「エリオ兄。ルディ姉にバレる前に早く捨ててきなよ。どんな展開になっても最悪だよ?」
「わかってる。けど、放っておけないだろ」
ある日、仕事を終えた私が久しぶりに家に帰るとアイシャとエリオットが揉めている声が聞こえてきた。
私にバレるとマズイこと?
一瞬だけ浮気かと思ったが、あんなに反省したエリオットが今さら私に何か勘違いさせることをするとも思えない。
ならば、なんだろうか。
捨ててくるもの。
言い換えれば捨ててこれるものであるということだ。
…………もしかして、エッチなオモチャだろうか。
そういうものを持ってくるのはだいたいロキシーだったが、エリオットもそういったものに興味がないわけではない。
むしろ、興味は強い方と言える。
あまりにも過激なものを買ってきたがばっかりにアイシャが叱っているといったところだろうか。
私は呆れながら声のする地下室の方へ向かう。
「アイシャ。ただいま」
「ルディ姉!?帰ってたの!?」
アイシャに声をかけるとアイシャにしては珍しく明らかに焦ったようにそう返事をしてきた。
詳しく事情を聞くと、エリオットが拾ってきた猫が朝からうるさいと言うことだった。
……少し自分の妄想が恥ずかしくなった。
「ルディ姉。この件は私とエリオット兄で解決するから先にリビングに行って休んでて」
そう言ったアイシャは真摯にこちらを見つめている。
それは提案というよりは懇願と言った方が近い真剣さだった。
…………何か、隠している。
アイシャの行動は予測できないことも多いが、今回は流石に露骨すぎる。
何より、解決という言い方に引っ掛かりを感じた。
まるでそこには私にバレると新たな問題があるようではないか。
「……アイシャ。どいて」
私が少し不機嫌そうにそう言うと、アイシャは自分の失策を悟った。
そして、しばらく視線と思考を彷徨わせた結果として、「扉、壊さないでね」とだけ言い残して離れていった。
「……アイシャ?どうした?」
中から呑気なエリオットの声が聞こえてくる。
耳をすませば確かに猫の声も聞こえてくる。
「……ルディ?」
「そうだよ。今すぐそこを開けて」
エリオットはしばらく間をあけてから「ダメだ」と言った。
その言葉に私は一つ、大きく深呼吸をした。
ため息を吐くだけではなく、大きく息を吸って落ち着かせようとした。
そして、何とか落ち着かせた私はもう一度だけ言った。
「……開けて」
「…………話を聞いてくれるか?」
「…………私が怒ることじゃないんだよね?」
私の確認に「それは約束する」とはっきりと答えたエリオット。
彼は嘘が苦手だ。
ならば、私が怒ることではないのだろう。
それにしてはアイシャの反応が気になるが、私はエリオットにもう一度声をかけて扉を開けてもらった。
地下室に鎮座している、首輪を付けられた猫を見て、息を飲んだ。
立派な猫だった。
汚れてはいるものの、ピンと耳が立ち、尻尾もスラっとかっこいい。
それだけじゃない。
まず目に飛び込んできたのは、胸だ。
大きな胸。私と同じぐらいだろうか。
着ているのはボロで、かろうじて胸と腰だけを隠している状態。
活動的な筋肉のついた太ももが、日に焼けた健康的な肌が、惜しげもなくさらされている。
「ああっ!ボス、お久しぶりニャ!助かりますニャ!ご恩は一生忘れませんニャ!」
「頼むから黙っててくれ!ルディも!話を聞いてくれ!」
リニア・デドルディア。
俺の先輩で、数年前に学校を主席で卒業した獣族の女。
ああ、よく憶えている。
なるほど。
よし。
「こんの、泥棒猫!!!!」
私の魔法が地下室をメチャクチャにしたのは言うまでもないことだった。