魔入りましたよ 入間さん   作:自堕落無力

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三十入

 

 バビルスの3年生の一人であり、『魔具研究師団』の団長であるアミィ・キリヲの家系である『アミィ』は家系能力として強固な『防壁』を出現させることが出来、それにより、『鉄の防壁』と恐れられる魔界でも有数の名家である。

 

 そして、代々にして一族の者は魔力保有量も魔界で指折りなのだが……。

 

「あきません。こんなに魔力が少ない子が我が家系に生まれるとは……」

 

「なんてこと……一族の恥や」

 

 キリヲは生まれつき、自身の魔力が極端に少なかった。そのため、出来損ないとキリヲに対し、多くの者が失望したのだが……。

 

「?」

 

 キリヲは自分を見て失望する者達に対して何故だが、胸の奥がきゅっとした。それは決して不快なものでは無く寧ろ……。

 

「園に入れ」

 

「か、母様……」

 

 そんな彼の心情はともかくとして、キリヲの母親はキリヲを軽蔑しつつ、幼少の悪魔を徹底管理し育成する矯正教育初等学校である『悪童の園』へと送った。

 

 悪童の園においてもキリヲは劣っており、園の子供たちに教師から失望される度にやはり、胸の奥がきゅっとするのを感じていた日々において……。

 

「おはよ、キリヲくん」

 

 キリヲに対し、只一人。笑いかける少女が居て、彼女とキリヲは園にて厳しい教育を受けながらも二人で仲良く、過ごしていた。

 

「これはね、私のお守りよ。おばあちゃんの形見の耳飾りでね。触ると元気を貰えるの」

 

 彼女は宝物である耳飾りを大事にしていたが……。

 

 

 

「やめてっ、返してっ!!」

 

「うるせえな、雑魚が強者に逆らうなよっ……ほら、そんなに大事なら取り返してみろ」

 

 ある日、園においていじめっ子が彼女の耳飾りを奪い、そして崖へと投げ捨てる。

 

「っ!!」

 

 キリヲは彼女の宝物を守るために防壁を出現させる事で落下を一度は防いだが、しかし……。

 

「取……っ、しまっ!!」

 

 宝物を守れた安堵から気を抜いた事で防壁は消失し、崖の下……奈落へと仲の良かった少女の宝物は落ちてしまった。そして、謝るためにも少女の顔を見たキリヲは……。

 

「(ああ、この感情が何なのかよぉく分かったわ)」

 

 その時、自分の本質を自覚した。それは人の絶望する表情が好きだという事であり、実際、少女の理不尽な力に屈し、絶望したその表情に興奮したし繰り返し見たいと思ったのだ。

 

 お詫び代わりに少女が綺麗だと言った自分の角を上げた時に浮かべた嫌な顔を見ても興奮した。そうして自分が異常だと思いながら、同類を探そうと思い当時、悪名高かった『魔具研究師団』へと行き、彼は出会った。

 

「俺は魔具研の同類共と一緒にこの魔界を元の混沌に戻す。俺の野望に乗るなら、クソガキ……最高の絶望って奴を見せてやるよ」

 

 曲がりなりにもだが、秩序のある魔界を嫌い、正に弱肉強食であり悲鳴も怒号も常に鳴り響く、混沌とした魔界を望む者こと『兄さん』と……。

 

 そして、彼から自分は『元祖返り』という者だと知り、更に様々な魔具や知識を与えられつつ、彼の同胞として動いていた。

 

 そうしてバビルスに入学してしばらく経ったある日に指示が下った。

 

「魔界の秩序である位階を消すぞ。キリヲ」

 

 魔界を混沌にするためには位階制度を消し、上下関係を無くすことは必須。故にその象徴であるバビルスを消せと指示された。

 

 そうして今日、師団披露の前夜祭にてキリヲは10年分の魔力を貯めた首輪型の魔具を使ってサリバン並みの魔力でなければ破壊不可能な防壁にてバビルス全体を閉じ込め、教師たちの行動も読みつつ、自分自身による誘導も行って生徒達を敢えて中庭へと集め、そして魔力増強器具である『学校ぶっ壊すさん』ことガブ子を使い、超強力な爆弾と化した『花火』で自分以外学校も生徒も教師も纏めて吹っ飛ばしたのだ。

 

「あはははははっ、ははははははっ、ははははははぁぁぁっ。さいっこうや。あははははははははっ!!」

 

 師団披露に来た親が我が子の凄惨な姿を目撃し、泣き叫び、怒り、絶望に堕ちていく様子を眺めるキリヲはこれが混沌だと満足し、狂喜した。

 

 長い間、雌伏を肥やしていた甲斐はあったと……そして更に……。

 

「本当に君は頼りになる後輩やでイルマ君……ガブ子さんを完成させてくれるどころか『花火』なんて素晴らしい物を作ってくれたんやからなぁっ!! なぁ、どんな気分や? 自分の作った物でアリス君やクララちゃんにエリザベッタちゃん……自分の大事な物を何もかもぶっ壊した気分は……あはははははははっ!!」

 

「う……ぁ……」

 

 何の幸運か自分の元へとやってきた入間へとキリヲは惨劇を見せつけながら全て入間のせいである事を告げる。入間は只々、力入らず項垂れて地に膝を付けるのみ……。

 

「ああ、ええ表情やでイルマ君。さあ、もっと君の絶望した表情を僕に見せてくれ」

 

 入間の元へと歩み寄り、彼の顔を覗いたキリヲは……。

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、キリヲ先輩。楽しい夢を見ていたようですね」

 

