ラノア王国に着いた俺達はまず推薦状をくれたジーナスという人物に会いに行くことにした。
ラノア魔法大学から推薦状が届いたのは少し前のこと。
アルスとクリスが産まれ、この子達のためにもう一度本気で生きることを決めた俺はエリナリーゼからの進めもあり、この学校に通うことにした。
冒険者を続けること、ゼニス救出を手伝いに行くこと、そして学校に通うことをそれぞれ天秤にかけたときに『赤子二人を背負った人間』にできることは一つだけだった。
推薦状が届く少し前くらいから、ゾルダート達に手助けして貰うことも多くなり、衣食住に不安が出てきていたところだったのだ。
周囲の人間に話を聞くと制服があり、学生寮があり、食堂もあり、成績に応じて学費を免除してもらえ、周囲のギルドで働くことも許可されている。
正直言って、受けないという選択肢はなかった。
///
魔法大学に着いた俺達は、周囲の人間に道を訪ねながら何とか目的の場所にたどり着いた。
応接室に通された俺達はアルスとクリスをあやしながらジーナスを待った。
一時間ほどで現れたジーナスは俺を見るなり驚いたように目を見開き、ハッとしたように頭を下げた。
「お待たせしました。教頭のジーナスです」
「ルディア・グレイラットです。推薦の件についてお伺いに参りました。こちらは、パーティメンバーのエリナリーゼ・ドラゴンロード。私を手助けしてくれている人です」
エリナリーゼは俺に着いてくると同時に若い男を漁りたいと言っていたが、俺の補佐にすれば免除があるのではないかということでそういうことになっている。
「では、大学に在籍していただけるのですね?」
「はい。ただ、見ての通りの子連れなのでいくつか手助けをしていただけると助かるのですが」
「その程度でしたら。そうですね、元々お二人合わせて一人分の学費のつもりでしたがどうでしょうか?」
詳しく話を聞くと、有名な魔術師が通うということに意味があるらしく、ある種の広告費のようなものらしい。
そのため、特別生は基本的に学費が必要ない。
子供のために学生寮ではなく、大きめな研究室を一室もらえることになったのも非常に助かる。
お互いに条件を擦り合わせたのちにジーナスは言った。
「それで、申し訳ないのですがちょっとした試験を行ってもよろしいでしょうか?」
「……構いませんが、筆記ですか?」
「いえ、噂通りの実力かどうか見せていただきたくて」
///
ジーナスに連れられて訓練室にやってきていた。
「ゲータ先生!シルフィさんをお借りしてもよろしいですか!?」
しばらくして、白髪のキレイな女の子が出てきた。
大きめのサングラスが少し浮いているが、全体の印象が清楚というか、可憐というか、俺とは違って美少女らしい美少女だった。
その少女は俺を見るなりとても驚き、そしてアルス達を指差した。
「そ、その子達は?」
「あ、はい。私の子供です。可愛いでしょう?」
まあ、父親はいませんが。という俺の言葉に少女は顔を背けた。
怒ってくれているのか。
泣いてくれているのか。
笑っているわけではないと思いたい。
まあ、この子達に罪はなく、俺の大切な家族なのだから同情されることもないのだけれど。
俺は模擬戦の用意として、エリナリーゼに二人を預ける。
頭を軽く撫でてやるとニコニコと笑う二人は俺の癒しだ。
ついでにジーナス先生にお話が。
「あの一つ条件を追加してもいいですか?」
「はい。私が飲み込めるようなものであればですが」
「私が彼女を圧倒したら、私の仲間の学費を半額に免除してもらえませんか?いかんせん金欠でして」
「……しっかりと研究をしてくださるなら許可しましょう」
「そのくらいお安いご用です」
これで勝てば俺が無料でエリナリーゼが半額で入学できる。
お金は節約できるときに節約した方がいい。
今後何が起こるかもわからないんだから。
「それじゃあ、よろしくお願いします。今度入学するルディア・グレイラットです」
「……シルフィです。よろしく」
ジーナス先生が魔法用の壁を作ってくれたところで俺達は向き合って構えた。
シルフィ先輩は杖を、俺は素手を構えた。
当たり前だが杖がある方が強い。
だから、俺は何も持たなかった。
先ほどジーナスとの約束のためだ。
どうせなら完璧に圧倒したい。
今から行うのは魔術の撃ち合い。
そこら辺の無詠唱を使えるだけの学生に負けるわけにはいかない。
それに何より、子供達にカッコいいところをみせたいじゃないか!
「では、始め!」
ジーナスの掛け声と共にシルフィが魔術を撃ち出す。
俺は、それを見てから全く同じ魔術を打ち返した。
本来は有利になる魔術で相殺するところを俺は同じ魔術で打ち返した。
それは、端的に自分の方が格上だというアピールだ。
シルフィは少し驚いた顔をしたものの、すぐさま切り替えて他の魔術を撃ち出す。
俺はそれを相殺する。
撃ち出す。
相殺する。
それを何十回か繰り返しているうちに少しギャラリーが集まってきた。
……ふむ。聞こえる声からすると、このシルフィというのはこの学校の中でもかなり上位の実力者のようだ。
実際に撃ち合った感覚としても、あんな小さな初心者用の杖ではなく、『傲慢なる水龍王』のような杖を持っていれば撃ち負けていたかもしれない。
そのくらい俺との差は少なかった。
だか、あの杖ならまだ負けることはない。
圧倒すれば学費免除。
それがかかっている以上こちらとしては容赦できないのだ。
お互いに同じ魔法を撃ち続けること数十分。
周りが飽きて、少し焦れてきた時だった。
シルフィが手を上げた。
「……すみません。これ以上は仕事に差し支えが出るので終わりにしてもいいですか?」
「え、ええ。構いません。ありがとうございました」
シルフィはペコリと頭を下げたあと、ふと思い立ってアルス達の方にてを振った。
……いい人じゃないか。
俺はニッコリと笑ってシルフィに頭を下げた。
しかし、ジーナスは少し困ったように唸っていた。
「いや、間違いなく実力者なのはわかりましたが、何かもっと分かりやすい大きな魔術を使えませんか?」
「……と、言われましても」
そりゃ、大きな魔法も使えないわけではないが、室内で使うような魔法ではない。
それはジーナスもわかっているようだが、やはり他の教師や生徒を納得させるだけの説得力が欲しいのだろう。
そして、少し考えてから子供達の姿をした人形を作り出した。
「精密な魔力操作の証明にこんなものはどうでしょうか?」
「……素晴らしい。これなら周囲も納得させられるでしょう。それでは、これからよろしくお願いします」
こうして、俺は衣食住の安定に成功したのだった。