うわっ…私のサーヴァント、強すぎ……?   作:あんどぅーサンシャイン

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久ッッッッッッッッしぶりの投稿!! 待ってくれてた方はお待たせしてすみませんでした!!!


寄り道

 

「ん……んんっ……」

 

 眼前より強く差し込む光に、思わず声を漏らして身を捩らせる藤丸。

 そこで彼女は違和感を感じた。人肌で程よく温められたふんわりしたものに体が乗せられ、包まれている。まるで実家の様な妙な安心感があった。

 

 その疑問を解消すべく……今まで閉じていた目を開ける。

 

「あ、あれ……?」

 

 眼前に広がる現実に、もう一度声がこぼれた。

 

「ここって……私の部屋?」

 

 そう、今いるのは人理保障機関……カルデア。

 

 その中の専用に支給された彼女の自室のベッドの上だった。

 手術着みたいな格好に着替えさせられ、全身……特にセイバーによって惨たらしく貫かれた土手っ腹には厳重に包帯が巻かれており、誰かが手当てをしてくれた事が容易に推測出来る。

 

 勿論まだ痛みと疲労感はあるが、無理をしなければ歩き回れる程度には回復しているみたいだ。

 

「いてて、そっか……私帰ってこれたんだ……」

 

 カルデアにいるということは、無事に冬木の街からレイシフトで帰れたということ。

 あの地獄のような状況から生還できた事に一旦安堵する。

  

 けれどどうやって帰ってこれたのかは分からない。

 最後に覚えているのは、レフ教授……いや、レフ・ライノールがおぞましい化け物に変貌し、それにグララララ、と特徴的な笑い声をあげて真っ向から立ち向かっていった白ひげ―――エドワード・ニューゲートの後ろ姿のみだ。

 そこから現在に至るまで丁度記憶がすっぽぬけているので、そのあいだに意識を失ってしまったのだろうと推測した。

 

「うーん……やっぱりちょっとやりすぎだった、よね」

 

「反省、しなくっちゃな……」

 

 過去の愚行を思い浮かべ、恥じる。

 マスターとしてボロボロになったマシュを庇う為とは言え、あのアーサー王相手に生身で立ち塞がり、ましてや人の痛みや気持ちが分からないだのと挑発まで入れた上で胴体に風穴を空けられるなんて、オルガマリーやマシュが言っていた通り無謀以外の何者でもない。

 土壇場でのマシュの健闘と向こうのアーチャーの介入がなければ間違いなく死んでしまっていた。それぐらい、自分のあの行いは度を越していたのだ。

 

「……白ひげみたいに格好よくはいかないよねェ」

 

 当然である。

 向こうは“世界最強の男”と呼ばれた物語内でもトップクラスの強さを誇る大海賊。

 かたや自分は魔術の訓練や格闘技どころか喧嘩すらろくにしたこともない、たまたま選ばれただけの完全なるズブの素人だ。比べるまでもない。

 

「あっ! そうだ、マシュ! 所長! 白ひげ! 皆どこっ!?」

 

 不意にそれを思い出し、痛むのを堪えてベッドから飛び起き部屋を出る。

 あの三人はキチンと自分と同じ様に元の場所に戻れたのか。それがどうしても気になり、このまま寝てなどいられなかったのだ。

 

「あっ、先輩!」

 

「マシュ!」

 

 丁度扉が開いた目の前に、こちらを見るマシュの姿があった。

 再開の喜びと安堵の気持ちが押さえきれず、思わず抱きついて頭を撫でた。

 

「せ、先輩? いきなり何を……?」

 

「えへへ……会いたかったよォ。私の可愛い後輩ちゃーんっ」

 

「は、はぁ……」

 

 だらしなくにやけながら頭をなで続ける。

 マシュは何故こんな事をされているのか、と不思議そうに藤丸を見ながらもなすがままにされている。

 こんな事をするつもりはなかったが、仲間に再開出来た安心感とマシュの普段の柔らかい雰囲気がついついそうさせてしまう。

 

「でも良かった……。無事に意識が戻ったんですね」 

 

