十入
悪魔学校バビルスにおいて一年生全クラス、共用のゴミ捨て場はなんと『問題児クラス』の教室の先にあった。更に他のクラスから見れば『問題児クラス』は他とは隔離されていて、教室までの進路などを含めても劣悪な環境である。
だからこそか『問題児クラス』は落ちこぼれの集まりなのだと勝手に思われており、魔界における悪魔社会は『位階重視』であり、実力主義の世界である。
よって……。
「良し、後はあいつらにやらせようぜ」
「ああ、いちいちゴミ捨て場まで行くの面倒だしな」
「そうそう、問題児なんだからこれくらいは役に立ってもらわないとな」
自分のクラスのゴミを捨てに来た数名の悪魔がゴミ捨て場まで行かず、『問題児クラス』の教室の手前の階段の広い踊り場に丁度良いとばかりに捨てた。
「それにしても
「最下級の落ちこぼれの癖してよぉ。あんだけ、イキがってたってのはむかつくぜっ!!」
「今度、皆で身の程って奴を教えてやろう」
「おう、良いなそれ」
バビルスに入学してから大きく注目を集めてきた入間の位階が最下級である『1』と判明した事で彼を敵視していた悪魔たちは途端に入間を舐め腐り、劣等種だとばかりに嘲るようになった。
そして、いずれ痛い目に合わせてやると決めて笑い声を上げたものの……。
「今度と言わず、今やれよ」
『っ!?』
かけられた声の方向を見れば其処には入間がおり、「貴様ら、入間様に良くもそのような口を……」と凄まじい怒りを纏っているアリスと「これ以上、入間ちを馬鹿にすると怒るよ」とアリスと同じく、怒りを纏っているクララが居た。
二人の怒気、それに口調こそフランクであるが、感情を伺わせない入間の様子に先程まで入間を馬鹿にしていた悪魔たちは一瞬にして気圧された。
「ん、聞こえなかったのならもう一度言おう。俺を叩きのめしたいなら今、かかって来い。俺は逃げも隠れもしないし、アリスにもクララにも手は出させない。そして、痛い目に遭わされた後、爺さんが報復するなんていう事も絶対に無いと悪魔として誓おう。ほら、俺に身の程を分からせる千載一遇の好機だぞ? もっとも
入間はアリスとクララに手振り身振りで控えさせつつ、悪魔たちの前へと進み出ながら語り掛けた。
「い……いや……その……」
「こ、言葉の綾というか……」
「じょ、冗談だよ……あはは」
入間から放たれる重圧感により、悪魔たちは先程までの雰囲気はどこへやら、すっかり意気消沈していた。
「……ところでそのゴミは全部、燃えるゴミか?」
入間は悪魔たちが置いたゴミの山を差す。
「え、あ、ああ。そうだ」
「なら、今回だけこっちで処理してやるよ」
悪魔の一人が頷いたのを見て、入間は自分の右手の中指に填められている『悪食の指輪』のメモリ、サリバンが設けた魔力の三段階に調節された出力の目盛りを弄って最大の『
【ラファイア!!】
無口頭にて魔術を発動した。
入間は当然ながら、人間であるが故に本来ならば魔術は使えない。しかし、彼が右手の中指に填めている魔力を保管し、出力できる魔具である『悪食の指輪』にサリバンの魔力が込められているので入間は魔術を使うことが出来た。
【ラファイア】は指輪に施した三段階の出力調整の効果のほどを確かめるためにサリバンから教わった呪文であり、火を指先から灯す魔術である。
そもそもの話であるが悪魔が使う魔術、魔力は根源である欲を満たすため、『イメージを実現させる』に振るわれる力、この性質は普段、抑圧的であるが食欲を満たす際に発散される入間のそれと凄まじい程に相性が良かった。
なんと昨日、サリバンからちょっと手ほどきを受けただけで魔力と魔術の基礎的な扱いをマスターしてしまったのである。
その証明として【ラファイア】と呪文を唱えずに指先に火を灯せる程に……。
そして、今、魔力の出力を最大に定めながら魔力自体のコントロールはしつつ、入間の放った無口頭魔術が凶悪な魔獣を模した炎としてゴミの山へと放たれ、魔獣はゴミの山を喰らうとそのまま、猛烈な炎となってゴミの山を燃やし尽くすために燃焼を始めた。
