「……はぁ…はぁ…危なかった。私まで巻き込まれるところだった…」
琴葉が傾いた建物の柱にしがみつき、思わず呟いた。イシュタルの宝具によりウルクには超巨大な穴が空き、それにより起こった衝撃にどうにか耐えていた。
「分かってはいたけど、それでも神というのはすごいな。サーヴァントに格下げされてもなお、こんな威力の技を出せるなんて。…まぁ、それはいい。」
上を見上げる。
「これは…どうすべきかな。」
キングゥの攻撃を避けたラフムの残党。その数およそ千体。
「はは…流石に無理、かな。おそらく皆、もう冥界に行っているだろう。…私は皆とは違い、強力な転生特典じゃないし、せいぜい、数体を葬りさるのが限界か…」
こちらに気付いたのか猛スピードで来るラフムもいた。
『ゼロワン!』
黄色の閃光が一筋の光となりラフム達を倒す。
「…無様なものだね、琴葉。」
「…楓。」
そこにはゼロワンのライドウォッチを持った楓が立っていた。
「助かったよ。私じゃどうにも…」
「死ぬつもりだったでしょ?」
その言葉に詰まる。
「…分かるよ。その気持ち。力不足を実感して、それから何でも…普通じゃ考えられないことですら実行しようとする。…私もそうだったからね。」
「…で?それを確認したところで何がしたいの?」
「…そういうことね。あなたも大概拗らせてるね…確かに、あなたの転生特典はマスター適性…だったね。そりゃ力不足を実感するだろうね。…そうだね。今はこれで我慢してね。」
『ゼロワン!』
『セイバー!』
『ギーツ!』
ライドウォッチを渡される。
「…は?」
「いやぁ、あの人から貰った中で、あなたが使いこなせそうなものって言ったら、」
「どういうつもりなの?哀れみのつもり?」
「…はっ。…アンタ、自惚れるのも大概にしたら?…なんつってね。そうだよ、哀れみのつもり。はっきり言うけどあなたの特典は発展性がない。発展性が無いということは、能力覚醒もない。つまり、名実ともにリィンカーネーションズの中で最弱。だからこそ…あなたになら遺してもいいかなって思ってるんだよね。」
「遺しても…?まるで、」
「私が死ぬみたい?…ははっ、大正解。時間神殿で死ぬつもりだよ、私。」
「…どうして?」
「どうして?そりゃあ色々あるけど、まずは…もう限界だからかな。」
「限界…?」
「転生者は、その精神をこう、なんか色々して防御されてるんだよね。そうじゃなきゃいきなり現代の10代後半の人間が戦地に赴いて戦えるわけがない。でも私は違う。今までは音切がどうにか防御してくれてたんだけど、それも無い。だからこの状況も怖い。死にたくないからね。だけど、それと同時に生きるのは辛いって思う私もいる。自分で言うのはなんだけど、歪なんだよね。あぁ、話が長くてごめんね。うーん、つまりは…まぁ今は気にしなくていいよ。そういうわけでさ、あなたはここのラフム達を、倒して待ってなよ。今は最弱の琴葉さん?」
それだけ言うと、ゆっくりと飛び、冥界へと向かった。
「…本当、今ここでそんな事を言うのか…」
楓の自殺願望とでも言うべき思想。それもあるが…
「今は、ラフム達を切り抜けないとね。考えるのは、その後。」
ゼロワンとセイバーとギーツのライドウォッチ。
「…さっきの高速移動はゼロワン、だったね。」
『ゼロワン!』
「あー、考えがまとまらない。まとまらないけど…もう考えるのは私の役目じゃないしね。ったく、後で問い詰めなきゃね。」
「…さて、ようこそ冥界へ。さっきも言ったけど、特例で冥界での存在権と浮遊感を私が許可したわ。あなたたちは今、冥界において生命としてカウントされていません。…ほんとのほんとに特例なんだからね?」
「うん、助けてくれてありがとう、エレシュキガル。」
「ありがとうございます!」
「団欒もいいけれど…アレを見て。」
絵留がとある方向を指し示す。
そこには、絶えず雷で身を焼かれているティアマトの姿があった。
「あれは…ティアマト神ですか!?冥界への誘導に成功したのですね!?」
「でも、あの光は…」
『すごい…イシュタルの宝具級の熱量がティアマトを絶えず焼き尽くしている!』
