アメリカと日本のクリスマスは違う、ロシアと日本のクリスマスは時期が違うだけで似てる。
優先順位が日本は恋人優先なのに対してアメリカは家族や親戚優先である。なのに何故アンジェリーナは私を優先したかというとつまりまぁ、そういう意思表示だ。
1月7日はロシアでのクリスマスの日程だった。ロシアのクリスマスが違ったのは初耳である。
ミラーシャも新年とクリスマスは祖国に帰らないでロサンゼルスに居た。家族よりこちらに居ることを選び私と居ることを選択したのも、つまりまぁ、そういう意思表示である。
新年は三人でという話になり、結果年末年始は集まったのだがそれはまた今度話すとしよう。
因みにこの話は二人とのクリスマスイベントが終わった後の回想であり、現在日時は1月の15日。映画が公開され順調な滑り出しを見せたので筆を執らせていただいた。
まずは時系列に沿ってアンジェリーナから話していこう。
◆◆◆◆◆
12月24日。最低が10℃程度から最高気温20℃と比較的温暖なロサンゼルスである。その日の九時にアンジェリーナとは待ち合わせをした。
待ち合わせ場所は喫茶店。口コミで美味しいとのことだったので利用してみようかという次第である。
服装は気負わず普段通りでというお互いの意見の合致から私も普段と変わらない服装。といってもアメリカじゃあ目立ちたくない時以外は白いズボンに薄いピンク、白のカッターなどしか着ない。
今日は別に目立っても構わない日だ。
食事も済ませる為に早めに行き、カフェオレを呑みながら景色を眺めているときに彼女は来た。
ハイウエストの青いジーンズに真っ黒い革ジャン、中は白のノースリーブ。そして青いキャップにサングラス。
あいつ普通におしゃれして来やがったな。
「気負わなくていいとか言いながらめちゃくちゃ決めてきてない?」
「い……いや、普段これくらいは」
「嘘つけ、普段の服装ってお腹出してるタンクトップと、ホットパンツの上からクラッシュジーンズの裾履きましたみたいなジーンズじゃん?」
「そういうジーンズもあるけど、今日はほら。気分転換で」
わたわたしながら慌てるアンジェ。
まぁ気持ちはわかる、異性の前で良い服装で格好良く思ってほしい気持ちはわかる。
「あれもあれで格好良いと思うけど、アンジェは今も格好良いよ」
「…………ありがとう」
「紅くなるにはまだ早いぞぉ」
「ふぐ……耳が痛い……」
落ち着かせる為に溜め息をついては席に腰を下ろす彼女。
「お先にカフェオレを頂いてるよ」
「……では、私も珈琲を」
朝の静かな時間で二人で珈琲を飲む。これといって目立ったことはないのだがそれに幸せを見出だせることはとても幸せなのかもしれない。
朝食もそこそこに、飲み終えた後は二人で彼女の案内のまま、ショッピングと洒落込んだ。買ったものといえばお洋服。新しい服である、試着して彼女に似合うか見てもらいつつ選んだわけだ。
露出のある服があるなら着替えて顔を紅くしてもらうのもありなのだが如何せん男性物で露出の多い服は少ない。
「開けて良いよ」
「ん……ちょっと!」
「どう?」
「前ッ! 隠して! 透けそうだから!」
出来ることといえば精々透け気味なシャツで胸を透けさせるくらいだ。今世の男が胸を露出させるのは前世の女の胸と同様、性的ではあるが公衆の面前で行われるものではない。
普通なら恥ずかしいことであるが、それくらい余裕なのが前世の男。海水浴場では上半身裸だからね、へっちゃらへっちゃら。
彼女は必死に顔を紅くして背けるが視線は私の胸へと注がれている。若干……透けてるかな?くらいでこの反応である。
「アンジェのエッチ」
「私が悪いのか……?」
「私の胸は高いぞ?」
「1000万ドルまでなら、ポンと出すかな。それ以上は要交渉。ふふ、冗談だよ」
「冗談に聞こえない。そこまで高くもないしね」
彼女を弄りつつショッピングを済ませお昼ご飯。彼女が予約したレストランで舌鼓を打つ。
出てきた羊肉がとても美味しい。語彙力がないが、取り敢えず食べれれば何でもいいという人種なのでどんなのを食べてるのか上手いコメントは勘弁願いたい。間違っても食レポなんて出来ない人種だ。
個人的には牛の肉であれば日本の食ったらとろける肉よりアメリカの食べごたえしか考えてない肉の方が好きだ。アメリカのお高いところは基本熟成肉だったり別ベクトルで大変美味しい。
