時は入間が悪魔学園バビルスへと入学し、初登校日にて行った『使い魔召喚の義』を行った夜まで遡る。
「それにしても、カルエゴ先生には悪い事をしたな。人間なら悪魔を使い魔に出来る事を知りようが無かったとはいえ……でも、結局、あの場ではやるしかなかったし」
入間の初登校日はバビルスの理事長であるサリバンは一日、自宅業務だったので入間との使い魔契約をどうにかしようとサリバンを頼ったカルエゴはサリバンの屋敷であり、入間にとっては魔界での自宅となる場所まで入間と共に向かった。
当然、結果として使い魔契約は絶対で、一年という期間が過ぎて契約解除となる日を待つしかないというカルエゴにとっては無慈悲な結果となり、サリバンの屋敷を去る時の彼はそれはもう、『悪夢だ……』と呟きながら、力無く歩く程、相当に打ちひしがれていた。
そうしてカルエゴが帰り、夕食の時間となって入間はサリバンとの食事中、話題として入間はカルエゴの事を言った。
使い魔召喚に使った紙にはカルエゴの印があった事、使い魔を召喚する環境として魔方陣があった事、そして自分が人間だという事とカルエゴが悪魔である事と幾つもの条件が重なっていたので『もしもの可能性』としてカルエゴを使い魔にしてしまうという結果の予測は出来たが、だからといってその予測を言っても信じられる事は無いし、ましてや少なくともバビルスでは校歌レベルで人間は悪魔の食料だと教えられているのでその場でのあるいは後々、自殺紛いに繋がるような事はそもそもできない。
なので結局、使い魔召喚をするしかなかった。カルエゴの心身に多大なダメージを与えるような事はしたくはなかったのだが……。
魔界でも現実とはいうのは無情だと……入間は噛み締めつつ、カルエゴに対して内心で罪悪感を抱き、詫びはしておく。
「そうそう、どうしようもなかった事だよ。それにあまり、カルエゴ君の事は気にしなくて大丈夫だよ、入間君。カルエゴ君はとても強く、優秀な悪魔だしそんな彼を使い魔に出来たのは間違いなく、奇跡と言える程に幸運な事なんだから」
「ええ、入間様。私はカルエゴ君の先輩なのですが……本当に自慢できる後輩ですよ」
サリバンもオペラもカルエゴの事は心配しなくて良いと言いつつ、主と使い魔という関係も含めて寧ろこれからはどんどん、積極的に交流してやってくれというような事を入間へと言ったのである。
「分かった、そうさせてもらうよ爺さん。オペラさん」
こうして、カルエゴは今までサリバン、時にはオペラに振り回されていたがこれに加えて更に今後、入間もカルエゴを振り回す事になるのが確定したのである。
「そういえば、新入生の位階ってのは召喚した使い魔の質で決まるってアリスから聞いたけど悪魔を使い魔に召喚した俺の位階ってどうなるのかな?まぁ、別に最底辺でも良いっちゃ良いけど」
「うーん、カルエゴ君は真面目だから使い魔召喚の儀の結果は入間君だと測定不能になるんじゃないかな? それと正確に言うなら、新入生の位階は『使い魔召喚の儀』の結果とクラス配属時に行う
入間の質問にサリバンはそう答えたものの……。
「
何でもない事のように口に出したサリバンの言葉を吟味すると入間は盛大に怒りも込めて叫んだ。そう、当然の事ではあるが悪魔の背には翼があるし、よって、自力での飛行が出来る生態だ。
しかし、入間は人間であり背に翼がある訳もなく、自力での飛行は不可能な生態である。
だからこそ、飛行試験は自分ではどうにもならない不可能な事であると指摘してみれば……。
「…………………………………あっ!?」
間としてかなり長いそれを経て、サリバンは強烈な電流を浴びたかのように身を震わせた。
「今、気づいたのかよっ!!」
「……理事長」
入間は当然、大きくツッコミ、オペラは頭を抱えながらため息を吐く。
「……だ、大丈夫だよ入間君。このお爺ちゃんの手にかかれば何も心配要らないからね。オペラ、今すぐ出かけるよっ!!」
「はい、ただいま」
少し声を震わせながら入間に笑いかけると席から立ち上がって、オペラと共に屋敷から外出したのであった。
「大丈夫と思えないし、滅茶苦茶心配だよ……先行きが、先行きが不安過ぎる」
入間は一人、両手で頭を抱えてまるでカルエゴの如く、打ちひしがれたのであった……。
「さあ、入間君。これを飲めばすぐ解決だよ」
そうして翌日、入間はサリバンから薬品と思われる液体の入った容器を渡される。サリバンが入間に渡した薬品はこれから、入間に変身魔術をかけるのだがその前に飲まなければいけない物だからだ。
何故ならば外見だけならばともかく、例えば種族ごと変える魔術ともなれば使用者である悪魔ならばともかく異種族、人間に対してかけた変身魔術の解除は難しく、最悪、二度と元に戻せないものとなってしまう。