「うん。ごめんねマシュ。心配かけちゃったみたいで……マシュの方こそ大丈夫?」

 

「はい。私の方も多少の負傷こそありますがなんとか大丈夫です」

 

 見るとマシュもサーヴァントとしての格好から一転、カルデアでの服装に着替えていた。

 藤丸と同じように体の所々に包帯や絆創膏をしているが、彼女よりも全然元気そうで何よりだった。

 

「でもあの状況からよく戻れたよね?」

 

「ドクターが間一髪のところでレイシフトを成功させてくださったので」

 

 マシュ曰く。

 どうやらレフと白ひげが戦い始めたとほぼ同時に、あの地下空洞の崩壊が始まった。 藤丸はその時には既に傷による出血過多と疲労で倒れて気を失ったらしい。

 このままでは確実に死ぬ。いくら自分や白ひげといったサーヴァントでも特異点の崩壊に巻き込まれれば助かる見込みは限りなくゼロに近い。

 ドクターも『頑張るけど、そっちの崩壊の方が早いかも』などと弱音を吐いていた。

 そしてもう終わりだ、間に合わないという雰囲気となった瞬間にレイシフトが実行。命ギリギリで冬木から脱出し、こうして戻ることが出来たとのことだ。

 

「そんな事になってたんだ。いやーそれは絶望的だったね」

 

「所長なんてああ見えて結構泣き虫だから、メチャクチャパニクってたんだなー」

 

 アハハ、と藤丸はこの場にいないオルガマリーに対しておちょくりながら笑みを浮かべる。

 自分もそれに巻き込まれていた当事者なのだが、記憶が無いためまるで他人事のような言い草だ。

 

「マシュも帰れたことにホッとしたでしょ?」

 

「えっと……私は……不思議とそういったことには平気でしたけどね」

 

「ほえ? そうなの?」

 

「はい。確かに先輩の言った通り危機的状況ではありましたが、諦めるといった考えは全く浮かびませんでした。むしろ『こんなところで死んでたまるかー!』って心の中で叫んでいたくらいです」

 

「どうして?」

 

「どうしてって……先輩が私に―――そう教えてくれたからですよ?」

 

 真っ直ぐと、藤丸の目を見てマシュはそう言い放った。

 

「諦めなければ……どんなに追い詰められた状況でも、決して諦めることなく希望を捨てずにいればなんとかなる。あの爆発に巻き込まれて死にそうになった時、先輩は私にそう優しく諭してくれたじゃないですか」

 

「それに先輩は、口だけじゃなく行動でもその考えを貫きました。アーサー王との戦いで身を呈して私を守ろうとしてくれて……彼女の宝具で身も心も押し潰されそうになった時も、満身創痍の体を引き摺ってまで私に力を貸してくれた……側にいてくれた……確かにあの時には思わず馬鹿な事を、と言ってしまいましたが……でもそれは逆に、どんな相手にも自分の信念を曲げずに己の覚悟を示した素晴らしく筋の通った勇気ある行動に他なりません」

 

「サーヴァントである私なんかよりもずっと強く、誇り高くて逞しい。そんな先輩だったから私も……そうあろうと、なってみせると決めたんです。例え今回のような事になっても……絶対に挫けたりなんてしない。微かな希望にすがって、足掻いて、みっともなくもがいてでも……必ず生きて、笑ってみせる」

 

「そして絶対に……貴女を守ると心に誓えた。先輩の存在が……言葉が……私を強く成長させてくれたんと、思っています」

 

「マシュ……」

 

 ―――そう力強く告げたマシュの顔に、迷いや恐怖といった負の感情は見えない。

 さっきまでの彼女はサーヴァントでありながらどこか頼りなく、むしろこちらが守ってやらなくちゃと思わせるぐらい弱々しい雰囲気を醸し出していた。

 それが今は、白ひげとの出会いやアーサー王との死闘。それらを経験したことで自分の存在意義を確立出来た。信念を得た。改めて戦える理由を知れた。 

 もう二度と負けないし……もう逃げない。何があろうとも前を向いて、希望を信じて進み続ける。それが自分―――マシュ・キリエライトという人間、サーヴァントとしての正しい在り方なのだと、訴えているのを感じた。