そんなこんなで、食べた後はミュージカルを見たりまた何処かで落ち着いたりとゆったりとした一日を過ごさせていただいた。彼女とミュージカルを見てる際に手を繋がせて頂いたのだが、手汗でしっとりするくらい彼女は緊張していたとお伝えしよう。
ミュージカルはしっかりと静かに見る、マナーだからね。
なのでこれといって説明することはない。二人で彼女の家で晩御飯を食べた後まで何も目立った事は無かった。
先にネタバレすると諸兄が期待しているようなエッチな展開は二人ともありません。私は身綺麗なままである
晩御飯はケンタッキーフライドチキンではなく、七面鳥の丸焼きを食べさせて頂いた。想像していた丸焼きとは違い鳥のお腹の中までパンパンに身を詰めたものだ。
ベイビーサイズだったがそれでも4人前程度とよく見る大きさであるのに、本来なら10人くらいで食べるらしい。そこまで大きな七面鳥はあるのだろうか。
とまぁ彼女の一人で住むには大きな家で、そこそこな量のお酒を呑みながらゆるりとしていたのだが。まぁ正直な話、酒も入れば眠くなる。
「ねぇアンジェ」
「なんだい?」
「眠いから泊まるわ」
帰るのが面倒な訳だ。男友達の家で宅飲みしたようなつもり、このまま床で寝てしまいたい。
「え゛……?」
「エッチなのは無しな」
「うん……」
「残念がらない」
「残念なんて思ってないから!」
シャワーを先に借りて、彼女のシャツを借りる。私のお洋服はお洗濯中である。意図せず裸Yシャツならぬ裸シャツになってしまった。因みに下着は付けている、残念だったな。
続いて彼女が神妙な顔付きでシャワールームに入り、出てくればチャームポイントの髪はしっとりと濡れていた。
髪を乾かせば普段通りなのだが、普段見ない姿は妙に艶っぽく、正直情欲を掻き立てられる。
「私はソファで寝るから、ベッド使って……?」
おい、口調がメスになってんぞ。
寝る際に彼女が伝えたことである。いやぁ期待させといてそんなことを言わせてしまうのは悪い。
流石に悪男過ぎる。ちょっとくらいはご褒美をあげてもいいかもしれない、見方によっては拷問であるが。
「ベッドにおいで? 一緒に寝よう?」
おらぁ! 半裸の男と添い寝やぞ! 喜べ!
その言葉を聞くと彼女は彫刻のように固まった後、ロボットのようにぎこちなく口を開けた。
「一緒に」
「エッチなのは無しね、本当に無しだから」
「寝させて」
そしてベッドに二人揃って寝た後に電気が消される。
真っ暗の部屋の中、ベッドで寝る私とアンジェ。普通なら悪戯したくなるよね?
私に対して遠慮してか、距離を取る彼女。その閉じられた太ももの隙間に足の爪先を差し込むと一瞬震えるが抵抗なくそこへと入ってしまう。入れて、足を絡ませ抱き付く。
身体全体を彼女の元に寄せれば、彼女の湿っぽい吐息が頬へと当たるが真っ暗なので彼女がどんな表情なのかはわからない。
まぁお詫びに頬くらいならキスしてもええかと、後頭部に手を回し抱き寄せるように顔を近付け頬へとキスを落としておく。
雛鳥が啄むように数回キスを落とし彼女の頬へと頬擦りし、離れれば再びキスを頬に、そして汗をかいた首筋にも落とす。耳元へ唇を寄せて吐息を吐き、耳の後ろへと唇を寄せて深呼吸したこともあった。
だが私が記憶してるのはいつの間にやら彼女の両手が私の腰へと回されておりお互い強く抱き締め合う形であったことと、彼女が手中に納めて肌から必死に離さないように抱き締め、私の頬に名前を囁きながら同じようにキスを落としてたことだけ。
残念ながらそれ以降の記憶はなく恐らく私はそのまま本気で寝てしまったのだろう。
まぁエッチなことはするつもりはないから仕方ない、据え膳が存在するのは前世だけである。
そして朝、目が覚めれば両頬に柔らかい触感。ゆっくり目を開ければ彼女の豊満な乳房が視界に映る。要は抱き締められて彼女の胸に顔を埋めて寝ていたわけだ。こっちの方が嬉しい。
視線を上げれば微睡む私の視線と彼女の視線とがあった。彼女の目は少し充血し、瞼も眠そうに閉じられようとしているが必死にそれに抗っている様子。
「おはよう」
「……おはよう」
そんな雰囲気を察すればゆっくり頭も覚醒するが、再び彼女の視線へと目線を絡めると視線を反らされてしまう。
「寝てないな」
「あれで寝れると思う……?」
