では、本編どうぞ。
有り得た世界
亜種特異点『新宿』の証明完了から約20時間後。
藤丸立香は会議室へと足を運ぶ。会議室には既にロマニとダ・ヴィンチがいた。
「…来たね。」
「しっかり休めたかい?本来ならもう少し時間があったけど、そうも言ってられない事態なんだ。これを見てくれ。」
そう言われて目を向けると、世界地図が映し出されていた。各地にマップピンのような点がある。
「ローマ、ロンドン、アメリカ…ここどこだっけ…エルサレム?」
「さて藤丸ちゃん。何か気づいたことはないかい?」
「え?気づいたこと?何だろう……あっ、まさか、特異点?」
「そう。過去に出現した特異点と同じ場所だ。…エルサレムだけ特殊だったけどね。」
「あぁ、キャメロット…」
女神ロンゴミニアド、並びに裏世界。裏世界の方は詳しくは知らないが、大変だったと聞く。だが、それも既に修復済みだ。
「まぁ、それを踏まえてなんだけど。」
ロマニが思い切り目を逸らしながら言う。
「今回、藤丸ちゃんはお休みです。」
「え???」
ここまで説明しておいて?と思ったがすぐに疑問に変わる。
「重要度はまだ言われてないから分からないけど放置していいってわけじゃないんですよね?」
「そうだね。微少特異点ならば時間経過で解決する場合もあるけど。」
「…ところで、リィンカーネーションズのみんなは?ここに来るまでにすれ違わなかったけど。…もしかして?」
「そう。彼らは今、特異点に向かってる。…この奇妙な特異点にね。」
藤丸立香が来る1時間前。
「ほーん…闇の世界みたいなものね…」
「闇の世界?なんだそれ。」
「ゼルダに出てただろ。神トラだっけかな?類似してるのでいうと仮面ライダー龍騎のミラーワールド、星のカービィのアナザーディメンションとか。」
カルデアに無事に帰った琴葉と不調から全快した出流を含めて会議していた。
「とにかく…過去の特異点と似ているのは確かだ。それに今回は君達にしか出来ない。」
「俺たちにしか出来ない?なんだそりゃ?」
「それと過去の特異点に類似しているって?それ、どういうこと?」
「順番に説明しようか。まず、こちらからの接触がなぜか受け付けない。しかし、君たち転生者だけは向こうに行けるんだ。…そうマーリンは言っていた。」
グランドクソ野郎こと花の魔術師マーリン曰く。
カルデアの接触を拒否しているのは異世界の魔術。しかし既に数人が向かっているように転生者であればそのバリアを突破できるかもしれない、という。
「類似しているのは、まだ不明だ。しかし何らかの理由はあるはず。」
「どっちにしろ、アイツらその世界に行っちゃったんだろ?なら仕方ない。俺たちも行くぞ。」
理玖、結菜、楓は新宿の特異点からそのまま向かってしまっている。
「……そうだね。とりあえず行ってみなければ分からないだろうね。行ってからは例の掲示板で連絡を取ろう。…あの3人は?」
「楓以外は連絡がついてる。が…」
「が?」
「…行って、見た方が早いと思うよ。理解するのは。」
「いやー、助かったぜ。何せ単体じゃ飛べないからな、俺。」
「それは私もだぞ。ホウキありきなんだが…まぁいい。」
上空。雲に近い場所にて。
「いや、本当に助かった。流石に戦いっぱなしだと疲れるから…」
「そりゃそうだ。で、やっぱり?」
「そうだな。また最初からだ。」
「だよな…」
勇凪理玖と高野結菜は揃ってため息をつく。
2人は新宿から連続で来たこの世界でいくつか戦闘をしていた。
この世界では、過去の特異点そっくりな場所がある。それに嘘はない。
今までの経験を活かして容易にクリア出来る。それに嘘はない。
しかし、それ以外に問題点がある。
「なーんでだろ、特異点修復したと思ったらまた元に戻りやがる。まるでループしているみたいにな。」
「付け足すと、完全にループではないみたいだぜ。削った地形の一部はそのままだ。これは一度スペルカードを使って検証したから間違いない。」
「もしかしてローマっぽいところの山にあった謎の大穴って…」
「推測通り私がやった。」
「馬鹿なの?」
はぁーー、と大きいため息をつき、体勢を整える。
「で、楓は?」
「…まだ見つかってない。」
各地を見て回ったが、どうにも見つからない。掲示板にも顔を出していない。
「なんでだろう?新宿からいなくなったのは確かなんだが…」
「お前の能力でどうにか出来ない?」
「あのな、私の能力は、アビリティカードの応用で作られた…らしいからな。そんな自由なものじゃないんだ。」
「ごめんアビリティカードがわからん。」
曰く。アビリティカードというのは、数種類に分けられる装備品のようなもので色々な効果があるという。純粋に火力向上のものや、弾幕のカスタマイズに使えるものなど多岐に渡るらしい。
「それで、それを改造したのが私専用のものだ。幻想郷にいた人々と妖怪。それぞれの性質や能力を再現したものなんだよ。まぁ、一度使うと二度と使えなくなるがな。」
「はー。なるほど。」
「本当に分かってるか?…だから、これまででたくさん使ってるから今となっては微々たるものだ。」
残ってるのって言ったら、プリズムリバー三姉妹とかリグル、ミスティア、小傘とかな。結菜はそう呟く。
「…まぁいいや。それで?どうすんだ?何もフラグ踏まずにやるとまたループするぜ?」
「策がないわけではないが、確実じゃあないからな。」
スッ、と懐からカードを取り出し投げ捨てる。
「ん?なんだそれ。」
「黙って見てなって。」
