久々の実家はひっそりとしていた。
真っ暗な自分の部屋に静かに入る。
ぽつんと置いてある刀を手に取った。鉄の重みが伝わってくる。しかしそれだけだ。歴史の重みなどない。
魔術的な強さとは、神秘の大きさ、濃さなどで決まる。そして、古ければ古いほどそれは強大になるのだ。なのでこの刀はなんの力も持たない。あるのは殺す為の道具。
部屋を出た瞬間、柄にもない悲鳴をあげそうになった。というのも襖を開けた目の前に女がいたからだ。
夕陽の逆光を浴び、長い鴉濡れ羽のごとく髪の毛が艶やかにあった。
巫条霧絵。
「………どこか、行かれるのですか?」
かすれ気味の声は
「ええ」
ただ短く肯定した。
影が動いた。
は?
唐突過ぎて理解が追い付かない。
胸に重みを感じ、後ろに倒れそうになった。
自分がよく使うシャンプーの匂いが微かにする。
「どこにも、行かないで……」
耳を
抱きついてきた彼女。腰に回された腕に力が籠る。
混乱する思考、感情、思いの中、返事をした。
「…………………………わかった」
わたしも彼女の背中に手を回し、優しくさすったのだった。
わたしの着物は肩辺りが濡れていた。
暫くして腕の中から規則正しい呼吸音が聞こえてきた。
寝てしまった彼女を自分の蒲団に横たわらせる。
ゆっくり上下する胸を見下ろして考える。いつの間にかに情が沸いてしまったのだろうか、と。いや、これは情なのか?
外側から観てた時、ただ可哀想な
彼女の身体が冷えないように肩の上まで掛け布団をかけてあげると、そっとその場をわたしは後にした。
◇◇◇
「遅かったじゃないか」
車に戻ると橙子が煙草を吸っていた。
巫条霧絵を寝かせてから来たので、大体20分ぐらい過ぎたらしい。日がさらに傾いている。
「ごめんなさい橙子。ちょっと手間取っちゃって」
それだけで橙子は察したよう。
煙草の火を消し、車が発進する。
「わかっているとは思うが、巫条霧絵はそう長くないぞ」
橙子が前を見ながら言ってきた。
「前から知ってたわよ」
「……そうだな、彼女はぼろぼろだ…………身体は万全だ。私が作ったのだから。だが、気力だったり精神もしくは魂とかは別だ。そこまで彼女は強くない。私の見立てでは冬までだった。
ただまあ、様子を見るに暫くは大丈夫そうだな。他人に生の実感を求める辺りはましだろうから」
「そう、ね」
しばし沈黙があった。
エンジンの音が響く。
「その刀は何か銘はあるのか?」
少し重たい空気を振り払うよう、橙子が話題をふった。
「銘はない、無銘のただの現代刀ね。まえに聞いたけど、良く切れるらしい。作者は、ただ斬れろ。と思いを籠めて造ったのかもね」
「成る程…………概念霊装と言うには弱すぎるが、期待は出来そうだ。
━━━━━さあ、着いたぞ」
車から出ると、特徴的な円柱の建物小川マンションが見える。
「さて、入りましょうか」
橙子は大きな旅行鞄を片手に、わたしは刀を持ちナイフを帯に差して準備満タン。
さあ、この殺人衝動をぶちまけましょう。