疼らく境界   作:熾烈

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十話 柊始紀/2 俯瞰風景

 

 今日は橙子とあの病院へやって来ていた。

 いつの間にか幹也は目覚めていて、ことは解決していた。

 

 関わろうと思っていても、既に終わった後なのだからやりきれない。

 

 そして、この病室には今にも消えてしまいそうな少女がいる。

 

 「失礼。巫条 霧絵というのは君か」

 彼女と橙子の会話を隅のほうで聞いていた。

 

 

 しばらくして。

 「邪魔をした。これが最後になるが、君はこの後どうする? 式にやられた傷なら私が治療してもいい」

 

 彼女は首を横に振る。

 

 

 わたしは何もしなくて良いのだろうか。わたしがこの世界にいる理由は? ただ静観するだけの存在か? それは違うはずだ。生まれたのなら、意味があるはずた。

 

 

 

 橙子は少しだけ眉をひそめたようだ。

 

 「......そうか。逃走には二種類ある。目的のない逃走と、目的のある逃走だ。一般に前者を浮遊と呼び、後者を飛行と呼ぶ。

 君の俯瞰風景がどちらであるかは、君自身が決める事だ。だがもし君が罪の意識でどちらかを選ぶのなら、それは間違いだぞ。我々は背負った罪によって道を選ぶので

はなく、選んだ道で罪を背負うべきだからだ」

 

 

 わたしは、死を通して生の喜びを感じなければならない。だけど、死………いや、あんなところへなんて行きたくない。絶対に。死なんて一回きり、その背筋を凍らす怖れはとてつもなく絶大だろう。…………でも、それだけだ。

 

 日常的にこの眼は死を見せつけてくる。目を潰したくなる程、自殺したくなる程、狂おしいぐらいに。

 

 だから、だから『死』なんて大嫌いだ。

 

 

 

 「おい、どうした。帰るz「橙子、こいつを治療しろ」

 

 「は?」

 橙子は訳が分からない。何を言ってる? という顔をした。

 「橙子、私は死が嫌いなんだよ。自分で死んで楽になろうだなんて烏滸がましい」

 苛立っているのか、口調が荒れている。

 「お前…………………………………………………良いだろう」

 

 今、己の眼は爛々と蒼白く輝いていることだろう。

 そんな始紀を橙子は見て、危ないな。と判断した。

 

 

 「あ、あの。そんなこと、していただかなくともいいです!」

 巫条 霧絵は治療をしたくないと言う。

 「お前は負けたんだよ。一度死んだんだ。そんなお前の意思なんて知らん。勝った方の言うことを聞け!」

 怒りを滲ませながら言う。命令する。

 

 「死ぬな! 生きろ! そして死を渇望しろ!!」

 

 

 「おおぉ」

 橙子はそんな光景を見て感嘆を漏らしていた。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「慣れない事はするものじゃ無いわね……」

 帰り道、わたしは疲れていた。恥ずかしんでもいた。

 

 「はははは」

 橙子は笑っている。

 「それにしても始紀。お前の口からそんな言葉が出るなんて、明日は槍でも降りそうだな。式なら無関心だろう」

 

 伽藍堂に着けば橙子は準備にかかるだろう。これから忙しくなる。

 

 彼女、柊始紀の足取りは、ほんのちょっと軽かった。

 

 

 

 

 これで良かったのだろうか? 荒耶宗蓮の計画の一端を潰してしまったような。

 

 案外、原作というモノに捕らわれないのが良いのかもしれない。今や、この世界に生きる、一つの命なのだから。

 

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