『
『じゃんじゃん じゃんじゃん だかだかだかだか じゃんじゃん』
『ぱんぱかぱーん ぱぱぱぱぱぱ ぱんぱかぱぱぱぱぱぱぱぱぱ ぱんぱかぱーん』
『てれれれーん てっててー てれれれーん てっててー てれれー てれれれーんッ』
『ロサンゼルスから、アイツがやって来た』
『弾けろ筋肉 飛び散れ汗』
『これがザ・肉体派女優アンジェリーナの真髄だ』
『車に轢かれても、飛行機から落ちても、ビクともしねぇ。ロスの女優はタフネス設計、なお当社比』
『アンジェリーナちゃんは約束します』
『一つ、超現場主義の徹底』
『二つ、テロリストの撲滅』
『愛する私を救うため、一人、敵のアジトに殴り込み』
『その強さは、もう、どうにも止まらない。全員まとめて、かかってこんかい』
『力こぶれ。肉密度1000%』
『プレデターvsコマンドーvsダークライ ロサンゼルスSOS』
『尚翻訳はご覧の通り内容には一切関係がありません』
『木曜洋画劇場は、このあとすぐ』
「こんな感じで良いですか? もっとふざけて欲しいならふざけますけど……?」
『いえいえ! 某ファンファーレも、配給会社が違うから出る筈がないのに口で最後まで言ってるところとか、タイトルも全然違いますし、話されている内容と映像が一切関係ないのも役柄がそのまま出てて今回も、もう最高です!』
「ありがとうございまーす」
『ではこれに見合う物に更に修正しますので折り返しご連絡いたしますね?』
「はい、宜しくお願いします。失礼します」
電話の先で相手が受話器を置くのを聞き届け、こちらもそっと受話器を置く。ベッドの前に広げられたパソコン、そこで開かれた窓を閉じそのまま仰向けでベッドに倒れ込んだ。
「ちかれた」
日本で続編の地上波放送が行われるらしい。初放送を今回ももぎ取った木曜洋画劇場のテレビ会社、テレビTKから製作会社経由で予告のボイスオファーが来た。内容は私なりに全力、真面目にふざけて欲しいというもので依頼通り予告の音声はそれなりにふざけさせてもらったわけだ。
流石に地上波で流す故に下ネタを言うわけにはいかず、有名なネタをパクらせて引用させて頂いた。
実はこの会社、処女作の放映の予告からとそこそこ縁が長く、私が交流のある唯一の日本のテレビ会社だ。インタビュー、バラエティの出演は一切無いがネット経由で私が出演した映画の地上波放送予告、劇場版吹き替えとは違う放映オリジナルのアフレコを行っている。
他の会社からも依頼は来るのだがまぁこっちに挨拶に来い、撮影したいから現地に来い、日本のスタジオで録音するから、冒頭にインタビューを入れさせろ、バラエティーに出ろ等割と面倒なのである。使ってやるという認識なのかと勘ぐってしまうが、じゃあやらないわと答えられる環境に私は居る。日本の俳優のように形振り構わず出てるわけではない。
その逆にテレビTKは何も言わない、最初に現状バラエティーやラジオ、ドキュメンタリーに出る予定はないと伝えて以降は撮影を含む出演オファーをこちらに送ることなく、こうして遠距離で声当ての仕事をくれている。
そこまで律儀に守られると少しくらいならテレビTKの何かに出てあげてもいいかなと思ってしまう、なんてのは甘い事なのだろうか? よくよく考えればそれが日本での出演は初めてになる、初めてを散らすなら仲の良いところを選ぶのが必然であろう。
時計を見れば時間は夜の21時。ニューヨークと日本の時差はざっくり14時間、向こうは次の日の朝9時ということになる。
こんな朝早くから話してたのかと感心する一方で出来はどうかと気になるところ。寝るには少し早い。DVDをPCに読み込ませて続編映画を見ることにする。アフレコに気になる点、修正事項があるなら伝えた方がいいだろう。
