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アインクラッド第一層 「原始の草原」
遂に、フィールドへやってきた。
《はじまりの町》、北西ゲートから続くフィールドは広大な草原である。
草原の中には真っ直ぐと、何処までも続いてそうな一本の道がある。《はじまりの町》では石造りの舗装された通路とは違い、獣道を広げたような人の手がほとんど入っていない土の道だ。
フィールドの名は《原始の草原》。その名がついた通り、私たちプレイヤーが通る初めてのフィールドとなる。
果てが見えない程長い一歩道が、これからの長い冒険を予感させているようにも感じた。
「広いなぁ〜〜」
思わず口に出た。
「あぁ……こんなに
「私も知らなかったよ」
「そりゃあ、お前が二度目だからじゃないか?」
やはりデスゲームに変わってしまったからだろう。
私とアルは、《原始の草原》の広大さに圧倒されていた。
「なにさ、アルだってビックリしてるじゃない」
「ちげぇねぇ。ぶっちゃけ、俺も驚いてる」
「《はじまりの町》を抜けば一層の端までは約9キロ、だったかしら? 23区と同じくらいなんだから、広いのは間違いないけど……これは広すぎじゃない?」
広すぎるのだ。
最初に通る道(の一つ)であるならば、あっさりと次のエリアに移動出来ると考えていた。しかし現実そう上手くはいかないかった。
文字通り自分の足で歩かなければならない。つまりは物理的な距離が他のゲームとは違うのだ。
「だよなぁ。最初のエリアだけで、この広さのは確かに驚きだぜ」
「けどそれも、自分視点で歩くオープンワールドだからこその楽しみ、なのかな……?」
オープンワールドゲームは数多く存在している。けれど多くが3人称視点。あるいは神の視点とも言うべき、キャラクターの後ろから観ている。
視点だけでいえばTPS系ゲームと同じであり、ベーシックなパターンだ。
「確かに、これが99層もある思えばワクワクもするよな」
「ふふっ、そうよね。でも、ベータ経験者的には89層じゃないのかしら?」
「ああ……で、だ」
話が雑談とは変わる。
「問題はこの
「……」
アルの言う通り、やはり最大の課題は、今の時間だ。
現実よりは明るいものの、まだ日の入り前であった。十分、真夜中と呼べる時刻である。
走り続けるには、少し心もとない距離までしか視界が開けていないので心許ない。
「見えるけど、見えない部分も多いのって怖いわね」
「警戒していくぞ」
「えぇ、もちろん」
モンスターの行動パターンが変化している可能性や、新種がいる可能性だってあった。索敵は怠れない。
そんな草原を警戒しながら歩みを勧めていると、少しあるけど、広い草原の中を徘徊する無数に存在する
彼らモンスターがいるのは、幸いなことに視界の端っこだ。近くにまでモンスターは来ていなかったようだ。
私は、心のどこかで戦わなくてもいいことに安堵していた。
そんな余裕もつかの間。仮初めの平穏は呆気なく崩れた。
「いたな」
「えぇ、いるわね」
先に呟いたのはアルだ。
そこにいたのは一匹だった。
道路の先に佇んでいるイノシシがいた。
あくまで、視認できるだけの数であることに留意する必要がある。それでも私たちは安堵した。
「フィールドの敵が増えてることは、なさそうだね」
「そう、だな」
アルも同意する。
敵モンスターの数はデスゲーム開始前と比較して増加していることはなさそうだ。
しかし夜間の間は、誰も討伐していないので、上限一杯まで狩られること無く沸いている。数が多いことに変わりないが、対応可能な数だろう。
刹那。
ガサガサッ、と草原から音がする。
「っ!」
思わず身を硬くしてしまう。
けれど手は、剣の柄を掴んでいた。
青イノシシやはり黒オオカミたちがフィールドを徘徊しているのだろう。けれど、そのどれもが、私たち気づいた様子はない。
遠くからは、羽音も広がってきた。ハチが動き出したのだろう。
モンスターが襲ってはこなかったが、漸く実感する。
このまま《ホルンカ》へ敵を避けながら進むことが絶対に不可能であると。
モンスターを含めこの世界のあらゆるモノは、所詮はプログラムによって構築されたデータでしかない。そして、目の前にいるイノシシは、『レベル1』である。
こんな雑魚モンスターに怖気づいてしまってはこの先戦えない。
ただし、その作り物の怪獣には、まるで本物のような威圧感が存在していた。
けれど、ここに来たことが自殺行為だとは微塵も考えていなかった。
イノシシやハチ。そしてオオカミ型のモンスターはどれも初心者向けである。ということが最大の理由であるが、何故か体が軽いのだ。
モンスターと敵対することに高揚感を覚えているのだろう。今は、このモンスターたちとの戦闘を回避することは可能である。
このまま歩いていけば、何処かでは、ではなくこの後すぐに戦う必要があるのは間違いない。
それならば、早めにモンスターと戦い、戦闘に慣れておく方が得策であろう。
「ねぇ、アル君。提案があるんだけど?」