だからこその薬品であり、薬品を飲み、サリバンに魔術をかけてもらう事で入間は悪魔へと……正確に言えば
時間としては一日程度のもので、悪魔の能力としては背に翼が生えて飛行能力を手に入れられる。とはいえ、ハーフが故に魔力は無く、魔術は使えないのだが……。
「おぉ……なんか変な感じだな」
試しに薬品を飲み、サリバンに変身魔術をかけてもらった事で半人半魔となった事で自分の背から生えた翼を見て入間は微妙な顔をしたが飛行試験に備えての練習を始め……。
「あはははははははは!! 空を自分で飛べるのっていうのはなんて、楽しくて最高で清々しいんだ」
人間には絶対不可能な自力での飛行が出来るようになった事で入間はテンションが上がり、ご機嫌な様子で凄まじい速度での飛行をしていた。
「うんうん、とっても楽しそうで良かったよ。見てよ、オペラ。入間君が年相応な子供のようになってるよ」
「えぇ、しかし飛行を始めてまだ数分なのにもうあれ程まで……凄いですね、入間様は」
一目瞭然とばかりに飛行を楽しんでいる入間をサリバンとオペラは微笑ましく見ながら、会話をする。
「当然だよ、なんたって僕の自慢の孫だからね」
「入間様が理事長の孫になったのは、まだほんの数日前ですが?」
「もう、そういう事言わないの」
微笑み、そしてどや顔で言うサリバンにオペラは突っ込むと軽く項垂れ、サリバンは溜息を吐くのだった……。
2
飛行試験当日である今日、バビルスへと行く前にサリバンが用意した薬品を飲み、彼の魔術によって半人半魔となった入間は練習の成果として、サリバンの孫として誇れる成績として一番を目指し、よって凄まじい速度を出しながら背の翼による飛行をしていた。
「ヒィィィィ、ヤッホォォォッ!! やっぱ、空を飛ぶってのは気分が良いぜ」
「あはは、良いぞ良いぞ入間ち。もっともっと飛ばしちゃえー」
「おう、そのつもりだって……うぉぉぉ、クララ!?」
飛行を満喫していれば、声が聞こえたので確認してみればなんとクララが入間の背の上に乗っていた。
「うん、クララだよ。いやー、入間ちって本当に速いね」
「ああ、どうも。それよりどうして俺の背に?」
「えーとね、スタートの時にね……」
入間の質問に答えようとしたクララだが……。
「……乗ってた」
「結果だけじゃ説明にはならないぞ、クララ。次からは説明に飽きないように」
「はーい」
「なら良し。それじゃ、振り落とされないようにちゃんと掴まってろ」
結局、説明しなかったクララへ注意をした入間は彼女が背に乗るままを良しとし、そのまま飛行を続けようとして……。
「ウァラク、貴様。入間様の背に乗るなどなんたる無礼を……さっさと降りろ!!」
入間からだいぶ離れた背後からクララを叱責するアリスの声。
「よう、アリス」
「遅いよ、アズアズ」
入間はちらりとアリスを見ながら手を上げ、クララもそれに倣う。
「どうも入間様……後、入間様の背に乗ってるだけの貴様に言われる筋合いなど無いわ。入間様の背からさっさと降り、後、スタートからやり直せ」
入間に対しては頭を下げるものの、クララに対してアリスは再び、叱責する。
「まぁまぁ、誰かの背に乗って飛行してはいけないなんてルールは無いし誰かの力を頼ったり、利用するのは作戦の内だから良いじゃねえか」
「そうだそうだ、私の作戦通りだ参ったか、アズアズ」
「……入間様はウァラクに甘すぎます」
入間とクララの様子にアリスは苦笑を込めて返す。ともかく、3人は指定された通りのコースを進もうとしたが……。
「おいおい、やりやがったな」
入間はふと自分たちとは別方向へと向かう金色の物体――『金剪の谷』コースへと向かうサブノックの姿を発見し思わず停止した。
「やっちゃったね」
「やりましたね」
入間の言葉に彼の背に乗っているクララは答え、アリスも入間が止まったので止まり、返答する。
「クララ、悪いが俺はあいつを連れ戻しに行く。だからアリスの方に……」
「ううん、入間ちと一緒が良い」
「はい。私も当然、お供いたします」
「だが、それだとお前たちの順位に位階が……」
「順位や位階など些細な事です。私にとっては、入間様が全てですので」
「私も同じだよ」
クララとアリスの順位が、その結果として二人の位階に悪い影響が出る事を心配する入間に対して二人は笑顔で何でもないと返答する。
「二人とも、ありがとうな。それじゃあ、とっととサブノックを連れ戻して飛行試験に戻るぞ」
「うん」
「はい」
二人に感謝と共に笑顔を返し、こうして今回の飛行試験では禁止コースである『金剪の谷』コースへと向かったサブノックを連れ戻すべく、入間にクララ、アリスは彼の後を猛烈な速さで追いかけたのであった……。