「ー世界は平凡か?
ーー未来は退屈か?
ーーー人生は適当か?
安心しろ、それでも、
ーー生きることは劇的だ」
そんな言葉を謳って魅せたのは、黒神めだかと呼ばれる少女だった。
世界有数の天才が集まるとされるこの箱庭学園において、生徒会総選挙で支持率脅威の98%を誇った彼女は、演説の壇上でそう宣った。
すなわち、24時間365日、誰からのどんな依頼であれ、目安箱に投函された悩みの投書はすべて解決してみせる、と。
「…あほくさ」
そんな演説を聞いていた私こと、『飯塚 雅』は、そう悪態をついた。
「【っ、っ、っ、】」
そんな折、隣で声を殺して笑う男の姿が目に入る。
「…なに?」
「【いやいや、ウケる、と思って、あほくさ、か、うん、状況に即したいい言葉だ、当意即妙とはこのことだな】」
独特の喋り方をするこの男の名は『桂川 芳』。
8月5日生まれ、しし座、AB型、右利き。
私のクラスメイトだ。
「【いやはやしかし、あほくさいと言いながらも彼女を支持した98%の内1人はアンタじゃないのかい?】」
「…誰でもいいんだよ、生徒会長なんて、何せ私達は入学したてで、誰が誰かもわからない状態なのだから」
「【ウケる】」
なにがウケるというのだ。
とはいえ、誰が誰かもわからない、というのは些か言いすぎたか。
私はこの学園に通う生徒の中でも割と少ない地元民だ、有名所は抑えている。
鍋島県卑怯村と呼ばれる反則王の名を持つ3年の 『鍋島 猫美』。
己を王と信じて疑わない3年の『都城 王度』。
世界最強と噂される柔道界のプリンス、2年の 『阿久根 高貴』。
そして、箱庭学園理事長 『不知火半纏』とその孫娘の1年 『不知火 半袖』。
その他多数。
かなりの数の有名人が、この学園に通っていた。
「【しかしなんだ、これだけ見れば確かに粒ぞろいだが、アンタも負けてないだろ?<不敗王>の『飯塚 雅』】」
「やめろ、私は別に不敗王なんて名乗ったことは無い」
中学時代、すこしやんちゃをしていただけだ。
嫌なことを思い出させるな。
「やんちゃって、面白いこと言うね、噂は聞いてるよ?たった1人で50人体制の暴走族をノシたとか」
桂川とは反対隣から、そんな声が聞こえてきた。
『宮若 可奈』。
隣町に住む少女で、同じくクラスメイト。
「噂ってのは、尾ヒレが着くものだよ」
「じゃあ嘘なの?」
「…概ね本当」
「【概ね、ねぇ】」
桂川が含みのある言い方を放ったと同時に、生徒会長演説が終了。
各自解散となり、私は、いや、私達は自身のクラスである1年9組に移動することになった。
さて、ここでこの学園こシステムを、少しだけ紹介しようか。
箱庭学園、今年で99年の歴史を誇る長寿の学校。
日本各地の天才の集まる学校として名高く、その偏差値は脅威の80超え。
というのも、実は1部だけ。
それがクラス分けで判断出来る。
1組~9組までは普通の学級だと思ってくれていい。
ではその他のクラスは?
10組から12組までは特待生クラスと呼ばれ、運動、勉強、文化、人間の持つスキルのどれかが天才レベルに高い連中が集まっている。
そして1番問題なのが13組。
特待生の中でもさらに優秀、先に上げたすべてが天才的、または超人的なスキルを持つ人間が、このクラスに集まっている。
そしてなにより、13組の生徒はそもそも登校義務すらもないと言うほどの特別待遇だ。
1年から3年まで、13組生は学校にすら来ていない。
ーーただ1人を除いて。
まぁ、その1人、というのが、生徒会長に就任した黒神めだかその人なのだけれど。
黒神めだか。
1年13組。
AB型、両利き。
好きな物、人吉 善吉(だれだ)。
日本屈指の黒神グループの令嬢にして箱庭学園の入学試験を全問正解でパスした超天才児。
『私は私以外の人間全ての為に生まれてきた』と豪語する少女。
「【まぁ、普通に考えて異常者だよな、アレは】」
桂川がそんなことを言いながら私に近寄ってきた、なんで近づいて来るんだ、惚れたのか?
「【ウケる、惚れたのかどうかはともかくとして、黒神めだかの話をしよう、俺はお喋りなんだ、話をしたい】」
「私以外の奴と話せばいいだろ」
「【そういうなよ飯塚、美少女と話せる機会なんざそうそうないんだ、どうせならお近づきになりたいと思うのは男の性だぜ?】」
「…美少女なら他にいるだろ、私よりレベル高いやつがそこら中に」
「【自身が美少女だと否定しないところが面白いのさ】」
よくわからん、私は他より優れているとは思ったことがないが、他より劣っているとも思ったことがない。
良くも悪くも、と言うやつだ。
美少女という話をするなら、さっきの宮若だって、かなりの美少女だった。
「【タイプが違うのさ、飯塚は可愛い系、宮若は綺麗系だ】」
「よくわかんないな」
「【わからなくていいさ、俺が知っている、それだけでいい、ところで黒神めだかの話だが】」
黒神黒神うるさいなコイツは。
そんなに黒神が好きなら黒神と話してこい。
「【いや、それはもう既に終えているよ、もちろん、コテンパンに追い返されたが】」
「…」
既にアプローチを掛けていた。
しかも追い返されていた。
なんだコイツ、残念すぎるだろ。
私は桂川の話を聞き流しながら、ため息を1つ。
夕焼けに染まる空を眺めていた。