疼らく境界   作:熾烈

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 間に合ったぁぁ。


六話 痛覚残留/編

 

 

 わたし、柊始紀は転生者だ。男性だった覚えがある。しかしこの世界に順応して、女に生まれた自分は女性としての意識、言葉遣い、振る舞いをする。それは自然なのだ。たとえ自身が男だと思っても、やはり女であると認識する。ここまで時が経つと自分は女性だと考えるのも仕方がない。

 つまり、何が言いたいのかというと、知らずうちに陰陽を補完してしまっているということ。いや、どこか意識の片隅で理解はしている。

 

 

 

 ある日伽藍の堂に来ると、橙子以外誰も居なかった。おはようと挨拶した。

 ほったらかしの封筒から少しだけ写真が見えている。抜き取った。

 

 「浅上藤乃………」

 「ああ、それは依頼なんだがな、一昨日の晩の事件の犯人を殺して欲しいんだと」

 気づいた橙子が説明する。

 

 「ふーん」

 知っているわたしは、この結末がどうなるか分かっている。さして興味無さそうな返事をした。

 

 「反応が薄いな。式の方は食らいついたがどうした?」

 橙子が質問した。それに沈黙で返す。

 

 「………式の手伝いぐらいはやってあげる」

 とりあえず、そう言って事務所を出たのだった。

 

 「似ているかと思えば違ったり、逆だったりするものなんだな」

 一人残った橙子はそう考えた。

 

 

 

 あてもなく伽藍の堂を出たわたしは、炎天下の中歩いている。日は真上に達し、そろそろお昼なのだろう。

 

 最近よく通う喫茶店アーネンエルベに足を運ぶ。店内は涼しく、また寒過ぎない丁度良い温度に保たれている。仄暗く光量の少ない造りは落ち着きがあった。

 

 

 

 「式、あんたの仕業ね……!」

 たいして大きくない声でも良く聞こえて来た。

 

 奥のテーブルに目を向けると、見知った着物の女がいた。そして席に座っている女性が二人。

 彼女達に近付いて呼びかけた。

 

 「奇遇ね式。」

 式は目を向けただけだった。一方式と話していた女子生徒は。

 

 「な、な、な……し、式が二人!」

まさに驚愕。この世の絶望のような表情だった。

 

 「まぁ、シキが二人というのはあながち間違いではないわね」

 名前は同じなんだから。

 

 「あんた、双子だったの…?」

 

 面白くて肩を震わせた。

 式は面倒くさそうに否定した。

 「違う。こいつとは血も繋がってない。」

 

 「遂に本性を見せたわね式! 自分の姉妹を家族じゃないなんて!!」

 

 なにか勘違いして想像を膨らませたその少女は式を糾弾する。

 だめだ、笑いを抑えきれない。深呼吸をする。

 「そうですよ。わたしは柊始紀という名前があるのです。」

 と、左手の人差し指を立てて諭すよう言う。

 

 「────っ…………!」

 私の言葉をだんだん理解すると、彼女は己の勘違いと妄想に顔を真っ赤にして恥ずかしんだ。

 不機嫌だった式も肩が小さく震えていた。

 

 「こほん。───と、ともかく私は黒桐鮮花よ! ………今日の用件はあんただものね、藤乃。兄さんが来れなくてごめんなさい」

 彼女、鮮花が隣の藤乃という少女に謝る。

 

 

 「おまえ─────痛くないのか」

 式が藤乃に言った。

 「……いや、おまえじゃない」

 

 それから式は鮮花に声をかける。

 「用件はそれだけ。何かあいつに伝言はあるか」

 「それでは一つだけ伝えてください。兄さん、早くこんな女と手を切ってください。と」

 

 鮮花は本気の目をしていた。

 

 

 

 

 

 

 Side Azaka.

 

 式が出ていくのを確認した。そして目線を戻すと、何気なく私たちのテーブルに座った()()()()がいた。

 「なんでここに座っているのよっ!」

 

 「あら、ごめんなさいね。これも何かの縁だと思って頂戴」

 そいつは悪びれもなくニコニコしながら謝る。

 イライラしてると藤乃が小声で窘める。

 

 「黒桐さん、その、皆さんが驚いてます」

 藤乃に怒られてしまった。

 

 

 

 

 そいつはいきなり式の隣に来て、奇遇ね。なんて挨拶をした。正直あたまの中が真っ白になった。式と瓜二つ、ではないけど少し似ている。雰囲気とかも似ていた。髪は式より長くて後ろに軽く結ってある。どこか女性のような空気を纏っている。

 

 妹。脳に浮かんだ言葉はそれだった。

 はっ! まさか二人とも兄さんを狙っている?!

 明後日の方向に思考が行ったが、それはないと否定する。そして、思ったことが口に出ていた。

 

 「あんた、双子だったの?」

 しかし、式の返答は否である。

 納得できなかった。絶対姉妹なのだと。

 

 「遂に本性を見せたわね式! 自分の姉妹を家族じゃないなんて!!」

 

 変な言葉を口走った。そうしたらその式モドキが目の高さを椅子に座っている私に近づけて、左人差し指を立てて言ってきた。

 

 「そうですよ。わたしは柊始紀という名前があるのです。」

 凜とした声。思わず惚けてしまったけど、だんだん言葉を呑み込んで他人だと理解した。

 

 顔が暑くなってくる。

 

 

 とても、とても、とっても恥ずかしかった。あの式の前で赤っ恥をかいたのが、とっても悔しくて恥ずかしかった。

 

 

 

 

 隣の式モドキ。柊始紀は軽い昼食をとっている。

 式とどういう関係なのか聞いても、のらりくらりとはぐらかしたり、意味あり気に微笑んだりしてイラつく。

 

 結局、収穫無し。でも、その内教えるし知ることになる。と言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 教訓。シキの名前は、関わるとロクなことがない。

 

 

 





 ピンポンパンポーン


 お知らせですよー。

 諸事情によりこれから三週間お休みします。と、報告します。
 ちなみに諸事情は試験であるとも報告します。



 読者の皆様、これからも宜しくお願いします。
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