結果として巫条 霧絵は生きながらえた。
わたしによって。
身体の機能が治った今、リハビリをしている。
「橙子、彼女をここの……」
「駄目だ」
「最後まで聞いてからにしなさいよ」
「身寄りの無い彼女をここの従業員にして住まわせるつもりだろ。駄目だ」
なんと無情。
「最後まで面倒を見ないの?」
「彼女を治せと言ったのは君ではなかったかな?」
「わかったよ、わたしの負けだ」
結果、わたしが折れたのだった。
そして悩んだ末、家で雇うことにした。住み込みで働いて貰うので衣食住は安心できる。お給金もあるので嗜好品も買える。とてもホワイトな職場であると言えよう。
その旨を病院で伝える。
「…………そう」
静かに彼女は返事した。
巫条 霧絵を救った。と言うわけではないが、生きながらえさせた。しかし、たったそれだけ。
彼女が堕落から逃れた。その後は? ない。
自己満足だ。元より理解していた。でも、わたしが存在していることを、わたしはここにいたと、世界に知らせたかった。爪痕を残したかった。
目の前にいる巫条 霧絵を眺めながらそんなことを思っていた。
◇◇◇
ある日、ここ伽藍の堂で。
「へえ、綺麗な回路ね。質はEXってところか。ただ量は少ない」
そう、魔術回路を調べていた。
事の発端はわたしの
「わたしにも魔術は使えるかしら?」
と、素朴な疑問からだった。
そして、橙子が調べてみようと言い、今に至る。
「魔術は使える。質だけは時計塔のロードにも優るぐらいだな。うん、十分だ。ただ量は少ないから大きな魔術の試行は出来ない。ここだけ気を付けろ。まあ、質で補えそうだがな」
と言われた。
「でも橙子。あまり実感が無いのだけど……」
「そこは安心しろ。一から教えてやる」
「今から?」
「そうだな………そろそろ来る頃だろう」
はて? と思った時、ガチャリ。扉が開いた。
「橙子師、今日は何の用ですか。話があるって?」
姿を現したのは黒桐鮮花だった。
「おお来たな。お前はこれからこいつと授業を一緒に行う」
「一緒にって………ああぁ! この前の式擬っ!」
「ほら、言ったでしょ。そのうち会えると」
「面識があるなら早い、早速始めるぞ」
橙子の号令と共に講義が開かれた。
起源とは、魔術師に限らず、あらゆる存在が持つ、原初の始まりの際に与えられた方向付けられた物事の本質。
それは知ろうが知るまいがこの方向性に従って人格を形成し、存在意義を持つ。
稀ではあるが、起源を複数持つ、或いは後天的に変化することもある。本当に稀だがな。
そして魔術との関係だ。
魔術属性が魔術の根幹を成すならば、起源は存在の根幹を成すといえ、起源が強く表に出るとそのまま魔術属性になる場合がある。
起源そのものを魔術属性としている魔術師は、通常の属性を用いての魔術とは相性が悪く、汎用性がない。その代わり、一芸に特化した専門家にはなりやすい。
鮮花は起源に関係なく、一芸特化型だがな。それでも神秘を扱う者が減ってきている現在、就職は引く手あまただ。
…………………………………………………… ……… …… …… …
「わたし起源って、なんだろう?」