アンジェリーナ
言い方。まぁ、私は行っても構わない
リュドミーラ
私も行くわよ、されたら困るし!
リュドミーラ
場所は?
アンジェリーナ
ロスじゃないの?
リュドミーラ
ヤポンスキーって凄いわね
アンジェリーナ
私らでもそんなこと頼めないぞ…
リュドミーラ
アラブ人?
アンジェリーナ
待て。その話、後で詳しく
アンジェリーナ
日時は?
アンジェリーナ
ビザ間に合う?
リュドミーラ
無理…かな?
+ Aa
◆◆◆◆◆
「でっかいなぁ……」
霧が出て来たロサンゼルス国際空港、その空港に停泊中のボーイング747-206B型。とにかくデカぁぁぁい、説明不要ッ!!
おっぱいでもお尻でも飛行機でも、大きいものが好きな男としてはこのデカさは堪らない。細い葉巻のような飛行機しか見なくなった世界で馬鹿デカい飛行機、ジャンボジェットには特別な憧れがある。一応エアバスにもA380だかジャンボはあるにはあるのだが日本の知名度でいえばボーイングの方が有名ではなかろうか。
私も個人的にはボーイングの方が顔が好みだ。貧乳派は心に正直になれ。
撮影会で来てくれたアラブ人より借りたこの旅客機、チャーター便の手配が付かず来年必ず行くから! とお願い倒したら飛行機を貸してくれました。
燃料費と停留料も気にしなくていいよと言われたが流石に良い金額になる、いくら原油のお風呂に入ってそうな石油大国とは言え金勘定だけはしっかりしておきたい。そして少しの問答の結果こちらが払うのは羽田への着陸料だけとなった。
停留料と燃料費は出すから来る際に期待しとくよとのことである。
重量が400トン弱で1トン辺り2400円、90万くらいかな? 停泊料とUAEからLA、HNDまでの往復燃料費を考えたら一億は行きそうなのだが、押し切られてしまったものは仕方ない。
まぁ着陸料も領収書を切って幹事に請求するからいいか。
そういえば件のダイヤモンドだが彼女に返そうと努力した。しかし、それは君にあげた物で気にしなくていいと受け取ってくれませんでした。税金に困るからであり遠慮しているわけでは無い、おかげさまで他のプレゼントを含めて数十億の税金を払うことになったんだが、まぁ……ギャラに比べたら微々たる物であるけれども。
そして私はチャーター機専用のエントランスへと置かれた小型機に囲まれているジャンボ飛行機を搭乗前に眺めている。ジャンボ機の真横にもう一台ジャンボ機があるが、恐らくこれも別のチャーター機だろう。パンアメリカ? 知らない子ですね。
因みにアンジェとミラーシャはビザが間に合わなかったので一人での来日、飲み会の誘いは半年前に誘おうね。勿論メディアでの公表もない、バレたら息抜きにならない。
飛行機を一人で眺めていると背後のドアが開く。振り返れば肩に金モールをつけた50歳くらいの銀髪の女性が居た。欧州の生まれだろうか、こちらではあまり見かけないシャープな出で立ちで視線は鋭いが、視線が合えば笑顔を浮かべるその女性。
私に用があるのだろうか?
