世界渡りの鬼から始まった、あり得ない可能性のお話 作:り け ん
キャラ崩壊に特注意。
「ああ!? そりゃどういう意味だってんだ!? 蝶の妹!」
胡座をかき、拳で床を打つ一人の鬼滅隊士は…目の前の女性隊士に憤りをぶつけていた。それは、その女性隊士の指示に到底、納得がいかなかったからだ。
「消息を絶った隊士は、死亡したものと見做す…鬼殺隊の掟よ。あなた達には既に鴉から指令が降っている。今、禰豆子さん達を探しに行くことは許しません」
この屋敷の主人になった
「…ふざけんな! 俺は、ネズ公を……」
「やめろ、伊之助」
激昂直前の伊之助を手で制止したのは、隣に座していたもう一人の隊士。
好奇の目で見られたことも幾度もあるその金髪を揺らしながら、端的に伊之助を止める。
「しのぶさんの言う通りだ。俺たちがすべきことは、禰豆子達を探すことじゃない。鬼を…狩ることだ」
「なっ…! 黄色! てめえまで…!」
「ただし…」
伊之助を制止しながらも…彼の眼は、未だ微かな鋭さを持って目前の胡蝶しのぶを見据えている。
「仮にも隊士一人が行方を絶ち、鬼との戦闘情報も鴉から来ているんでしょう? 俺たちが行かずとも……誰か、向かわせるべきではないんですか?」
「…善逸さんの、言う通りね」
隊士、我妻善逸の言葉を肯定した胡蝶しのぶは…そのまま、言葉を続ける。
「だから、既に向かっているわ。先日、選抜試験に合格したばかりの隊士が二名、ね」
「ああ!? そりゃ隊士になったばかりの新人じゃねえか! んな奴らに、ネズ公を任せられる訳ねえだろうが!」
「…”そんな奴ら”……ねえ」
吠える伊之助に対し、しのぶは意味深な笑みを微かに浮かべながら伊之助に語りかける。
「その言い方は、ちょっと可哀想じゃない? あなたが一ヶ月の間…手塩にかけて育てた、大事な
「……ああ?」
その言葉を聞いた瞬間、伊之助の怒気が一気に萎んだ。一瞬、顔を顰めた後…伊之助はしのぶに詰め寄った。
「なんだよ!? そんなら先に言えっての! ったく、俺の子分共がやっと動いたってわけかよ!」
「…は? 育てた? 弟子? ……なんのことです?」
伊之助としのぶの間で交わされる言葉の内容が全く理解できない善逸は、伊之助よりもしのぶに事情を聞くことにした。
しのぶは微かに笑みを浮かべながら、その疑問に言葉を返す。同じ疑問で。
「善逸さん。伊之助さんが一ヶ月ほど…屋敷に戻らなかった時期を覚えていますか?」
「…ただ、長期間の任務でもやってるのかと思ってましたけど……」
「いいえ。伊之助さんにはその間…ある二人の隊士を任せていたのよ。正確には、一人はまだ隊士ではなかったけれども。簡単に言えば…一ヶ月の間、伊之助さんには一時的な”育手”として二人に修行をつけてもらってたのよ」
「…え? 伊之助が…育手? 一時的な……って、いや、なんで、伊之助が?」
思わず正座を崩した善逸は隣の伊之助を指差して更なる疑問を呈する。伊之助はちょっと暴れん坊な所はあるが、単なる一隊士であるはずだ。なぜ、そんな彼が育手なんぞに?
「フン! 俺ぁ人にどうこう教えるよりも、より強え鬼を一匹でも斬りたかったんだがな! どーしても俺の子分になりてえと言うなら、仕方ねえわな!」
「…善逸さん、伊之助さんの呼吸の名前を知ってますか?」
伊之助が何やら得意げにフンスカしているが、しのぶは無視したまま…更に次の質問を善逸に投げかける。
「なんか、
「そう…獣の呼吸。全鬼殺隊の中で唯一、伊之助さんのみが使える呼吸。その呼吸法を…伊之助さんは誰に習ってでもなく…”独学”で体得したことは、知ってた?」
「………へ? 呼吸を……独学!?」
善逸は思わず頓狂な声を出して、隣で未だフンスカしている伊之助を横目で見る。なんだかますます得意気になっている様子であるが、善逸にとっては寝耳に水な事実である。確かに、この伊之助にモノを教える師匠というのもなかなか想像がつかないが…かと言って、師も持たずに呼吸を身につけたとは…。
「鬼殺隊の、始まりの呼吸の剣士たちに匹敵する才能…お館様は、そこに目をつけられた。独自に呼吸を身につけたその才が、他の隊士への助けになると。そして、そんな伊之助さんへの弟子入りに…二人の人間が候補に上がったわ」
「選抜試験を突破したものの…彼自身、呼吸が使えず…実力の不足を実感して苦しんでいた隊士」
「いくら修行しても、日輪刀の色が変わらず…自身の剣才に葛藤していた
「その二人が伊之助さんの元で山に篭って一ヶ月の修行。そして伊之助さんが放任してからも更に一ヶ月、独自に修行を積んだ後…最終選別試験を受けて、無事合格したわ」
「そして今日…禰豆子さんが鬼との戦闘で失踪した場所の調査としての初任務に今…向かっているところなのよ」
「グワハハハ!! まあ、俺様がみっちり鍛えた子分共なら、ネズ公を任せといてやってもいいだろうぜ! よーし! そうと決まれば俺らは俺らの鬼狩りをするぞ黄色! グズグズすんなよ!」
「頑張って、いってらっしゃい」
隣で急に立ち上がった伊之助に首根っこを掴まれて引きづられていく善逸。部屋から離れていくにつれて遠くなっていくしのぶの姿を見ながら「調子のいいやつ…」と自身を引っ張る伊之助の変わりように心の中で呆れていた。
同時に…我妻善逸は、鬼との戦いの末に姿を消した少女のことを…あの時の会話を、想う。
──禰豆子……俺は……ずっと、嘘つきなんだ。自分の心も、本当の思いも…全部、隠して…他人も、自分すらも……騙し続けていたんだ。…アイツとの、約束があるから。
──善逸さん…………なら、私の前だけでも…そのままのあなたでいて。ずっとじゃなくていいの。隠していることが、怖いのなら…疲れるのなら。ありのままの姿で休むこともきっと、必要だと思うから。
(もし……この世界に禰豆子ちゃんがいなのなら…)
(俺は、どこで休めば…いいのかな……)
こっちの外伝も書きたい気はしています。