「冥界において、断りも無く生者が侵入した際の防衛機構よ。これはウルクという世界が定めたルール。例えティアマト神であっても決して例外じゃないわ。」
「エレシュキガルだけの特権って事か…」
「…ギルガメッシュ王には悪いのだけれど、冥界の主人として決めさせてもらうのだわ!」
そう言って、持っていた剣に赤い光が灯る。
「冥界のガルラ霊よ、立ち並ぶ腐敗の槍よ、この者に、我らが冥界の鉄槌を!」
先ほどの雷に加え、赤い雷がティアマトを攻撃する。
「ティアマト神といえど、冥界ではただの神!私とガルラ霊の総攻撃の前には、ひとたまりも…」
その時。あの泥が、流れ出てきた。
「ひと…たまり…も……?」
そして、ティアマトは自身の発生させたケイオスタイドで身を包む。
『ケイオスタイド侵食!マズイぞ!このままだと冥界を乗っ取られる!』
『冥界まで侵食できるのか…!?』
『しかもそれだけじゃない、ティアマト神の霊基の神代回帰、ジュラ期まで進行!』
『インフレーション停止、魔力路の連続再起動を確認!』
『冥界に落ちた際の損傷も復元していく!…竜体変形確認。そこにいるのは紛れもない…神そのものだ!』
通信室のロマニとダ・ヴィンチが叫んだ。
「嘘…!?」
「……おーい!やっと追いついて…ってうっわ!?なんだあの化け物!?もしかしてあれがティアマト…!?」
「ケイオスタイドも出てるし、そういう事だよ!」
ここでリィンカーネーションズの面々が合流した。
「ティアマト神、体内からラフムを排出!冥界中にラフムが広がっていきます!」
『それよりもケイオスタイドの波が来れば終わりだ!なんとか抑えられないのかい!?』
「馬鹿言うんじゃねぇよ!?あんな膨大な液体をどうやって止めろと…!?」
知識があるはずのリィンカーネーションズでさえどうにもならない状況。そして。
自分たちの数十倍の高さまでのケイオスタイドの波が押し寄せてくる。
自分たちにも覆い被さろうとしたその時だった。
その波全てが、桃色の花へと変化した。
「え…?だわ…?何これ…?」
『これは…ケイオスタイドが加速度的に無害化してるぞ…?ラフムの排出量0…じゃあ、あそこに見えるのはただの…!』
「「…まさか!?」」
「いよーし!間に合ったー!」
そこに着地をした夢魔が一人。
「泥が命を産むなら、無害な命に変えてしまおう作戦、大成功だ!」
『げえっ、マーリン!?なんで君が!?まさか再召喚!?いやいやいや有り得ない!?』
「安心したまえ、私は本物、正真正銘のマーリンだ。慌ててアヴァロンから走ってきたのさ。」
「走って!?」
「これだから頭ブリテンはよ…」
「僕は悲しい別れとか大嫌いだ。意地でも死に別れなんてするものか。なので、ここは信条を曲げる時だと判断したのさ。」
「マーリン…!」
「これは花の魔術師。その二つ名の面目躍如というわけだ。賞賛しておくれ?」
「はい!マーリンさん、再開できて嬉しいです!」
「本当に来てくれてありがとうマーリン!」
「冥界の出力低下が止まったのだわ!これなら…きゃあ!?」
地響きが起こる。
「どうやら、再会の喜びに浸っている場合じゃないようだ。」
ティアマトがまた翼を展開しようとする。
「また飛ぶ気なの!?」
「この期に及んで…!」
「人類史に不要として廃棄された憎悪と悲しみ。そして、それ故に生じた地球の生態系を塗り替え、全ての母に返り咲く喜び。その本性を以て、彼女のクラスは決定された。…創世の女神など偽りの名。これこそは人間が置き去りにした人類史に最も拒絶された大災害。七つの人類悪の一つ、回帰の理を持つ獣。ビーストIIだ!」
「嘘!?」
「な、なによあれ!?」
『飛翔を開始するぞ!ウルクに戻ったら冥界の防御機構も無効化される!なにより、また死ぬことのない無敵の状態に戻ってしまう!』
「藤丸ちゃん、マシュ。」
マーリンが語りかける。
「この特異点における君たちの旅は、どこよりも激しく、そしてあの獣は何よりも強かっただろう。二柱の女神による神体の足止め、ウルクを餌にした冥界への落とし穴。天の鎖による拘束。冥界の刑罰。そして、私の綺麗なだけの花。ここにいたるまで、誰も彼もが実に多くの手を尽くしてきた。だが、まだ足りない。アレはまだ恐怖を知らない。天敵を知らない!彼という死を知らない!ギルガメッシュ王でもない、魔術王の聖杯にでもない、転生者達でもない。彼を呼んだのは、他ならぬ君だ!藤丸立香ちゃん。」