 

「……なんか、今のマシュってカッコよく見える。死線を乗り越えて一皮剥けた感じ?っていうのかな」

 

「そ、そうですか? 自分自身ではあまり実感は無いのですが……先輩がそう感じているのなら、きっと、そうなんですか……ね?」

 

「うんうん。だから私も負けてられないな! マシュが可愛くて強い後輩なら、私は美人で可愛い強いマスターになるんだからね!」

 

「か、可愛いだなんて、私が……?」

 

 ―――とは言いつつも、どこか照れ臭そうにはにかむマシュ。

 謙遜はしても、マスターである藤丸に自分の成長と容姿を褒められた事が素直に嬉しかったんだろう。

 

「じゃ、そうと決まったら早く皆に会いに行こっか……っ! 痛った!」

 

 傷口が疼き、お腹を抑える藤丸。

 それを見たマシュは急いで藤丸の腕を取り自分の肩に回した。

 

「あ、ありがとマシュ……」

 

「……あまり無理しないでください。私のマスターは、先輩だけなんですから、ね?」

 

「う、うん……」

 

 いつも通りの優しい口調だが、妙に棘がある。

 なのでこれからは、あんな風な出過ぎた真似は出来るだけ控えよう……と心に誓う藤丸であった。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――カルデア、管制室。

 

 

「んぐっ、んぐっ……ぷはァッ!!! ふっざけんじゃないわよォォおおおおーーーっ!!!」

 

 

「うげええええっ!!? ギブギブギブ!!」

 

「なんであんなボロクソに言われなくちゃならないのよ!! 私だって……私だって才能がないなりに一生懸命に頑張ったのに!! お父様に負けないくらい死に物狂いで頑張って今までやってきたのに……何が無能よ!! 何がガラクタよ!! 何がアニムスフィアのお荷物よ!! 酷い酷いひどい!! レフだけは……レフだけはずっとずうっと私の味方なんだって信じてたのにィ!」

 

「嗤ってたんだ……馬鹿にしてたんだ……無様に空回りする私を見て心の中でほくそえんでたんだァ!! 舐めやがって舐めやがって舐めやがってェ!! う、うう……ううううッ!!! レフなんて……レフなんてェ……レフなんてもう嫌い嫌い嫌い大嫌い!! バカ!! アホ!! おたんこなす!! 白ひげに殺されちゃえばよがっだんだァ裏切り者ォォお!!」

 

「いだだだ!! わがっだわがっだ!! 所長の気持ちはとてもつだわっだがらごれ以上首を絞めるのをやめるんだァァああーー!!」

 

「うわァああ~~~ん!!! うえェええ~~ん!!!」

 

「ぎゃああああああーー~~~ッ……!!!」

 

 

 

「フフン、どうだい白ひげ? 私がオススメするこの酒の味は。肌身に染みる実にコク深い味わいだろう?」

 

「フォウ?」

 

「……ああ。確かに悪くねェな」

 

「いいね! 流石は海賊の中の海賊だ! 違いの分かる男は私は大好きさ! さぁ、遠慮せずもっとジャンジャン呑みたまえ! 今日は無礼講ーだー! 私達の出会いと、初めての特異点修復(ファースト・オーダー)完遂を祝ってね!」

 

「フォウ、フォーウ!」

 

「フン、だったらそうさせて貰うぜ。人の奢りで呑む酒ほど美味ェモンはねェからな!」

 

「ハハハハハ!!」

 

「グララララ!!」

 

「フォウフォウフォウフォーウ!」

 

 

「「……………」」

 

 管制室の様子に、言葉を失い呆然と立ち尽くす二人。

 どうやらオルガマリーも白ひげも無事にカルデアにやって来れたみたいだが……それよりも真っ先に気にしなければならない事が目の前で繰り広げられているのだ。

 

 そう―――彼らは何故か宴に興じていた。まるで盛り上がった深夜の居酒屋みたいに、それぞれが酒瓶やグラスを持って、笑ったり騒いだりしている。

 

