うわっ…私のサーヴァント、強すぎ……? 作:あんどぅーサンシャイン
ついさっきまで、私―――マシュ・キリエライトは死ぬ運命にあった。
突然起きたカルデアの爆発に運悪く巻き込まれ、降ってきた瓦礫の下敷きとなったのだ。
大事故だ。下半身は瓦礫に潰され、血の匂いと激痛が五感を激しく刺激する。声を出したくても、出せない。助けを呼ぶ力も残っていないほどに、手痛くやられた。
「―――――あァ」
こんなにも炎が燃え盛っているというのに、私の身体はどんどんと冷えていく。体温が消えていく。虚無がわたしを呑み込もうとする。暗黒が私の意思を塗りつぶしていく。
そうか、これが―――“死”というヤツなのか。
私はそんな現実を意外にもすんなりと受け入れた。なぜこんな事故が起こったのか、他のスタッフやマスター候補の人達は無事なのだろうか。そんな感じの事を考えた様な気もするがすぐに頭から消え去った。間も無く死ぬ人間が何を心配しようが全くの無意味なのだから。
それに人間である以上いつかは死ぬ。私の場合はそれが今であっただけ。何も不思議な事じゃない。不慮の事故とはいえ、これが私に決められた運命なんだろう。
そう自分で納得し、意識を完全に闇の中に落とそうとしたその瞬間、
「マシュ!!」
「?」
その人……藤丸立香先輩は現れた。
先ほどカルデアの廊下でレフ教授と三人で会話をしたばかりなので、その容姿と声は鮮明に覚えていた。
先輩は倒れている私を見つけるやいなや、大急ぎで近寄ってきた。なぜここにいるかと理由を聞くと、爆発源がこの管制室であったのを緊急放送で聞いて、私を含むマスター候補の身を心配して思わず来てしまったらしい。
その後、先輩は私を助けようと私を引っ張ったり、上の瓦礫を押してどかそうとしたが、たった女性一人の力でどうにかなるような状況じゃない。仮に瓦礫をどかせたとしても私は激痛と大量出血により指先一つすら動かせないほど弱りきっている。どちらにせよ絶望的な事に変わりはないのだ。
そうこうしている内に、再び管制室内に放送が鳴り響いた。
『近未来100年までの地球において―――人類の痕跡は発見出来ません。人類の生存は確認出来ません。人類の未来は、保証出来ません』
「え? なにそれ? どゆこと?」
「……そん、な……」
管制室の隔壁の扉が封鎖された。
……ああ、なんて事だ。
私のせいで、私が中途半端に生き残ってしまったせいで先輩を巻き込んでしまった。先輩が死ぬ必要なんて全然無かったのに。悪いのはこの私だ。完全に無駄な犠牲だ。
これではまるで―――間接的に私が先輩を殺したようなものじゃないか。
そんな後悔と懺悔の気持ちでいっぱいになり、私は細々とした声で先輩に謝罪の言葉を述べた。
「すみませ……ん。わたしのせいで……」
「……………」
先輩は怒る事はなく、かといって絶望にうちひしがれるワケでもなかった。
ただ一言、私の顔をハッキリと見てこう言った。
「まァ……仕方ないよね。でも、なんとかなるでしょ」
「―――!」
そう言って先輩はニコッと微笑んだ。
その目はまだ―――希望を見ていた。死ぬことしか考えていなかった私とは違い、こんな絶望的な状況においても、決して生き残る事を諦めていない―――そんな“強い”目だった。
そうか、この人は―――
「―――あの……、せん……ぱい」
「ん? なに?」
「手を……、握ってもらって……いいですか?」
「……うん。わかった」
私の手を包んだ彼女の柔らかい手は、大丈夫と言うように浮かべる優しい表情とは裏腹に、小刻みに震えていた。
この状況ではもう私達は助からない。突きつけられた目の前の終わりに恐怖するのは当然だ。
素面に振る舞ってはいるが、先輩だって一人の女の子だ。本当は怖くて。震えるほど怖くて。声を上げて泣いてしまいたいだろうに。
「あはは、マシュの手冷たいね。まるで冷えピタシートみたい」
「……せんぱいは、……怖く、ないん……ですか……?」
「怖い? ああ、これからどうなるってことが? うーん……怖くない、と言えば全然嘘になるよね。正直膝とかガクブルだし、てか死んじゃうかもって事を怖れない人間なんてこの世にいないでしょ」
「なら……、どうしてそう、笑っていられるんですか」
「……………そりゃあ―――」
「―――笑ってた方が、いいじゃん」
けれど、彼女の手は、言葉は、微笑みは。
今までに触れた何よりも優しく、穏やかで温かだった。
「―――――フフッ」
