振り返れば想う、命の路を駆け抜けた日々よ   作:fell@かぶとがに

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みんなが楽しみにしていた、皆既月食の夜。
メジロマックイーンとゴールドシップはトレセンを抜け出し、二人で人気のない場所へと向かう。
欠けていく月、消えていく彼女。
やがて、二人だけの舞踏会が始まる。


赤月を見つめ、二人、影を並べて

「ねぇねぇマックイーンさん! 今日何の日か知ってる?」

 

夕方、トレーナー室のドアを開けると、ライスさんがいきなり飛びついてきました。

 

この方は時々、突拍子もない行動をとります。

おかげさまでこのチームに入ってから一生分くらいびっくりした気がいたします。

 

「知ってますわ。皆既月食でしょう」

「あうぅ……マックイーンさんも知ってたんだ……」

「それはここしばらく、テレビで毎日言っていましたし、トレセンでも話題になっていましたから」

 

二年ぶりの皆既月食に、みなさんがワイワイ盛り上がっていらっしゃいました。

赤い月は、人狼でなくても人を楽しく狂わせるらしいですわね。

 

まあそう言いながら、私も御多分漏れないわけで。

ずっと、今日を心待ちにしていたんですけれど。

 

ただ、私の場合は、みなさんとはちょっと違う理由で。

 

「ゴールドシップさんはいらっしゃいますの?」

「そこの、トレーナーさんのデスクの横に……」

 

荷物を置いてトレーナー室を覗きこむと、ライスさんが言った通り、ゴールドシップさんの姿がありました。

 

玩具会社から発売されたロボット犬二匹を逆向きに並べて。

結んだ紐を引っ張り合う様子を、全身をワクワク揺らしながら眺めています。

 

「おっしゃー! 行け行けチケット! 負けるなマックイーン!!」

「勝手に人の名前付けて変な勝負させないでくださいまし」

 

びくんと、ゴールドシップさんの肩が跳ねます。

本当、わっかりやすいリアクションですこと。

 

「……マックイーン、いつからそこに?」

「たった今来たところですわ」

 

人を驚かせるんじゃねえよ、とちょっぴり怒られました。

……理不尽じゃありません?

 

「ゴールドシップさんは、もうトレーニングは終わりですの?」

「おうよ。ゴルシちゃんは今日も芝に転がってたぜ」

 

いつものように飄々と訳の分からないことを言うゴールドシップさんと話をしていると。

カップを片手にブライアンさんがいらっしゃいました。

おかわりにいらっしゃったのでしょうか。

 

「ん……マックイーン、いたのか」

「ゴールドシップさんと待ち合わせしていたので寄っただけですわ」

「ああ、それであいつはソワソワしてたのか。珈琲はまだあるか?」

「さっきカフェに豆貰ってトレーナーが挽いてたぜ。カップよこせよ、ブライアン」

「悪いな」

 

先ほどから音を立ててお湯を落としていた珈琲メーカー。

たった今ちょうど、その音が止まって保温のランプが光りました。

 

ゴールドシップさんはブライアンさんからカップを受け取り、珈琲を注ぎます。

普通に注いでいるのですが……何か、嫌な予感がいたします……。

 

「マックイーンさん、ゴールドシップさん、待ち合わせしてた用事っていうのは長いの?」

「どうしてですの?」

「チケットさんが月食を見ようって言い出しててね。みんなで屋上から見るんだけど、一緒にどうかな、って」

「それは……」

 

折角のお誘いですけれど……。

 

「すみません、ライスさん。私たちは行けませんわ」

「ううん、気にしないで。居る人だけの突発イベントだから」

「……たまにはそういうのも悪くないか」

「えっ、ブライアンさんは一緒に見てくれるの!?」

 

ブライアンさんはぐいっと珈琲を飲み干すと、ソファーの方へ向かいました。

私たちも、そろそろ向かいませんと。

 

「よっしゃー! 行け行けスズカ! 負けるなブライアーン!!」

「嘘でしょ……また巻き込まれてる……」

 

……ゴールドシップさんをシバいてから、ですわね。

 

******************

 

結局、ロボット犬を取り上げ、スズカさんに預けてからトレセン学園を出ました。

やや物足りなくも満足げなゴールドシップさんを見ていると、少々イライラいたしますが。

 

「少し、急いだ方がよさそうですわね」

「ありゃ、もうそんな時間?」

 