「奇遇だなぁ、実は俺もなんだ」
どうやらアルも同じことを想像してたらしい。
「一度、ボア倒してみない?」
「そうだよな。俺はオオカミからでも良いと思ったが、倒すことにはオレも賛成だぞ」
方針はあっさりと決まった。
「それで、どっちからやろうか?」
「二人でやれば良いんじゃないか?」
今度は噛み合わなかった。
「流石に的が小さ過ぎるでしょ?」
「ちげーよ。別々に倒すんだって」
認識も違っていた。
「オーケー。なら、最初のはボアから! 次がウルフを一人づつ倒していこう」
「そうするのか。それならリコからでイイぞ」
「……了解」
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剣を構える。
武器選びには色々と悩んだが、盾なしの片手剣にした。
決めては単純。デスゲームを生き抜く塗中で、ゲームの初期装備としても存在し、かつ、プレイ初期段階での入手のしやすさを考慮すると、一番自分に合うと思ったからだ。
武器の形状的には両手で構えることもできるが、名前の通り片手で扱う剣だ。左手を添えてしまうとシステム的にエラーが起きる。
構えは現実世界のどれとも違う。
やはり最初使っていたレイピアの方が良かったのではないかという後悔が、頭をよぎる。けれどそれは邪念だろう。
SAOをプレイする前、どの武器を扱うか散々悩んだ。剣タイプではあるのは確定だったが最初に選んだのは《レイピア》だ。姫騎士スタイルをやろうと決めたからである。
フェンシングにも似た形である《レイピア》は、軽装備であり、突き刺すように扱うことが多いが斬ることも可能な中世騎士の装備としてお馴染みの武器である。
本当は刀のような軽量系両手剣を扱いたいと思っていた。
しかし、プレイヤーが使う装備に刀は存在していない。代用となる剣タイプの両手武器は、名前の通り《両手剣》だろう。
しかし、一般的なゲームであっても使える両手剣はとても重い。更に重たい《大剣》なんてクラスが存在することもある程に振り回すイメージが強い武器なのだ。
本来の意味での《クレイモア》が、中世ヨーロッパで使った小ぶり両手用剣をベースとしたソードスキルと武器が欲しかった。戦時中に使わないタイプの方である。
それならば、と思い《片手剣》や《レイピア》。《曲刀》や《短剣》なんかも考えた。後者2つは防御とのバランスなどの理由であっさりと却下された。
こうして残った片手剣であれば、ある程度の防御は可能である。しかし、片手剣を続けていくのであれば、《勇者スタイル》にも慣れていかねばならないだろう。
回避と防御の組み合わせだけでなく、重量感ある武器の振り回しと盾の操作。という二つの行為に慣れていく必要があった。
それらを行うことは将来的な話でらあるが、出来そうにないと思い却下した。
両手剣の代案としてはかなりアリなだけに残念である。
そんな紆余曲折があって、SAO開始時にはレイピアを選んでプレイしていた。けれど、デスゲームを続けていくには大きな欠点が2つある。
一つはダメージソースとしては心許ないこと。そして、少数パーティである以上、防御は大切であるのにそれがほぼ不可能であることだ。
もう一点の理由としては、SAOの戦闘スタイルを妄想して考えた際に、回避剣を最初から目指すことは厳しいと判断したからだ。
短距離のインファイトを行うならば、回避に全振りで短剣装備し削った方が良い。
それは採用した片手剣であったも同様だ。ある程度の小回りが利いたとしても、防御が厳しいくなるのは3つの武器どれであっても同じである。
もしも、アニメや漫画で見たような、あるいは曲芸のようなインファイトスタイルをSAOで出来るなら確実に強いと思う。八極拳と剣の両刀なんて最強だろう。
そんなわけで、一番攻撃力の高い片手剣を選んだ。それも、リスクもある盾持ちを諦めた回避系スタイルを目指してプレイすることにしたのだ。
ベータテストで似たプレイヤーがいた。とアルに来たことも理由である。
最初くらいは盾を持っていても良かったのだが、諦めた。
持ったことのない道具を扱うと邪魔になるからだ。なにより、お金もなかった……。
現実は世知辛い。
もう一つ、悲しい理由がある。
片手剣の強武器はゲーム序盤から比較的簡単なクエスト手に入るが、レイピアの場合は1層終盤の中ボスかレアモンスターのドロップを待たねばならない点だ。
事前情報での最強武器ランキングを鵜呑みにした効率重視の結果である。
勿論、どの武器であっても一長一短だ。今後はまた武器変更する可能性もある。
しかし、全てはこの一匹を倒してからである。
意識を集中する。
「スウウゥゥゥ……」
深く息を吸う。
呼吸は大事だ。脳に酸素を入れたりして冷静になるためだけでなく、心の余裕のためにも。
気持ちだけは、全・集中──。
切っ先を定め、目を凝らする。するとイノシシの上にアイコンが表示される。
HPバーと共に名前が表示された。そこには「Frenzy Boar」と書いてある。SAOの表記は私たちのキャラ名を含めて全てが英語だ。