◆◆◆◆◆
『…………ん』
とある部屋の一室で、上半身裸の一人の男がベッドに眠っている。カーテンの隙間から溢れた朝陽が男の顔を照らし、微睡む男が寝返りを打つ。しかし日差しに夢から醒めさせられたようで、眠たげに瞼を閉じたまま上半身を起こした。
『………………ねむ。んッ……。んんッ…………』
男は逆光に照らされたままゆっくり両腕を上げて身体を伸ばす。太陽へ胸を向け背中で語るその様は神秘的と表現されても不思議ではなかった。筋肉の伸縮と共に眠たげな瞳のまま口を大きく開けて溢れ出てくる声を吐き出す。
『んぁ……あ゛ぁぁぁ』
そして男が振り向き、胸板が見えそうになる瞬間に舞台は暗転した。
◆◆◆◆◆
夜のとある教会の一室に二人の男がいた。片方はサプレッサーがつけられたスターム・ルガーを手に握ったまま目の前の床に転がる男を見下ろしている。転がる男の手足は撃ち抜かれており、溢れる血液が歴史を感じさせる木彫の床を赤黒く染めていた。
『主神は貴様を許さない。必ず地獄へと落ちるだろう』
『聖職者が子供の身体を売るのは流石にクソ。まぁ、お先に地獄で懺悔してな』
銃口が見上げる男の眉間に向けられて、引き金が引かれる。銃声と共に男の身体が一瞬跳ね上がると、男の意識は黄泉に落とされた。それを見届けて銃口を向けていた男は手に握っていたそれを脇にあるガンホルダーへと戻し、胸元から煙草を取り出すと唇で咥えて火を灯す。
『……ふぅ……。私は良い男だが、流石に童貞食べるほど腐ってもいないんだ』
口から吐き出された紫煙が部屋を漂う。男は目の前で捨てられている男だった存在の眉間に出来た火消し穴へとタバコを差し、その場を後にする。
◆◆◆◆◆
ニューヨークのボロアパートの一室。一組の男女が思い思いの行動をしている。バーボンのボトルを持ち口内のチョコレートをアルコールと唾液で溶かしながらテレビを見て笑ってる男。電卓を叩きながら男へと視線を投げる不機嫌な女。対称的な様子の二人だが、思い詰めている様子の側で笑い転げているのに我慢できず女が男へと話し掛けたのだった。
『昼から飲んでないで働け。ペアを組まされてから仕事が少ないんだけど、もう少し悪評を無くすよう心掛けたらどうなの?』
『ん? そういうことは私より稼いでから言ってくれ。穀潰しの甲斐性無し、ヒモ女、女として生きてて申し訳無いと思わないの?』
『ここは私の拠点なんだが?』
『役立たずの廃棄物。食べて糞するだけの動物以下のミドリムシ。ろくに仕事もこなせない社会不適合者。お前のお母ちゃんは可哀想だな』
『誰のせいだと思ってるんだ!!』
『そっちのトーク力がないからだろうに。じゃあスポンサーでも集めようか? じゃばじゃば金を落としてくれる素敵なスポンサー様』
女の怒気を笑って流す男。女の溜め息は虚空へと消え、その視線は酒気を吐く男へと注がれるのだった。
◆◆◆◆◆
先程までの狭いボロアパートのソファに数名の女が腰を下ろしていた。アストライアも裸で逃げ出すような六法全書宜しく分厚い契約用紙と事務的な心を持ち合わせた女らは件の男女と対面している。男女はといえば一切の興味を持ち合わせていないようで、現実から目を背け明後日の方向へと顔を向けていた。
『仕事の際はこの服装でお願いいたします』
『車は当社のロゴの入ったこちらをお使いください』
『仕事の始業と終業の際は打刻して頂きたいのですが』
『残業代は基本給に含まれてまして』
『やっぱ口出ししてくるスポンサーって糞だわー……』
