バビルスに通う学生たちにとっては自分の実力次第で『位階』を上げることが出来る『位階昇級対象授業』であり、実質的には試験である『処刑玉砲』が行われる日の早朝、サリバンの屋敷内に入間が設けた儀式魔術に属する大がかりの魔術を使うための部屋にて……。
「ふっ!!」
大きな魔方陣の中心で座禅を組んでいた入間が魔力を放出するとそれに連動して魔方陣が光り輝き、そして、入間の体内へと収束し入っていく。
入間は自らの身体能力を限界以上に底上げし、強化する儀式魔術を使い、現段階における魔術による最終改造を施した。
「良し、後は……」
そして、立ち上がり部屋を出て『処刑玉砲』を攻略するための最後の仕上げを行い……。
「それじゃあ、処刑玉砲頑張ってくるよ爺さん、オペラさん」
入間は自分の髪を後ろにヘアゴムで纏めるとサリバンとオペラに声をかける。
「うん、頑張ってね入間君。お爺ちゃん、いっぱい応援しに行くから」
「そんな事をしたら、試験の邪魔になるから駄目ですよ理事長。入間様、ご武運を……」
サリバンの言葉にオペラが注意をしたのに苦笑しながら、入間は左手の親指と中指を鳴らす。すると入間の姿が消えた。
このサリバンの屋敷内と問題児クラスの教室内に空間的な繋がりを作っているので自由に空間転移が可能なのだ。
因みに他のクラスメイトとカルエゴにもそれぞれ登録された所持者の魔力限定だが起動すれば問題児クラスの教室へと行くだけならゲートを開いて移動が出来るブレスレット型の魔具を入間は渡していたりするのでカルエゴはともかく、クラスメイトは有難く、使っていた。
ともかく、そうして……『処刑玉砲』の会場となる『地下運動場』へと入間達、問題児クラスとカルエゴは移動し……。
「勝つのは己だ」
「拙者でござる」
「サクッと済ませて家に帰ってゲームしなきゃね」
「久々の運動だな」
「お手柔らかにね」
「私が守ります」
「ふあぁ……」
憧れの魔王に近づくための一歩として位階を上げんといつも以上に気合いを入れるサブノックの言葉に対抗するガープ、試験とかどうでも良く呑気に言うリード、淡々と言うジャズに微笑するエリザベッタ、彼女を見ながら告げるカムイにそして、欠伸を漏らすアガレスとクラスメイト達はざわついていた。
「入間様がランクを上げられるよう精一杯、尽力させていただきます」
「いやいや、これは試験だからな。同じチームであろうとなかろうと自分の位階を上げるために全力を出してくれ。俺からの頼みだ……クララも頑張れよ」
「うん、頑張る」
入間へと声をかけるアリスに対してお願いと言いつつ、注意するとクララに対して頭を撫でながら言えば、クララは頷いた。
「粛に……では、ルールを確認する」
カルエゴが皆を黙らせながら、指を鳴らせば『使い魔召喚の儀』や『飛行試験』の時のように可愛らしくデザインされたディスプレイとそれに移されたのは説明役の可愛い悪魔であり、『かんたん! 処刑玉砲ルール説明』というタイトルであった。
「ちっ!!」
カルエゴはやはり、可愛い説明セットは嫌なようで不愉快気に眉間に皴を寄せ、拳を握り締めた。
そんな中、説明は行われ……。
① スタート時の外野は両チーム一名ずつ。
② 残りは皆、内野。
③ ボールに当たった者は外野へ、外野からの攻撃もOK☆ でも、要注意!! 今回は外野から当てても内野には戻れないぞ☆
④ 魔術はボールにのみ、使用可〇 敵に直接攻撃しちゃダメー×
「さあ、皆も「ふんっ」ふばぎゃっ!!」
説明が終わると即座にカルエゴは可愛い説明セットを地面に叩きつけた。
「概要は以上だ」
「やっぱり、嫌いなんだねあの可愛い説明セット……」
何事も無かったの如く、振る舞うカルエゴにリードは呟いた。
「なお、昇級の評価はチームの勝敗と当てた生徒の位階の高さによって異なる」
補足をしたカルエゴはAチームを示す黄色の腕章、Bチームを示す赤の腕章皆へと配るその前に……。
「だが入間、お前は後だ」
「後?」
「ああ、十三人を分けるとどうしても数として公平さに欠けるからな。そして非常に……非常に腹立たしいが、お前は他の奴とは既に隔絶した能力を持っているから特別試験だ」
入間の質問に嫌そうに言いながらも……。
「私が直々にやってやるから、待っていろ」
不敵に微笑みながら、カルエゴは入間へと告げた。
「先生がそう言うなら……悪いなアリス、クララ」
「いえ、確かに入間様は私達を遥かに上回るお方。これは当然の事でしょう」
「入間ち、本当に凄いもんねー」
アリスとクララに謝れば二人は納得して頷く。
『(よ、良かったぁぁぁ……)』
一方でクラスメイトの大多数は何をしてくるか分からない入間の相手をせずに済んだことで安堵していた。
そして入間を抜きに始まった『処刑玉砲』はAチームをアリスにクララ、ガープにアガレス、カムイにリードとなり、Bチームはサブノックにジャズ、アロケルにケロリ、プルソン、エリザベッタとして開始され……。
「入間様に良い所をお見せしなければ、いくぞウァラク!!」
「うん、アズアズっ!!」
入間に良い所を見せんために気合を入れて動くアリスとクララの奮闘によってAチームの圧倒的勝利となった。
「では特別試験だ。さっさとコートに来い入間」
カルエゴは生徒達を引かせると教師服を脱ぎ捨てたと思えば、グローブにブーツ、戦闘着と黒一色のそれに一瞬の間に着替えを完了した。
