その日、丸一日パウロと話をした。
何てことないお互いに別れてから何があったかを、くだらないことまで隅々話した。
パウロの話の中で新しい家族が増えるかどうかという話があったが、まあ、それは出来るときはなんとなく出来るだろう。
そして、俺の方の話。
「誕生日は悪かったな……」
「何がですか?」
「顔も見せてやれなかった」
そう。
パウロは俺の2回目の誕生日に顔を出せていなかった。
理由はわからないが、このアスラ王国では節目年に盛大に祝うのだ。
「あ、誕生日といえば」
「はい?どうかしましたか?」
パウロはポケットを漁ると、元真っ白な髪留めを取り出した。
……な、なんで、パウロがそれを持っている!?
よく覚えてないが、私は道に捨てたはずだ。
パウロとの話し合いが終わったら探しにいこうと思っていたのにこれは流石に予想外だ。
「お前、これわかるか?」
「……な、なんですか?その白い髪留めがどうかしたんですか?」
咄嗟に俺は知らないふりをする。
いや、相手はパウロだ。
自分の渡したものなんて覚えてないだろう。
しかも、軽く五年前のものなんて覚えているわけがない!
「なんだ、お前のじゃないのか。じゃあ、あとで捨てー」
「ー誰かが探しているかもしれないのでギルドに届けましょう!?」
捨てられるわけにはいかない。
絶対に捨てられるわけにはいかないのだ。
その髪留めは、ただでさえ大事なものだったのに、今ではブエナ村時代の最後の思い出なのだ。
なおさら捨てられるわけにはいかない。
「でも、こんなにボロボロなんだぜ?落とし主ももう要らないんじゃないか?」
「いやいやいや、ボロボロになるまで使ったということは思い出の品である可能性があります!例えば誰かに送られたとか!」
もう、半分以上自白している気がするが、相手はパウロだ。
気づかない!はずだ!
パウロは不思議そうな顔をしながら髪留めをしげしげと眺めた。
そして、こう言った。
「そうか?なら、ルディが届けておいてくれるか?オレにはよくわかんねえし」
「は、はい!わかりました!きっちり届けておきますね!」
やった!
勝った!
これで私の手元に無事に戻ってきた!
よかった……。
「…………まさか、そんなに大事にしてくれるとは思ってなかったんだよなあ」
「……へ?」
「いや、それ、俺が五歳の誕生日にあげたやつだろ」
は?え?ちょ?待って?なに?
まさか、まさか!まさかまさかまさか!!
「いやな、ノルンがそれを見て『お姉ちゃんの宝物』だって言うからまさかとは思ったが、驚いた」
ノルンのバカ!!
どうしてそんなことを覚えている。
というか、どうしてパウロにそれを言う!
「まあ、他にもギースやエリオットから大事な髪留めの話は聞いていたんだが」
「~~~!?、?」
情報の線が多すぎる。
どうやってもパウロにことがバレていたのだろう。
あれは、『ルディア』ではなく『俺』のことを考えたプレゼントだったから嬉しかったんだが……。
「大事にしてくれることは嬉しいが、流石に新しいものを買ったらどうだ?あ、いや、違うな。今から買いにいこう」
「……はい?」
俺が疑問符を浮かべていると、パウロはそそくさと出かける準備を済まして俺の手を引っ張った。
ちょっと待ってくれ。
話の展開が見えないのだが。
「お前の十歳のプレゼントを今から買いにいこう!」
パウロはそう言うと嬉しそうに俺を引っ張った。
そんなパウロに引きずられるように俺は外に出た。
そうして、親子での髪留め選びが始まった。
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とはいえ、ぶっちゃけ何かがあったわけではない。
というか、何か起こるわけがないのだ。
ここにいる親子は女心のわかないゲス男パウロとエリートDTが中身の服装に気をつかわないタイプ女子俺だ。
いくつか見て回った結果ー。
「ーまさか、まったく同じものを選ぶとはな……」
「……いいじゃないですか。気に入っているんですよ。これ」
今の私の頭には真新しい真っ白な髪留めが止まっている。
古い方は話し合いの末、パウロが持っていることになった。
この後俺たちはまた別れることになる。
ならば、パウロにも俺の存在を感じられるものがあった方がいいんじゃないかという考えだ。
「なんか、娘の髪留めを持ち歩く父親って変態っぽくないか?」
「安心してください。父様はもとから変態ですので」
そうか?なんて首をかしげているけれど、流石に自覚してほしい。
ゼニス、リーリャ、ギレーヌ。
パウロから繋がった女性は全員パウロと繋がったことがある。
正直マジでどうにかしてくれ。
それに比べたらむしろ、娘の髪留め持っているくらい健全すぎて規制ゼロだ。
そんな風に軽口を叩いていると、パウロとの間にあった溝は完全に消えていた。
「なあ、ルディ。次の誕生日の話なんだが」
「……だいぶ、気が早くないですか?」
俺の文句に苦笑いしながらもパウロはある提案をした。
「お前の十五歳の誕生日にも同じものを買いにいこう。今度は、家族全員で」
ああ、それはいい。
とても素敵な提案じゃないか。
「はい。行きましょう。絶対に、家族全員で」
俺たちはこの白い髪留めにそう誓った。