男は立ち上がると、未だ言いたげな女らに何かを言わせる前に帰らせる。不満げな顔を浮かべても男の行動は止まらない。
『ほら帰った帰った』
『まだビラ配りしていた方がマシじゃないか』
女らが入り口の扉を潜ると茶髪のアメリカ人女性が口を開いた。すると閉じられていた扉が開き別の一人の女性が入ってきた。
『はぁい、調子良い?』
『ファック』
『何しに来た?』
視線を合わせず暴言を口にする男と用を尋ねる女。その多様な対応にも入ってきた女性は気に止める様子はない。
『財布事情が寂しい君達に仕事をと思ってね』
『そう言って変なことを押し付けるんだろう? 騙されんぞ』
『変なことじゃないさ。ちょっととある人を守って欲しいんだよ』
『風呂入ってくるわ』
『待てや!!』
男は話を聞くつもりは無いようで奥のシャワールームへと姿を消す。リビングに残されたのは女性が二人だけだ。しかしそれに対して慣れているのか気分を害することはなく、女性は話を続ける。
『今回君たちにはとあるターゲットを護衛してほしい。これが飛行機のチケットだ』
『場所はどこさ?』
『イギリスだ。………ところであいつはどこ行った?』
『本当に風呂入りに行ったぞ』
茶髪の女性が男を追い掛け、シャワールームの閉じられた扉を勢いよく開ける。
『おい、イギリスだと。すぐ準備を』
開けられた扉の中では男がシャワーを浴びていた。シャワーカーテンの隙間から男の太ももと素足が見え、カーテン越しに生まれたままの姿であることを強調させる。カーテンの上部は男の胸元で切れており、湯に濡らされた黒髪、濡れる肩と軽蔑を露にした男の視線が女へ深々と刺さった。
『シャワー浴びてるときにそれを言うか普通。裸見たいだけかお前』
『……すまん』
◆◆◆◆◆
場面は変わりイギリスの料理店。先程の男女がそこに居た。酒よりも食気と運ばれてくる料理に舌鼓を打ちながら幸せそうに咀嚼する男、女はといえば料理を楽しみつつもその様子を肴にワインへと手を伸ばしていた。
『イギリス料理って不味いらしいけど、案外いけるじゃん』
『お客様、こちらはフランス料理になります。イギリス料理をご所望ですか?』
料理を運んでいたウェイターの要らない言葉によりその場を何とも言えない空気が支配する。男が視線を泳がせながら首を縦に振れば直ぐ様イギリス料理が運ばれてきたのだった。
『………………何これ』
『ウナギのゼリー寄せになります』
男がスプーンですくえば透明なゼリーと皮付きのウナギが光に照らされる。恐る恐るそれを口へと運び、男はゆっくり味わうように噛み締めるのだった。
『……ごふッ!? ……まっず』
『お客様、食べる際はこちらのソースをおかけください』
『ん。……ウナギをここまで不味くできるのは一種の才能だな』
『お褒めに預り光栄に御座います』
『誉めてねぇよ馬鹿』
◆◆◆◆◆
『ターゲットが二人雇った、白豚とイエローモンキーだ。ターゲット共々殺せ』
ビックベンの針が真上を差す夜、ロンドン市内のパブにて三人のイギリス女性が酒を飲んでいた。エールを口に含み一人が二人へと獰猛な笑みを浮かべて口を開く。話し掛けられた女の一人は静かにエールを傾ける。もう一人は下卑な笑みを浮かべて笑っていた。
『男の方は別に犯してからでも構わないよな』
『死ねば何でも構わん』
女の了承の言葉を心地よく思ったのか、一気にエールを煽る。その酒会は朝まで続いたのだった。
◆◆◆◆◆
『……ん? 後ろ二人、付けられてないか』
『お熱なファンだねぇ。スターにでもなった?』
ロンドンの人気の少ない路地を歩いている二人。女が背後に佇む不審な気配を感じて声に出せば男がおちゃらけたように呟くが、顔を振り向かずともその視線は流し目で後ろの存在へと向けられる。辺りを男が軽く見渡せばお目当ての物はあったようでそちらに向けて歩みが進められた。