「っ!?」

 

 次の瞬間、魔具研究部の隠し部屋の中で目を覚ます。

 

 彼自身は椅子に拘束されており、目の前には別の椅子に座っている入間に周囲には理事長代理であるカルエゴにバラム、オリアスとロビンが居てキリヲは囲まれていた。

 

 入間はキリヲの魔具に施した仕込みを媒介に魔術で干渉し、彼の精神を弛緩させるために彼にとっての理想が実現する『幻夢』の世界へと意識を入らせた。

 

 そして、キリヲの居場所が探知できるように施していた仕込みを使って隠し部屋へと転移し、そのまま椅子に座らせキリヲの精神へと侵入し干渉を行いつつ、カルエゴたちを空間魔法で呼び寄せながら彼に全てを吐かせようとした。

 

 しかし、こういう時に備えて手は打っていたのかキリヲの主だろう者の情報は得られなかったが……。

 

「……は……あ……夢?」

 

 極度の混乱に陥り、キリヲは入間の言葉を繰り返した。

 

「ええ、夢ですよ。そしてキリヲ先輩が夢を見ている間に俺と先生たちで色々と聞かせていただきました。だから、もう終わりです」

 

「……」

 

 キリヲは入間の言葉に何の反応も返さず呆然とする。今、なお状況が理解出来ないのだ。

 

「まぁ、これから考えて状況を理解する時間はたっぷりあるんだから、慌てずに楽しめ。そして餞別をくれてやるよ」

 

 ため息を吐きながら、入間はキリヲの顔の前に右手を翳すと魔方陣が出現し、それが鏡となってキリヲの顔を映す。

 

 

「ほら、良く見ろよ糞野郎。お前の大好きな絶望の表情だ。悔いの無いようにたっぷりと目に焼き付けな」

 

「……っ」

 

 入間の言う通り、キリヲは自分が見た中で史上最大の絶望の表情を浮かべていた。

 

 

 

 

「……さて、それじゃあな糞野郎。2度と俺にその顔を見せるんじゃないぞ……先生たち、後はよろしくお願いします」

 

 鏡を消すと入間はキリヲに対し、何の感情も宿していない視線を送ると言い捨て、カルエゴたちに呼びかけつつ自分はキリヲの元を去り始める。

 

「ああ……入間、よくやった。後はゆっくりと休め」

 

「……ありがとうございます」

 

 カルエゴは『元祖返り』という悪周期など目では無いほどの超凶悪で歪んだ者の精神に侵入し、干渉した過程で必死に自分たちには見せないようにしていたが、精神的に極大な負担や苦しみに耐えていた入間へとそう言葉をかけ、入間はカルエゴに一礼して今度こそ部屋から去っていく。

 

 そうしてキリヲは……。

 

 

 

「……ふ……く……はは……ふはははは……はははははは……ははははははは、あははははははははははははぁっ!!」

 

 狂ったが如く、あるいは壊れてしまったように笑い出した。それは壊れた訳では無い。彼は入間によって思い知らされたのだ。自分の知る『絶望』は序の口ですら無かったのだと……そして、自分自身で絶望を味わうのも自分にとっては至福であると理解出来た。

 

 

 

「(イルマ君、また遊ぼな)」

 

 そして自分にとっての教師であり、指導者であり、救世主であるイルマへとキリヲは狂い壊れた笑い声を上げつつも恍惚とした表情を浮かべ、感激の涙を流し涎も垂らすと複雑な感情を押さえもせずに解き放つのであった……。

 

 

 

 

 

 2

 

 

 とある部屋の一室、椅子に座っている悪魔が居た。

 

「あん……っ、何っ!?」

 

 その悪魔のス魔ホが着信音を鳴らし、画面を見た悪魔は驚愕する。

 

 何故なら差出人不明のメールで『アミィ・キリヲはしくじったぞ』と書かれていたからだ。そして、電話が鳴り響く。

 

『お前が何者かは知らないが一度だけ警告してやろう。これ以上、バビルスやその関係者に手を出すな。次に手を出すならお前を敵とみなし、その事をたっぷりじっくりと後悔させながら殺す』

 

「はっ、その言葉そっくりそのまま返してやるよ。俺の邪魔をするっていうならな」

 

 

 加工された特殊音声に対し、悪魔は雷を身体から撒き散らしながら告げる。

 

 

 

『そうか……なら、その時までごきげんよう。そして、こいつはせめてものプレゼントだ。受け取れっ!!』

 

「っ!?」

 

 悪魔はその瞬間、何も無い虚無へと引きずり込まれると後ろから大口を開けた猟犬が、足元からは大量の醜悪な亡者が這いよって迫り、更に大量の触手が或いは魂を引きずり出すべく闇の手が更に、更に……。

 

 

 

 

 

 

「ぐ、う、おお……かは……ぐ、おお、お、はぁ……はぁ……はぁっ!!」

 

 現実としては一瞬だが、体感としては十年以上の間、凄まじい規模の幻覚の世界による蹂躙から脱した悪魔は精神的な消耗によって床に倒れ伏し、息を切らせ脂汗を顔に浮かべていた。

 

「舐めた真似をしてくれやがるじゃねえか……面白ぇ、本気で相手をしてやるよ」

 

 

 キリヲの主であり、逆立った金髪に荒々しい見た目の男の悪魔であり、『13冠』の一人、『雷皇』ことバールは凶悪な笑みを浮かべるとそう、告げるのであった……。

 

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