腕時計を見ると、時刻は十八時。

トレーナー室でのんびりしている間に、いつの間にかその時が迫っていたみたいですわ。

 

もうすぐ、始まります。

 

「この辺りでいっか」

「そうですわね。ここなら人目にもつかないでしょう」

「あっ、ここの芝生ちょうどいいぜ! ほらっ、マックイーンマックイーン!」

「少し落ち着いてくださいませ」

 

小さな丘の上にすとんと腰を下ろすと、ゴールドシップさんも少し遅れて隣へやってきました。

ゆっくりと芝生に座ります。

 

穏やかな風が、私たちの肩を撫でます。

風に乗って漂ってくるゴールドシップさんの香りは、その辺りのお店で売っている香水とは違います。

荒磯を感じさせる、まるで日々命をかけて漁師と戦うカジキのような……。

……って、どんな香りなんですのそれは。

 

「綺麗な満月ですわね」

「そうだな」

「ゴールドシップさんの髪の色ですわ」

「お前も同じだろうがよ」

 

そう言いながら私は、ゴールドシップさんの交じり気のない美しい銀髪を撫でます。

ゴールドシップさんは珍しく、はにかんで頬を赤らめました。

 

「あんま人の髪いじんなよ」

「あなたにだけは言われたくありませんわ」

「……ちぇっ」

 

小さく唸って俯くゴールドシップさんも、これまた珍しい。

そんなことを思いながら、ふと顔を上げると。

 

「あ」

 

月が。

私が声を上げると、ゴールドシップさんも空を見上げました。

 

「十八時十五分。欠け始めましたわ」

「相変わらずお前、眼がいいのな」

「あなたは見えませんの?」

「よっく分かんねーなぁ……でも」

 

ゴールドシップさんが、視線を足元に落とします。

私も彼女が言わんとすることを分かった上で、ゴールドシップさんの足を見ました。

 

「欠け始めたことは、分かるぜ」

 

消えたつま先を撫でながら、ゴールドシップさんは穏やかな声で仰いました。

 

******************

 

座りなおして、また月を見上げます。

先はまだ長く。

 

「まだでしょうか」

「のんびり待とう、マックちゃん」

 

あと一時間と少し。

夜空に瞬く月の下で、二人で他愛もない話を続けます。

 

この前の、みんなが集まって開催したチーム内レースが楽しかったこと。

私が重賞に勝ったお祝いに、ライスさんが美味しい紅茶の葉をくださったこと。

それに対抗心を燃やしたトレーナーさんが、珈琲メーカーを買っていらっしゃったこと。

でも結局、珈琲を飲んでいるのはトレーナーさんとブライアンさんだけだということ。

 

実はここに着く直前まで、ライスさんが追いかけてきていたこと。

 

「……え、本当ですの……?」

「お前、気付いてなかったのかよ。ついてくついてくしてたぜ」

「全然……ですからあんな変な道を歩いていたんですのね」

 

そんな世間話が、ぴたりと止んだ。

 

「あ、小指が……」

「お、思ったよりも時間が経ってたみたいだな」

 

ゴールドシップさんの右手の小指が徐々に消えていきます。

気付くと、膝下もほとんど見えなくなっていました。

 

「みなさん、今のゴールドシップさんを見たらびっくりしますわね」

「アタシとお前だけの秘密だぜ、マックちゃん」

「ええ、分かってますわ」

 

トレセン学園に入る直前。

ここで初めてお会いした、二年前の夜からの、二人だけの秘密。

 

「月、だいぶ欠けてきましたわね」

「ああ、ここまで欠ければ、ゴルシちゃんの眼でも分かるってもんよ」

 

僅かに残ったゴールドシップさんの手のひらが、私の手に重なりました。

 

そのあとは、何も話しませんでした。

二人でただただ、月を見上げて。

私の手に重なっていたゴールドシップさんの手は、とっくに消えていました。

 

「十九時だ」

 

夜空の月は、半分が黒い影に覆われています。

隣にいるゴールドシップさんも、もう上半身から下は見えませんでした。

 

腕も、二の腕から下は消えています。

さらりとしたストレートの長髪も、先の方が少しずつ欠けていきます。

 

「……」

「どうしたんだよ、アタシを見て黙り込んで」

「……別に、何でもありませんわ」

 

ぽつりと返事をすると、ゴールドシップさんは目をぱちくりさせてから。

何かに気付いたようにゲラゲラと笑いました。

 