 そして彼らだけではなく、他の生き残った職員達まで同じ様に楽しんでいた。

 

 ついさっきまで生きるか死ぬかの死闘を繰り広げていたとは思えないほど、堕落と放逸に満ちていたのだ。

 

「こ、これは……一体……?」

 

「あ! 藤丸君! マシュ! 目が覚めたようで何よりだ!」

 

「やほー二人とも。特異点攻略お疲れ様。悪いけど先に始めてるよー」

 

「それで悪いんだけど所長を止めてくれないかな! もうかれこれずっとこの調子なんだ!」

 

「うぐ……なによォ……アンダまでわだじのごどばがにずるっでいうのォ……!!? ぞうやっでびんなびんなばだじをばがにずるのォ!!」

 

 悪酔いしたオルガマリーにダル絡みされているロマンが助けを求めてくる。

 どうやら彼女は相当酒に弱いようだ。

 

「ど、どうしてこんな事態になっているんでしょうか……皆さんとてもだらしなく酔っぱらっています」

 

「……ちょっと皆!」

 

「せ、先輩?」

 

「なに……してるのさ……こんな時に!」

 

「あァ?」

 

「……私とマシュが怪我で休んでたってのに……皆は楽しげにそうやってドンチャン騒ぎ……いくら無事に帰ってこれたお祝いだったとしてもさ……さっきまで私達命をかけた戦いをしてたんだよ……? そんなの……そんなの……」

 

「先輩……」

 

 ワナワナと拳を握りしめて震える藤丸。

 流石に怒るか……とマシュが思っていると、

 

 

 

「―――そんなのずるい!!! 私も混ぜてェええええーーー~~!!」

 

 

 

「えええっ!? 先輩まで!?」

 

 羨望の眼差しと声をあげて、彼らの輪の中に入った。

 そんな彼女に思わずマシュは目を開いてツッコミを入れてしまう。

 

「何を言っているんだい藤丸君!? 君にはこれが楽しそうにみえるのか!?」

 

「見える!! だから白ひげー!! しょちょー!! ダヴィンチちゃーん! フォウくーん! 私にもお酒一杯ちょーだい!!」

 

「お、来たね藤丸君! いいとも! 一緒に楽しもうじゃないか!」

 

「あァ……ぶじまるゥ……わだじ……ぢゃんどやっでるよねェ……ギヂんどカルデアのじょぢょ~……やれでるよねェ……!」

 

「ちょ……所長……息、酒くさっ……!?」

 

「うわー、見事な悪酔いだァ……」

 

「おい、というかおめェまだガキじゃねェか。無理に背伸びして酒なんざやめとけ」

 

「なんだとー! また私の事バカにしたな!? もう大人だもん! 酒の一つぐらいのめるもん!!」

 

「おー! 威勢があっていいねいいねー!」

 

「フォウ! フォウフォーウ!」

 

「べーだ! 見てろ! こんなの水みたいにゴクゴクいけるだから―――うぶげェ!!?」

 

「グララララ、ほれ見ろ。いっちょまえに大人の真似事なんざするからだ」

 

「ゲホッゴホッ……喉に染みるよォ……でもまだまだァ!!」

 

「いけいけー!」

 

「……やれやれ、どうなっても知らねェぞ」

 

「……………」

 

「ほら、そんなとこにいないでマシュもこっちおいでよ!」

 

「えっ……でも私は……」

 

 そんな気分じゃないのですが―――そう言葉を続けようとしたところで、藤丸に手を握られる。

 

「いいからいいから! ほらおいで!」

 

「でも……」

 

「まァ気分的にまだノらないのは分かるよ。でも理由はともあれせっかくの宴なんだから楽しまなくちゃ! それに―――宴ってのは()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「ッ……!」

 

 嘘偽りのない屈託の無い表情で藤丸が告げる。

 彼女の指す主役とは―――もちろん、マシュの事だ。今回の戦いでセイバーを下し、更に宝具まで解放した。白ひげの助力があったとはいえ、カルデア陣営の勝利に一番貢献したのは間違いないのだ。

 

「だから、おいで?」

 

