「はぁっ…はぁはぁっ…ぐぅけほっ…はぁっ」
走る。ただただ走る。呼吸が乱れ、咳き込みながらも足を止めるわけにはいかない。
進む。いや違う、遠ざかるのだ。少しでも遠くに離れなければ。
既に、両足がちゃんと地を蹴れているのか分からない。ばたつかせているだけかもしれない。それでもいい離れているのならいい、離れているという事実のみが、今の自分の精神を支えている、発狂して無いのはそのおかげ。
(嫌だっ…嫌だっ…いやだっ…いやだいやだぁぁぁあ)
離れなければ、離れなければ、逃げなければ、逃げなければ。
暗い廊下に響き渡る足音。
必死に走る廊下も突き当りが見えてくる。視線をぐちゃぐちゃに動かして逃げ道を探す。突き当りの少し前に下への階段があるのを見つけ、飛び込む様にして入り、三段四段飛ばす勢いで下りる。
下りようとした。下りようとして…………凍りついた。
ちょうど階段の踊り場、今下りようとしている階段の手すりが終わるあたり、そこから子供の顔が覗いていた。
顔が白く、目には白眼がない真っ黒な瞳でこちらを覗く。
「…っ!」
逃げていた青年は恐怖で悲鳴すら上げられなかった。
それでも残った生存本能を総動員して、身体を引きずる様に動かす。歯をカチカチ鳴らしながらも二、三段下り始めた階段を引き返す。
引き返そうと振り返ると同じ視線が見下ろしていた。
階段下の子供とは違うが、同じ顔色、同じ目。
ゆっくりとこちらに手をのばしてくる。
もはや、悲鳴どころか恐怖で視線を切ることもできず、固まったまま、なすがままだった。
せめて発狂できれば、彼にとっては幸せだっただろう。
数分後階段辺りから絶叫が響き渡るたり、弱々しく空気の抜ける様な呼吸音に変わり、肉の千切れる様な音と共にそれもやむ。
階段の中段から踊り場に向かって赤い液体が流れ落ち、踊り場の一部を扇状に染める。
人ではなくなった肉塊を数人の子供が引きずっていく様を、雨に濡れた金色の瞳が眺めていた。
「やっほー、ゆーうーり!」
「ちょっ!いきなり抱きつかないでよ」
朝のホームルーム前に鞄の中身を机に移していると、後ろから
「びっくり大成功?」
「いや、別にびっくりはしなかったけど、落としそうになっただけで」
いつもの様なおちゃらけた様子で、朝からテンションが高い。
「はっはっは、それは残念。まっ、それは良いんだけどさ、土曜の朝ニュース見た?」
「朝?見てないけど。私朝弱いから、ニュース流してても頭に入ってこないんだよね」
「やばいよ、あそこで死体が出たってさ」
ニヨニヨした様な顔で、早く自分の知った情報を伝えたい、と言った感じだ。噂話とかが好きな沙耶らしい。
「どこ?」
「今度行こうって言ってた廃病院」
それは心霊スポットに行きたがっていた沙耶が言い出した、廃病院の事だ。
「え〜、まだ行く気だったの?行かないよ」
「えっ!行ってくれるって言ってたじゃん!」
「人数揃えばって言ったでしょ。結局集まらなかったんでしょう?」
そもそも行く気はなかった、沙耶があまりに食い下がるからあと3人集めたら、と言っんだがこんなことに付き合う人間が3人もいるはず無いと思っていた。
「実は集まったんだ!」
「え?誰?」
「森田でしょ、石川君、あと舞」
「何やってんの舞、ていうか石川君呼んだの」
苦い顔をして視線で責める
「うん……ごめんって、行く間だけだから」
私反応を見て一応謝ってくる。何故私がこんな反応かというとただ単に私が石川君の事が苦手だからだ。一度告白され、断ったという経緯がある、正直あまり関わりたくない。
「ううん?ていうか死体が出たって言ってなかった?じゃあどっちみち入れないでしょ」
「あー違う違う、中じゃないよ。ほら、あそこって横に橋あるじゃん、あそこで見つかったって」
「ふーん」
興味なさげに返事をすると、それが不満げだったのか、さらに喋り始める。
「高校生3人だってヤバくない?しかも全部首が無かったって」
「え!完全にダメじゃない、それ。行ったらダメなやつでしょ。心霊云々じゃなくて完全に猟奇殺人じゃん」
358:名無しさん
いろいろ出てるけどやっぱ噂どまりだな
359:名無しさん
心霊スポットなんてそんなもんでしょ
えげつない事件が起きましたって言っても調べたらデマなんてざらだし
360:名無しさん
そうか?意外とマジもんもあるイメージだけど
361:名無しさん
ない
362:名無しさん
ないね
363:名無しさん
無
364:名無しさん
え?みんな結構行くの?