「わ、笑うことはないでしょう!」

「あっはっは! マックちゃんはマジで可愛いなあ!」

「もうっ! またそうやって子ども扱い!」

 

ぷんすか怒っていたら、僅かに残った腕で、ゴールドシップさんはぎこちなく私を抱きしめました。

普通なら背中に回される、温かい手の平はありません。

腕全体で包まれるような、抱擁感もありません。

 

けれども。

けれども、やはり。

暖かいですわね、あなたは。

 

「大丈夫だぜ、マックイーン。そのまま消え尽きちまうわけじゃねえから」

「それは……分かっています、けれど」

 

今日という日を、私もずっと待っていましたけれど。

でも、頭では分かっていても。

 

あなたが消えていくのは。

何もできずにそれを見ているだけなのは。

とっても、寂しいんです。

 

月がどんどん、私たちの住処の影に食われていきます。

その姿と同じように、ゴールドシップさんの身体もどんどん闇に食われていって。

 

「そろそろ、全部なくなってしまいますわ」

「泣いちゃダメだぜ、マックちゃん」

「な、泣くわけないでしょう! またそうやって馬鹿にして!」

「それなら良いんだけどよ」

 

ゴールドシップさんが楽しそうに笑います。

そんな笑顔が消え始めると、あとはあっという間でした。

腕時計を見ると、針がまさにその時刻を指そうとしていて。

 

「あ……」

 

綺麗な銀髪が、上質な砂糖菓子が溶けるように、風に乗ってさらさらと消えます。

 

「そんな顔を、してんじゃねえって」

 

アタシまで少し、つられちまいそうになるだろ。

最後にそう言って微笑み、ゴールドシップさんは夜の闇へと溶け込みました。

 

「……ゴールドシップさん、居なくなってしまいましたわね」

 

呟いても、返事は返ってきません。

丘の上には、一人きり。

空を見上げると、三日月を極限まで細くしたように欠けた、月がありました。

 

「ゴールドシップさん……」

 

二年間。

二人で待って待って、待ち続けた月日。

 

初めて、ゴールドシップさんを目にしたあの日。

決して触れてはいけない存在に、おいで、と手招きをされているようで。

この世のものとは思えない、儚さと力強さを両手に携えていて。

小さな頃に読んだ、おとぎ話のような姿をしていて。

 

そんなあなたに出会って。

私は、この歳になっても。

夢を見続けることを、この世界に許してもらえた気がしたのです。

 

そして。

 

「……あっ……!」

 

欠けて消えかけていた月が、鈍い光を放ち始めます。

徐々に徐々に、赤銅色に身を焦がし始めて。

月が鈍く燃え上がり始めるのと、まさに同時に。

 

彼女が。

私に、夢を教えてくれた彼女が。

ゆっくり、うっすらと、その姿を現し始めました。

 

その姿は、さながら、赤月の現し身のようで。

 

「マックイーン」

 

空から手が差し伸べられました。

清水のように透き通った肌。

その肌にかかるのは、月の色に光る長髪。

 

風にたなびく、赤い髪。

 

「ごきげんよう」

 

赤い瞳が、私を見つめました。

私も迷わず、その赤い瞳を見つめました。

 

「そして、ただいま、だぜ、マックイーン」

 

ずっと待ち続けたそのウマ娘は。

こんなにも、こんなにも幻想的な佇まいなのに。

 

ついしばらく前と同じ、私が大好きな顔で笑っていました。

 

私は、待ちわびた時が来た喜びを胸に、その手を取って。

 

「おかえりなさい、ゴールドシップさん」

 

ゴールドシップさんに手を引かれるまま、とんっと地面を蹴りました。

 

まるでたんぽぽの綿毛のように。

まるでいつか見た、月面を跳ねる宇宙飛行士のように。

赤銅の月に照らされ、二人の影が空へ舞いました。

 

みるみるうちに、地上を離れて空高く。

ゴールドシップさんに誘われた空は、吹きつける風が冷たくて。

 

「寒いですわね」

「動いてりゃ、寒さなんてすぐになくなるぜ」

「そうですわね。でしたら――」

 

月を背にして、どちらからともなく。

月のワルツを、踊りましょう。

 

夜空の舞踏会が、静かに始まりました。

 

風に乗って、虚空を蹴って。

赤月の夜空を、軽やかに舞う。

 

「ふふふっ! この空全部が舞踏会みたいですわ!」

「あん? 舞踏会ってことは、誰かアタシたちを見てるのか?」

「ゴールドシップさんったら何を言ってらっしゃいますの」

「?」

 

