疼らく境界   作:熾烈

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十一話 閑

 

 結果として巫条 霧絵は生きながらえた。

 わたしによって。

 

 身体の機能が治った今、リハビリをしている。

 

 

 「橙子、彼女をここの……」

 「駄目だ」

 「最後まで聞いてからにしなさいよ」

 「身寄りの無い彼女をここの従業員にして住まわせるつもりだろ。駄目だ」

 なんと無情。

 「最後まで面倒を見ないの?」

 「彼女を治せと言ったのは君ではなかったかな?」

 

 「わかったよ、わたしの負けだ」

 結果、わたしが折れたのだった。

 

 そして悩んだ末、家で雇うことにした。住み込みで働いて貰うので衣食住は安心できる。お給金もあるので嗜好品も買える。とてもホワイトな職場であると言えよう。

 

 

 その旨を病院で伝える。

 

 「…………そう」

 静かに彼女は返事した。

 

 巫条 霧絵を救った。と言うわけではないが、生きながらえさせた。しかし、たったそれだけ。

 彼女が堕落から逃れた。その後は? ない。

 

 自己満足だ。元より理解していた。でも、わたしが存在していることを、わたしはここにいたと、世界に知らせたかった。爪痕を残したかった。

 

 目の前にいる巫条 霧絵を眺めながらそんなことを思っていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 ある日、ここ伽藍の堂で。

 

 「へえ、綺麗な回路ね。質はEXってところか。ただ量は少ない」

 そう、魔術回路を調べていた。

 事の発端はわたしの

 「わたしにも魔術は使えるかしら?」

 と、素朴な疑問からだった。

 そして、橙子が調べてみようと言い、今に至る。

 

 「魔術は使える。質だけは時計塔のロードにも優るぐらいだな。うん、十分だ。ただ量は少ないから大きな魔術の試行は出来ない。ここだけ気を付けろ。まあ、質で補えそうだがな」

 と言われた。

 

 「でも橙子。あまり実感が無いのだけど……」

 「そこは安心しろ。一から教えてやる」

 「今から?」

 「そうだな………そろそろ来る頃だろう」

 はて? と思った時、ガチャリ。扉が開いた。

 

 「橙子師、今日は何の用ですか。話があるって?」

 姿を現したのは黒桐鮮花だった。

 

 「おお来たな。お前はこれからこいつと授業を一緒に行う」

 「一緒にって………ああぁ! この前の式擬っ!」

 「ほら、言ったでしょ。そのうち会えると」

 

 

 「面識があるなら早い、早速始めるぞ」

 橙子の号令と共に講義が開かれた。

 

 

 

 起源とは、魔術師に限らず、あらゆる存在が持つ、原初の始まりの際に与えられた方向付けられた物事の本質。

 それは知ろうが知るまいがこの方向性に従って人格を形成し、存在意義を持つ。

 稀ではあるが、起源を複数持つ、或いは後天的に変化することもある。本当に稀だがな。

 

 そして魔術との関係だ。

 魔術属性が魔術の根幹を成すならば、起源は存在の根幹を成すといえ、起源が強く表に出るとそのまま魔術属性になる場合がある。

 起源そのものを魔術属性としている魔術師は、通常の属性を用いての魔術とは相性が悪く、汎用性がない。その代わり、一芸に特化した専門家にはなりやすい。

 

 鮮花は起源に関係なく、一芸特化型だがな。それでも神秘を扱う者が減ってきている現在、就職は引く手あまただ。

 

 

 …………………………………………………… ……… …… …… …

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「わたし起源って、なんだろう?」 

 

 

 

 

 

 

 

 

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