四十四入
魔界を生活圏としている生物の悪魔にとって、欲は重要であり全てだ。ましてや『悪周期』という悪事への欲求が高まるストレス周期を持つのもあって、我慢や抑制というものを苦手とする。
「最近、生徒会の動きがすっげー早くなったよな」
「締め付けもな……」
「たまんねぇわぁ」
現在、バビルスの校舎内の片隅にて数名の学生悪魔が煙草や酒を飲みながら、最近の『生徒会』についての話をしていた。
彼らは知る由もないが今のバビルスにはバラム家の家系能力である観察相手の嘘や不正を瞬時に察知できるそれを元にして入間が開発した感知式結界の魔術が仕掛けている。それは結界内の者のあらゆる動きや心理的な動向も感知できるものである。
更には学校内のあらゆる場所に入間が開発した監視用のカメラと集音マイク型の魔具まで仕掛けられているので入間の監視網から逃れる事は出来ないようになっている。
元々はアミィ・キリヲが何らかのアクションを起こした時に対応できるように用意したものだが、現在はそれを生徒会の活動のために使っているのだ。
「まあ、此処は穴場だから絶対に見つからねぇよ」
「生徒会だって、完璧じゃないだろうしな」
「今は俺たちみたいに息抜きしてたりして」
当然、生徒会が巡回をしない時間帯にて彼らが息抜きしているこの光景も入間にとっては筒抜けで……。
「いやいや、しっかり働いてるぞ。俺たち生徒会は忙しいからな」
『ぁ……』
入間は転移魔術によって学生悪魔たちの居場所に姿を現して声をかけ、学生悪魔たちは固まり……。
「ヘルハウンド……遊んでやれ」
「ガウ」
『ぎゃああああああっ!!』
ナベリウス家のケルベロスを元にしているため、入間にとっての魔力のパワービジョンとも言っていいヘルハウンドを中くらいの大きさに調節しつつ、学生悪魔たちに向かわせ適当に制裁したのだった。
「アメリ会長、今校則破っていた学生たちを懲らしめたので反省部屋に送っておきますね」
『うム、良くやったぞイルマ』
そして、耳に装着している通信用のイヤホン型魔具で生徒会室に居るアメリへと連絡したのだった。
入間が入って以来、生徒会は更に学生悪魔たちにとっては治安維持部隊として恐れるべき存在であり、脅威となっており……。
「おはようございまーす。今日は皆さんのためにお菓子を作って来たので後で食べてくださいね」
「わあ、ありがとう」
教師との打ち合わせをするために職員室を訪れた入間は手に持っている大きな箱を置きつつ、言う。
今ではすっかり、色んな教師陣と入間は仲良くなっていたりするが……。
「いやあ、本当イルマ君良い子だし、優秀だしで素晴らしいですね」
『外面が良いだけですよ』
軽そうな印象を受ける男性悪魔のダンダリオン・ダリ(カルエゴの新人時代の教育係)が入間を見ながら、入間を警戒して一定の距離を保っているカルエゴに話しかければカルエゴはオリアスと共に言った。
「さあて、今日は先生たちに癒しを届けてあげますね。えい☆」
『ちょ、おい!?』
入間は唐突に言うと魔方陣が刻まれたカードを五枚、懐から取り出すと上空に抱え上げる。すると入間手製の『使い魔召喚カード』の効果は発動し、カードが光輝くとカルエゴとオリアスの身体が光輝き……。
「ということでモフスター5のキュートなダンスをお楽しみください」
『そういうところだぞ、お前ぇぇぇぇぇっ!!』
こうして、モフエゴにモフアス、モフロウにモフペラ、モフロビによるダンスが行われた。因みにモフエゴとモフアスには使い魔服従の首輪を元にして作った使い魔服従のチョーカーが強制的に付けられていたのでモフエゴとモフアスは無理やり踊らされたが、モフロウにモフペラ、モフロビはノリノリで楽しみながら踊った。
因みにその後のモフモフタイムではモフエゴをモモノキ(モフエゴのダンスは録画済み)が独占してブラッシングなどもした。
一部除いて入間が入った生徒会は教師陣にとって相当に頼れる存在となっているのであった……。
二
昼食の時間帯、入間にとっては人一倍どころか一番の生き甲斐と言っても良い一時が過ごせる時間である。
しかし……。
「えっとアメリ会長、これって何かのドッキリ……」
「いや……本日は赤月。悪魔たるもの、暴食は避け、精神統一持して腹底の欲を見つめる日だからそれだけだ」
