疼らく境界   作:熾烈

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2023.2/17 Happy birthday.


十九話 閑

 

 「式、誕生日おめでとう」

 

 残念ながら、祝いの詞に見合う歓迎ではなかった。

 

 キィン

 

 式が取り出したナイフが柳刃包丁を弾いた。

 笑顔で切りかかってくる柊始紀。とても尋常ではない。

 

 「おい、」

 どういうつもりだ? と聞く式。

 「いやねぇ、お祝いしているのよ」

 こんな祝い方があってたまるか。

 言葉を交わしてる間にも戦いは繰り広げられている。

 

 

 「ぁ…」

 

 式の手からナイフが落ちた。

 「ふふん、これでわたしの一勝」

 得意気な始紀。式とは定期的の気が向いたら勝負し合うのだ。これで始紀は十七勝、十六敗、引き分けはない。

 「………………」

 無言で悔しそうに見つめてくる彼女。思わずゾクゾクしてしまう。

 

 

 

 ここ蒼崎橙子の事務所、伽藍堂はいつもと違って活気がある。

 部屋のテーブルにはパティシエも顔負けのケーキと軽食が置かれている。

 「おお、これは凄いな」

 橙子もこれには感心した。

 「…………ふん、」

 静かにしていた式がまたもや拗ねた。確かに彼女もこの位の料理は出来るだろう。

 

 「改めて、誕生日おめでとう」

 黒桐兄妹と橙子そしてわたしがそれぞれ言う。

 「……………………ああ」

 ほんのり頬を紅く染めて、ぼっそっと呟いた。

 その(かお)の破壊力ときたら、彼女を気に入らない鮮花でさえ「うっ」と胸を押さえていた。

 

 

 誕生日といったら、一番の醍醐味はそう、誕生日プレゼント。

 「はい、式。プレゼントよ」

 

 渡したのは15、6cmほどの(つか)

 「なんだこれ? 刃がないぞ」

 彼女はこれが柄だとちゃんと理解した。

 「いいえ、刃はあるわ」

 

 シュッ

 柄から刀身が出てきた。それは諸刃(もろは)で、若干彼女が使っているものより細身で薄い。

 

 「おおー」

 この感嘆は橙子だ。大方、ギミックの方に感心してるのだろう。対して式はまじまじと短刀を見つめている。

 ちなみに柄には『両儀』と彫ってある。

 

 「おーい、式?」

 「━━━━━━━━━━━━━」

 

 声が聞こえていない。だめだ、刃物に魅入られている。

 

 「式、返事して」

 「…………………ちょっと、試し切りしてくる」

 私に反応したかと思ったら、そう告げて伽藍の堂から出ていってしまった。

 その足取りは弾んでいたと記しておこう。

 

 「あ、行ってしまった……」

 伸ばした手は虚しく空気をつかんだ。

 

 「僕、追いかけますね」

 黒桐幹也は式を追いかけて出ていった。

 

 残ったのは橙子と鮮花とわたし。そして豪華な食事とケーキ。

 

 「取り敢えず、勿体ないから食べるか」

 橙子が言い出し、皿に料理を盛る。それに習い、わたし達も食事を始めたのだった。

 

 

 「ん━━━美味しい! 橙子さん、これお勧めですよ」

 「そうか、どれ食べてみようか」

 と、この調子で二人は結構な量を食べた。

 

 「橙子さん、戻りました………って、もうほとんど残ってないじゃないですか!」

 食い荒らされたテーブルを見て愕然とする幹也。その後ろにいた式は、だんだんと表情が雲って行く。

 

 「こうなると思って、ちゃんと残してあるわよ」

 そう言って、厨房を指差す。

 「ほんとだ、ありがとう柊さん」

 途端に式の貌が輝やく。よく見ていないと分からない位の変化だ。

  

 

◇◇◇

 

 

 つつがなく誕生日会は終わり、片付けをしていると。

 

 「そういえば橙子さん、先月の給料まだですか?」

 「…………………………………………………あはは、」

 




短刀:モデルは七夜の短刀。リメイクver.
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