……ふふっ。

珍しく不思議そうな表情をするゴールドシップさんが、何だかとても可愛く見えました。

 

「私はずっと、あなたのことを見ていますわ」

 

一瞬、ゴールドシップさんの目が丸くなりました。

 

してやったり、一本取ってやりましたわ。

すぐにいつもの笑みに戻りましたけれど。

僅かに恥ずかしそうに頬を染めた顔を、私は見逃しませんでした。

 

「……ははっ。ならアタシも、マックイーンの舞踏を拝見するとしようか」

 

気持ちは、通じ合って。

手を取り合いながら、もっともっと、空高く。

踊りましょう、天高く。

 

奏でられるのは、夜風のさえずり。

赤いスポットライトに照らされて。

 

二人の空で、優雅に踊ります。

赤月の刻は、まだまだ長い。

 

手を放せば、しばしの遊覧飛行。

三拍子のリズムは、夢の世界で生きている実感を、鼓動を刻み続けて。

 

更に空気を蹴り抜いて、薄い雲を突き破ると。

ふわりと再び上層へ舞い上がり、赤銅の月が顔を出しました。

 

そうしてしばらくの間、私たちは二人きりの空で踊り続けました。

 

「マックイーン、行ってみねえか」

「どこまでですの?」

「あそこまで」

 

ゴールドシップさんは赤い月を指さしました。

丘の上から眺めるよりも、遥かに大きな月。

その妖艶な輝きは、全てを吸いこんでしまいそうで。

 

「いいですわね」

「それじゃ、競争だな!」

「レースなら私、負けませんわよ!」

 

私がそう答えるや否や、ゴールドシップさんはいたずらっぽく笑って飛びました。

そのあとを追って、私も勇んで前へ飛びます。

赤い赤い、月を目指して。

 

その時、ゴールドシップさんの赤い髪が風にたなびきました。

 

「ゴールドシップさん」

「あん?」

「あそこに行くのは、今度にしましょうか」

 

私の言葉を聞いて、ゴールドシップさんが赤い長髪を手に取ると。

 

先の部分が、ほろほろと宙に溶け出していました。

 

「おっと……いつの間にか時間が経ってたみたいだな」

「楽しいことはあっという間ですわね」

「ああ、本当にな」

 

再びゴールドシップさんの手を取ります。

先ほどの激しい舞踏はどこへやら。

ゆっくりゆっくりと、空を降りていきました。

 

後ろを振り返ると、赤い月。

 

「また今度、行こうぜ」

「ええ、また、今度」

 

名残惜しく思いつつ、赤い月に背を向けました。

空を降りながら、ふと、小さな悪だくみが頭を過って。

 

「最後にちょっと、寄り道をいたしませんか?」

「寄り道?」

「――」

 

行き先を告げると、ゴールドシップさんはちょっと驚いたような顔をしてから。

少し意地悪そうな顔で微笑みました。

 

「そりゃいいな、行こうぜ、あの場所へ」

「ええ、行きましょう!」

 

手をつないだまま、出来る限りの早さで、空を駆けました。

 

******************

 

トレセン学園の屋上に、二つの人影があった。

 

「チケットさん、風邪ひいちゃうよ。他のみんなも、もう下に戻ろうって」

「いいじゃんいいじゃん! せっかくだから最後まで一緒に見ようよ!」

「もうすぐG1なんだから、体調管理とか、もう少し意識しなくちゃ……」

 

一人の少女はきゃいきゃいと飛び跳ね。

もう一人の少女は、諫めつつも諦観を浮かべていた。

 

「……あれ?」

 

ふと、飛び跳ねていた少女が空を見上げて静止する。

 

「チケットさん、どうしたの? 変な声出して」

「ううん……変だなぁ」

「風邪ひいたの?」

「違う違う!」

 

歳に似合わず、小さな子が信じてもらえずムキになるような声を上げて。

 

「なんか、誰かが近くに居た気がしたんだって!」

「えー……ライスたち以外の人が屋上に……?」

「うーん……屋上、なのかな?」

 

なおも空を見上げ、少女は納得のいかない様子で首を捻った。

 

「んー……なんかすっごく見られてる気がするんだってば」

「そんなこと言っても……」

 

夜風が吹くコンクリートの上には、二人の姿しかない。

疑念を抱いた本人も、半信半疑といった様子だった。

 

