再起ッ!諦めの悪い二人   作:マスターBT

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とりあえず、イメージが強固に出てるところは投稿。


スカウトの日

 秋川との話の後、実務的な話に内容は移り、いつまで経っても青筋を浮かべたままのたづなから説明を受けながら、俺は本日付けで中央トレセン所属のトレーナーとなった。

 

「……はい。不備はありません。よろしくお願いします中村トレーナー」

 

「おう。で、早速なんだが駿川、未だ専属のトレーナーが居ないウマ娘の写真を纏めたのはあるか?無いなら、どれくらいで用意できる?」

 

「一応ありますが、何に使うつもりですか?」

 

 書類を纏めていた駿川が俺を見る。その表情は疑念があるとかそういう訳ではなく、自分の中で予想しているのが合っているかどうか確かめたいという感じだ。一々、口に出すの面倒臭いんだが。あれか?一応、秘書って立場だから言質は取っておきたいとかそういうのか?

 

「やましい事に使うとでも?時間が無いんだ早くしろ。一週間後が専属のトレーナーを決める選抜レースだろうが。トレーナーは肩書きだけあっても意味がねぇ。担当するウマ娘居てこそだろ。目星を付けるにしろ何にしろ今から、俺が一から調べてたら時間が足りねぇ。まぁ、こればっかりは酒飲んだ暮れて、届いてた書類とか見てなかった俺が悪いが」

 

 本当はトレセン学園が始業すると同じぐらいに来る予定だったのだが、見事に底辺生活してた俺は招待状の書類を全く見てなかった。秋川から直接連絡が来なきゃ、此処に居なかっただろうな。

 俺がそう言うと分かりましたと言って、一度部屋を出てすぐに駿川が戻ってくる。その手には紙束がある事から俺の目当ての物を持ってきてくれたのだろう。予想通り、机の上に置かれた書類は未だ専属のトレーナーがいないウマ娘達の顔写真と、参考になる模擬レースの記録、血統が記されていた。

 

「助かる。これだけでも十分時間を節約できる。んじゃ、俺は行くぞ」

 

「待ってください」

 

 紙束を取り立ち上がった俺を駿川は呼び止める。なんだ、時間が無いと言っただろうに。振り返ると、駿川は俺を真っ直ぐと見る。秋川と同じ、ウマ娘達の未来を祈っている者特有の澄んだ綺麗な目だ。

 

「……未来ある子達を、どうかお願いしますね」

 

 これからトレーナーになる者達には皆、同じ事を言っているのだろうか。それにしちゃあ、随分と覚悟を問う雰囲気で言ってくれるじゃねぇか。これだから、あいつと一緒に同じ景色を追い求めている奴は。その目を真っ直ぐ見ながら宣言する。

 

「任せろ。もう二度とあんな間違いはしねぇよ、だから心配すんなたづな」

 

「名前呼びは聞かなかった事にします中村トレーナー……おかえりなさい、期待してますよ」

 

「公私混同も大概にしろよ?まっ、お互い様か。んじゃ、今度こそ行くからな」

 

 今度は呼び止められる事はなく、部屋を出れる。秋川も、たづなも変わってねぇなぁ、あの日からずっと夢に向かって真っ直ぐ突き進んでやがる。……諦めようとしてた俺がバ鹿みたいだな。

 

『お前らがウマ娘の、先を走るってなら俺は隣を走ってやるよ。組織運営とか柄じゃねぇしな』

 

「……今からでも遅くねぇよな」

 

 そうと決めれば思い出に浸ってる訳にはいかねぇ。早速、用意してるって言うトレーナー寮の自室に行くとしよう。

 

 

 

〜一週間後〜

 

 渡された紙束に記録されてた計60人弱のウマ娘達の情報に全て目を通し、血統がある者はその親のレース記録を見て、確認できるデータから予測できるそれぞれの育成論を軽く纏め上げ、選抜レースが行われる場所に来ていた。一番、見晴らしが良くレース全体がよく見えるベストポジションを確保できただろう。始まるまでの時間暇潰しとして、手元にある書類をパラパラと捲る。

 

 今のところ一番、気になるウマ娘は、グラスワンダーだ。アメリカ生まれの帰国子女であり、天性の素質は素晴ら──

 

「おーっほっほっほ!」

 

「あ?」

 

 喧しい高笑いが俺の思考を断ち切る。なんだ、一体?顔をあげた先には、いかにもプライドが高そうなお嬢様が、集まったトレーナー達に自己アピールをしていた。あいつは、確かキングヘイローか。良家のお嬢様だったな。

 

「みんな、その目に焼きつけなさい!一流のウマ娘、キングの走りをねっ!」

 

 書類を捲りキングヘイローのページに視線を落とす。俺が彼女に下した評価は、A、B、C中のBだ。才能はまぁ、中央トレセンに来れているのだから、ある方だが、それでも他に比べれば見劣りしていた。突出したものが無いのだ彼女には。突出した武器が無いというのは、勝負の世界で最も扱い辛く、何か一つでも間違えれば勝ちから最も程遠い存在に成り果てる。新人では荷が重く、中堅には難易度が高く、ベテランはそもそも選ばない。そんなウマ娘だろう。

 

「……あれだけの宣言をしておきながら、沈んでるじゃねぇか」

 

 一流とはなんだったのか。位置取り見事にを見誤り、完全に前を塞がれ苦しそうに前を向きながら走るキングヘイロー。今、彼女と共に走っているウマ娘は軒並み、彼女と同等かそれ以下の者達だ。それであそこまで乱されている様では、目に焼き付けるレースでもなんでも無い。

 

「うーん、キングヘイロー、前に前に行こうとはしてますが、余り上手く位置取り出来ていませんね」

 

