大金がいる。
ルイジェルドと共に行かねば俺たちは死ぬし、不正な方法ではルイジェルドは共に来ないだろう。
そのためにはとてつもない大金がいる。
だが、それをゆっくり稼げるほどの時間はない。
「よし……売ろう」
口にすることで覚悟を決める。
ちょうど今夜はルイジェルドはいない。
護身用に杖を持った俺はこっそりと宿から出る。
「こんな夜更けにどこに行く?」
速攻でバレた。
「いえ、ちょっと眠れなくて」
「夜は危ない。ついていこう」
「たまには一人になりたくて」
沈黙。
ルイジェルドはじっと俺の目を見つめてくる。
ここで反らしちゃダメだ。
いったいどうしたんですか?とでも言うようにルイジェルドを見つめる。
「何をするつもりだ?」
「散歩ですけど」
「……もう一度言う、何をするつもりだ?」
……ダメか。
たぶん、真実を言ったらルイジェルドは俺のことを嫌いになる。
でも、俺にはこれしか思い浮かばなかった。
「……売ろうと思います」
「隠すな。全部言え」
ルイジェルドはきっと、全部わかってて聞いている。
それでも、言うわけにはいかない。
言えば絶対に止めてくるから。
「杖をー」
「隠すなと言っている!」
初めてルイジェルドに怒鳴られた。
怒鳴らせてしまった。
ルイジェルドは俺の肩を掴んでもう一度言った。
「何をするつもりだ」
「………………髪留めを、売ろうと思っています」
バカなことを。そんな言葉が頭上から聞こえてきた。
その言葉に、俺は瞬間的に頭に血がのぼった。
「じゃあ!どうすればいいんですか!お金は足りない!時間も足りない!人材も足らない!」
どうすればいいかなんてわからない。
だから、勢いに任せてこの数日考えていたことを全部吐き出した。
「杖を売れば値がつくかもしれません!その時は戦力が足らなくなります!売れるのはこの髪留めくらいです!」
魔眼をもらった時にキシリカから聞いて知ったが、この髪留めは魔大陸にはない種類の織り方でできた布を使用しており、こちらではかなり高く売れるという。
なんでもものすごく丈夫で十年は使えると言われているそうだ。
その縫い方が学べるという技術料と言えばそんじょそこらの鉱石より高く売れるらしい。
もう数年愛用しているため多少ほつれてきているが、それでもまだまだ現役の髪留めだ。
「俺は、例え追い詰められても、槍は手放さん」
「それは、息子さんの形見だからでしょう?」
「違う。戦士の魂だからだ」
俺はそれを鼻で笑う。
それで海が渡れるなら渡ってくれ。
そのあとを勝手についていくから。
「俺はまだ、お前の信頼を得ていないのか?」
「信頼はしていますよ」
「ならば、なぜ相談しない」
嫌われたくなかった。とは言えなかった。
お金については髪留めを売るだけで足りると思ってはいない。
とりあえず、髪留めを売り、元手を使ってルイジェルドに剣闘士で稼ぐのがいいだろう。
そうすれば、知名度もあがり収入のいい仕事をもらえるかもしれない。
今後、何をするにしても元手がいる。
その元手が髪留め一つで手に入るなら安すぎる交渉だ。
俺はそんな事前に何度も考えたことをルイジェルドに伝えた。
「……なぜ、髪留めを売る必要がある。密輸人という選択肢もあっただろう。お前から出た案だ。俺も渡るならそれが正解だろう。なぜ、髪留めを売る」
「……その密輸人との交渉にもきっとお金が必要になります。何より、密輸人に頼ることはパーティに亀裂が入ります」
密輸人はルイジェルドの嫌う悪党だ。
それも子供に害をなす悪党だ。
なら、それは間違いなのだ。
「ルディア。俺がいなければ、お前が我慢しなければならないことは何もなかった」
その代わり、ルイジェルドがいなければここに来る途中でどちらかが大怪我をしていたかもしれない。
下手をすれば死んでいたかもしれない。
「それを、お前の髪留めを売ることで解決することは、俺の誇りが許さん」
誇りが許さんと言われても。
「俺には出来なかった幸せな親子を俺の手で壊したくない。エリオットから聞いているぞ。父親と大層仲がいいらしいじゃないか」
「な、何を言っているんですか!?あんな人最低な父親ですよ!」
俺に構わず毎晩するし、普通に浮気するし、やったこともない剣術教えようとするし、しかも教えるのは下手くそだし、なんか臭いし、うっとうしいし、いきなり暴力変態貴族の家に送り込むし、誕生日に来てくれないし最低な父親だ。
「……なら、どうして毎晩その髪留めを手入れしている?」
…………顔が赤くなるのはパウロにムカついているからだ。
だから、視界が滲むのも、きっとー
「――会いたいんです。なるべく早く」
家族はきっと、心配している。
妹たちにはもう忘れられてしまったかもしれない。
それでも、あの家に帰りたい。
俺が顔を伏せてそう言うと、ルイジェルドはしゃがみこんで覗き込んできた。
「密輸人を探せ。俺は全ての悪事に目を瞑ろう」
俺が髪留めを売らないために。
彼は自分を曲げてくれたのだ。
それが、俺にはどうしようもなく嬉しかった。