だからこそ、私は先輩を守ると誓った。
サーヴァントと化したこの身体を以て先輩の盾となり、矛となる。この命をとして、全身全霊をかけて守っていこうと……そう
彼女は私に温もりをくれたから。こんな身も心も矮小な私を見捨てること無く寄り添ってくれたから。
それこそが私が最大限に出来る先輩への恩返し。そして人間として通すべき筋なんだと、そう思ったからだ。
なのに―――
「……んごぱッ!!」
吐血する立香。
貫かれた腹部からは夥しい量の血がダラダラと流れ落ち、専用に支給されたカルデア専用の白い制服が瞬く間に真っ赤に染まっていく。そして全身を駆け巡る激痛。
「はァ……、はァ……あがァァ……ッ!」
「せ、先輩……!! なんで、どうしてこんな馬鹿な事を……ッ!!」
「なに、やってんのよ……! なにやってんのよアンタ!!!」
突然の立香の自殺行為とも言える行動にマシュもオルガマリーも声を大きく上げてそう問い質す。当たり前だ。サーヴァント同士の戦いに割って入るだけでなく、敵の一撃を我が身で受けるなど正気の沙汰ではないのだから。
「フン。何をしたかと思えば、くだらん真似を―――ん?」
「はァ……! はァ……!」
「―――――」
彼女は動かない。
まっすぐとセイバーを鋭い目で見据え、一歩も後ろに下がること無くひたすらに立ち続ける。
「死ぬぞ。なぜ退かない」
「はァ……はァ……。退けるワケ……無いじゃん……! だってここで退いちゃうと……お前のさっきの発言が……本当の事になっちゃうから……!」
「なんだと?」
「お前はさっき、仲間なんてゴミクズ以下だって吐き捨てた……! 知らなかったとはいえ、お前は私とマシュの事を真っ向から否定したようなモンなんだ……。そんなの絶対に認めない。だから分からせてやるんだ。仲間はゴミクズなんかじゃないって。そして私とマシュはそんなサーヴァントとマスターってだけの主従関係で終わるような間柄じゃないって。だからこそ、私はここを退くワケにはいかないんだよ……!! 侮辱されたままで、終われるか……!!」
「……分からせてやる、だと。要はただの意地の張りではないか。そんなつまらん事の為に自らの命を賭けたというのか? どれだけ筋金入りの馬鹿なのだ貴様は……!?」
「……そう、かもね……! 確かに私は大馬鹿者だよ……!! でもさ―――
「!!」
立香の口から放たれたその言葉。
彼女にとっては単なる煽り程度にしか思っていないのだろうが、セイバーはそれに対し―――思わず
―――王は、人の気持ちがわからない……。
「―――!! そんな目で……そんな目で私を見るなァァァ!!」
「ッッッ!!?」
そう声を荒げると無理やり剣を引き抜き、傷口の腹を思い切り蹴飛ばした。
声にならない悲鳴をあげ、吹き飛ぶ立香。
個人差があるとはいえ、サーヴァントの筋力は人間のそれを優に超える。今の一撃であばら骨が何本かイッてしまった。
「うげッ……! げほっ、ごほっ……!!」
「先輩!!」
「藤丸!!」
「クソ……、クソ……ッッ!!」
一度ならず二度までも……!
どうしてこんなヤツらに偉そうにほざかれなければならないのか……! そう憎々しい気持ちで押し潰されそうになりつつ、セイバーは感情のままに再び吠えた。
「黙って聞いていれば戯けた事を……! 何が“仲間”だ“信頼”だ!!? そんなものは所詮現実を知らぬ衆愚共が作り上げた上っ面の“綺麗事”に過ぎない!! 人は我欲で動く生き物だ!! 際限無く欲を満たそうとし、その為なら他人を蹴落とし、貶め、平気で利用し! 用済みとなればゴミのように捨て去る!! どれだけ多くの言葉で上書きしようとも、それが人間の性というものだ!!! 私はかつてそれを嫌というほど思い知らされた……!! そんな私に向かってよくもいけしゃあしゃあと……経験浅い青二才共が図に乗るなァ!!」
「くっ……なんて威圧感……!」
「こ、これは……!?」
『! アーサー王の魔力値が急激に上昇している! まずい!! 彼女は恐らくここで―――!!』
「はァ……、はァ……もういい!! そろそろ頃合いだ。最早貴様らの面を視界に入れる事すら我慢がならぬ。だがせめてもの慈悲だ。痛みを与えず、少しも苦しませず、そして―――」
「!!?」
「―――一片も残さず消し飛ばす!!」
セイバーの剣に膨大な魔力であり“闇”が収束されていく。
其は世界を侵すものを排除する息吹。星の海によって鍛え上げられし最強と謳われた聖剣の成れの果て。