「……わかりました。マシュ・キリエライト! お言葉に甘えてこれより宴に参戦します!」

 

「ようこそ! さァ夜は長いよ! 目一杯楽しんじゃえー! かんぱーい!!」

 

「お、おー!!」

 

 そうしてマシュも加わったことで、全員参加の本格的な宴が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふゥ……ようやく落ち着いて話が出来る様になったね」

 

「はい、そうですねドクター」

 

 時刻は深夜。宴は数時間にも及び、全員が心ゆくまで呑み、笑い、騒いで一時の平和を楽しんだ。

 その結果、オルガマリーと藤丸は慣れない酒の飲みすぎで完全に酔い潰れてしまい、今は室内の端っこで安らかに寝ている。他の職員達もほぼ全員が就寝に入った為、この場に起きているのはロマニ、マシュ、そして白ひげの三人―――

 

 

「おっと、私を忘れないでくれたまえよ?」

 

「フォウっ」

 

 

 ―――否、そこにはもう一人と一匹がいた。

 片や杖を持った長髪の美女……名をレオナルド・ダ・ヴィンチ。

 マシュ以外のカルデア所属のサーヴァントであり―――“モナリザ”や“最後の晩餐”の世界的に有名な絵画を産み出した画家な他、科学、工学などといったあらゆる分野で多彩な才覚を持っていたことから“万能の天才”と称される存在である。

 

 そしてカルデアに住み着いている猫にもリスにも似た謎のモフモフ動物―――通称フォウ君。

 正式名称は不明だが、フォウと鳴き声を発することからフォウ君と呼ばれている。種族、生態、そしてどこからこのカルデアに来たのか……その全てが謎に包まれている不可思議な生き物だ。ちなみにどういうワケかロマニにだけは全くと言っていいほど懐かない。

 

「さて、それじゃあ真面目な話をしようかな」

 

「ドクター。それなら先輩達は起こさなくていいんですか?」

 

「くごォ……くごォ……」

 

「すゥ……すゥ……」

 

 すやすやと子供みたいに眠る二人を目で追いそう尋ねるマシュに、ロマニは問題ない、と言いたげに首を振った。

 

「二人とも心身共にかなり疲れているだろうからね。あのままにしておこう」

 

「さっきまで散々騒がしかったからな……耳障りになられるよりいいだろ」

 

「そ、そうですか……」

 

 少し言い過ぎでは? とマシュは思った。

 とりあえず、藤丸とオルガマリーには改めてロマニから話をしてもらおう。

 

「―――さて……まずは今現在、ボク達が置かれている状況についてだ」

 

 一呼吸おき、ロマニが説明を始める。

 だがその第一声は―――彼の話す内容が決して()()()()()()()()()()ことを決定づけた。

 

 

「ハッキリ言うと―――人類は跡形もなく滅亡している

 

 

「!?」

 

「やっぱり……あの時のレフ教授の言葉は……!」

 

「ああ、紛れもない真実だよ」 

 

「……!」

 

 改めて、事態の深刻さを告げられた。 

 人類の滅亡。たった五文字しかないこの言葉だが、この世の何よりも悲劇と絶望が詰め込まれている。

 人生において経験豊富な白ひげでさえも、そのインパクトの大きさに押し黙ってしまう。

 

「一応調べてみたが、既にカルデア外の生命体反応は全く感知出来なかった」

 

「更にカルデア内も、レフにより引き起こされた爆発事故によって職員のおよそ7割が死亡……マシュがあの状況から生き残ったのは本当に奇跡だったと言えるね」

 

「……はい」

 

「思ったより随分手酷くやられたみてェだな……それにしても、人類を纏めて消し飛ばすたァ随分とイカれてやがるな」

 

「しかし、なぜレフ教授はその様な蛮行に及んだのでしょう? 何か目的が……?」

 

「それはまだ分からない。しかし人類の滅亡なんていう大それた行動は決して突発的な思いつきでやれる事じゃない。かねてより計画した上での反抗であることは間違いないだろうね」

 

「我々カルデアは……レフの掌の上で思うように転がされていたってことさ。悔しいけどね」

 