「……無理かなぁ」
「ごめん。あの、それと……」
彼女が言い淀む。それが不思議で必死に目を背ける彼女へと私は身体を押し付けた、押し付けてしまった。
「何?」
「……だめ……あの、離れて」
「なんで?」
「その……当たってるから……」
「何が?」
「ごめん、言えない。とにかく離れて……」
「えぇいやだな」
「お願い……、当たってるから」
「だから、何が?」
「……………下半身」
「下半身? ……あ」
自らの分身を感覚で動かせば、まぁ男ならわかる生理現象が下半身では起きていた。いや申し訳無い、これは不可抗力である。逆セクハラで訴えられませんように。
「あー……うんまぁ、生理現象だから許して?」
後に調べると朝のコンニチハ! はどうやら男性にとってとてもとても恥ずかしいことらしい。諸兄らも添い寝して押し付けてしまう展開には注意されたし。
◆◆◆◆◆
さて、年が明けて次はミラーシャとのクリスマス。ミラーシャの方にどのような展開が待っているかと言えばだ。
朝は同様に喫茶店で待ち合わせをした。アンジェと待ち合わせした場所とは違う喫茶店である。
私の服装は同じ、割愛する。同じように彼女のことを待ち、待ち合わせ時間の三十分前に彼女はやって来た。
白いタイトズボンとニットソー。羽織るようにカーディガンを肩にかけている。サングラスや帽子の類は身に付けていなかった。
「ユーシャ早いね? 待たせちゃった?」
「私朝はスイッチの入りが遅いから、先に来てスイッチ入れとこうと思ってね」
「ふふ、なるほど。何飲んでるの?」
「お先にカフェオレを頂いてるよ」
「じゃあ私は紅茶を飲もうかな」
「でも、また服装決めて来たね?」
「だって好きな人とデートよ? ばっちり決めない人なんて女じゃないわ」
やはりその辺りは前世とも変わらないだろう。
「今日はロシアを知ってもらおうと思って、昨日料理したの。…………それと聞いたわよ? アンジェのおうちに泊まったって」
「いや淫らなことはしてないから。エッチなのはNG、私とはそういうのはだめ。……というかよく喋ったね?」
「お願いして流れは吐いて貰ったわ、だってフェアじゃないと。彼女がしてないことを私がするのもなぁって思ったし、チキンだから出来てないなら遠慮なくするけどね? ……じゃあそういうことは無しで、色々期待しておこうかな?」
「期待するのはやめてくれ」
喫茶店を出てからお昼までの流れはアンジェと変わらなかった、同様にお買い物のお時間である。
違いがあるとすれば選ぶ服装と嗜好だろう。アンジェリーナは明るい服をチョイスしていたがミラーシャが選ぶのは暗めな色である。
同様に彼女の前でマネキンになりながらショッピングをしたのだが、それが終わり次第私はミラーシャの家へと向かってた。
彼女の家でご飯を食べようという訳である。
レンガ作りの、またアンジェ同様に一人で住むには大きい家に住んでいたミラーシャ。全く、私の賃貸が物置に感じる広さである。
お昼ご飯に出てきたのは甘い粥、クチャという料理。
ナッツやらケシの実やら小麦を蜂蜜で味付けしたものであるが、甘さ控えめで美味しかった。彼女曰くロシアのクリスマスの伝統らしい。
それを食べた後は二人でテレビを見ていた。
「ユーシャ、料理どうだった?」
「美味しかったよ? ミラーシャ料理上手いんだね」
「嬉しい。小さい頃、これで男を仕留めろってお父さんに教えて貰ったんだよ?」
私と彼女の体勢はソファにもたれる私より身長が高い彼女の足の間にすっぽり収まるように座らされて私は足を伸ばしている。
彼女はといえば私の腹に手を回し背後から抱き締めてる形であるが、さっきから頭を私の背中にグリグリと押し付けたり、うなじに鼻を埋めたりしている。両足も彼女の足が絡まされて正直逃げ出すことはできない、勿論逃げる気はさらさらない。
本来なら匂いを嗅いだり、うなじに顔を埋めるのはセクハラで一発KOかもしれないが私は別に構わない。嗅ぎたければ嗅げばいいのだ。アンジェリーナも彼女の貪欲な姿勢を見習ってほしいところである。
問題ないと認知されてからは絡まされた足の甲を彼女の足の爪先で撫でられたり爪先同士くっ付けたりとしたい放題、こう……もう少し胸があれば言う事ないのだが。