「無口頭魔術はやっぱり、扱いが難しいな」
炎の様子を見ながら入間は自分が思う結果を出せていなかったようで不満気に呟く。
「いえ、私からすれば十分に素晴らしい炎です。入間様」
「入間ちの魔術、凄ーい!!」
アリスは目を輝かせて入間の出した炎を見ると敬服の態度を示し、クララも興奮しながら称賛した。
『……』
対して悪魔たちは顔面蒼白であり、震えて……尻もちすらついた。
「さて……ゴミ捨て場までは遠いからな。横着したくなる気持ちは良く分かる。けどだからって不法投棄はするな。俺たちだけじゃなく、カルエゴ先生や用務員さんにも迷惑になるからな。声さえかけてもらえれば、ゴミ捨て場まで運ぶくらいは手伝うから……悪いが、他のクラスにも伝えてくれるか?」
「は、はい!!」
悪魔たちは入間の言葉に深々と頷いた。
「ついでにこれも伝えてくれ……」
入間は悪魔たちへとこれが重要だとばかりの態度を出しつつ……。
「良いか、外からの入り口から教室までが俺たち、『問題児クラス』の
「は、はい。わ、分かりました」
「す、す、すみませんでした」
「もう、二度としません」
「ああ、その謝罪は受け取ろう。だから今回は警告だ……二度目は無い。伝言の方はくれぐれも頼んだぞ。じゃあ、行け」
『ひ、ひいいいいっ!!』
入間が最後に許可すると悪魔たちは一目散に必死な様子で恐怖の叫びを上げながら、逃げ出した。
「それじゃあ、俺たちも教室に行こう」
「はい、入間様」
「うん」
ゴミの山を燃やし尽くした事で炎が消えた踊り場にて入間は言い、そうしてアリスとクララの二人と踊り場よりも先へ、自分たちの教室へと向かったのであった……。
2
自分のクラスである『問題児クラス』の教室の扉前に到着した入間達、しかし……。
「あいつら、またかよ。アリス、クララ。俺が入って少ししてから教室に入れよ」と指示すると扉を開け……。
その瞬間、自分へと迫り来る凶器の弾幕を昨日と同じく、すり抜けるようにして全回避した。
『おおおおおおおっ!!』
そして、先に入っていたクラスメイトが拍手し、喝采する。
「なんで又、入室ドッキリをやったんだ?」
『入間君の超回避が見たかったから』と入間の質問にジャズにリード、カイムにガープ、エリザベッタらが正直に答えた。
「お前ら、また入間様に対して……」
「入間ちの回避ってやっぱり、凄いね」
アリスはジャズらがやった事に怒り心頭を過ぎて呆れ、クララは只々、ご機嫌に称賛する。
「良いか、3回目は無しだからな。流石に次やったら、俺は怒るぞ」
『はーい』
入間のため息交じりの言葉にジャズたちは素直に返答した。
「それにしても入間君、おめでとう。又、学校新聞の一面を飾ってるよ」
切り替えが早いというかなんというか、席に着いた入間へとリードがバビルスにて発行されている学校新聞を持って、近づき入間へと話しかけた。
リードが持つ新聞の一面のタイトルには『特待生入間、金剪の長を従える!?』と書かれ、金剪の長の背中に乗っている入間の姿が映し出された写真が載っていた。
「ああ、どうも。っていうかこの写真を新聞発行している所へと提供したのお前らだろう。クラスメイト売るような事、してるんじゃねえよ」
因みに新聞の隅の方には特ダネ提供者には報酬ありと書かれた募集欄が設けられている。
「いやいや、学校の皆がいつも入間君に注目してるんだからこういうのは知らせてあげないとっていう使命感からしただけだよ」
「そうそう、報酬の方は大変ありがとうございました」
「……せめて何か奢ってくれよ」
『了解』
リードに続き、ジャズが答えたのを見て二人へと言えば二人は軽くそう返答した。
「っていうか新聞も新聞だよ。扱うにしても俺の事なんか小さい記事で扱えば良いだろ。こっちの『人気アクドル くろむ』で一面飾った方が絶対、もっと人気出るぜ。華があるからな」
入間は自分の一面の記事の下にて扱われている『アクドル クロム』の方を差して言った。