365:名無しさん
ないよ……ないと信じてる
366:名無しさん
>>365
願望かよw
367:名無しさん
>>365
何故ここにきたw
368:名無しさん
某県に井田病院というのがありまして…
369:名無しさん
>>368
ヤメロォォォー
370:名無しさん
それはアカン
371:名無しさん
マジでヤバイやつ
確か死人も出てなかったっけ?
372:名無しさん
でてる
373:名無しさん
そんなヤバイの?
374:名無しさん
ヤバイ
375:名無しさん
ダメなやつです
376:名無しさん
ちなみに具体的に聞いても?
377:名無しさん
確か2、3種類住み着いてたよな
378:名無しさん
花子さん的な?
379:名無しさん
う〜ん…そんな感じ?
そんな生易しくないけど
380:名無しさん
可愛く言えば
物凄ーく可愛く言えば
381:名無しさん
>>377
3種類な
引き子、影飲み、宿り様
382:名無しさん
引き子?
パチンコやるの?
383:名無しさん
>>382
そうそう、そんな感じ
384:名無しさん
>>383
嘘教えんなw
引き子っていうのはその名の通り子供、白い子供5〜10人ぐらいって言われてるけどそんぐらいの集団で捕まえた人間を引っ張って千切る。
385:名無しさん
ヒィ
痛そう
386:名無しさん
おもに頭、たまに手足を千切る…らしい
387:名無しさん
切るとか刺すとかじゃなくて
千切るってのがエグいよな
388:名無しさん
そんなん会ったら逃げるわ
相手子供なら走ればなんとかならん?
389:名無しさん
>>388
ハイ、アウトー
390:名無しさん
逃げちゃダメなんだよなー
391:名無しさん
>>388
終わったな
392:名無しさん
正しい対処法
①自分を最初に見つけた子供と手を繋ぐ
②手を繋いだまま出口を探す
③外に出ると子供は自然と消える
④命のありがたみを噛みしめる
393:名無しさん
>>392
④w、まあそうなるよな
394:名無しさん
>>392
こんなん絶対分からんやん
395:名無しさん
あ、あと注意点な
①自分を最初に見つけた子供
自分が、じゃなく自分を、だからな
396:名無しさん
>>395
こんなん…絶対分からんやん
397:名無しさん
草
398:名無しさん
じゃあ数も多いし、引き子が一番危ないのかな
399:名無しさん
………うん
400:名無しさん
………そうだね
401:名無しさん
…………………………その通りだよ!
402:名無しさん
ねえ、みんなほんと?ねえ、嘘ついてない?
403:名無しさん
嘘をつくなんてとんでもない!
404:名無しさん
嘘で草
405:名無しさん
謎の間w
406:名無しさん
えー、じゃあ、その〜
影飲みさんという方はいったいどういった方なんですか?
407:名無しさん
丁寧w
408:名無しさん
幽霊というより妖怪の類だよね、どっちかというと
409:名無しさん
まーそうね
410:名無しさん
影飲み
ひょろっとした棒人間の擬人化みたいなやつ。真っ黒で顔はない、人の体に染み込むように侵入、その後人体の穴から血しぶきのような黒い液体を撒き散らして出てくる。
411:名無しさん
確か生存者の話が元ってなってたよな、実際にそんな死体も出たとか
412:名無しさん
ちゃんとした情報源はないけどね、都市伝説なんてそんなもんだけど
413:名無しさん
た、対処法は?対処法は?