「更に彼は―――“聖杯”を所持していることを仄めかしていた。聖杯はありとあらゆる願いを叶えるとされる万能の願望器……人類を滅ぼすことなんて、容易に行える」

 

「…………」

 

 聖杯―――手にした者の願望を()()()()成就させる力。

 かつての自分達の世界では考えも付かない代物だ。

 

「更に彼は人類のみにとどまらず……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」  

 

「? どういう意味だ……?」

 

「説明しよう。アレを見て欲しい」

 

 ロマニが指し示す先には―――先ほどレフによって見せられた地球を模した球体状の物質……疑似地球環境モデル“カルデアス”があった。

 このカルデアスはいわば()()()()()()()……これまで地球上の人類をはじめとする生き物が生まれ、成長し、そしてその過程で起こったことやその存在全てを可視化された映像や光で写すことが出来、それを観測する事によって星の平和と未来を保証してきた。

 しかし―――本来綺麗な青色をしている筈が、今はその面影すら見えないほど黒く、一切の光も景色も灯していない。つまりこれは……地球の繁栄と未来の保証が完全に出来なくなった事を示しているのだ。

 

「レフは過去の歴史……その中でも我々の世界において重要な転換点とも呼べる時代に介入し、聖杯の力で改竄を重ねることによって人類史を土台から崩壊させようと企てた……そしてそれを実行した」

 

「そしてその結果……今の人類は、滅んだのですね」

 

「うん。そう結論づける他はないからね」

 

「なんて事を……!」

 

「……………」

 

 カルデアスの惨状にすんなりと理解を示すマシュ。

 しかし、白ひげだけはうーん、と軽く唸り疑問を呈した。

 

「? どうかしましたか、白ひげさん」

 

「あァ……大ごとになってるってのだけは分かったがよ……イマイチピンと来ねェ……」

 

「というと?」

 

「あまりにも話の内容が飛躍的っつうかな……特異点だの、聖杯だの……聞き慣れねェことばかりでついていけねェ」

 

「ふむ。確かに白ひげの疑問はもっともだね。我々の話の内容は彼の世界とは縁遠いものだから無理はない」

 

「それなら、君にとって分かりやすく例にしよう。代表的なのは―――ロジャーかな」

 

「! ロジャーだァ……?」

 

 ダヴィンチが発する聞き馴れた存在の名前に、思わず反応する白ひげ。

 

「そう。かつてゴールド・ロジャーが“ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)の存在を死に際に大々的に公表したからこそ、大海賊時代が幕を開けたんだよね……そこから君達の世界の物語は始まったんだ。つまり言い換えると“ゴールド・ロジャー”、“ローグタウンでの処刑”、そして“ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”……こういった事象は、そっちの歴史の流れにおいて一つ一つが絶対に無くてはならない貴重なピースなんだよ」

 

「……………」

 

「もしも一つでも失われてしまえば、時代の流れは根本から狂い覆され……最悪その歴史そのものが滅びてしまう。さっきのロマニの言った特異点とは……その“もしも”が介入してしまった本来なし得ない筈の時間軸なのさ」

 

「もしもあの時ロジャーが死ななかったら……“ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”の存在を公言しなかったら……いや、むしろ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……なんて、想像できるかい?」

 

「……ロジャーも、ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)も存在しねェ世界か……確かにそりゃあとんでもねェな……」

 

 ダヴィンチの説明に、白ひげは軽く頷いて理解の意を示す。

 彼女が上げた要素だけでも、白ひげにとって大きく価値があるものであり、彼という人間を語る上で必要不可欠。自分の人生の足跡に大きな影響を及ぼしてきたのは自分自身で身に染みるほど分かっていた。

 

 “ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”が無ければ、海賊として海に出る者が少なくなり……それに付随して本来いた筈の“家族”がいなくなっていたかもしれない。

 

 その中には……やがて自分の運命を決定づける要因となった()()()()()()()もいる。

 

 そしてロジャーがいなければ、その両方ともが成立しなかっただろう。

 ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)はロジャーによってその存在が認知され、またあの兄弟はロジャーの肩書きである海賊王という存在を目指すために冒険を始めた。つまりヤツこそが言うなれば自分達の世界……そして自分含む数多くの海賊達のそれぞれの歴史の転換点―――ターニングポイントでもあるのだ。