「失礼、ミスタークロキ。お会いできて光栄です」
海外で見られる握手文化、貞操観念が変わったこの世界でも勿論行われる挨拶である。基本的なルールとして左手握手はNG、目上の人が相手の場合は右手を差し出されるのを待つというものがある。
またブンブン振らない、両手で握らない。前者は驚かせてしまうため、後者は初対面なのになんだこいつとなるからだ。
あとは女性から男性へも手を差し出さず、男性が差し出すのを待つと言うものがある。仕事のツテであれば容赦なく握って所構わず私も差し出すのだが、誰だこいつとなるような完全に初対面であれば私も用心してしまう。
メーデー、メーデー、メーデー、こちら目上女性、目上女性、目上女性、男性が目下の場合どっちが出せば良いか、メーデー、目上女性、オーバー。知らん、私はマナー講師じゃない、その場のノリと雰囲気で何とかせよ、オーバー。
「こちらこそ、初めまして? 私に何か御用ですか?」
「挨拶をと思いまして。機長を務めますヤーコブ・フェルトハイゼン・フィロメナ・ザンテンです」
「あ、機長さん? わざわざすみません、よろしくお願いします」
なんとびっくり機長さんだった。急いで
「世界のスターを乗せて空を飛べる事はありませんから、家族に自慢できますよ」
「スターだなんて、私はザンテンさんの方が凄いと思うけどな。ところでここから羽田までどれくらい?」
「5500マイルですね。航空時間は13時間と思って頂ければ問題ありません」
「教えてくれてありがとう」
「いえ、それでは私は準備しますので。これで失礼します」
「はい、またあとで」
エントランスに一人残される私。私も早く飛行機に乗り込んでゆっくりしたいところだ。
「ヤーポン法は悪い文明」
しかしマイルじゃあ距離がわからん、やはりヤードポンドは滅ぶべし。さて今のうちに真水を買わねば。
漬け込めば大抵は何とかなる、我らの大事な聖水である。
そして実はこれっぽっちも日本へは行くつもりはなかった。理由は、何故声をかけ続けたのか、何故そこまでして行かせたいのか、それを考えればいい想像は出来ない。恐らく私は広告塔、客寄せパンダだ。
であれば何故行くのか。私の身体が行きたがっているからだ、なんて三文芝居染みたつまらない事は言わない。
まぁ言ってしまえば良くも悪くも私には当時の記憶があまり無い、つまるところだ、日本の男性と女性が実際のところどんなものか見当がつかない。
日本にはこれからドスケベ国家として世界を指揮して頂かないといけないのに、流行らせる本人がその国の人を知らないのは困る訳である。
恐らくはナンパされる、いやされてみたい、OK出したら死ぬが。そしてお持ち帰りを考える愚か者もいる。だが、これぞ好機。日本女性の性癖をまさぐるチャンスである、例えそれがそこまで美人ではなかったにしてもだ。
要は茶髪と銀髪もいいけど黒髪の大和撫子探しもええやんなということだ。
◆◆◆◆◆
優君、頼むよ
えっと可愛い人は多いよ?
頼む、お願いだ
頑張る
出す
ありがとう!
アラブ人? チャーター??
現地で払うよ
取り敢えず了解
+ Aa
◆◆◆◆◆
飛行機は滑走路でぶつかることもオーバーランすることも、ピトー管が凍ることも、機長がタイタニックすることもなく羽田空港に着いた。私はしっかり後部座席に座っておりました。
航空中、真水を使う時点でもう既にアウトなのでは、と願掛けにすらなっていないことに気が付いたのは私のみ知るところ。
到着ロビーの自動ドアをおっかなびっくり開ける、完全ニューヨークの出来事はトラウマだ。現れたのは誰もこちらに興味を抱いていない普通の光景、安心できる。
入国審査係には大変驚かれ、何度も本人か尋ねられたがウインクしながらオフだからと鶴の一声で黙らせた。
格好はといえば擬態を兼ねて男らしい露出の少ない衣装にしてある。時期は早いがダッフルコートに地味なチノパン、中はしまむらで売ってそうなシャツ。ロングのウィッグと帽子をかぶり、サングラスをつけて変装度合いは完璧である。
羽田での光景は他人に気にされない事はこんなにも幸せであると噛み締める瞬間だった。誰も私を認識していない、実に嬉しい。
そして何より数年ぶりの日本語、あちらでは基本話すことが無かったので一周周って新鮮であった。
アメリカではお尻を拭うくらいしか使い道がなくなった100ドル札数枚を円へと両替し、ロビーから出てJRではなくタクシーへと乗り込む。その行き先は都内のお高いホテルである。
「ようこそいらっしゃいませ」
都内の景色を眺めつつ乗ること一時間、ホテルへとたどり着いた。タクシーから降りればホテルの入り口にはホテルウーマンが立っている。
ホテルウーマンは手早くタクシーから荷物を下ろす、流石は高級ホテル。お高いだけのことはある。
「いらっしゃいませ」
「予約してた黒木です。えっと……はい、クレジットカード」
受付で帽子とウィッグを取るも受付係りの男性の顔色は変わらない。反応がないということに心底安心する。彼にクレジットカードを手渡す、すると微笑みながら首を傾げられた。
「黒木様、チェックアウト時のお支払になりますが、チェックイン時にお支払なされますか?」
「あ、そうなの? まぁ出しちゃったからお願いします」
「かしこまりました。この度は当ホテルのご利用、誠にありがとうございます」
