魔界における悪魔の学校の中でも名門校であるバビルスに正真正銘の人間でありながら、悪魔の一生徒として通う事になった入間は入学式にてサリバンから孫として紹介され、更にはそのすぐ後に入試にて主席となる程に優秀であり、家系としても母が十三冠の一人となっていると血筋としても高名なアスモデウス・アリスと決闘して圧倒的と言える程の勝利を観衆にすら見せつつ、アリスを自分の配下として侍らせるようになった。
そして、その次には新入生の実力を計る意味合いもあっての悪魔が使役する魔獣こと『使い魔』召喚の儀で監督官であったナベリウス=カルエゴを使い魔にしたが故にそうした事から悪魔を従える悪魔、まるで『魔王』の如き事をしている入間はバビルスでの話題や注目を集めたり……。
「やっぱり、こうしてみると実物は凄ぇな」
「ああ、見ろよ。堂々としている……」
「風格が既にヤバい」
生徒である悪魔の畏敬や……。
「絶対に手は出さないようにしよう」
恐れ……。
「(く、この私より注目されるなんて……)」
変わった所では悪魔たちの注目を入間が一身に受けている事に対しての嫉妬など色々な感情の籠った念を送られたりする事になった。
そして、新入生へ授業で使う教材の配布日である今日も登校してそうそう、道行く悪魔たちの視線を集めている。
「それにしても実に驚きました。まさか、悪魔であるカルエゴ監督官を自分の使い魔にしてしまうとは……これはきっと、入間様は将来、次期魔王として君臨する器を持っているが故の証明ですね」
「幾らなんでもそれは過剰評価だぞ、アリス。魔王なんて俺の柄でもないしな」
決闘に負けた事で勝者である入間の配下となったアリスは今日も又、登校してきた入間に忠を現しながら、入間の鞄を持って彼と共に教材が配布される教室へと向かっている。
そんな中で入間がカルエゴを使い魔にした事を述べつつ、称賛を始めた。それに対し、入間は苦笑した。
人間が魔王やるなんて事はどんな冗談、あるいは笑い話だという感情やカルエゴを使い魔に出来たのは自分の実力では無く、自分が人間であるからというただ、それだけの事が分かり切っているからだ……。
「それにしても悪魔の基礎、呪術、薬学、拷問学……色々と学ぶべき事は多いんだな」
悪魔らしいというかなんというか、配布される教材を記したリストから読み取れる授業内容に『(物騒すぎる)』と思いながら呟く。
「はい。ですが実技も含めて入間様なら大丈夫です」
「……まぁ、困ったときは頼らせてもらうからな」
「喜んで」
なんだかんだアリスの主の如く、振る舞う入間にアリスは本当に嬉しそうに答えた。
そうして、教材が配布される教室の前へと近づいた二人であるが……。
「随分と騒がしいな」
「ええ、これは一体……」
配布教室の中から聞こえてくる喧騒に入間とアリスが戸惑ったその直後……。
「ンローゥリングーーーーーー!!」
配布教室の中から勢いよく回転するボーリング玉と化したものが大声を上げながら、配布教室の外に積まれていた教材入りの段ボールに激突して散らかした。
『……』
「ストラーイク!! あっははははは!!」
入間とアリスが戸惑う中、散らかした段ボールの中からボーリング玉となった人物。緑髪のロングストレートヘアーであり、前髪は綺麗に切り揃えられていて、頭部の角は湾曲した形、臀部の尻尾の先はハートとなっている女生徒が姿を現して超元気良さげに笑い声を上げた。
「随分と元気良いみたいだが、怪我はしてないか?」
「っ、いけません、入間様。話しかけては……」
入間は取りあえず女生徒に声をかけるとどうやら、アリスは女生徒の事を知っているようで忠告をしつつ、止めようとしたがもう遅い。
「あたしクララ!! 右足がコーナーで左足がマーフで使い魔はファルファル!! あんね、教材取ろうとしたの。でも勢い余って突っ込んじゃった!! 物が積んであるとバコーンてやりたくならない? なるよね、あ、飴あげる。もっかいさっきのやるから見てて見てて!!」
クララことウァラク・クララは捲し立てながら自己紹介に右足と左足に履いている小さな魔獣型のスリッパの紹介や飴を何処かから取り出すなど積極的に入間へと絡みつつ、再び散らかした教材入りの段ボールへと向かい……。
「元気いっぱいなのは結構だが、これ以上は皆の迷惑になるから止めような。それに今は学業の時間だ。遊ぶのはそれが済んでからにしような……一緒に遊んでやるから」
そんなクララを後ろから抱き上げて積み上げようとする行為を止めるとまるで兄が幼い妹に言い聞かせるように言い、説得してみると……。
「……っ、ほ、本当に……本当に遊んでくれるの?」
「勿論、約束するよ」
クララは入間の遊ぶという言葉に反応し、驚愕も表しながら入間に問い返すと入間は優しく微笑んで頷き……。
「っ、やったぁぁぁ。初めて遊びに誘われたぁぁぁっ!!」
