「式、誕生日おめでとう」
残念ながら、祝いの詞に見合う歓迎ではなかった。
キィン
式が取り出したナイフが柳刃包丁を弾いた。
笑顔で切りかかってくる柊始紀。とても尋常ではない。
「おい、」
どういうつもりだ? と聞く式。
「いやねぇ、お祝いしているのよ」
こんな祝い方があってたまるか。
言葉を交わしてる間にも戦いは繰り広げられている。
「ぁ…」
式の手からナイフが落ちた。
「ふふん、これでわたしの一勝」
得意気な始紀。式とは定期的の気が向いたら勝負し合うのだ。これで始紀は十七勝、十六敗、引き分けはない。
「………………」
無言で悔しそうに見つめてくる彼女。思わずゾクゾクしてしまう。
◇
ここ蒼崎橙子の事務所、伽藍堂はいつもと違って活気がある。
部屋のテーブルにはパティシエも顔負けのケーキと軽食が置かれている。
「おお、これは凄いな」
橙子もこれには感心した。
「…………ふん、」
静かにしていた式がまたもや拗ねた。確かに彼女もこの位の料理は出来るだろう。
「改めて、誕生日おめでとう」
黒桐兄妹と橙子そしてわたしがそれぞれ言う。
「……………………ああ」
ほんのり頬を紅く染めて、ぼっそっと呟いた。
その
誕生日といったら、一番の醍醐味はそう、誕生日プレゼント。
「はい、式。プレゼントよ」
渡したのは15、6cmほどの
「なんだこれ? 刃がないぞ」
彼女はこれが柄だとちゃんと理解した。
「いいえ、刃はあるわ」
シュッ
柄から刀身が出てきた。それは
「おおー」
この感嘆は橙子だ。大方、ギミックの方に感心してるのだろう。対して式はまじまじと短刀を見つめている。
ちなみに柄には『両儀』と彫ってある。
「おーい、式?」
「━━━━━━━━━━━━━」
声が聞こえていない。だめだ、刃物に魅入られている。
「式、返事して」
「…………………ちょっと、試し切りしてくる」
私に反応したかと思ったら、そう告げて伽藍の堂から出ていってしまった。
その足取りは弾んでいたと記しておこう。
「あ、行ってしまった……」
伸ばした手は虚しく空気をつかんだ。
「僕、追いかけますね」
黒桐幹也は式を追いかけて出ていった。
残ったのは橙子と鮮花とわたし。そして豪華な食事とケーキ。
「取り敢えず、勿体ないから食べるか」
橙子が言い出し、皿に料理を盛る。それに習い、わたし達も食事を始めたのだった。
◇
「ん━━━美味しい! 橙子さん、これお勧めですよ」
「そうか、どれ食べてみようか」
と、この調子で二人は結構な量を食べた。
「橙子さん、戻りました………って、もうほとんど残ってないじゃないですか!」
食い荒らされたテーブルを見て愕然とする幹也。その後ろにいた式は、だんだんと表情が雲って行く。
「こうなると思って、ちゃんと残してあるわよ」
そう言って、厨房を指差す。
「ほんとだ、ありがとう柊さん」
途端に式の貌が輝やく。よく見ていないと分からない位の変化だ。
◇◇◇
つつがなく誕生日会は終わり、片付けをしていると。
「そういえば橙子さん、先月の給料まだですか?」
「…………………………………………………あはは、」
短刀:モデルは七夜の短刀。リメイクver.