因みに余談だが予約したのはスイートではなく普通の個室である。長期滞在でもなく、飲んで帰るだけなので安い部屋を予約しておいた。
ホテルウーマンに案内されたのは気持ち広めの客室、窓からは東京都内が見渡せる、眺めのいい部類に入るだろう。チップを固辞するホテルウーマンの胸ポケットに諭吉さんを捩じ込んで、一人ベッドに横になる。
携帯を見ても例の男からは連絡がない。記憶を漁ってもその学園に通ってた記憶はあるが、友達らしい友達は少ない。私はボッチだったのか。今さらそんなボッチに何の用だと思いはするが、まぁここまで来てキャンセルするわけにもいかないだろう。
そうこうしていると空の疲れが癒えていないのか、少しだけ眠くなる。
少しでも疲れを癒すために、布団に身体を擦り付けながら眠りに落ちるのだった。
◆◆◆◆◆
起きたのが飲み会の2時間前、シャワーを浴びて着替えを済ませフロントにタクシーの手配をお願いする。ウィッグは部屋に置き身支度を済ませてタクシーに乗り、それほど上がらないテンションのまま飲み会場へと向かった。
飲み会と言われれば基本パブを貸し切りかバーの貸し切り、パーティーといえば大人数でわちゃわちゃしてても皆知り合い。ロサンゼルスでの私の酒飲み事情はそれが基本である。ビジネスタイムだとか、そういう雰囲気での飲み会はしたことがないので割愛する。
会場だと指示された店の前で降りる。会場は個人経営の居酒屋のようだった。店の脇にある看板と道端のポップには質の良さを訴えつつも安さを強調させる文言が記載されている。
このときの私の顔は半笑いだった。
「同窓会の参加者だけど」
無理矢理愛想笑いを浮かべつつ、店の扉を潜って帽子を取れば店員女性から戸惑いと歓声があがった。それを避けるように奥へと進めば、既に集まっていた人の視線を一身に受ける。どうやら最後の方だったらしく見渡しても誰もいない席は少ない。湧き出る歓声についてはキリがないので無視させて頂こう。
すし詰めと言ってもいいだろう。小上がりのテニスコート二つ無いくらいのスペースにかなりの人が座っている。そんなに人が多いならホテル貸し切って立食パーティーにすればいいのに。
「ありがとう優君! 来てくれて嬉しいよ!」
男が右手を
私の愛想笑いにヒビが入る。
「姫乃だよ、本当に覚えがないかい?」
てめぇか。てめぇかよ。えぇ? 笑ってるね、その心笑ってるね。
ふぅ。さて頭の記憶の引き出しを漁ってみるが、友人の項目にはヒットしない。類似検索で探してみれば、……なんか居たわこんなの。前世の眼鏡で見たら女の子にヘコヘコしてた男としか記憶ない。
「覚えてない」
「そ、そっか……」
「人混み嫌いだから末席でいいよ」
「優君の席はあそこだよ」
彼が指差したのは人混みの中のど真ん中。正直人が居すぎて空いてる席が確認できない。
視線を回せば玄関に一番近い席が空いていた。
「末席でいいよ。そこは他の人に座らせて」
彼に手を振ってそちらのスペースに移動する。周囲の視線を引き連れているが反論がない辺り多少強引なくらいが何も言われずに済みそうだ。
空いてるスペースに腰を下ろすと、隣の男と目が合う。キノコ頭の眼鏡かけたこの男は知っている、検索にすぐヒットした。友達の……えー……確か名前は
「よ」
「久しぶり。優君、雰囲気がガラッと変わったよね」
「でしょ? 褒めても何もでないよ、飛べばドル札は出るかも。試しに振ってみる?」
「…………ここだけの話、姫乃君は優君をダシに参加集めてたよ。見る?」
中折れ君が耳に唇を寄せて小さく囁いた。
男にそれされてもやっぱりときめかないな。
「客寄せパンダね。パンダって笹ばっか食っておつむが弱そうだけど肉食なんだよね。それは興味ないから見ないわ、私もおつむ弱いから見たらどうにかなりそう」
「ちょっと声大きい……!」
「そこは君が弱いのはおつむじゃなくておむつじゃないかい? はははッ、じゃない?」
「ちょっと!」
「OKOK。後で姫乃は股カチ割っとくから安心して、文字通り姫にするから」
「捕まるからダメだって!」
「いやジョークじゃん」
どうやら彼には冗談というものが通じないらしい。
「よ……よく喋るね?」
「そう?」
長らく会ってなかった旧友との久しぶりの会話は一分で終わってしまった。
「優君は何飲む?」
そのタイミングで机を挟んで突然名前を呼ばれ、振り向けば知らない女性。一瞬いきなり名前を呼ぶとか馴れ馴れしいなと思ってしまった、済まない。
「ん? んー……ビールがいいな」
「おっけー」
そして配られるジョッキ。皆手にもって掲げたままでいる辺りそろそろ乾杯の音頭が始まるのだろう。そう思っていれば先の
「えー……皆さん本日はお集まり頂きありがとうございます。卒業した皆がこうして再び集まれたことに僕は喜びを隠せません。思い出せば在学中、皆さんと沢山の交流があって今日までこうして――」
「めっちゃ長いやん」
ベラベラと止まることが無い彼の口上に、ジョッキを一度置いて、ベルの側にあった灰皿を手に取って引き寄せる。そして胸元からタバコを取り、火をつけて煙を吐き出した。
すると携帯が震え誰かからメッセージが飛んできたことを知らせる。口上を聞くのもと思いそれを取り出して画面を見た。
アンジェリーナ
楽しんでる?