クララは入間の返答にまるで極上の至福を味わっているかのように喜んだ。彼女は出会う者とは積極的に仲良くし、遊びたいと思っているのだが少々、その行為が行き過ぎて変人扱いされ、懐かれると面倒そうだからという理由でクララの思いは今まで叶わなかった。
故に入間からの提案は彼女にとっては正しく、願ったりかなったりなのである。
「喜んでくれてなにより。けど、先ずはこれを片付けて其処の教師にも謝らないとな。俺も手伝うから」
「うん」
「良し、良い子だ」
入間の言葉にクララは笑みを浮かべて頷くと入間は彼女の頭を撫でる。
「ああ、入間様はなんて寛大な御心をお持ちなのだ……本当に素晴らしい」
クララに接する入間の態度にアリスも感激の涙を流し、そうして三人はクララが散らかした教材入りの段ボールを片付け、教材配布するためにやってきていた教師に三人で謝った。
そうして教材の配布が終わり、今回の予定が終わった自由時間になるとクララとの約束通り、彼女主導にて遊び始める。
「ふう、そろそろ時間も時間だし今日はここまでにしよう。こんなに思いっきり遊んだのは今までなかったし、だからとっても楽しかった。ありがとうな」
「うん、私もとっても楽しかったよ入間ち、アズアズ。ありがとう」
「……さ、流石は入間様。あんなに激しい遊びに付き合えるなんて……」
魔界中の悪魔の中でも元気に溢れたクララとの遊びはとにもかくにも体力を使うものだったが、今まで遊ぶ事すらしていなかった入間にとっては新鮮で楽しく、更には一人っ子で弟や妹が出来たらと考えていた交流が出来たとあって満足していた。
クララも本当の遊び相手と言える者が出来たからとっても喜んだ。一方、アリスはクララとの遊びによって疲れ果てていて、だから平然としている入間に尊敬の念を抱いたりした。
「あの、これ遊んでくれたお礼のお菓子とジュース。だから、明日も遊んでくれる?」
クララはスカートに縫い付けてあるポケットを叩くと二人に対し、中からジュースとお菓子を取り出した。
彼女の家系としての特技としてクララは見た事あるものなら、何でも取り出す事が出来るのである。
そして、クララにとって物を渡すのは自分と遊んでくれた者への礼というよりは迷惑料であった。そうしないと気まぐれであっても遊んでくれる者が居なかったからだ。
「良い、良い……そんなの無くてもいつでも遊んでやるし、今日は俺がクララにもアリスにもお菓子とジュースを奢ってやるよ。爺さんから結構、貰ってるしな」
「……え」
クララのそれを入間は断ると購買に行こうと提案し、クララは戸惑った。
「私まで……よ、よろしいのですか?」
「おう、アリスにもこれから世話になるからな。主からの褒美って奴だ」
「……っ!!」
「あ、アズアズが固まった」
アリスも戸惑ったが、入間の言葉に深い感激によって硬直してしまった。
「ともかく、行こうぜ」
入間達は菓子とジュースを売っている学食の購買へと行こうとした時……。
「おーい、クラりーん。ジュースくれよぉ」
まるで丁度良いところに利用できる存在が居たとばかりに呼びかける三人組の悪魔。
彼らはクララが物を出せる能力を持っているのを良い事に適当にあしらいながら、物を要求しまくる者達であり、クララも彼らの思考は良く分かっていて利用されているのも又、良く分かっていた。
しかし、今の彼女には物を出さなくても良いと言い、しかも本当にちゃんと遊んでくれた者が居るので……。
「良いよ、あげる」
「ぐぶっ!!」
『よっちゃーん!!』
クララがポケットから取り出した自動販売機を叩きつけられ、三人組の代表者が地面に倒れさせられ、取り巻きの二人によって運ばれていった。
「何だか良く分かんないが、本当にクララは楽しい奴だな」
「……入間様がそう思うなら、そうなのでしょうね」
そんなクララによる一部始終に入間は苦笑を浮かべ、アリスは戸惑いながら返答するのだった……。
因みに後日……クララに自動販売機を叩きつけられた男と取り巻きの二人は彼女へ仕返しをしようと企んだ。
「あの変人女め……舐めた真似しやがって……」
「これはもう、痛い目に遭わせるしかないな」
「ボッコボコのギッタギタにしてやらねえとな」
そうして物陰にてクララが姿を現すのを待っていたのだが……。
「ヒュ、ヒュー」
『あ?』
後ろから大きな口笛が二度聞こえ、怪訝に思って振り返れば……。
「よぅ」
『……』
クララが仕返しをされないように警戒していて、だからこそクララが三人組を撃退した日のすぐ後に三人組の情報とつるんでいる場所を聞いていた事でやってきた入間の姿がそこにあった。
そして、まるで仲の良い友人にあったかのように気軽に手を上げている入間の姿に……。
『(終わった……)』
自分たちの最後を悟る。
「覚悟は良いようだな。少しだけ、手心は加えてやるよ」
『ありがとうございまぁぁぁすぅぅぅぅぅ……』
その後、入間によって三人組は再起不能となるまで叩きのめされたのであった……。