疼らく境界   作:熾烈

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 明けましておめでとうございます


十八話 矛盾螺旋

 

 

 矛盾螺旋、相剋した螺旋、生と死の螺旋。

 人間のDNAのように美しい二重螺旋構造。しかし、その塩基配列が変化することがある。

 生と死が繰り返される中、産まれるズレ。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 「おい、ちょっと待て。その手に持っている物はなんだ?」

 橙子が聞いてきた。

 

 「何って、ほら」

 手に持っている、正確には指と指の間に挟んでいるものを橙子に見せた。

 

 「はぁ、何故そんなものを持っているんだ……」

 そう、黒鍵だ。

 「縁が出来てしまったから、貰ったのよ」

 呆れた彼女は溜め息だけ残した。

 

 

 

 わたし達は自動ドアを潜る。

 

 「気持ち悪い」

 思わず口に出した。

 

 

 橙子の後についてロビーに向かう。

 

 「驚いたな。急性なんだねぇ、キミは」

 男性にしては高い声が響く。

 

 吹き抜け構造の長方形の広いロビー。

 二階に繋がっている階段の途中に真っ赤なコートを着た男が立っていた。

 「だが、それは喜ばしい事でもある。ようこそ私のヘゲナに。歓迎するよ、最高位の人形使い」

 

 魔術師コルネリウス・アルバは芝居がかった仕草で一礼した。

 

 「ところで弟子を二人もとっているなんてどうしたんだい?」

 「はぁ、二人? それは一体誰の事だ?」

 呆れたように橙子は言う。

 

 「ほら、あの黒いメガネの子と、キミの隣にいる子…………は!? リョウギシキだと!?」

 

 どうやら、わたしを両儀式と勘違いしたらしい。

 「くっ、残念ながらこいつは両儀式じゃないぞ。そして、そのメガネの方はただの従業員だ。魔術師の魔の字もない。そして正真正銘の弟子は、隣のこいつだ」

 勘違いにツボったようで嗤う橙子。

 

 

 

 「それで、地獄(ヘゲナ)?」

 「ああ、そうとも。ここはヒンノムの谷にあった火の祭壇の再現だ・・・・・・・・・」

 

 

 

 

  ・ ・ ・

 

 

 

 

 ずらずらと得意気に魔術について話す魔術師。嫌気が差してきて、小声で橙子に問うた。

 

 「ねぇ、殺っちゃってもいい?」

 「まあ待て。私がやる」

 わたしに苦笑しながらトランクを足の爪先でつついた。

 

 「━━━━━━━出ろ」

 その言葉と共に開くトランク。

 何も無い、伽藍の鞄。だが、その口が開いた途端わたしは怖気(おぞけ)がした。

 ぶわっと何かが溢れ出し、一瞬にしてロビーを走り回る。

 建物の壁や床、天井から溢れ出たスライムを消した。

 

 

 

 アルバは喚くが、その雑音は始紀には届かない。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ふと、何故こんなにもアレ(荒耶宗蓮)を殺したいと思っているのか疑問が浮き出た。もっとも、その疑念は直ぐに解消されたが。『その存在が赦されない。不快である』と。

 本能的な拒絶反応、()()()()()()()()()()()から涌き出るようなそれは、己を動かすには十分なものだった。

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 「………………はっ」

 気が付けば、胸をぶち抜かれ鮮血を撒き散らした橙子が横たわっていた。ついでに頭もなかった。

 

 

 「いつまでそうしているつもりだ、柊始紀」

 深い、声だ。

 「━━━━━荒耶、宗蓮」

 目の前に立っている黒い魔術師。

 

 「……………………………」

 「……………………………」

 無言で向かい合う。

 手に持った刀を鞘から抜く。

 

 「一つ問おう。━━━━━何故、ここに立っている?」

 「……なんでだろうね。本当に」

 「また答えをはぐらかすつもりか」

 苛つきが感じられる。

 

 「殺したくて殺したくて、うずうずしてるんだけどね、でもやっぱり無理だって、お前と今会ったら思った。わたしの役ではない」

 

 

 

 

 

 わたしは知っている、識っている。

 『現在(いま)』を。

 『過去(まえ)』を。

 『未来(さき)』を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……………貴様は一体何を知っている? 

 書物を読んでいるかのような俯瞰した在り方。

 何を見ている、何が視えている!? 答えろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全て(物語)を。

 

 全て(人生)が。

 

 全て(ぜんぶ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「わたしは要らないのよ。いなくとも変わらない」

 荒耶宗蓮を無視し、話は続く。

 

 「あぁ、でも少しは愉しまなくちゃね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俯いていた顔を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「無為識(むいしき) 空の境界。

 

 ━━━━━━━これは永遠のような夢。        

           されど終わりはある」

 

 

 

 

 

 

 

 




 無為識はただの造語です。
 
 主人公の活躍が少ないのが気掛かりでしたが、やっとです。
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