414:名無しさん
引き子と違って対処法はない。こっちは本当に逃げるしかない。
415:名無しさん
ルーツも分からないよな
引き子は子供で場所が病院だから、何かしら想像しやすいけど
416:名無しさん
対処法が無いぶんこっちの方がヤバイ
417:名無しさん
正直、引き子も知ってるからって、どうこうできるかというと…
418:名無しさん
どちらも出会ったら終わりや
419:名無しさん
なおダブルエンカウントするもよう
420:名無しさん
あーあれね
421:名無しさん
大学生4人組の死体、2体は真っ黒、2体は首無し。
422:名無しさん
そんなん難易度高すぎやろ
423:名無しさん
え?知らなかったの井田病院は難易度Bだぞ。最低でもBランクの冒険者じゃないと探索出来ない
424:名無しさん
前門の引き子、後門の影飲み
425:名無しさん
>>423
いつの間にかダンジョンになってて草
426:名無しさん
Bランク、そうBランクなんだよ。いつもは…
427:名無しさん
あっ
428:名無しさん
あっ
429:名無しさん
引き子、影飲み、あれ確かもう一人…
430:名無しさん
あっ
431:名無しさん
え?なに?まだ何かあるの?
432:名無しさん
宿り様(Sランク)
ロングコートを着た女性、常に雨で濡れたような格好をしていて、骨組みしか残っていない傘を差している。宿り様の周りは屋内でも雨が降る。
433:名無しさん
特性:あめふらし
434:名無しさん
かみなりが必中にw
435:名無しさん
ここまでだとあまりヤバそうじゃないけど、何がヤバイの?
436:名無しさん
目が合うと溺死
437:名無しさん
は?
438:名無しさん
目が合うと溺死
439:名無しさん
目が合うと溺れる
440:名無しさん
殺傷力高すぎ……えっと…逃げるとかは?
441:名無しさん
できるんじゃない
瞬間移動するらしいけど
442:名無しさん
くそぅ!、くそぅ!…
えっと…トリプルエンカウントって…
443:名無しさん
あ、それはない
宿り様がいるときは他のは出ないらしい
というか出てても逃げるらしい
444:名無しさん
引き子と影飲みが逃げるとか怖すぎだろ
ポツポツと雨が降る。
(冷たい…)
手はかじかむどころか既にほとんど感覚がない。
足を踏み出すと水溜りを歩く様に水音が響く。
(…なんでここにいるんだっけ?)
目が醒めると、いつもこの問いが浮かぶ、そしてそれに答えはない。
いつからいるのか?なんでいるのか?何がしたいのか?
自分の事が何も分からない。
骨組みしか残ってない傘を意味もなく差して、この廃墟を徘徊する。
理解しているのは自分が死んだであろう事くらい、勿論死因は知らない。
(私は地縛霊なのか?何か未練が?)
ここは恐らく廃病院、私以外にもいろいろと住み着いている。不思議とここから出る気にはならず、病院内を徘徊してるのが私の日常だ。
(今日も雨…)
上を見上げると病院の天井、所々に亀裂とヒビが入ってはいるものの、穴は空いてない。しかし雨粒が私に落ちてくる、そもそも外は晴れ、私が目を覚ました時から雨は止まない。どんなイジメだ、よくないと思うよ、こういうの。
昼夜関係なく降る雨、何故か差す壊れた傘、水滴を垂らす紺のロングコート、金色の目。これが私のディフォルトである。
金色の目は何かって?私も知らない、黒のセミロングで顔立ちも日本人、多分生前ではなく死んでからだろう。薄く光ってるし、夜鏡を見ると瞳が光ってるのがよく分かる。
おそらく、いわくつきの廃病院なんだろう。そう思うほどにここには霊的類が徘徊している。病院由来の霊、その霊に殺された者の霊。生きた人間に見えるのはその中でも僅かで、子供達と黒いくねくね。私はそう呼んでいる。
世間では有名な心霊スポットなのだろう。よく人が訪れる、特に学生が多い。肝試し感覚で入って来るんだろうが、生きて帰れるかは半々だ。
生存率がこれほど低い心霊スポットなんて、滅多にないはずなのに何故世間で認知されていないのかが謎だ。呪い、幽霊の類は半信半疑だというのは分かるが、これだけ死んでれば気づいてもいいと思うんだが。
(死体が残らない時もあるから、そういうもんなのかもしれないけど)