「じゃあ、行って来る」
「お気をつけて……」
「頑張れー、入間ちー!!」
アリスとクララ、他のクラスメイトからも声援を受けながら入間はカルエゴと対面するコートの位置へと移動する。
「それで、ルールは?」
「なに、今から私が全力で投げるからそれを防ぐなり、回避するなり何でも良いから、対処しろ。それさえ出来れば合格として位階を2つ上げてやる。だが、出来なければ学園での位階昇級は二度と不可能とする」
カルエゴはボールを手にしつつ、そう特別試験のルールを告げた。
「相当、厳しいですね」
「今まで散々、私をコケにしたんだからこれぐらいは当然だろう。なにより全部、お前が招いた結果だ」
「それを言われちゃあしょうがない」
カルエゴは陰湿に笑いながら、ボールを構えて入間も苦笑しながら、構えた。
「(開放っ!!)」
入間は構えながら一週間の間に魔力の大半を身体の内部に溜め込んで紋様として封印していたそれを解放した。
「では、いくぞっ!!」
カルエゴは入間に告げると己の全力を込めてボールを投擲すればそれはケルベロス型の巨大なエネルギーを纏ったボールとして入間へと襲い掛かる。
「【パンドルーラ】」
入間は超速で向かって来るボールに対し、自分の魔力の塊を時間促進魔術で十年間、成熟させた事で良質で今の自分よりも格の高い魔力を『悪食の指輪』に食わせていたがそれを迷わず全開放し、それと自分の今の魔力を合わせて無口頭魔術を発動する。
「ぐ、う、おおおおっ!!」
向かって来るケルベロスのエネルギー纏ったボールに対し、入間は黒きオーラが籠手となって包んでいる両手を出して掴み、そのまま魔力でボールの支配を開始する。
「グルォォォォォォッ!!」
「ぎ、ぐうう、がああああ……」
無論、ケルベロスのエネルギーは抵抗し入間の魔力を押し返そうとするそれによって、入間は後退させられ続け、衣服は破れていき、手以外の肉体にも傷が生まれていく。
「(方法としては悪くないがな……)」
なんとか踏ん張り、対抗している入間に対して若いながらに十分、異才と呼べるだけの実力を持っている事は認めつつもしかし、まだまだ未熟でしかないと断言する。
「ぎい……こ、このっ……」
徐々に押されて行き、そして入間はいよいよコートの最後部、もう少しで場外という結果が待ち受ける状況となってしまった。
「(良くやったほうだ)」
予想以上の粘りに敬意を表したカルエゴは二度と位階を上げないそれは取り消す事はしてやろうと思いつつ、入間の末路を見届けようとしていたが……。
「ま……だ……まだだぁぁぁぁぁぁ」
「グゥッ!?」
「何っ!?」
入間は窮地に追いやられた事で意志を燃やした。
悪魔は魔力を持ち、飛行能力を持ち、人間よりも遥かに高い能力を持っているがそんな悪魔でも唯一、人間には敵わない『力』が一つある。
それは困難を乗り越えようと前へと進むための『精神力』であり、言い換えれば気合や根性。
悪魔は元来、飽きやすい性質であるが故にそうした面では劣ってしまうのである。
特に入間の『精神力』であり、『気合と根性』は今まで修羅場を潜り抜けてきた経験により、絶大。
絶対の窮地こそ入間の本領は発揮されるのである。
「うおおおおっ!!」
徐々に、徐々にケルベロスのエネルギーを支配しながら押し返していき……。
「お返しだ、先生っ!!」
入間は疾走しながら跳躍すると共にそう言いながらケルベロスのエネルギーを只のエネルギーとして自分の魔力と混ぜ込んで振り被り……。
「ちい、ケルベリオンっ!!」
対抗するためにカルエゴは自分の前に巨大なケルベロスを出現させる。
「オペラさん直伝 全力
入間は構わず魔術を発動すると共に全力で投擲すれば超巨大な龍のエネルギーを纏ったボールがカルエゴの投擲したそれよりも超速でカルエゴへと放たれた。
「おおおおおっ!!」
ケルベリオンはその巨大な足を振り下ろしてボールを抑えつけんとし、カルエゴも又、障壁を出現させた。
「流石はカルエゴ先生だ。だから、これを用意しておいてよかったよ。ほら、お前の親みたいなもんだ、挨拶してきな」
入間はカルエゴを称賛しながら、魔力とは別に身体に封じていたそれを解放する。
「いけ、【
「んなっ!?」
入間の体より黒き禍々しく、巨大な猟犬が出現しそれにカルエゴは驚愕した。
前にカルエゴが本気で切れ、ケルベロスを出したが入間によって自分はモフエゴにケルベロスも子犬にされた時、実は入間はこれを好機と研究材料としてケルベロスの一部とカルエゴのナベリウスとしての血を密かに採取していたのだ。
これを使い、更に魔術的処置を施して生まれたのがヘルハウンドである。
まだまだ出現させて、使役する時間が短時間でそれを過ぎれば消えてしまうしインターバルもあるという欠点はあるが……。それでも性能としてはケルベロスの能力を猟犬として特化させているので狩猟においてはケルベロスよりも上である。
そんなヘルハウンドは入間より放たれると龍のエネルギーを纏ったボールの後押しのために疾走してボールへと突撃。
「グルォ!!」
「ぬあああっ!?」
これによってケルベリオンの足を押し返し、カルエゴの障壁も砕きながらカルエゴを吹っ飛ばした。
「勝利っ」
入間は右拳を握って、天高く突き上げると……。
『うおおおおおおっ!!』
クラスメイトは全員、驚愕と興奮の声を上げて入間を讃えたのであった……。