「……だよねえ。アタシたち以外にはお月さまくらいしかいないよね」

「……チケットさんって結構、ロマンチストだったんだね……」

「うえぇっ!? そそそそんなつもりじゃないよー!」

 

そんな、慌てる少女を尻目に。

もう一人の少女は、一時の闇から帰ってきた真ん丸を見上げ、小さく笑った。

 

「ううん……案外、本当にそうだったりして、ね」

「え?」

 

二人がそんな会話をしていると、長髪の少女が二人を呼びにやってきた。

 

「二人とも、本当に風邪を引いてしまうから、そろそろ中に入りましょう。お茶、淹れてあげるから」

「よっしゃー! お茶受けは貰ったー!」

「ら、ライスもお腹空いたよ!」

「ふふ……なら早く降りましょう。トレーナーさんも待ってるわ」

 

******************

 

丘の上へ戻ってくる頃には、ゴールドシップさんの身体は再び消え始めていました。

夜空の赤銅色が薄れていきます。

 

「マックイーン、楽しかったか?」

「すごく楽しかったですわ!」

「それなら何よりだ」

 

ゴールドシップさんはにっこりと笑い、月を見上げました。

 

「そろそろ、終わりみたいだな」

 

先程は溶けるようだったのとは対照的に、身体と赤い髪が燃え上がるように消えていきます。

つい、無意識にその髪を撫でると、ゴールドシップさんはちょっとくすぐったそうに身を捩りました。

 

「アタシにとっても、とっても心地良い時間だったよ」

 

ちりりと、僅かな余韻をその場に残して。

穏やかな笑みを浮かべながら、ゴールドシップさんは燃え尽きました。

 

私は再び一人きりになり、丘の上に座り込んで。

見上げた夜空には、赤みが抜けた細い三日月。

何もすることがなく、ただ茫然と月が丸くなっていくのを見つめていました。

 

「次の月食は、来年の春らしいぜ」

 

しばらくすると、隣から声が聞こえてきました。

 

「今度は結構近いんですのね」

「おう。今回の二年に比べればかなり」

 

横を見ると、身体も既にほぼ元通りとなった、銀髪のゴールドシップさんが居ました。

 

「もう少しですか?」

「ああ。月もまだ、少し欠けてるみてーだな」

 

見上げると、月はまだ少し窪んでいました。

 

それから、またしばらくして。

月が完全に丸くなったのを見て、二人して立ち上がって。

 

「ゴールドシップさん、お腹は空いていらっしゃいますか?」

「腹?」

 

ぐう、という音が、ゴールドシップさんのお腹から代わりに応えてくれました。

 

「でしたら、メジロ家に寄っていかれますか? 夕食をご一緒しませんこと?」

「そりゃいいな。アタシ腹減ってっからかなり食うぜ、そのつもりでいろよ」

「どういう脅迫ですのそれは……でしたらシェフに量を増やすよう伝えておきますわ」

「おっしゃー! 頼むぜ!」

 

わくわくした表情で、ゴールドシップさんはあれやこれやと思案しています。

そんな姿を見ていると、ついさっきまでの、夜空の遊覧旅行が嘘みたいにしか思えなくて。

 

次の月食は、もうしばらく。

その時はきっと、あの赤銅に輝くお月さままで。

 

「マックイーン」

「えっ、あ、ええ。何か食べたいものでも?」

「アタシは待ってるぜ。マックイーンが、あの月まで来る時を」

 

私の心を見抜いているかのような言葉に、思わず面食らいました。

 

「待っている、ですか……?」

「ああ。そんときはさ……アタシもマックイーンとのこと、きっと色々話せるから」

 

ゴールドシップさんは柔らかく微笑んだままで、それ以上の答えはありませんでした。

けれどきっと、言葉通りの意味なのだと思います。

 

ゴールドシップさんは、待っている。

あの赤銅の月が昇った、夜空の向こうで。

 

「でしたら、もう少し待っていてくださいまし」

 

いつまでかかるか分かりませんけれど。

 

「必ず、そこまで行きますから」

 

もう、一人ぼっちじゃありませんよ。

手を握って、そう答えると。

ゴールドシップさんは嬉しそうに、そっと、私の手を握り返してきました。




ゴルマクって色々と妄想が捗るね……。
幼駒ゴルシは赤ってか栗毛っぽいけど……。
スズカさん、あまり出してあげられなくてごめんね。
ゴルシちゃん宇宙で待ってる説好き。
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