 よくも悪くもロジャーやひとつなぎの大秘宝(ワンピース)は深く関わっており、切っても切り離せない。もしそれらがハナからきれいさっぱり無くなってしまったら……一体あの海は……世界はどう変わってしまうのか。

 

「私達がどれだけ窮地に立たされているか、理解出来たかな? 白ひげ」

 

「ああ。理解が悪くてすまねぇな」

 

「???」

 

 この中で唯一ワンピース未読のマシュ。  

 何の事かさっぱり分からず頭上にはてなマークを何個か浮かべ、首をかしげていた。

 

「カルデアは大きな打撃を受けた。正直今の状態で戦いに赴くのは愚の骨頂……圧倒的ジリ貧だ。勝てる可能性は限りなくゼロ……砂漠で一粒の砂を見つけるに等しいだろう」

 

「……………」

 

「……………」

 

「それでもボクは微塵も諦めるつもりはないよ―――何故ならボクらには、まだ希望があるからさ」

 

 しかし、まだロマニの目は―――輝きを失ってはいなかった。

 

「レフと……いや、()()()と戦えるだけの力が―――ちゃんと残っている」

 

「レフの思惑から外れ、無事にカルデアに生還を果たした優秀な魔術家系の末裔―――オルガマリー・アニムスフィア」  

 

「自らの死の運命を乗り越え、英霊との奇跡の融合召喚を為し遂げた逸材―――マシュ・キリエライト」

 

「選定した48人の最後の生き残りであり、人類最後のマスター適任者―――藤丸立香」

 

「そして―――世界最強と呼ばれ、名実共に伝説を生き抜いた大海賊サーヴァント、“白ひげ”ことエドワード・ニューゲート」

 

 一人ひとりに視線を向け、迷いのない声色で告げるロマニ。その顔は、苦難や苦痛を乗り越え、何としてでも突き進む……そんな覚悟を決めた男の顔だった。

 

「君達に頼む……いや、これは最早強制に近いかも知れないが、それでもボクは言うしかない」

 

「マシュ……レイシフト適性のある君と藤丸君しかいないんだ。聖杯を奪い返し、特異点を元の正しい歴史に戻せる唯一の方法……!」

 

「……ドクター」

 

「そして白ひげ……貴方の力は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな貴方の存在はマシュと藤丸君にとって大きな助けになる」

 

「……おれァ」

 

「わかっている! 貴方はあの頂上戦争で全てを出し尽くして名誉ある死を遂げた……けどだからこそ! そんな貴方が英霊に選定され、サーヴァントとして藤丸君達の前に現れたのは……何か意味があるとボクは思っている!」

 

「だから頼む!! 世界を救う為にもう一度……もう一度だけ戦ってほしい!! 死に場所をボク達に決めさせてくれ!!!」

 

「……………」

 

 ロマニの頭を下げる程の懇願に白ひげは即答……とはいかない。

 当然だ。彼は自分の事を世界最強だの大海賊だと言っていたが誇張だ。歴史を巡り人理の崩壊を阻止するなんて芸当、ただのいっぱしの海賊が背負うには荷が重すぎる。

 更に非情な事を言えば―――自分にとって()()()()()()()()()()()()()

 守るべき家族やナワバリの島もない。気ままな冒険も出来ず、使い魔としてこき使われ、戦いに勝とうとも負けようともいずれは消え去ってしまう……それがサーヴァントの運命だ。

 それに今いる彼らだって、たまたま出会って少しの間一緒に行動したってだけの関係。情もなければ素直に従う理由も皆無だ。

 時代の残党、若き芽が華々しく咲き誇るには邪魔でしたかない枯れかけの雑草……自分は所詮その程度の存在なのだ。

 

 ―――けれど。

 

 

 (……おれがサーヴァントなんてもんになっちまったのは、偶然じゃねェってのか?)