自由落下の法則に従って落ちていくカード。
その途中、複数の魔法陣が展開される。
「…?」
「おい、なんか分かったのか?」
「分かったと言えば分かった…のか?」
「……その不明瞭な答えは何だよ。」
「簡単に言えば、裏世界…のようなものは存在する。」
「なら、そこに行けば…」
「そこが、何も無くても?」
「はぁ?」
「あー、あれだ。分かりやすく言うと…土台?こっちの複数特異点が各地の3Dモデルを貼られてる下に無の土台が存在してると言えばいいか?今いる場所が3Dモデルの上。その下に土台。でも、その土台は決して平面ってわけじゃなく、そこにも別の次元、もしくは世界が存在してるんだ。」
「わからん。」
「無能め。」
心底呆れた、という表情で結菜が呟いた。
「…はっ!」
自分の意識が途切れていたことに気づき、急いで立ち上がる。
見渡す限りの草原。そして、自分の真後ろには草原に似合わない建物群。
「ここは…来れたのか?だが、なんだこの違和感は…」
「目が覚めましたか。」
話しかけられ、思わず振り向く。
「アンタは…」
「えぇ、こんにちは。いえ、おはようございます、かしら?」
「あぁ…おはよう…?」
「ふふふ、そんなことを聞きたいわけじゃないって顔をしていますわね。もちろん、私も同じです。」
「…そうだな。」
「ではまず、自己紹介から。…とはいえ、簡単に真名を明かすのも面白くないのでこう名乗りましょう。」
「私は、幻想郷のキャスター。お見知りおきを。」
「…ちなみに俺はあんたの真名は知ってはいるんだが。」
「えぇ、存じています。ですがこれ、一度やってみたかったのですよね。」
「それは…分かる。俺もやってみたい。」
「ならば、やってみます?」
「やるやる〜…だけどその前に。」
「そうですわね。招待されていない方たちにはご退場願いましょうか。」
大量のヘルタースケルターと骸骨兵を前にキャスターと出流はそう言い放った。
「これで終わりだね。」
落ちている聖杯を拾い上げる。
「よし、これでロンドンエリアは終わりか…」
すると突然、世界が巻き戻ったかのように。時計の針を戻すように。
絵留は最初目覚めた時にいた場所に戻っていた。
「…えっ?」
辺りを見渡すと、止めたはずの霧も何もかも戻っている。
「…戻ってるのかな。これ。だとしたら面倒だな…誰かと合流したいけど、どこにいるか分からないからな…」
掲示板を使ったとしても、合流できない。そもそも舞台が大きすぎるため会えないのだ。
「特異点複数分の大きさと考えれば確かにそうなんだけど…」
ため息をついて再び攻略を進める絵留だった。
「…やべ。」
「やべ、じゃないんだけどぉ!?」
「しょうがないじゃない取り返しはつかないし。」
「だから焦ってんでしょうが!?私、非力!」
星奈、そして琴葉ペア。
彼女たちは、テクスチャの裏にいた。
「明らか裏世界じゃん。ウケる。」
「ウケないけど!?」
「ちょっと琴葉うるさい。きゃんきゃん叫ぶだけなら犬でもできるわよ?」
「誰が原因だと…」
「それはごめんって。」
全然悪びれずに星奈が謝る。
「んでさ、どうする?これから。裏世界っぽいところだし黒幕とかいたりしないかな。」
「………うーん。それにしては、何もないよね、ここ。」
「何もないというか、無さすぎるというか。」
そう、今いる場所は黒一色の世界。
全てのオブジェクトが配置すらされていない無の世界。
空もなく草木も無い。
「ま、適当に移動してたらどうにかなるわ。きっと。」
「そう簡単に出来たら苦労しないよ。」
ふと、星奈が思い出す。
「…そういや非力って言ってたけど、令和のライドウォッチは?いくつかあったわよね。あとサーヴァントも。アルキャスとアーサーいたでしょ?」
「ライドウォッチは創真に渡した。…サーヴァントの2人は、というか。」
「…?」
「…見せたほうが早いかな。」
そう言ってよく手入れされた傷ひとつない両手を見せる。
「これの何が?」
「分からない?」
「???」
そう言っても分からない物は分からない星奈。
「何なの、急に。何もないわよ。」
「そう。何もない。」
「はぁ?」
「令呪が無い、無くなってるの。」
呆然。状況を理解した星奈は大声を上げた。
「は…はあああああぁぁぁぁぁ!?!?!?」
「いや…え…は?」
新宿を抜けて新天地に来た彼女が見たもの。それは。
「…どこからどう見ても、日本じゃん。標識もあるし…」
呆然としながら呟く。彼女は亜種特異点新宿にあった闇の渦に飛び込んだ。それは無意識か、それとも他の意思があったか。それはともかく少なからず覚悟を決めてやって来たのだ。
「それの結果がこれか〜…」
雲一つない青空、行き交う人々。そして耳に届く言語。
どこからどう見ても現代日本そのものだった。
「…とりあえず、掲示板で報告を…」
いつもやっているように、脳内で念じる。
「………ん?」
だが、どれだけ念じても掲示板が起動することはなかった。
「え、嘘嘘!?」
側から見れば不審者でしかないが今の楓にはそんなことどうでも良かった。掲示板が起動しないということは他の皆と連絡が取れない。つまり意思疎通どころか帰還すら怪しいという事。まさに死活問題。今までの慣れのせいか、どうせ何とかなると思っていた矢先の事である。
「ヤバいって…!どうしよう…!」
その時。
「あの〜。」
「…ん?」
「何か慌てている様子だったから…大丈夫?」
そう声をかけて来たのは、心配そうにこちらを見ている女性だった。