「成る程な。柊、古来より魔除けに使う植物。それが苗字なら頷ける。シキってどう書くんだ?」
橙子が聞く。
「調べたんじゃないのかしら? でも良いわよ。始まりを紀(しる)すと書いてシキ」
言った後、本日二回目の説明かしら? と小さくぼやいた。
「……はぁ、全くなんでそんな意味深かげな名前なんだ。」
一人で疲れて、わたしに話しを続けるよう促す。
「―――就職したいんです。ここに」
皆、何故という顔でこちらを見ている。
「死を知ってしまったわたしは正気じゃいられない。生きている心地がしないの」
「つまり、なんだ。人を殺したいのか?」
「人にこだわるつもりは無いわ。生きてるって実感が有ればいい。」
「何故ここだ、ここに就職したい?」
「わたしは普通じゃない。普通の中で非常識は生きずらい。それだけ」
「……ふん。良いだろう。ただ式と殺し会うなよ」
そして無事、就職が決まった。
◇
これはとある日常の一幕。伽藍の堂にて。
「おい、その刃物はどうした?」
帯に差していたナイフを橙子は見つけたようだ。
「家にあったナイフだよ。蔵の中から引っ張り出してきたの」
ナイフを取り出して見せる。そして鞘から刃を抜こうとした。
「おい、待て。待て待て」
急な静止がかかる。
「……何よ」
「ここでそれを抜くな。事務所の結界が切れたらどうしてくれるんだ」
橙子曰く、歴史を積み重ねた武器はそれだけで魔術に対抗する神秘になるのだとか。
それにわたしは、クククと笑ってしまった。
「何がおかしい?」
不機嫌になった橙子が言う。
「だってこのナイフ、歴史なんか十年も経ってないわよ」
「え?」
可愛らしい声だった。聞くことなど今後一切無さそうな声。これが橙子のだなんて考えられない程の。
「………蔵から出して来たと言っただろう。」
「そうよ。これはね裳着のときに親から貰ったものなの。だからこのナイフに力はないわ。でも御守りくらいにはなるけどね。それで使わなかったから、そのまま御蔵入りってわけ。ああ、親が注文して新しく作らせた物だからね」
そう言ったら橙子は安心したようだった。
ほら、と彼女に渡す。橙子刃刃を出して慎重に見て行く。十分見た後返してくれた。
ぬぅっと手が伸びてきた。
ぺしっ。
「…………………………………………………………………………………………………………………」
手の主を見る。……両儀式。真意を探るよう式を、瞳をじっと見つめる。
ぺしっ。
また手が伸びてきた。
「…………………………………………………………………………………………………………………」
ぺしっ。
ぺしっ。
ぺしっ。
べしっ。
ぺしっ。
べしっ。
ぺしっ。
伸びてくる手を叩き落とす。
猛攻のスピードは徐々に上がっていく。
「って、何なのよ!」
「お前こそ何なんだ」
式が言い返しながら赤くなった手を見せてくる。
「ぷっ。くくくく、っはははは」
橙子が笑ってる。
わたしは橙子にジト目を向ける。
「おい。そのナイフ、オレにも見せろよ」
拗ねた感じの式が言ってくる。正直、拗ねた式も可愛いおもう。
「だーめ」
と言うと。
「………」
僅かに頬を膨らまして拗ねる。そんなやり取りを見て、橙子は更に爆笑していた。
「いや、なんかお前達のそれがな、可愛い姉妹喧嘩に見えてしまってな。くくく」
まだ笑ってる。
結局、わたしが根負けして式に自分のナイフを見せたのだった。
「今度、式のも見せるなら良いわ」
と条件付きで。