「ほ、宝具……! それなら……!!」
「マシュ……」
「大丈夫です。先輩、私が絶対に……守りますから」
何とか身体を起こし、駆け巡る痛みに耐えながら立香の前に立つ。
こちらに魔力の余裕があるワケではない。だが―――切り札を発動するくらいの力は残っている。
(確かにあのセイバーはとんでもない強敵だ。騎士王という名称に全く恥じないほどの強さを兼ね備えていて、私の様な半端者とは根本的な“格”の違いがある……けれど―――)
(―――
白ひげとの特訓で培われた
その感覚はマシュの脳裏に深く焼き付いており、そしてそれをどのタイミングで使えばいいかと言うことも彼女は理解していた。
(ここだ……! この瞬間こそ絶好の機会―――
「ほう、逃げずに正々堂々と立ち向かうか……いい度胸だ!! ならばどちらの宝具が強いのか! どちらの覚悟の方が上なのか! どちらが聖杯に相応しい英雄として勝鬨を上げるのか! 勝負だァァァああ!!!」
「ッッ!! 私は……負けない!!!」
覚悟を決め、マシュは盾を構える。そして……、
「卑王鉄槌。極光は反転する―――光を飲め!!」
「
「―――宝具、展開します!!」
「
互いの最終奥義が激しく邂逅する。
片方は―――たった一人の少女が
対するは―――たった一人の少女に込められた誓いと『守りたい』という切なる想いが大きく具現化し、この世のありとあらゆる“不純物”を遮断し、排除せんとする雪花と希望に彩られた不動の防御壁。
まさに光と闇―――互いの誇りと信念を懸けた魂のぶつかり合いだ。
「「はァァァァァああああああ!!!!!」」
しかし―――
「ぐ……うぐゥゥうう……!!」
その均衡は、長くは持たなかった。
元々双方の実力には圧倒的な差がある。加えてマシュは宝具を解放したことにより、体内に貯蓄していた魔力量をほとんど消費してしまった。その為技を発動する事は出来たものの、肝心の敵の攻撃を耐えきれるだけの力が完全に枯渇しかけていたのだ。
(ま、マズい……! このままでは……、押し潰される……ッッ!!)
「私に対してここまで抵抗を見せた事は褒めてやろう……だが貴様一人の力ではこれが限界という事だ! このまま闇に死ぬがいい……! 聖杯を掴み取るのは……この私だァァああああッ!!」
セイバーの叫びに同調するかのように、闇の波動がマシュを喰らわんと唸りを上げて襲いかかる。
「そ、そんな……!!」
これ以上はもう―――そう彼女が諦めかけた時だった。
「一人なんかじゃ―――ないッ!!」
「―――え?」
彼女を支えるようにして、立香が背後にいたのだ。
苦しそうに腹部を押さえながらも、必死な表情で身体に鞭打って立っていた。
「せ、先輩!? 離れてください! ここにいては―――」
「はァ……はァ……。言ったでしょ……。侮辱されたままじゃ、終われないってさ……! こんな刺し傷ぐらい……痛くもなんともないよ!!」
「!」
そう言って、立香は彼女の手に自分の手を重ねる。
すると、その手の甲に刻まれたサーヴァントとマスターの関係性を示す赤き紋様―――令呪が眩く輝きを発した。
「これは……令呪!!」
『ッッ!? 駄目だ藤丸君!! そんなボロボロの状態で令呪の使用なんて―――』
「やめなさい!! 今度こそ死ぬわよ!!」
「大丈夫だよ、ドクター、所長……。私はこれくらい……何とも、ないから……! だから……諦めないで、マシュ……! アイツをブッ飛ばして仲間の大切さを思い知らせてさ……白ひげを仲間にして……そして皆で帰るんだ!!」
「先輩……はい!!」
そう立香の覚悟に満ちた言葉を汲み取ったマシュ。
最早二人の身体は限界に達している。けれど倒れるワケにはいかない。
目の前の敵を討ち倒すまでは。仲間がいること、信頼し合うことの“強さ”を証明するまでは。
「小賢しい!! そんな友情ごっこで我が一撃を跳ね返せると思うなァァああ!!!」
「いくよマシュ!! あの攻撃を―――耐えて!!」
「はい!! マシュ・キリエライト!! いきます!!!」
令呪を使用したことにより、マシュの魔力量がリスタートされた。
もう一度全身に力が沸き上がり、雪花の盾は一層強固さと輝きを増していく。そして―――
「「ああああああああああああああああああああああああああ!!!」」
「―――――」
「―――――」
―――光が闇を、打ち払った。
次回、決着とあの人登場です。