かくいう私も人を殺している。静かな空間に遊び半分で入ってきて大声で騒ぎ立てた輩がいた。今思えば、怖さを紛らわすために、わざわざ大きな声を出していたのだろう。
最初はいつもの事と放っておいたが、30分も騒ぎ続けるので、脅すつもりで彼らの前に姿を見せて、殺気を込めたつもりで目を合わせる。彼らは私を見て固まったかと思うと、目を合わせた1人が首を抑えてもがき始めた、すぐに口から水を吐き出し倒れると動かなくなった。
3人いるうちの1人が、そんな死に方をしたものだから、残りの2人はさっきまでとは比べものにならない、ガチの絶叫を上げながら逃げていった。
正直、自分でも何が起こったか分からなかった。倒れたのも気絶だと思ってたら死んでた。
(まさか、あんなんで死ぬとは思わなかったよね)
「はぁ〜、なんでここにいるのかなー、私」
「
たまには夏らしいイベントもいいと思うよ、と笑顔で言ってくる沙耶。
「そうですか、心霊スポット探索にかこつけて、森田君を呼びたかっただけだと思ってたんですが。違うんですね?」
「あ、あ、あ、ち、違います〜。人数合わせで呼んだだけです〜」
目を逸らして慌てて言い訳する沙耶に、再び溜め息が出そうになる。
(隠す気があるのか無いのか。ま、わかってだけどね)
「舞も付き合わなくても良かったのに」
「あ、いや、結構こういうの興味あって…せっかく誘ってもらったから…」
正直意外だ、普段から大人しいイメージの舞が、こんな事に参加するなんて。
女子3人でそうこうしていると男子組が到着する。
「すまん、遅れた」
「こんばんは」
廃病院の荒れ放題の駐車場に、自転車を止めるとそのまま入り口を目指す。
「お〜雰囲気あるね。流石にここまでくるのは初めてだし」
「じゃあ、ここまででいいんじゃない」
「おやおや〜そんなこと言って、さては怖いのかな〜」
沙耶が無性にウザい、森田君がいるから調子にのってる感もある。
「別にそんなことはないけどさー」
ちょっと嘘、実は少し怖い。昼間少し離れたところから見る廃病院も、それなりに不気味だが、それでもその程度で、日常的に通る道の片隅に移る風景の一部、見慣れたものだ。
しかし、夜の時間、入り口近くまで来るのは初めてだ。
「結構、雰囲気あるな、見た目は噂になるくらいにはヤバそうだ」
「森田も怖いの?」
「別にそんなことはないって、ただ雰囲気がなって話」
「はははっ、悠里と同じこと言ってる」
沙耶が言うと森田君は苦い顔をして顔を逸らした。
「で?入れるの?」
「多分」
鉄格子の門まで来ると、簡易的に施錠されているロックを外し扉を引く。
甲高い金属音を鳴らしながら、意外と簡単に扉は開く。
「よし、行こうか」
ひと1人簡単に通れるまで開くと1人ずつ門を抜ける。門を抜ければすぐにガラス張りの正面玄関の扉の前に。
「うわ、怖っ」
沙耶が玄関の外から懐中電灯で中を窺う。中は荒れ放題というわけではないが、管理する人間がいない以上、綺麗というわけにはいかない。何より想像以上に不気味だ。
「行くの?」
「え、やっぱりこわ「怖いですー、認めますー。…それに不気味は不気味なんだけど、それ以上に変な感じするし」
沙耶がまたからかってきそうだったから、上から重ねて言う。そう怖いのだ普通に、それも雰囲気が不気味というだけではない、気のせいかもしれないが嫌な感じがする。
「せっかくここまで来たんだから、ちょっと見ていこうぜ」
そう言ったのは今まであまり口を開かなかった石川君だ。
「少し入って坂井さんが調子悪いようだったら帰ろう、最悪3人だけで行ってもらって俺が坂井さんを家まで送るよ」
うん、嫌だ。石川君的には一応善意なのだろうが、私としてはあんまり良くない。流石に襲われるという事はないだろうが、仮にも振った相手に家の場所も知られたくない。
「大丈夫、別に調子が悪いわけじゃないから、ほらさっさと探索して帰ろう」
少しの沈黙の後、私がそう切り出す。
中に入ってみると、空気が淀んでいるとか、霊的な何かを感じるとかそういうのは特になかった。
(確かに怖い雰囲気だけど、気持ち悪いとかは無いかな、入る前のはちょっと雰囲気に飲まれただけかな)
入ってみたものの特に何も無く、ただ単純にびびっていたと気づき逆に恥ずかしくなった。
「総合病院だけあって広いね、どうする取り敢えず上行く?」