アクドルとは『悪を取る』を語源とし、生態として悪魔には暴力的、加虐的な思想が高ぶるストレス周期の『悪周期』というものがあって、魔界にはその周期を抑えるために数多くの娯楽がある。
アクドルはその娯楽の一つで多くの悪魔を1か所に集め、パフォーマンスをする事で悪意を興奮で塗り替えて発散させる役割を持つ者の事で人間界で言えばアイドルである。
魔界において人気のアクドルは優遇対象であり、その中でも紫のショートヘアに先が少し湾曲した角、愛嬌たっぷりの可愛らしい容姿であるくろむは若手のエースを担っているのだ。
「(っ!?)」
そして入間がくろむの名を出した瞬間、ケロリが敏感に反応した。
「え、意外。入間君、くろむちゃん知ってるの?」
「新聞見てたら、必ず毎回載ってるから気になってライブの放送を見たし、曲も聞いたからな。普通に可愛いと思うし、パフォーマンスも良いと人気なのが十分に納得出来た」
「流石は入間様、素晴らしい感性です!!」
「いちいち、ヨイショしなくて良いからなアリス。そういうとこまでされたら結構、くすぐったくなってくるんだ」
「良いよね、くろむちゃん」
そうしてアリスにクララ、リードにジャズ、ガープにカイムとくろむについての談議が始まる。
「(なんだ、入間は良く分かってるじゃないですか)」
それを盗み聞きするケロリは満足気である。
実は彼女こそアクドルのくろむ、その人であり……アクドルとして自分の容姿に誇りを持っている彼女はだからこそ、学校内とはいえ、自分より注目を受けている入間に対抗心やら嫉妬心やら複雑な感情を持っていたが、自分のファンの一人であるようなので許す事に決めた。
「(もうちょっと、反応は抑えた方が良いぞ)」
一方、入間は密かに観察していたケロリに対して内心で指摘する。
彼は今まで修羅場を潜り抜け続ける中で観察力も相当な域に達しており、その成果としてくろむの癖だろう手を握る際、親指を包むようにしているそれをケロリがしている事、密かにケロリが自分に敵意に近い視線を送ってきていたり、そして今回の反応も含めるとケロリはくろむであるという確信を得たのである。
まあ、だからと言って正体をばらしたり、アクドル活動の邪魔をするような無粋な真似はしないしむしろ、クラスメイトとしてより、応援をしようと入間は決めた。
それはともかく、そろそろ担任であるカルエゴがやってくるので待っていると教室の扉が明けられ……。
「しゅ「シュークリームが食べたいっ!!」違うっ!! 誰が言うか、そんな事おおおっ!!」
カルエゴが口癖としている『粛に』と言う途中で混じった彼と同じ声色と声質、正しく本人の声であるがしかし自分とは違う者が言ったそれを即座にカルエゴは否定しながら叫んだ。
「どうせ、貴様だろう。入間ぁっ!!」
「大正解である。褒美としてシュークリームを買ってやろう」
「いらんわぁっ!!」
『おおおおおおっ!!』
カルエゴは入間の仕業だと確信して詰め寄れば、それは大当たり。証明として入間はカルエゴそのものな声で言うとクラスメイトは入間の声真似の見事さに拍手と喝采。
「なんと素晴らしい特技を……」
「上手、上手」
例の如く、アリスとクララも又、入間を称賛した。
「貴様、やはり私を馬鹿にしているだろう?」
「いや、オペラさんがこれぐらいフランクに接した方がカルエゴ先生が喜ぶって言うから……」
「喜ばないから、即刻止めろっ……ってなんで又、召喚シールをって、これは!!」
もしやとカルエゴは入間の服を探れば出てきた複数の大量の召喚シール、しかしそれは良く見れば……。
「ええ、良く出来ているでしょう。自信作です」
入間の手によって作り出された精巧な偽物であった。もっとも本物であり、大量の召喚シールはちゃんと鞄の中に仕込んであるのだが……。
「ほらほら、和んだところでホームルーム始めましょうよ。カルエゴ先生」
「さっきのでどう、和むというのだ。そして何、『仕方ないなぁ、この先生は』的な雰囲気出しているんだ。貴様はぁぁぁぁぁ」
入間により、カルエゴは今日も又、振り回されるのであった……。