『馬鹿言え』
『隠れる場所は、あぁこっち』
男が指差したのは脇道に設置された清掃器具用のロッカー。扉を開ければ清掃用具は使用中だったのか持ち出されており、二人が身を寄せれば問題なく入るスペースがあった。
『ちょっと……狭くないか?』
『黙って入る。ほら脇に手をいれて』
男が先にロッカーへと入ると、女を手招きする。女は覚悟を決め男の両脇に両手を差し込み抱き抱えるようにロッカーへと入った。
『ちょッ。二人で狭いとこに隠れたって胸元に都合よく顔埋める人いる?』
『済まない、本当に済まない。わざとじゃないから』
『顔動かさないで、擽ったいから。諦めて私の匂いでも嗅いだら?』
『…………良い匂いなのが腹が立つ』
『うわぁ……本当に深呼吸しやがった』
抱き抱える男の胸元に女が深く顔を埋める体勢になってしまった男女。足音がロッカーを通り過ぎるが、ある程度離れるのを待って出る様子。男が彼女の耳元に唇を寄せると、両手を女の後頭部へと回し、頭を抱きしめ胸を彼女の顔へと押し当てた。そのまま髪を櫛で鋤くように指を絡ませて女の頭を撫で上げる。
『男の匂いを堪能するのが好きな変態だとは思わなかったよ』
『あっ……髪を撫でないで!それと頭を抱き寄せるもだめ!!』
『後できっちり請求するから心配しないで』
◆◆◆◆◆
『ここはキャバレーじゃないわ。代金は身体と命で支払って貰おうかしら』
『こんな良い男を集団レイプしようとするなんて悪い人達。でも嫌いじゃないよ。美人だからね』
廃工場の一階の作業室で一人の男を十人の女が囲んでいた。男の脇には銃がしまわれているが、それを出して一人を撃つ頃には男は他の女に滅多打ちにされるだろう。しかしその様子でも男の顔には笑みが浮かべられており、虚勢でもない様子に囲っている女達の気性を逆撫でる。
『ほらケツを出せ、鉛玉ブチ込んでやる』
『殺るわよ』
囲っている一人の女が男へと飛び出した。掴み掛かろうとする女と、それに対して笑みを浮かべる男。男の手が自身の腰に伸びる。そして何かを掴んだその手は、女の顔目掛けて下から上へと振り上げられるのだった。
掴み掛かっていた女の顔が、掴もうとしていた手足を置き去りにして突然固まる。顎から鼻まで斧を丸太のように受け止めた女が後ろへと倒れた、その様子に他の女も驚きを隠せない。動かないのを良いことに、足元で活きの良さを見せ付ける丸太に手斧を振り下ろす。手斧が下ろされた丸太は辺り一面に薪をばら蒔いた。そして手斧を持った男が場に似つかわしくない笑い声がその場を支配する。
『ふふ。私殴り合うの苦手だから、許して?』
◆◆◆◆◆
時を同じくして同じ廃工場の二階に設置されたコントロールルームにイギリス人女性と茶髪のアメリカ人女性が二人。相対している両名とも脇のホルダーに銃があるが、どちらとも未だそれに手を伸ばそうとしない。一触即発な空気がその場に孕み、殺し合いの産声があがりそうになる。
『今頃モンキーはレイプされてるだろうよ』
『あぁ調子乗ってるところ済まないね。悪いけれどこんなのでも彼は今、私のパートナーなんだ。クソッタレな男だって、守らないと女が廃るわ』
『お熱いねぇ。揃ってカラスの餌にしてやる』
イギリス人女性が足元のガラス片を蹴りあげ、それが撃ち合いの合図に変わる。宙に舞うそれがアメリカ人女性の顔へと弧を描き飛んで行くが、女は横に転がる事でそれを避けた。避けた体勢のままホルダーから50AEデザートイーグルを抜き、銃口を合わせるが相手は既に距離を取っている。二人の舞踏会は始まったばかりであった。
