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「正気ですか五条さん!? 今の乙骨くんは四級なんですよ!」
「分かってるって。伊地知、声が大きいよ? 今高専には怪我人もいるんだからさあ」
今回の任務に関するやりとり。五条はいつも通り軽薄な様子で伊地知を揶揄う。伊地知が声を大きくするのも無理はない。彼にとって乙骨は呪術師である前に学生。みすみす危険に飛び込ませることは許容出来ない。
「いくら彼が」
「菅原道真公の末裔。それだけじゃないさ」
呪術界の大御所。それを自らの先祖に持つのが乙骨である。呪術と関わりのない里香が特級に位置する存在になったのは、ひとえに彼の能力が原因だった。他の家族には見られない隔世遺伝のような現象。彼はその才を多分に受け継いでいる。
「憂太には経験がある。商店街の準一級呪霊。京都校との交流戦──そして、傑」
乙骨はまだ十分な技術のない内から強敵と会敵する機会を得てきた。結果、今の彼には熟練とはいえないまでも、術師として十分な経験の蓄積がある。
類稀な才能。十分な経験値。この両方が備わっているということはすなわち。
「憂太を四級のままにしておくとか、ありえないでしょ? さっさと実績積ませて、パパッと僕のとこまで来てくれなきゃ」
「しかし……」
「言った通りに出来ないの、伊地知?」
無言、ではないが確かな圧力。パワハラではないかと伊地知は思うが口に出せばマジビンタが待っているので黙る。
「まあ信じなよ。僕が適当言ったこととかある? いや、無いでしょ?」
伊地知は大概いつも適当だろうと心の中でこぼす。表情も変わらないように尽力する。
「はい、伊地知アウトー。ケツバットね」
「理不尽!」
◇
「△△市、その一角に人知れずある神社にて、小学生が行方をくらます事件がここ数日確認されています。その元凶を打破していただくのが今回の任務になります」
「小学生……最初、真希さんと行った任務思い出すなあ」
「あえて小学生狙ってるのか? くそ小賢しい呪霊みたいだな」
狡猾さ。呪霊を相手取る場合に最も気をつけなければならない要素。策を弄して弄ぶように人を殺める呪霊は、時としてただ強いだけのそれよりも脅威となる。
「それもそうですが、姿を眩ます前後、子供の遊ぶような声が聞こえるとの情報があります。それに子供が釣られやすいということもあるのでしょう」
「どっちにしろ、厄介な相手には変わりない。抜かるなよ、棘、憂太」
「しゃけ」
「まあ大丈夫だろ、憂太
「やめてよ真希さん……あれは里香ちゃんがちょっと……」
あれ、とは数ヶ月前に行われた呪術高専の東京校と京都校の対抗戦の話。通常一年生は参加しないのだが、乙骨は例外的にこれへと参加。里香の存在もあって圧勝するに至った。そのこともあってか暫く「さん」付けでいじられることに。
「先輩たちも優しかったから、それでたまたまだよ……」
「……優しい? 秤がか?」
秤金次。東京校の二年生。実力は非常に高いが、その素行は問題視されている。
「え? うん。秤先輩なら」
◇
「おいおい、なんだよこのモヤシ! これなら狗巻連れてきた方がマシだったろ!」
交流戦の前、作戦会議の際。
「せっかく京都の東堂とやり合えると思って多少燃えてたのによぉ! 冷めちまうぜ、糞が」
秤が大事にするのは、「熱」。どんな物事にもそれが絡むと彼の目の色は変わる。裏を返せばそれがなければ彼は一切動かない。
「おい、モヤシ」
「ひっ……」
「……っち。テメェ、何級だ」
この場に駆り出されるくらいなら、せめて等級くらいは高いのだろうと秤は考える。それでせめて「熱」を補おうと。
「えっと、なんだっけ……そうだ、特級……」
「──ふざけてんのか、テメェ」
「ひぃっ!」
特級。その意味が何か分からない術師はいない。それは多少呪術について学んだ乙骨もそうである。だが証明する手段がない。学生証は紛失したまま。
「ほんとなんです……! 学生証は、えと、今無いんですけど……」
「馬鹿にしてんのか!? 証拠も無しにそんなもん……おい、五条サン! こいつ一回」
「ホントだよ」
「は?」
その場に居合わせたにも関わらず一部始終を笑いながら見守っていた五条。秤に話を振られてようやく口を開いた。
「憂太、特級なんだよね。ウケるでしょ? まあ特級被呪者って枠ではあるんだけどさ。誤差だよ、誤差。実際本気出されたら僕でも手こずると思うよ?」
軽口のように聞こえるがそうではない。仮に乙骨が里香を完全顕現させ五条を殺すつもりで挑めば、五条も死ぬ気で戦わなければ足下を掬われる。それほどの力が乙骨にはあった。
「ってわけだから、仲良くしてあげてね。カワイイカワイイ後輩なんだし」
「……モヤシ、じゃなくて、憂太きゅん」
秤には野望がある。呪術規定、それの改訂。もし、特級という力のある存在がバックにつけば、その野望も……
「……え? いや、乙骨で大丈夫です……」
「……乙骨きゅん、喉乾いてない?」
そう思ってから、秤が乙骨に
◇
「相変わらず、ゲンキンな野郎だな……」
「でもジュース奢ってくれたり、本当に優しかったよ? 四級になってからも仲良くしてくれてるし……きゅんって言われるのは、ちょっと恥ずかしかったケド……」
「あいつ奢る時はどうせギャンブルで勝った金使ってるぞ。ぺっしなさい! 憂太、ぺっ!」
始まりはそんな打算に塗れたもの。しかし、交流戦で見せた乙骨の姿は、秤に確かな「熱」を伝えた。今となっては、おそらくだが真っ当な先輩後輩の関係と言えるだろう。当の秤は百鬼夜行で上層部に歯向かったことから謹慎を言い渡されているのだが。
「おかか」
「おっ、と。そうだった。悪い、伊地知さん。続けてくれ」
「はい。子供の被害がある以上、放置は得策ではありません。今からお二人には現場に急行していただきます。休暇となっていたところ心苦しいですが」
「すじこ」
「だね、狗巻くん。早く、助けなきゃ」
祝いの席。それでも彼らは任務を優先する。なぜなら、呪術師だから。
呪いを祓う。それこそが呪術師の存在意義なのだから。