そして今更気が付いたのだが、誰にも邪魔される可能性が無い場所で二人きりになるとパリピの仮面が外されハロウィンのようなド直球で好意を伝えてくる、本来の姿が現れる。
自分で言うのも憚られるが、ブラックコーヒーが欲しくなる。
「大好き、ユーシャ」
「はいはい」
「ユーシャ」
耳元で名前囁くのは勘弁してくれ。くすぐったい。
「何?」
「愛してる」
艶っぽい声色で耳元で囁くとか、こいつ本気で堕とそうとしてきやがる。
「私のこと見て?」
「見てるよー」
「足りないの、もっと私を見て? 私の全部あげるから」
「うん今度ね」
「あぁ。ユーシャ好き。大好き」
彼女の湿っぽい吐息が耳の中を濡らすので非常にくすぐったい。抱きしめられているので逃げようにも逃げられない。
そりゃ本気で嫌がればやめてもらえるだろうが、これ自体気分が悪くなるものではない。
だが、やられっぱなしは癪に障る。夜、覚えとけよ。
夕方近くまでゲロ甘な空間を作り出しつつ、その日の晩御飯は二人で作るロシア料理。作ったのはガチョウのロースト、ヴィネグレットという酢と油で和えた赤いサラダが晩御飯。鶏肉よりもクセのあるガチョウは私の舌に合った、ヴィネグレットという酢の物もドイツのザワークラウトのようにさっぱりしていて美味しい。パンと一緒にもぐもぐさせて頂きました。
鴨やガチョウ、七面鳥はチキンに比べて食べなれてはいないが存外美味しいものである。やはり鳥に外れはないだろう。
さてご飯も食べたし酒も飲んだし後は帰るだけなのだが、こいつだけは絶対分からせないといけない。
男のプライドをコケにするとは良い度胸、悶えさせて舐めた事を後悔させないといけない。と、いうことはだ。
「今日泊まるから宜しく」
「……ふふ、ありがと? かな? あぁ勿論手は出さないから安心してね?」
「シャワー借りていい?」
「ええ、勿論。案内するわ」
お先にシャワーを浴び、同じように彼女のシャツを借りる。続いて笑顔のミラーシャがシャワーを浴びて、寝る準備は整った。
彼女と共にベッドへと入り電気が消えるのだが、アンジェとは違い大胆にも彼女は自ら私のことを抱き寄せた。
私の腰へと手を回し、痛くない様に優しくも力強く。胸元に抱き寄せられ彼女の吐息が私の頬に当たるのだが、今日の私は一味違う。
思い出せ、前世で何を聞いていたか、どんなASMRを聞いていたか。M男、女性向けの性感ボイスはどんなものだったかを。
暗闇の中、彼女の後頭部に腕を回し顔を抱き寄せる様に身を寄せるが抵抗は無い。そのまま耳元に唇を寄せて反撃スタートである。
「…………リュドミーラ」
「なぁに?」
「……可愛い」
彼女からの返答はなく、返されたのは小さな身悶えと吐息だけであった。
小さく耳元で吐息を吐きながら呟き、彼女の耳たぶを甘く噛む。そして彼女の耳に噛み跡が付いたのを唇の触感で感じるとその跡へ舌先を這わせる。
「襲ったら本当に嫌いになるから」
「昼間の仕返し」
「どうして顔蕩けてるの」
「…………ざっこ。ざぁこ、弱すぎ」
「腰震えてるよ? どうしたの?」
「お腹を私に押し付けちゃってるし」
「……もしかして」
身悶えする彼女だがこれは仕返しである。私を堕とそうとするなど十年早い。
彼女には取り敢えず夜中の3時くらいまで付き合って頂き、私はそれから寝させてもらった。勿論エッチなことなんてしてない、私はずっと耳元で囁いていただけである。
朝起きれば、眠たげな目をしつつ、蕩けた顔を向けているミラーシャと目があった。こちらの瞼が開くのを確認すると、何故かこちらに顔を寄せる。
どんどんと距離は近付いて、私と彼女の唇の間は1cm程しかなくなってしまう。
「おはようミラーシャ」
「………ユーシャ……おはよ」
語尾と瞳にハートマークが付きそうな雰囲気で、彼女がどのような状態なのか、察して頂けるだろうか。
貞操の危機を感じる。
結論から言わせてもらえれば何もなかったのだが、耳元で囁く事の威力は凄いものだと改めて実感する。
そういう催眠ボイスを売れば、人気出ること間違い無し。エッチなことは一切してないのにエッチであるというのはやはり強い。
今回の出来事を経て二人は二人きりになれば頬にキスをせがむよう抱き締めて私の頬に鼻先や自分の頬を擦り付けたり、片や抱き締めて耳元へキスを落とし仕返しをせがんだりと犬のような仕草をするようになった。
……私はメアリー・スーではないのだが。