◆◆◆◆◆
二人の女性による硝煙の匂いを振り撒きながら奏られる協奏曲が、先程まで囲われて居た男が参入してきたことによって交響曲へ変わる。機材が置かれている柵を背にし男は女性に向けて引き金を引く、手に持つスターム・ルガーから放たれた銃弾がイギリス人女性の側に着弾し火花を散らし戦いを彩っていく。
『このイカレ野郎共が!!』
『なッ!?』
イギリス人女性が男の元へと側にあった小型の消火器を投げた。直線で顔前に近付くそれを驚きの表情を浮かべながら柵から背を乗り出し避けるが、バランスを崩した男は銃を手から離し虚空に存在する何かを掴もうとして手を伸ばす。
『えッ? あ。ちょッ』
柵から乗り出された背中は戻ることはなく、そのまま男は二階から下へと落下して行った。下に残置してあった機材に背中を打ち付け、重力に従い床に叩き付けられる。
『……ぐッ!? ……う゛ッ! …………ん゛ぇッ……』
背中から叩きつけられたことで呼吸が出来ず苦しそうに溢れる呻き声が場を支配する。落ちた瞬間に驚愕の表情を浮かべたアメリカ人女性だったが、呻き声を確認すると顔には安堵の表情が浮かぶ。しかし直ぐ様イギリス人女性を鋭い視線で捉えて、顔に怒気を溢れさせた。
『よくも』
『フンッ』
その様子に誇らしげに鼻を鳴らすイギリス人女性。その行為が女の苛立ちを増幅させる。エピローグは直ぐそこまで迫っていた。
◆◆◆◆◆
『では、帰ろうか』
女は男に目もくれず空港を向くと、足を踏み出した。男はそれを急ぎ追いかけ女の背に立つと、彼女の肩を掴んで自身の方へと強引に振り向かせる。互いの視線が交差する瞬間、恥ずかしさに耐え切れず男が視線を逸らした。頬はうっすら桃色に染まっている。
『…………恥ずかしいから、見つめないでくれない?』
そう男が囁くと左手で女の視界を遮る。そのまま互いの顔が吐息が肌に触れる距離まで近づいていく。そして唇が触れそうになる瞬間、男は唇と唇の間に右手の人差し指と中指を差し込みそれを彼女の唇へと触れさせた。すぐさま触れていた指を離し、腕を降ろして視界を遮っていた手を解く。
『……あ』
男は驚きと羞恥に染まる彼女の横をすり抜けると、そのまま空港へと向かい始める。振り返り彼の背中を見つめる彼女を背に、男の口元は笑みに染まっており、唇の隙間から舌先が出された。
◆◆◆◆◆
本編自体は問題ないのではなかろうか? これなら来年開催されるアカデミー賞も期待できる筈である。因みに一作目も取るには取っている。
この世界では演者とは女性の花形職業で男優が主演を務めることは今までにない。
この世界のアカデミー賞とは主演女優、助演女優、監督へ送られる物で男優へ送られる賞は存在しない、他の賞は割愛する。
前に招待状は来たが、出る価値がないと判断した故にそのアカデミー賞自体には不参加である。
アメリカアカデミーの運営には不参加の連絡として招待状へ「映画界の発展を望んでる癖に男優への賞がないとか退廃的だな」とメッセージを添えて送り返した。男優への賞を作ってから誘って欲しいところだ。
ただその際に珍しくアンジェリーナに出席を懇願されたのは記憶している。一緒に出よう、アカデミー賞は名誉なんだと何度も誘われたが結局はそれも断り通した。
今回はどうなるのか、設立されるのかと今から楽しみである。しかし真面目な話、もし男優への賞が作られないなら映画業界の男性の未来は暗いものになるだろう。
キーボードを叩きエンドロールを流す。あぁそういえばあったなと、実際にスクリーンで流れたミステイクを見ながら懐かしさを感じるのだった。
◆◆◆◆◆
