その晩。
俺はエリオットと大人の階段を登った。
……正直、女の子になって十年以上過ごしているのでいつかはこんな日が来るのではないかと考えたことはあったが、それにしても急だった。
何より、エリオットとそんな風になるなんて直前まで考えてもいなかった。
たぶん、お互いに色んな感情でグチャグチャだったんだと思う。
パウロに会って、現実を知って、和解したと思ったら、死にかけて、帰ってきた故郷には何もなかった。
エリオットが色んな事を覚悟していた中、俺は何にも覚悟ができていなかった。
私は、とりあえず、二人で帰ることしか考えてなかった。
帰る場所なんてもうとっくになくなっていたのに。
覚悟していなかった俺と覚悟していても耐えられなかった彼はとてつもなく人恋しかったのだ。
そしてなにより、ここで何もしなければエリオットは政略結婚をするだろう。
そうなれば、ノトスやボレアス、それらを名乗れない我が家。
グレイラット家の関係上俺はもう二度と関われない可能性が出てくる。
そんなこと考えていて、気がついたときには俺から誘っていた。
エリートDTたる俺には思春期DTを口説くなんて赤子の手をひねるほどに簡単なことだった。
具体的にはこんな流れだった。
ルディ「私が……嫌なの?」
エリオ「そんなわけない!」
ルディ「なら、それなら、あのね、私、エリオットの子猫が欲しいにゃん」
……まさか、獣族好きがここまでだとは思わなかった。
その時の俺はエリオットの理性を少しばかり過信していた。
こちとら生娘なのだから少しくらい気を使ってほしかったのだが……。
ただ、それでも俺への好意は伝わってきた。
そして、俺はやっぱりエリオットのことが好きだと思った。
女性に対して恋愛感情がわかなかった段階で自分が身体に引っ張られていることはわかっていたが、普通に好きな男ができるとは。
その時は互いに難しいことは考えず、互いのことだけを感じて過ごした。
そうして過ごすうちに、子供を産むことを考えるほどにエリオットのことがますます好きになっていた。
エリオットとこれで一緒になれるとそう確信していた。
正直、過去に戻れるならそんな浮かれていた自分を殴りたい。
そんな風に思えるほどに俺は真っ直ぐ向けられた好意に浮かれていたのだ。
翌朝目が覚めた俺の目に入ってきたのはエリオットの真っ赤な一房の髪の毛と『今のオレとルディアでは釣り合いが取れません。旅に出ます』と書かれた一枚の紙切れだけだった。