二十三入
今日も今日とて、生徒として通う悪魔の野心を尊重し、成就できるように導き育てる事を目的とする悪魔学校バビルスでは授業が行われている。
今はホームルーム中で選択授業に備えて、一年の生徒たちに選択科目の希望を紙による記入で選ばせていたのだが……。
「カルエゴ先生、どうして先生が講師の授業が無いんですかっ!!」
一年『問題児クラス』の生徒である入間はざっと選択科目を見通すと手を上げつつ、質問した。
「私は指導統括だから無いに決まっているだろう。そもそも私の授業があったとしても絶対に貴様は受け入れんがな」
「そんなっ!? 俺以上に先生を慕っている生徒はいないのにっ!!」
「だからこそ、嫌なのだっ。そして今日、初めて私は自分が指導統括である事に感謝したぞ」
残念がる入間と安堵した笑みを浮かべるカルエゴ。
「くそー、先生を弄りながら授業が出来るっていう最高の状況を期待していたのによぉっ!!」
「相変わらず、私に対してろくでもない事しか考えて無いな貴様は……」
「……よし、こうなったら爺さんに頼んでカルエゴ先生を講師として、俺とのマンツーマンの特別授業を用意してもらおうっと」
「本当に私に対してろくでもない事しかせんな、貴様はぁっ!! 自分の思い通りにしようと全力を尽くすのはやめろっ!!」
「それが悪魔では? なにより生徒の野心と野望を尊重し、育てるのがこの悪魔学校の名門であるバビルス。俺の野望は先生を弄り倒すことなんですっ!!」
「そんな下らなさ過ぎる野望を尊重してたまるかぁぁぁぁっ!!」
今日も今日とて、カルエゴは入間によって弄られている。
「ちえ、まぁ良いか……『
「ぐ……うぐぐぐ」
不敵にそして忍び笑いをする入間に一年間もの間、入間の使い魔になるという契約を交わしているカルエゴは堪らず、嫌な予感やら屈辱やらで打ち震えるのだった。
ともかく、入間は多くある選択科目の中から一つを選ぶ。
「空想生物学ですか……流石は入間様、興味が深い」
アリスが入間の選択を見て称賛した。
『空想生物学』とは魔界の歴史を学ぶ『魔歴』における分野の一つであり、人間界において悪魔や魔獣、魔界が空想の存在とされるなら魔界の悪魔たちにとっては人間界に人間、動物とそうしたものが『空想』とされている。
「まぁな。講師のバラム先生がカルエゴ先生の唯一の友人とオペラさんから聞いたから興味を持ったのもあるけどよ」
「そうなのですか……とにかく、私もお供させてもらいます」
入間の言葉を聞きながら、アリスも入間と同じものを選んだ。
「ふふ、考える事は同じようね。お互い、頑張りましょうクララちゃん」
「うん、いつか入間ちを絶対にメロメロにしてやるぜ」
その横では最近、良く二人で話し合っていたりするクララとエリザベッタがお互い、女子限定の授業であり『サキュバス先生の誘惑授業』を選んでいた事で笑い合っていた。
「さてと……ちょっと、釘刺しておくか」
「入間様?」
入間はふとそう言うとアリスが戸惑う中、カムイの元へと行き……。
「カムイ、お前……『サキュバス先生の誘惑授業』を覗こうと思っているだろう?」
「勿論。女人なき所に紳士なしですから」
入間の質問にカムイは微笑を浮かべながら言いきった。
「そうか。だったら、俺はお前に対して三つの選択肢から一つを選ばないといけない」
「どんな選択肢ですかな?」
「レアか、ミディアムか、ウェルダンだっ!!」
「まさかの焼き加減っ!? しかも結果としては全て私が焼き鳥にされる一択じゃないですかぁっ!!」
「何を言っている。安心しろ、ちゃんと味付けもしてチキンステーキにしてやるから」
入間は突っ込むカムイに対してそう言うが……。
「安心できる要素が一つも無い上に私、犬の餌として調理されるんですかぁっ!?」
入間の横にヘルハウンドが顕現すると涎を垂らしながらカムイを見ており、だからこそ余計にカムイは悲鳴を上げる。
「本気にするなって、冗談だよ。ちゃんと選択授業をするなら……かくかくしかじか」
「まるまるうまうまって……本当にかくかくしかじかって言われても何も分かりませんけどっ!?」
入間はカムイに耳打ちしたが、カムイの言う通りの事を耳打ちしたのでカムイは突っ込んだ。
「じゃあ……」
「……ぶふっ!!」
「早い早い、妄想が」
入間がカムイ専用の人間界で言うVRのように自分の想像をそのまま現実のものとして実体験出来る部屋を用意してやると言うとカムイは大量の鼻血を出して倒れた。
ともかく、取引は成立したのであった……。
2
選択授業当日……入間はアリスと共に選択した『空想生物学』の授業を受けに専用の教室に行くと……。
「え、俺ら二人だけっ!?」
入間とアリス以外には誰もおらず、入間は驚愕した。
「バラム先生は色々、特殊な先生だと噂があって……避けられているようです」
「おいおい、そんな失礼な。噂や外見で判断するのは一番やっちゃいけない事だぞ」
「嬉しい言葉をありがとう……君はサリバン理事長の孫のイルマ君だね。カルエゴ君との『処刑玉砲』は見せてもらったよ。あのカルエゴ君に勝つなんて凄いじゃないか」
入間の言葉に感動しつつ、長身であり、体格も良くて筋骨も凄く、髪が長い白髪であり、無骨な鉄のマスクで口を覆い、足は鳥類の趾である全体的に強面に過ぎるバラム・シチロウが現れて入間の頭を撫でながら声をかける。
因みに彼こそカルエゴにとっての友であり、カルエゴが入間と特別試験するまでの間、カルエゴの特訓に付き合わされた悪魔でもある。
また、空想生物学を専門とする程の生物好きであり、生物を見ると過剰に触り倒そうとする癖もあった。
「ど、どうも……失礼を承知で言いますけど、バラム先生って見た目で損するタイプですね」
「ははは……まあ、そうだね。ふーむ……」
入間の頭を撫でながらふと、何かを考えると……。
「うん、これで良し」
「なにも良しじゃないですけどね……」
入間を抱え上げ、自分の膝の上に座らせつつ、自分も椅子に座るとバラムは納得したようにうなずき、されるがままとなっている入間は苦笑する。
「入間様、えらく慣れてませんか?」
「爺さんが良くやって来るからなぁ」
アリスの言葉に返答する入間。実際、入間はサリバンに膝の上に座らされたり、抱き着かれたりと過剰なスキンシップを受けていた。
入間としてはなんとも言えない気持ちにはなるのだが、別に危害を加えるためでは無いし、害意も無い。
なにより、入間にとっては新しい人生で楽しい魔界での生活を送れるようにしてくれた恩人のようであり、立場としては祖父でもあるために拒む気は全く無いのだ。
よってそうしたスキンシップに慣れているのである。
「ともかく、早速授業をしようか」
その後、入間はそもそも魔界においては空想生物そのものなのでバラムの授業に付き合い、新しい視点というか答えのようなものを提示し続けた事で驚かれつつ、好感触を得たり、カルエゴは絶対にケルベロスを触らせてくれないからとヘルハウンドに対してバラムにスキンシップさせたりなどしてバラムと交流しながら楽しい授業の時間を過ごしたのだった……。