そう言って沙耶は私のことを見る、さっきあんな事を言った手前、気を使ってくれてるんだろう。なんだかんだ言って優しい友人だと思う。
「あ、私は大丈夫だよ、さっきのは気のせいだったみたい。気持ち悪いとか無いし」
「そう、良かった。じゃあ行くよ」
そう言う沙耶を先頭に、私達5人はぞろぞろと移動する。
二階に行く途中、舞がこの病院に出る幽霊を聞いてきたので、沙耶が有名どころを説明しながら進んだ。私も全く知らなかったから黙って聞いていた。
なかなかにぶっ飛んだ話が多く、都市伝説だから楽しめる話で、現実味がないなと言うのが私の感想だ。そんな話を聞くと余計に恐怖感は和らいだ。
二階に着くと、廊下から反対の突き当たりまで目を凝らす、流石に暗くてよく分からないが、完全に暗いと言うわけでもない。所々から月の光が差し込んでいる。
一通り沙耶の怪異話が終わったところで、舞がぽつりと呟いた。
「さ、櫻井さん……さっきの子供の話なんでしたっけ…?」
「子供?ああ、引き子の事?」
「あの…あれって……なんですかね」
そう言って舞が4つ先の病室の辺りを指差した。その声は震えていたと思う。
その辺りに目を凝らして、
身の毛がよだつのがはっきりと分かった。
ナニかが覗いている。
そんな風に見えた。直後沙耶の懐中電灯が照らした事で確信に変わった。
子供が顔を覗かせていた。
「ひぃっ…あ…ああ」
隣から舞の小さな悲鳴が聞こえた。頭が一瞬機能を停止したように動かなくなった。
(ナニ……あれ)
何故か自分の中で結論が出ていた。出会ってしまった以上、おしまいなんだと。今から逃げてもどうせ助からない、そんな考えが浮かび、逃げる事を諦めていた。
5人が固まっていると、誰かが叫んだ。
「に、逃げるぞ!早く逃げるぞ!階段を下りろぉ!」
言われてすぐ階段を降り始める。降りてる途中で叫んだのが石川君だというのに気づいた。
階段を跳び下りるように下り、廊下に出たら正面玄関のある、受付近くの待合室を目指して走る。
早く外に。その一心で走って…ふと、おかしいことに気づく。待合室がない、いや違う一階じゃないここは二階だ。二階から階段で下りたのにまだ二階にいる。
「一階じゃない、下りたのに二階にいる。……あれ…さっきの、三階だっけ?」
弱々しい私の言葉を聞いて、みんなも周りを確認しだす。既にみんな焦りと恐怖が顔に張り付いてる。
私達は急いで戻り、もう一度階段を下りる。私は下りる前に階段前の壁に表記されている2Fという文字を確認する。
(二階、ここが二階で…)
「あ…ああ…」
下りた先の壁にはさっきと同じ2Fの文字。しかも文字の傷やかすれ具合も全く同じだった。
「下りてない…下りてないよ…どうし…う」
沙耶が既に半泣きの状態だ。
森田君が沙耶から懐中電灯を取り、前後の廊下を照らす。
「櫻井、どうすればいい?確かさっき話してた子供の奴だろ。どうすれば助かる?」
森田君が前後を確認しながら、沙耶にさっきの子供の霊の対処法を聞く。
「え…えと、ひ、引き子は私達を最初に、み、見つけた子と手を繋ぐ。その子と出口を探す」
「最初の子供って、…でも」
いない、既にさっき私達を見ていた子供はいない。見た瞬間に逃げ出してしまったせいで、どこにいるのかも分からない。
「これさっきの子供がやってるの?」
「そうだろ、多分。俺たちを逃す気は無いんだろ」
「あ!」
懐中電灯の明かりが照らす先に子供が2人、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
慌てて階段で下に逃げるも下りた先は同じ二階。子供との距離は変わらずゆっくりと縮まる。
「上に逃げよう…」
本当は行きたくない三階に上がったが最後、二階にすら下りられなくなるかもしれない。みんなそんな風に考えてるんだ、それでもこのままじゃ引き子に捕まる。
意を決して三階を目指す、石川君を先頭に後ろは森田君が引き子を警戒しながら上る、上りきり廊下に顔を突き出して左右を確認している石川君。
「三階は大丈夫そうだ」
そう言って少しだけほっとしている石川君だが、私の顔は恐怖で歪んでいたと思う。
それはまるで子供が粘土工作で作るような、真っ黒でひょろっとした手が石川君の頭上から伸びてきていた。