『…………ん。………………ねむ。んッ……。んんッ…………。んぁ……あ゛ぁぁぁ。…………あ? …………なんで居るの?』
『ストップ! ストップストップ!! 見える見える! 前隠して前!! 使えなくなるから!!』
『……あーごめんごめん。あれ、私寝坊した?』
『この映像使えるか? いや……監督が寝起きの映像を撮って来いって』
『だからって寝室に突撃してガチ寝起き撮るか普通。男だからってカメラマンも大変だね』
『全くだ。君もよく身体張るよ』
『今回ばかりは違うけど。珈琲飲んでく?』
『頂くよ。でも噂通り寝るときは本当に裸なんだ』
『昼から飲んでないで働け。ペアを組まされてから仕事が少ないんだけど、もう少し悪評を無くすよう心掛けたらどうなの?』
『ん? そういうことは私より稼いでから言ってくれ。…………えぇごめんカット!』
『カット』
『いやぁ案外悪口って出ないもんだね。困った』
『ポンポンでたら困るよ』
『……参ったな、あんまり浮かばんぞ』
『昼から飲んでないで働け。ペアを組まされてから仕事が少ないんだけど、もう少し悪評を無くすよう心掛けたらどうなの?』
『むっつりスケベ。生き遅れ女。薄皮卵子。孫の顔は見れない。膣にクモの巣張ってそう。即イキ女。両親が可哀想だ』
『……え、そこまで言うの?』
『カット!』
『え? あらごめんごめん。ちょっと言い過ぎた。ごめんね』
『おい、イギリスだと。すぐ準備を』
『シャワー浴びてるときにそれを言うか普通。裸見たいだけかお前』
『すまん』
『……カットッ!!』
『…………ほらタオル』
『タオルくれるの嬉しいけど視線さぁ。チラチラ見るくらいならガン見しようよ。見たいなら頼めばいいのに』
『変態みたいに言わないで……』
『お、なになに? 優君は頼めば見せてくれるのかな?』
『見たいなら監督でも見せてあげるけど、続きはアダルトサイトのスパム宜しく別料金だよ』
『ん。……ウナギをここまで不味くできるのは一種の才能だな』
『お褒めに預り光栄に御座います』
『誉めてねぇよ馬鹿。………………うぇ待ってこれ。まっず。本当に不味い、不味すぎ。不味くする天才。ソースかけても泥の臭み消えないんだけど』
『ちょっと食べさせて?』
『ほらアンジェあーん』
『食べさせられるのは恥ずかしいんだけど』
『二人ともカメラ回ってたんだけど?』
『あ、済まない。ん……うんまぁ…………随分個性的な味だね』
『絶滅させるくらい蒲焼きにして食べるから日本に全て輸出してほしいわ。素材の味の自己主張半端ない』
『よし、もうワンテイクいこうか』
『……え? 食べ直さないとだめ? 監督嘘でしょ?』
『だーめ。ほら味わって食べて?』
『ひぇ』
『ちょッ。二人で狭いとこに隠れたって胸元に都合よく顔埋める人いる?』
『済まない、本当に済まない。わざとじゃないから』
『顔動かさないで、擽ったいから。諦めて私の匂いでも嗅いだら?』
『…………良い匂いなのが腹が立つ』
『うわぁ……本当に深呼吸しやがった男の匂いを堪能するのが好きな変態だとは思わなかったよ』
『あっ……髪撫でないで!それと頭を抱き寄せるもだめ!!』
『後できっちり請求するから心配しないで』
『…………カットッ!! 何その絵面! 台本にないけど最高ッ!! これ絶対使うからッ!!』
『え』
『アンジェドンマイ?』
『それは……恥ずかしいんだが……。あとそろそろ離してくれない? ……ちょっと優、ヘルプ? ヘルプ。離して』
『え、面白いからいやだ』
『いいよいいよ! ばっちり撮るから!!』
『やめて、お願い。離して、お願い』
『真っ赤になって可愛いなぁ』
『だから胸を押し付けながら頭撫でたらああぁぁ』