「決まりだから、ごめんねイルマ君」
食堂を訪れて席についた生徒会。その席に置かれた食事は皿の上にぽつんとある豆粒のような料理一つだけだったので入間はめちゃくちゃ戸惑いながら、アメリに問いかけると申し訳なさそうにしつつ、返答しスモークもそれに続いた。
「……は、はは。そうですか」
入間はアメリの返答を聞くと覇気が全く籠っていない声を出し、そしてまるで世界が終わったような顔、極度の絶望を味わった顔を浮かべた。
『滅茶苦茶、効いてる……』
なので生徒会たちだけでなく、食堂内の者全員が現在の状況が入間にとって滅茶苦茶効いてるのが分かった。
「お労しや、入間様……しかし、きっと貴方なら乗り越えられます」
「入間ち、可哀想」
「元気が一気に無くなったわねぇ」
「まあ、イルマさんは食欲が他の悪魔より圧倒的に強いですから……」
「イルマさん……」
トレードマークの触角のような髪すら萎れたかのように下へと落ちていて、誰から見ても気落ちしまくっている入間をアリスにクララ、エリザベッタにケロリ、エイコが気遣うように見ていた。
因みにアリスたちも入間達に付き合って豆粒の料理一つだけである。
「会長……」
「うぐっ!?」
入間はアメリに対して顔を上げ、縋るような表情で彼女を見つめながら訴えかける。
するとアメリは激しく狼狽した。
「会長が絆されるに賭けるねー」
「良いだろう、乗った」
「お前ら……」
その様子にキッシュとグシオンが賭けを始めたのでザガンは『何をしてんだ、こいつら』という表情で見る。
そして……。
「……ぐ、うぅ……駄目だ、生徒会は生徒の模範だからな」
アメリは凄く葛藤しながら入間から顔を背けると彼の訴えを退ける。
「……はい」
入間は項垂れながらも答えつつ、指を動かす。
「アグッ!?」
すると入間達から遠く離れた場所で悪周期の生徒である狼人の悪魔が小型の悪魔を食おうと近づこうとした瞬間、入間による空間干渉の魔術と併用した魔術により、強制的に眠らされ、次の瞬間にはゲートの中へと消えていったのだった。
「ああー、今日も食堂の料理は美味いなぁ」
「全くや、赤月か何か知らんけど生徒会も大変やなぁ。ああー、美味い美味い」
そして、大声で意地汚く食べる二人の悪魔が居た。一人は小柄な体型で頭にはニット帽を被り、オーバーオールに制服を羽織ったトイフェル・シャオロンであり、もう一人は角で破けているが頭からフードを被っているボンベ・ゾム。二人とも一年生であり、クラスはブエル・ブルシェンコが担当しているDクラスである。
シャオロンは自分より目立ち続けている入間の事が気に食わないから煽っていて、ゾムもそう言うのが好きなので便乗しているのだが……。
「うぅ」
豆粒の料理を出来るだけ長く噛み締めながら、涙を流しながらも入間は指を動かすと……。
『!?』
シャオロンとゾムの二人は次の瞬間、パッケージに梱包された小さなぬいぐるみに変化し、そして入間の手元に移動した。
「さーて、幾らで売れるかな」
更に入間はス魔ホを弄りながらオークションサイトにアクセスを始める。
「すんまへん、どうかあれで堪忍したってくれ」
「だから、止めたのに……」
そんな入間へと料理が置かれた自分たちの席を指差しながら頼み込んだのはシャオロンたちと同じクラスである大柄な豚の悪魔、シュヴァイン・トントンで呆れ果てているのはこれまたシャオロンたちと同じクラスである長い黒の前髪で右目が隠れているが、眼鏡をかけた男悪魔のレイラー・ウツだった。
その後、入間はトントンからの取引に応じてぬいぐるみ状態(お仕置きなので午後の授業からホームルームが終わるまでこのまま)のシャオロンとゾムをトントンに返し、そのままトントン達が座っていた席で食事を始め、至福の時を過ごしているかのような表情を浮かべ始める。
「良いんですか、会長?」
「個人間の取引だし、良いだろう。後、可愛いしな」
ザガンの質問に答え、最後は小さく呟きながらアメリは微笑んだ。
「これこそ、イルマ君ですね」
「良かったですね、入間様」
「入間ち、嬉しそう」
「ふふ、やっぱり美味しそうに食事するイルマ君は良いわね」
「まぁ、確かに」
「はぁぁ……やっぱりイルマさんはこうでないと……」
見慣れた入間の食事風景に皆が癒されたのだった……。