悪魔学校バビルスの一年のクラスの一つである『問題児クラス』の教室は何もかもが酷い。まずそもそもにして本校舎や授業塔から隔離されているのでまずこの教室に行くまでに苦労するし、勿論、『問題児クラス』から校舎や授業塔に行くのにも一苦労だ。
そして教室自体も相当に古いため教室内には至る所に罅が出来ており、ゴミ捨て場も近いとあって暑さも寒さもしのげないのは勿論、匂いも酷いと環境としては最低最悪なのである。
よって……。
「これで良しっと……それじゃあ、爺さん協力よろしく頼むぜ」
「はいはーい、任せて入間君っ!! 入間君のためならお爺ちゃんは何時でも本気以上の力を出して入間君の望みを叶えちゃうから」
教室の環境をなんとかするべく入間はまず事前にサリバンの血を元にして悪魔に変身するための因子を取り込む薬を作り、それを飲んで変身魔術を使った事で今、真の悪魔と化している。前に半人半魔となった事があるが今回は完全な悪魔となり、サリバンの孫というよりは息子と言った方が正しい状態となっている。
因みに自分の変身魔術で悪魔となったので、当然解除して人間に戻る事も簡単に出来る。
ともかく、真の悪魔となった事で入間は飛行能力だけでは無く、自分自身の魔力も手に出来た。
そうして今日、人間界で言えば土、日という学校の休みの日なので入間はサリバンの屋敷で練習しながら研究していた魔術をこの『問題児クラス』の教室にてサリバンの支援を受けながら行使する事とした。
机に椅子、教壇を一時的に外に出すと壁や天井、あらゆる場所に魔術のための術式を書き込む。大小幾つもの魔法陣が連なり、それらによって大きな魔法陣が構成される状態とし、更に重要な方角、箇所には魔力増幅や魔力の流れを補助する効能を持った最高品質の触媒や魔具(入間が作った物もある)を置いた。その上で二人は大きな魔法陣の中央へと移動する。
「今回はお前もしんどくなるが、どうかよろしく頼むな」
指輪の化身にも呼びかけると化身は敬礼して応える。
「良し……ふぅ……それじゃあ、いくぜ」
「うん」
目を瞑り、深呼吸すると入間はそのまま自分の魔力とサリバンの魔力を込めた『悪食の指輪』から魔力を練り上げ放出し、同じく目を瞑り、深呼吸したサリバンも又、魔力を練り上げて放出する。
何事か二人が同じ呪文を唱えた瞬間、魔法陣が光り輝き起動する。
「【パンドルーラ】」
更に『悪食の指輪』に施された魔力全開放の呪文を唱えて更に魔力を放出すれば、サリバンの放つ魔力と共鳴現象が発生し、この教室内に漂う魔力は何倍にも膨れ上がっていく。
それはそうだろう、入間の魔力の質は自分自身のものはサリバンの血から作った因子によるものでサリバンと酷似しているのは当然で、指輪の魔力はサリバン本人の物。
魔力の共鳴はこの二人に限り、完璧である。
『ディルス ゲリア グルゥア……』
魔力を共鳴させながら二人が同じ呪文の詠唱をすると、それに反応し魔法陣に描かれた文字が宙を漂い、更に更に陣を構成し続けては複雑な幾何学模様を構成していく。
それと共に空間内に漂う魔力は更に膨れ上がっていき、乱れそうになる魔力の綻びを指輪の化身は喰らい続けていく。
『レガート!!』
詠唱を終えた瞬間、凄まじく膨大な魔力が完全に整うと魔法陣が教室内に溶け込んでいった。
「ふう、やった。成功だ」
「うん、流石入間君だ。大成功だよ」
二人は自分たちで行った大儀式魔術の成功を喜んだ。
「(そしてありがとう、思い出させてくれて)」
そしてサリバンはかつてデルキラの要求に従って儀式魔術などに付き合わされた事を思い出していた……。
「お前もありがとうな。それじゃあ、早速……」
魔力調整のために過剰分の魔力をその都度食べた事で辛そうな化身を労うと、入間は呪文を唱えながら両手をまるでハンドタットが如く複雑に動かす。それに反応して、教室内の空間が蠢きながら変動し始め……。
2
休日が終わり、今日からバビルスでの学業が始まる日。
「(ふふ、恋愛には興味は無かったが……存外、悪くないな)」
『問題児クラス』の担任であるナベリウス・カルエゴは昨日、モラクスと街を歩きながら、時間を一緒に過ごす交流(人間界で言うなら、いわゆるデート)をしており、その中でモラクスから口づけと共に告白されており、カルエゴはそれを了承した。
恋人が出来た事でカルエゴの気分は調子良くなっており、英気も養われたので入間の弄りにも対抗するための準備も万端であったカルエゴは……。
「(今回の俺は一味も二味も違うぞ、入間っ!!)」
そう意気揚々とカルエゴは入間が自分を弄るために準備していると考えながら、『問題児クラス』の扉を開けると……。
「っ!!!!???? な、何だこれは……一体、何がどうなって……」
カルエゴは激しく混乱する。それもそうだろう、教室の扉を開けて入ると目にしたのはいつものぼろ教室では無く、まるで王の城内の如き、荘厳であり、華麗、堅牢な部屋となっていたのだから……。
「(似ている……
混乱から何とか気持ちを落ち着けながら、カルエゴは今、自分が居る場所はかつて魔王デルキラが使用していたとされた事で現在は徹底保存されていて、現在は使用する事すらあらゆる悪魔にとって烏滸がましいために使用されていないバビルスが誇る名誉教室に似ていると感じた。
資料で伝えられて内装と本当に酷似しているのだ。
「如何です、カルエゴ卿。良く出来ているでしょう?」
「っ!?」
入間の声が聞こえたと思えば、次の瞬間には教壇へと転移させられて目の前には……。
「おはようございます、カルエゴ先生」
玉座に両手を組んで座している入間と部下の如く傍に控える『問題児クラス』の生徒たちが居た。
「……貴様、こんな大がかりな事をどうやった?」
「それは俺の切り札的なものもあるので詳しくは説明しませんよ。只、爺さんの助けの元、色んな魔術を組み合わせてこの教室を異界化しながら色々と弄って爺さんの記憶を元に『王の教室』を再現してみました」
入間にカルエゴは問い質すと淡々と入間は返答しながら、これからも色々と弄りはしますけどねと呟く。
「……この規格外が……」
カルエゴは大規模な魔術を使った入間に対し、驚愕しながらもそれだけを呟く。
「それは褒め言葉として受け取りますね。それじゃあ、ホームルームを始めてください」
入間がそう言いながら指を鳴らせば、カルエゴから少し離れた場所に置かれた豪華な机と椅子に、まるで最初からそうであったかのように入間も生徒達も席についていた。
『おおおおおっ!!』
入間の魔術によるものだと思われる現象に生徒たちは驚愕の声を改めて上げる。
「良ければ、先生も座りますか?」
「……異界を己の領域とする事で事象改変、あるいは改竄とは……余計に問題児になりおったな貴様……」
次に指を鳴らせばカルエゴも又、最初からそうであったかのように教壇に置かれた豪華な椅子に座っていた事で、カルエゴは入間の行使する魔術をある程度確信して頭を抱えながら、溜息を吐いたのであった……。