『えッ? あ。ちょッ……ぐッ!? ……う゛ッ! …………ん゛ぇッ……』
『よくも』
『フンッ』
『…………カットッ!! ちょっとスタッフ急いで!!』
『大丈夫!?』
『……………ぁ……ぅ゛……ぅ゛ぅ、ふッ……すぅ……ふぅ……すぅ』
『担架!』
『……いや、いい。いいから。大丈夫……大丈夫。大丈夫だから。……あ゛ああぁぁぁめっちゃ痛かったんだけど!!』
『優、本当に大丈夫か?』
『……済まない。私の演技のせいだ』
『……ひぃ……いっちぃ……。大丈夫大丈夫、気にしないで。私が驚いてバランス崩した、それくらい良い演技だったよ。まだ背中じんじんするし。あー……ちょっと休ませて。撮り直すのは待って。あーぶね……落ちたときに足からじゃなくて良かった』
『ねぇ正直言うとこの映像使いたいわ。本気で痛がってる良い顔してる』
『そりゃまぁ本気で痛かったから。おっけー……。後で見させて』
◆◆◆◆◆
同時刻、ニューヨーク州市庁舎にて。
「彼の演技はいつ見ても良い演技だとは思わない? でもこのミステイク集が、最高なのよ。ラストまで飽きさせない最高の演出が堪らないわ」
「市長、もう24時近いんですが」
「それに見てみて、このポストカード。ポストカードにサインとは、本当洒落てるわよね。見てくれない? 世界に1枚のサインよ」
「件の俳優のですか? 話はそこまでにしてもう帰りません?」
「ええ、ついこの前。手紙をくれて、その中に入ってたのよ」
「市長?」
「彼はとても魅力的。なのに残念、実に残念だわ」
「何がですか? 因みに残業代は計上させて頂いてますので」
「ロスの市長が言ってたのよね。アカデミー賞が変わらずに開催されるそうなの」
「変わらず開催されることは良いことでは?」
「開催されるのは良いことなのだけれど、アカデミー賞には男優賞が無いのよね。由緒ある物の伝統を守るのは素晴らしいこと、けど伝統を守るだけが由緒ある物の後世への伝え方という訳ではない。伝統は時代に合わせて発展するのも大事な事なの」
「私は今、男性がアカデミー賞を受賞するのは反対ですね」
「へぇ? それは何故?」
「他の男性に素晴らしい演技を出来る方が居ないからです。賞が作られれば受賞するのは間違いなく彼でしょう。……彼が受賞しなければロサンゼルスでは大規模な暴動が起きますね。彼の地元も、受賞会場もロサンゼルスですし」
「それで?」
「今その賞を作っても彼の為の賞にしかならない、突出した才能で男優界の頂点に立っていますが、足元のすぐ近くに他の者が居るのではなく他の者はそこにすら辿り着いていません。賞とは競い合うべきかと」
「だけれど何かしらの待遇を示さなければ、男優の世界に未来は無いわね」
「それか発破を掛けられ他の男優がいきり立つかですか。ですが何かを渡そうにも彼の気難しさはその界隈では有名ですし、一昨年でしたか? 彼が出席を断ったの」
「リムジンから降りてきたのはアンジェリーナと監督だけだったからね。あれには驚かされたわ」
「映画が作品賞、監督賞と主演女優賞、脚色賞、撮影賞、視覚効果賞、音響賞の七冠にも関わらず不参加だったとか」
「そう、翌日のインタビューすら音信不通。曲がりなりにも出てる映画が偉業を成し遂げたにも関わらず一切興味を示さない」
「普通なら喜ぶ事なのでしょう」
「私もそれは思ったわ。でも本人じゃないから何考えてるのか、さっぱりわからないけど何か考えでもあるんじゃない?」
「まぁいいでしょう。ではお先に失礼します」
「あぁ私も行くわ。残念ながら今回は落ちてしまったけど、彼を市議に呼んだら来るかしら?」
「来る筈がないかと」