ともかく、コレでシステム的にロックされた。
左手を武器に添えない片手だけの構えであるので、剣道における《正眼の構え》とは違う。剣を背よりも後ろに構えているので、剣道における《八相の構え》にも近い構えだった。
こうしていると、フェンシングにも近いように感じたが、それとも違う構えだ。
フェンシングで何度もやってきたというのに、本当の戦闘用の構えとなると、片手で攻撃する構えには未だ慣れていないかったが仕方ない。
決意を新たに剣を振る。
すると、通常の剣ではありえない音が鳴り始め、鼠色だった剣も光輝き出す。
剣技、則ち《ソードスキル》のファーストモーションが始まった証拠だ。これをシステムに検知させなければ攻撃は永遠に発動しないが、認知させれば即座に発動する。
自然と体が動き出す。攻撃モーションが始まった。これに身を任せるのではなく、先に。同期するよう行動する。
「やあああああぁぁぁぁぁ」
声を発して力を籠める。
少し下げていた左脚を蹴り出す。
「せやぁっ!」
走り出すと剣は、赤色の軌跡を中に描きそのまま青イノシシに突き刺す。
──プギャーォ
どこか可愛らしい悲鳴が草原に響く。突き刺さったのは急所である首だ。断末魔である。
巨体な肉体が落ちてくるころには、HPは直ぐに吹き飛んでいた。落下すると同時に、イノシシの肉体はガラス片となり砕け散る。
すると、私の目の前でウィンドウが広がった。
Result . Exp 11 . Col 8 . Items 2 . ▼ ああああa●.青ボアの千切れた皮ああああa ああああa●.粗い石ああああa
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討伐完了である。
当然のことながら、あっけない終わり方だ。運がいいことにアイテムが2つドロップしていた。とはいえ使い道はどちらもないので、あまり意味がない。
ウィンドウを閉じるまでに有した時間は、20秒ほどであった。
しかし、これまでとは一点違うことがある。《フレイジ―ボア》というモンスターに、これ以上ない位に、真剣に対峙した。一切の躊躇や油断をせずに
変化はまだある。
動きや表情を観察すると、モスンターへの捉え方が変わってくるのだ。それこそ、スライムのプルプルとした動きの虜になるプレイヤーが大勢いるのと同じだ。
けれどその過程は断じて違う。
グラビアアイドルの写真を舐め回すうな、コスプレを撮る際のカメ子の目つき、卑猥なものを含んではいなかったと振り返る。
あるいは、裸体デッサンをする絵描きのような……曲線や膨らみばかりで形を掴みにくい身体を描こうとする際の複雑なもに感じた。
「無事倒せたな」
アルの声がする。
そこに称賛の気持ちはなかった。倒せて当然。と言わんばかりの言い方である。勿論、その通りだ。スライムなのだから。
「ねぇ、アル……」
「ん、どした?」
この気持ちを伝えたかった。
「あの子、ちょっと可愛いね」
「ん??」
「いや、そこのボアって可愛いくない?」
「……ェ?」
振り返ると、宇宙猫のような顔になったアルがいた。
「アル、どうしたのさ」
「………お前。神妙に剣持ち続けていたと思ったら、そんなことを考えてたのかよ」
アルは呆れたように口にする。
そうは言ってもアレは可愛いのだ。声も仕草も愛らしいのもがある。
「いやぁー、ねぇ。スライムみたいに飼いたいとは思わないけどなんか愛くるしさを感じてしまい待ったのですよ……まさに、キモかわいいってやつね!」
「そうなのか」
「ソォーナンデス」
「声真似はいいから」
つれない返事ばかりである。
「んー、次どうぞー」
アルの番だ。
「お前なぁ……」
そう言いながらも、アルは元気に槍をクルクルと回す。
普通に無駄なモーションである。
「アルも楽しんでるじゃないかー!」
「別にいいじゃねぇかよ……」
野次への返答はなかった。無言で槍を突き出している。
今は真剣そのものだ。そして、構えてから攻撃に移るのは一瞬であった。
レベル1の肉体では早く動けない。けれど初めから視界に入れてなければ、ブーストしたソードスキルを敵が避けられないだろう。
「おらあぁぁっ!」
背中から狼に突き刺す。
──ガゥッツゥゥ
そんな悲鳴を奏でて、狼はポリゴン片に変わった。こちらも瞬殺である。
「うしっ! 楽勝、だぜ!」
そう叫んで、槍を天高く掲げていた。
スライムを倒した人の顔がコレだ。
「酔いしれてんじゃないぞー!」
「うっせぇわ! そんくらい、いいじゃねぇーか!!」
「駄目とは言ってもないわよ! でも、人のことは言えないわねぇ……?」
彼は笑っていた。
「そんなの別だろうが。俺様の槍さばきとウリ坊への執着心を同じにしないでくれ」
断固拒否のためにである。
「そ、そうですか」
やっとモンスターを討伐! しかし、原作キャラの登場は3人でもでまともに喋らせたのはミトだけだから実質0かぁ。ペース早めないとですね。
◆tips
・原始の草原:元ネタはSAOIF。ホルンカの村はストーリーでのみ登場。
背景も汎用の素材なので広めの町みたいになっている。