作(特に映画版)とのズレが生じますが、ミトのいる2層以降のプログレ編とエルフクエをこのままやるべきですか?

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