「え…?」
「敵は人類悪、ビースト。彼がこの地に現れる条件は整っていたんだよ。抑止の獣に対抗する世界の兵器。すなわち、グランドクラスのサーヴァントがね。だから、君たちの戦いは全てに意味があったのさ。」
「さあ、天を見上げるがいい!原初の海よ!そこに、貴様の死神が立っているぞ!」
「死無くして命は無く。死あってこそ生きるにあたう。そなたの言う永劫とは、歩みではなく眠りそのもの。災害の獣、人類より生じた悪よ。回帰を望んだその慈愛こそ、汝を排斥した根底なり。獣に堕ちた神といえど、原初の母であれば名乗らねばならない。幽谷の淵より昏き死を馳走しに参った。『山の翁』ハサン・サッバーハである。」
「は、はは…やっとここまで来れたか。」
「…出流?」
ほっと安心するように出流が息を吐いた。
「…そうだな。一体一体がサーヴァントに匹敵するほどのラフム、俺たちでさえ敵わないティアマト。それらを倒せる…グランドサーヴァント。確かに、ようやく、だ。だが、油断するのはまだ早いよ。」
「…そうだね。それに、今ここにいない。楓と琴葉についても気になるし。」
「…その翼、天命の元に。」
ティアマトがビームを『山の翁』に向かって放つ。それをいともたやすく避ける。
「…剥奪せん!」
ティアマトは何度もビームの追撃を行う。『山の翁』はそのビームすら切り裂き、ついにはティアマトに一撃を与える。
『これは…!』
『ビーストに死の概念が…!ロマニ、これなら!』
『うん、藤丸ちゃん!今しかない!今ならビーストを完全に消滅させられる!』
「分かった!みんな、一気に畳み掛けよう!」
「任せなさい!」
と、まずは一発。イシュタルがティアマトに攻撃をしかける。
「さて、俺たちも行くぞ。」
「へいへい。創真も既にグランドに変身してるし、本気出しますか。」
「聖三角、起動。ゾナウの兵器、召喚。」
「模倣『リンク』、『カービィ』。」
聖三角の紋章が光り輝く。剣と盾を持った青年、ピンク色の球体の幻が浮かび上がる。
「よぉーし、ではこちらも!」
マーリンが魔力を練り、ティアマトへと魔力弾を放っていく。
「私も、やるのだわ!」
エレシュキガルも負けじと冥界の炎で焼き尽くしていく。
その時。
こちらに向いていたティアマトがあらぬ方向を向き、進行し始めた。
「まさか…地上に出る気!?」
「…そうはさせない!」
攻撃をするが、効いているのか効いていないのかすら分からない。そのダメージを無視して少しずつ上に登っていく。
ケイオスタイドまで発生させている。
「くっそ、それに触れるとまずいぞ!」
「経験者は語るってか!」
爆弾矢で黒泥を逸らしている理玖が言う。
「私の冥界が…!」
「これが…!」
「…おい、あそこの水面!」
指差した先には、新たなラフム。
そして、それを視認した時には。
「藤丸ッ!」
藤丸を害そうとラフムが突撃する。間一髪マシュが反応しきるがその衝撃に耐えきれず藤丸ごと吹き飛ばされる。マーリンが魔術によって衝撃を殺しきる。
「無事ね…くっ!」
女神イシュタルですら完全に反応しきれないほどのスピード。
新たに生み出されたラフムにはそれが備わっていた。
「ギギ…!」
「…ほんと、面倒くさい。エレシュキガル!あんたは藤丸とビーストが地上に出るのを阻止!」
「ま、任されたのだわ!」
「二匹程度なら、どうってことないわ!」
続々とラフムが出現してくる。
その様子にため息をつき、絵留が言う。
「二匹程度なら、ね。その他のラフムは任せてもらおう。僕、理玖、星奈はラフムの対処。その他は藤丸たちと一緒に。」
「その方が良さそうだね。にしても、このラフム。新たなる十一人の子供たちってところか。…いいとも、お望みのままに!」
マーリンが煙幕を張る。
「今よ!」
エレシュキガルの号令とともに藤丸たちが飛び出ていく。
決着はすぐそこに迫っている。
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