「一流一流と豪語していたが、さほど器用な子では無いみたいだな。その割には気ばかり急いでいるというか……高すぎるプライドが枷になっている、という印象だな」

 

 周りのトレーナー達の話し声が聞こえて来る。高すぎるプライドね……確かにそれもあるだろうが、あれはどっちかと言うと、敗北への焦り?いや、違うな。余裕がないと表現するのが正しいだろう。この選抜レースの勝ち負けじゃないそのもっと先を見ているが故に、満足に走れない程度の自分への焦り。

 

「おおっ、こりゃ凄い!!一気に追い上げてきたぞ……!!なんだ、地力はちゃんとあるじゃないか」

 

 先頭がスパートをかけた事によって漸くスパートをかけた様だが、アレじゃ遅い。完全に自分のペースに乗ったまま走ってた先頭には、追いつけない。俺の予想通り、彼女は素晴らしい末脚を魅せたが先頭には追いつけず2着でレースを終えた。あれだけレース前に一流を豪語したのだ、今頃残念な結果に──

 

「……おーっほっほっほ!次こそはトップを譲らないわ!覚悟しておきなさい、キングの走りはこの程度じゃないんだから!!」

 

 一切下を向く事なく、レース前と変わらずに集まったトレーナー達に己を誇示している。

 

「……おいおい、あの走りを見せて未だあの態度が出来るのか?」

 

 既にキングヘイローというウマ娘を見限ったと思われるベテラントレーナーが決して小さくない声で呟いた。耳を澄ませば同じ様な事を言っているトレーナーはちらほらと居た。当然、その言葉が耳に入るキングヘイロー。一瞬、悲しそうな顔をしたがすぐに前を向き、より偉そうに己の名を宣言する。

 

「そうよ!私に注目しなさい!!そして、しっかり覚えておくと良いわ!!私はキングヘイロー、一流のウマ娘よ!!」

 

 決して俯かない。決して下を向かない。徹底して、キングヘイローというウマ娘は前を向いていた。思えば、レース中もあいつは下を見なかった。思い通りに行かず、自分で宣言した言葉が重みとして乗っていただろうに。

 

「クッ……アーッハハハハハ!!」

 

「な、なによ!」

 

 溢れて来る笑みが我慢できなかった。あぁ、やっぱりトレーナー業から離れてたから、盲目してしまったよ。他のウマ娘に比べて見劣りする?突出した勝負する武器が無い?あるじゃないか!!十分過ぎる武器が!!十分過ぎるほどの輝きが!!

 

「お前、名前は!」

 

「はぁ!?これほど聞いて未だ覚えられないの?私はキングヘイロー!い「あぁ、一流のだろ?」ッ!?」

 

 手に持っていた書類をぶち撒けながら立ち上がり、キングヘイローの元へと駆け寄る。

 

「レースの位置取りは下手!自分の武器を活かすのも下手!挙句、レースの展開は全く見れてねぇ!!」

 

「なんなの!?わざわざ、私を貶しに来たの貴方!?」

 

 真っ直ぐ俺を睨み付けるキングヘイロー。俺の風貌に一切、怯む気配無し。益々気に入った。

 

「いいや、スカウトしに来た!さっき挙げた内容は、これから俺が上手く出来る様に叩き込んでやる。息を吸う様に、その身体を使って走る様に当たり前に出来るまで叩き込んでやる。だが、そんなもんはどうでも良い!俺は、お前のその根性だ。バ鹿の一つ覚えの様に一流ってやつを諦めようとしないその根性が気に入った!」

 

 この諦めの悪さ、それがキングヘイローの最大にして最強の武器だ。レース直後に下を向かないなんて誰でも出来る行動じゃねぇ。しかも、それをデビュー前のウマ娘が実行できている。はっ、鍛え甲斐のあるウマ娘だ。

 

「……それで?貴方は、一流である私に釣り合うと思ってる訳?言っとくけど、私は一流のトレーナーしか求めてないわ」

 

 俺の勢いに呑まれていたキングヘイローの雰囲気が変わった。俺を見定めようとする一人の王が其処には立っていた。あぁ……お前はどこまで俺を惹き付ければ気が済むんだ?

 目の前の王の様に俺も、視線を落とさずキングヘイローの目を見続ける。この王に自らの価値を見出させる為に。

 

「一流のトレーナーかどうかはお前が決めろキングヘイロー。一流を自称するお前を俺はこのレースで、一流に足るウマ娘だと見出した。そして、俺自身はそんなお前に足るトレーナーだと判断して、ここに立っている。さぁ、決めろキングヘイロー!!俺は一流か否か」

 

 言いながら俺自身、無茶苦茶な事を言っている自覚がある。トレーナーになると決まってから、一口も飲んでない筈なのにまるで酒に酔ってるみたいだ。そんな俺を避ける事なく、上から下までマジマジと見るキングヘイロー。

 

「……それ、ほとんど自分から一流だって言ってるの気がついてる?えぇ、でも言ってあげるわ!貴方がこのキングにそれを望んでいるのなら、ここで宣言してあげる。貴方は私に足る一流のトレーナーよ!この言葉、刻み込みなさい!!おーっほっほっほ!!!!!!」

 

 髪をかき上げながら彼女は俺を一流とこの場にいる全てのウマ娘、全てのトレーナーに聞こえるように宣言した。

 

 こうして、俺はキングヘイローと専属契約を結ぶ事になる。なお、この後模擬レースを中断したとして、俺とキングヘイローはたづなに怒られる事となった。やっぱり、睡眠時間を削り過ぎるとテンションがおかしくなるな……

 




中村トレーナーは、この選抜レースのために三徹した後、六時間寝て、それ以降一日、二時間ずつぐらいしか寝てません。なので、作中テンション壊れ気味でしたね。

さて、時間投稿はいつかな。
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