リュドミーラ
お土産よろしく!
+ Aa
寂しさを感じた時にそんな事言われれば少しばかりキュンとしてしまう。もう一口、タバコを口に含み紫煙を吐き出した、決してロスへの恋しさを誤魔化したつもりはない。
アンジェリーナ
楽しんでる?
リュドミーラ
お土産よろしく!
+ Aa
ヤッベ。待った。流石にやり過ぎた。
アンジェリーナ
楽しんでる?
リュドミーラ
お土産よろしく!
+ Aa
「――そして本日はアメリカからわざわざ優君も来てくれました」
「あ?」
突然名前を言われ呆けてスマホから呼ばれた方へと視線を戻すが、時は遅く全員の視線が注がれていた。
取り敢えずタバコを吸おう。
「……ふぅ。ごめん、何も聞いてなかった」
「アメリカからわざわざ来てくれてありがとう! 同じ学友として世界で活躍してるのが誇らしいよ!」
「はぁ。口上まだ終わらないの? ビール温くなるんだが」
「皆の前で一言良いかい?」
「……いいよ、ほら貸して」
立ち上がって彼からマイクを受け取ると、皆の方を見据える。
「代わりましたが喉が乾きましたので皆さんグラスをお持ちください」
そう音頭を取れば一斉に持ち上がるグラス、ほら見ろ、やっぱり長いって思う人居るじゃん。
「乾杯」
「「「乾杯ッ!!」」」
泡が消えたビールへと口をつける。うん、まぁ……ビールだわ。アメリカより香り薄いけど。
不機嫌そうな表情を隠さずマイクの電源を切って彼に手渡せば、件の彼は何か言いたげだった。元々二次会は行かないつもりだったが、断固として行かないに変化した瞬間である。
彼の面子を考えない失礼な行動をしている自覚はあるが、締めならまだしも開始の口上が長すぎるというのは頂けない。そんなことしてたら会社だと社長さんに怒られちゃうよ。
あ、そういえば領収書忘れてた。
「ほい、これ」
胸元の財布から領収書を取り出す。アラビア語と英語が併用され書かれたそれには金額もきっちり記載されている。
「……100万ッ!? 嘘でしょ!?」
「誰か空港に勤めてる人居る?」
周辺の人に問い掛ければ何人かちらほらと職員が居た。皆意外と良いところ勤めてるのね。荷物はすっからかんでも残り燃料のこと忘れてました。
「B747で羽田に着陸。着陸料は100万、妥当?」
「随分と凄いので来たんだね? 着陸料ならビジネスジェットとかか? でも機体でかすぎ。停泊料はいいの? 」
「まぁそれくらいでしょ」
「停泊料は大丈夫。妥当だってさ」
顔を青くする姫乃君。
「私を日本に呼び出しといてそれはクッソ安いぞ」
テレビTKならまだしも他の会社なら10億でも動かない、動くのが面倒だからだ。そして彼は恐らく払わない、払えないだろう、まぁそれは構わない。彼がこれで懲りてくれれば十分である。
ところで大和撫子からのナンパはまだ? エッチなことに一切興味ありませんみたいなどちゃくそ可愛い人から下心隠してるの匂わせながらナンパされたいんだけど。
早く来てほしいんだけど、断るから。