 

 (まるで運命ってヤツがおれにまだ死ぬなと……おめェにはまだやれる事があるだろって……そう言いてェのか)

 

 (……クソ生意気な)

 

 

 ―――逃げるなんて選択肢は、それ以下だ。

 

「……仕方ねェな」

 

「えっ……?」

 

「乗りかかっちまった船だからな。それに事情はどうあれ……いい大人がガキ一人の本気の誠意に応えられねェなんざ気分が悪ィ。んな真似なんざ……()()()()に顔向け出来ねェからな」

 

「! なら……」

 

「グララララ……付き合ってやるぜ。その人理修復の旅とやらにな」

 

 白ひげに続くように、マシュも言葉を紡ぐ。

 

「私も戦います。先輩や白ひげさんに救ってもらったこの命を無駄にはしたくない……恩返し、なんて簡単な言葉で決めつけたくはありませんが」

 

「私は私を信じてくれた全ての為に戦う―――それが、私に出来ることです」

 

「きっと先輩も……そう言うハズです」

 

 二人の力強い答えと覚悟を汲み取り、ロマニは安心したように笑った。

 

「……ありがとう。その言葉でボク達の運命は決定した―――」

 

 

「これよりカルデアは、従来同様オルガマリー・アニムスフィアを主体とする人理継続の尊命にして原初の使命―――“人理守護指定・グランドオーダー”を発動する!!」

 

「我々がこれから立ち向かうは()()()()()()……それは挑戦であると同時に過去に弓を引く冒涜ともとれる行いだ!!」

 

「だがそれでも……ボクらは戦う!! 数多の偉人や事象がボクたちに大願阻まんと立ち塞がるというのなら―――越えていく!! おのが信念の旗の下に!!」

 

「魔術世界における最高位の使命を以て、我々は―――未来を取り戻す!!」

 

 

「はい!!」

 

「……!!」

   

「ぐごぉ……わだじがざい、ぎょお……!」

 

「すぅ……わだじだっでェ……やればでぎるもォん……!」

 

 

 こうして、人類の未来を賭けた人理修復の旅―――“グランドオーダー”が始まった。

 彼らに待ち受ける結末は栄光か、破滅か。

 混沌渦巻き悪意に満ちた魑魅魍魎が蔓延る艱難辛苦の旅を経て、彼らはどう変遷し、どんな物語を紡いでいくのか。はたまたその“逆”をいくのか……この時はまだ、誰も―――知らない。

 

 

 

 (すまねェな……息子達よ。本当ならあの世でおめェらの活躍を末長く見守ってやるつもりだったが……予定変更だ)

 

 (少しだけ……寄り道させてもらうぜ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そんな中ダヴィンチはふと、思った。

 

 (……けれど、どうしても分からないことがあるんだよな)

 

 (どうして所長はカルデアに戻ってこれたんだろう? レフの言葉通り、あの爆発でレイシフトと同時に彼女の肉体は確かに欠片も残さず消え去った筈だ……()()()()()()()()()()?)

 

 (そして白ひげ……彼はおそらく冬木におけるマスターのいないはぐれサーヴァント。カルデアと正式な縁を結んだワケでも無いのに、何故ここに現界してこれるんだ……?) 

 

(……これらが偶然なのか、奇跡という名の星の導きか。それとも―――)

 

 

 

 

 

 

 

 ―――???

 

 「……ニューゲートォ。まさかてめェまでここに来るとは思わなかったぜ……だがそれも巡り合わせってやつだなァ。ま、せいぜいあの小娘の為に働いてやるこった」

 

「それからありがたく思えよロマニ……いや■■■■。わざわざそいつを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あんなガキにゃあ……()()()()()()()()()()()()()なんざエグすぎて耐えられねェだろうからなァ! ヴォハハハハ!!」

 

「だからアレを手にするのはおれだ……そして力を得てもう一度―――世界の頂点に挑んでやる!!!




これにて冬木編は終わりです。
とりあえず次回からは特異点を少しずつ攻略していきます。白ひげをどうサーヴァント達と絡ませるか、絶賛思考中です。 

ただ出来れば白ひげ一辺倒ではなく、マシュや藤丸の方にもスポットを当てれるよう頑張ります。
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