疼らく境界   作:熾烈

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空の境界
歪む境界


 

 

 

 夜道に咲いた赤い花。硬く冷たいアスファルトに熱を奪われていく。

 

 横たわっているそれは、ただ静かに、安らかに、時が止まったかのように、ひっそりと寝ている。

 

 降ってきた雪が赤く滲み、染まっていく。

 

 

 車の走る音、人々の話す声。街の喧騒が遥か遠くに聞こえていた。

 

 

 「聞いたか、殺人だってよ」

 教室で男子生徒が友人と話している。冬休み中にあった殺人事件についてだ。

 「この近くだってよ」

 

 殺人という言葉をよく耳にしても、テレビや新聞、携帯を通した向こう側の話し。現実味がなくて、違う世界の出来事。

 

 「怖いねー」

 全く恐怖が感じられない声音で話す女子生徒達。

 

 「下校時刻は三時半までになって、部活動と委員会は出来ないので気をつけて帰るように」

 担任のホームルームが終わり、周りは浮き立った雰囲気で帰る支度をし始める。

 

 私は教室を出た。校門を出ると一台の車が目の前に止まった。迷い無く扉を開き中に入り込むと発進し三十分程走ると厳かな門が見えて来た。武家屋敷だ。

 

 

 柊始紀(ひいらぎしき)私の名前だ。「しき」なんて珍しい名前だと思う。家も武家屋敷で道場を開いていたりする。 

地主で任侠系の家だと認識されていたりする。それだけの、ちょっとお金持ちで、今時珍しい家柄の少女だった。

 そう。過去形だ。

 

 

 

 

 

二年前 十二月  

 

 

 「お嬢、持って来ました」

 襖を開けて着物を持って来た奴は黒崎。常に黒いスーツを着ている私の養育係。

 

 「そこに置いて」

 そう言って指を指した。彼は私が夜中に何をしているか聞かないし、大体察していてくれて何も言わないでいてくれる。良い奴だ。時々口煩いが。

 

 

 なぜか夜風に当たろうと出歩いてしまう。

 黒崎が出て行くと、持って来て貰った着物を着て短刀を帯に挟み家を出た。

 

 時計を見ると時刻は既に0時をすぎている。下駄を小気味良く鳴らしながら街中を歩いていくが、ふと立ち止まって目線を横にずらした。

 

 そこには路地裏に入る道があった。

 何かを考える隙もなく、ふらっと道を逸れて入ってしまう。

 

 だんだん街の光が薄れ暗くなって、音が聞こえなくなって、人々の熱気が冷えていく。仄暗い入り組んだ細道を進むと、入り口は遥か遠くにありもう見えない。まるで違う世界に来たみたい。

 

 

 –––––さらに進む。

 

 角を曲がったところで足を止めた。目の前には男が三人、恐らく手に持っているお金を見るに何かしらの取引だろう。おおよそ麻薬の類か。まだこんな事をしている人がいることに驚きつつも、さして気にせず通り過ぎようとした。

 

 「おい、待て」

 一人が手を伸ばしてくる。それを片手で弾き返すと、そいつは私を掴めるとでも思ってたのか、宙を掴んだ自分の手を見て惚けた。

 立ち去ろうとするが、前に残り二人が立ち塞がっていて通れない。

 

 「邪魔、退いて。」

 それでも彼等は動く様子も無い。少し目を三人で合わせた後、覚悟を決めた様子でナイフを取り出し一斉に襲って来た。

 

「––––フッ」

 ナイフを避けた後、踏み込んで腰に構えた拳を突いた。   踏み込みと同時に放たれた突きは、その男を吹き飛ばした。すぐさま振り向き、ナイフを振って伸ばされた腕の内側に自分の腕を添え、そのまま踏み込み、添えた腕を曲げて顔を守りつつ、もう一方の腕で腹部を打ち突く。最後の一人は顎を殴って気絶させた。 

 

 

 足下に倒れた奴等を見下ろして、何も思わなかった。沸いてくる感情は無い。憐れみ? 恐怖? そんなものはない。ただ身体は簡単に動いて制圧した。

 

 さらに奥へ足を進める。もう光は無い。目的もなく、何かに誘われるように歩いた。

 

 

 ひとつだけ、私には秘密がある。自分は転生した人間だということ。それでいて、この世界を知っている。型月、Fate作品であるのだと。気付いたのは後になってからだが、街の名前を見てすぐに気付いた。観布子市や、三咲町、冬木。そんな中、私は聞いたことも無い家に生まれた。しかしそれでも不自由の無い生活を送っていた。

 

 それが、こんな形で消え失せてゆくなんて。

 

 むわっと充満する生臭い匂い。飛び散った血がビチャビチャと歩くた度に音を立てる。

 この惨状を作った者がいた。気力も生気も感じられない、ただの物に成り果てた人だった存在。屍鬼。

 

 まさか、こんな所で遭遇するとは思いもしなかった。

段々と、神経が研ぎ澄まされていく。本能が告げる「殺せ」と。

 

 恐ろしくて忌まわしくて呪わしくて穢れていて狂おしくて痛々しくて吐き出しそうで葬られていなくて惨たらしくて埋葬されるべきで滅ぼされるべきで…

 

 殺せ、アレは存在してはいけない。殺せ、アレは人間では ない。お前が滅ぼすべきはアレだ。殺せ、滅ぼせ。殺せ、滅ぼせ。殺せ、殺セ、殺セ、殺セ!

 

「ーーその通り」

 

 小さく呟いた。本能のままに。いつの間にか手にしていた短刀を握り締める。

 スリットを空け膝を曲げる。

 そして、消えた。

 

 同時に屍鬼から血が噴き出した。首、脇下、股関節。

筋を裂かれ、もう動くことは出来ない。ただ唸る肉塊。

「うるさい」

 

 喉をかっ斬ると、途端に静かになった。

 

 

 

 

 

 

 私は、何をしたのだろう? 自分の手に握っているナイフを見て、着物の裾が赤く染まっているのを見て、足下に転がっているモノを見て………

 

 

 私は、何をしたのだろう? 殺すことしか頭になくて………

 

 

 ……殺す? そう、殺したのだ。

 

 「はは、はははは、」

 気付くと、乾いた笑いが出ていた。

 

 

 

 雪が降り出した。

 

 そこからは、あまり覚えていない。

 ただ、目の前に家の門が見えていた。

 

 何処か、心ここに有らずの状態。

 だから、気付かなかった。

 

 光はそこまで迫っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈍い音は、私の視界をぐるりと回す。

 

 背中から地面に打ち付けた。

 頭の後ろが湿って温かい。頭を打って切れたのだろう。

 

 軽く積もった雪に、血が拡がっていく。

 

 

 最後のに見たのは、私に降り注ぐ白い雪。

 

 「……罰、かな…」

 

 

 そして、堕ちてゆく。

 

 

 

 




 評価が怖い。が、やってみるだけ。


 本編主人公

 氏名 柊始紀 (ひいらぎしき)

 概要 中性的な顔立ち。肩口で切った髪の毛。両儀式と似ている。

 以上
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