貞操逆転世界旅行   作:貞操逆転すこすこ侍

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Take025

 アラブ首長国連邦、UAEでの休暇は息が詰まるほど窮屈な物ではなかった。

 しかし今までの欲求に素直に従いながら過ごした生活とは正反対に禁欲を指示されるような物であった、衣装的な意味と性欲的な意味でだ。

 

 服装、アラブ国民の男性の殆どは宗教からかアバヤなる服で外では目元以外を隠している。

 目元しか見えない中東男性なんて日本人の感覚ではニュースで見る不審者にしか感じないのが辛い。

 男性は黒のアバヤ、女性は白のアバヤ。女性は顔を露にしているが、身体的な露出は少ない。

 

 外国人女性はそこまで身体の露出に対して縛りはないのだが、それでも外国人男性は露出度合いが高い服装はマナー違反らしい。

 アメリカで過ごしていた露出度の高い服装がここでは通用しない。

 ここでの露出度の高いとは淫らな服装という意味合いではなく中間期に家で着ているような短パンにシャツという服装である。

 

 太ももがこんにちはするだけでアウト、脇がチラ見するのもアウト。街中をTシャツで歩くものならお縄についてしまう。

 流石に宗教的、お国柄のマナーを城門突破し傾く気にはなれず長袖に長ズボンなど露出度の低い服装を着ていたのだがまたどうも不便、大不便者だ。

 

 正直な話アラブなんて際どいシースルー衣装で踊るベリーダンスと石油、某整形病院のCMというイメージしか無かった為に、別の国での文化なのかと吃驚したのは胸のうちに留めておく。

 

 しかし砂漠のオアシスで、目の前には小麦色に焼けた中東美女。

 ドスケベな要素しかないのにエッチな事を考えるなと云うのも無理な話。水を貯え続けるサボテン宜しく性欲は溜まる一方である。

 水を求めるようにスケベな事を求めるのは流石に飛躍し過ぎたが、実際玄奘三蔵でもなければシルクロード途中のオアシスで煩悩を捨てることができない。もしや緊箍児を付けたのは猿の頭ではなく亀の頭だったのか。

 

 とまぁ理不尽なのだが女性の服装と宗教的な禁則事項が悪い。

 女性用のアバヤはベトナムのアオザイ程ボディラインは強調されないが、それでもスタイルの良い女性が身に付ければ十分な破壊力。

 

 独身異性に対して単独で会うことは禁じられているため複数人で出迎えられる。ダイナマイトなボディのメリハリがエクスプローションなハーレム美女軍団に出迎えられれば、ナマヌルい毎日にサヨナラと言いたくなるだろう。

 幾ら普段デナリとツンドラに挟まれて鍛えられていようとも、マイリトルステートビルはブルジュ・ハリファになってしまう。

 

 まぁ実際のところおっ立てた訳では無い、例えばの話。

 石油女王に会っただけでムラついて勃起するとかアウトだろう、お天道様がまだサンサンと輝いているのにおテント様を立てる訳にはいかない、それくらい期待してしまったってこった。

 十分すぎる目の保養として血涙を流すしかないのである。

 

 そしてそんな中東美女軍団へ手を伸ばし触れてしまうと咎められるのは彼女達。触るのがダメなら触られるのは大丈夫という一休さんばりの頓智でも片付けられない。

 

 故に彼女らが歓迎したいように私はさせていた。歓迎の仕方は相手に任せたところ、案内されたのはまぁ馬鹿でかいホテル、それも滞在中は貸し切りである。

 大理石の床にエントランスにはデッカいシャンデリア、して最上階のデラックススイートルームはほぼワンフロアがエントランス並みの広さ。

 

 吃驚して語彙力も吹き飛びました、申し訳ないが要は金を注ぎ込みましたというホテル。

 何でもここへ遊びに来たときに此方を歓迎するためだけに建てたのだと。正直、金持ったガチ恋勢はヤバいと思いました。

 

 どうして性的ビジュアルにタブーがある国であんな映画が流行るんですか、という疑問はあるのだがまぁそれに突っ込んでも答えは神さまの思し召しだろう。

 

 そこに滞在し、案内されるがまま食っちゃ寝しては観光していたのだが最終日に問題が起きる。

 別れの際、再会を約束し代表からプレゼントされたのは滞在していたホテルの所有権とネックレス。

 

 そう、ネックレスはまだいい。じゃらじゃらした純金、散りばめられたよく分からない煌びやかな宝石やらで作られたアラビアンネックレス。

 それを受け取ると発生する問題である税金、これはまだ許される。関係各所に電話して現金を用意すれば良いだけである。

 休暇に行ったのに何故か数千万の支払い義務が発生するだけなのだが、問題は所有権。

 

 そんな物プレゼントされてもどう扱えばいいのか分からない上に手放そうとしても世間の視線がある以上手放せず管理も出来ない。

 

 是が非でも拒否しなければならず、その着地点は必死の攻防により永年デラックススイートの利用券に落ち着いたのだがプレゼント怖さでアラブへはもう行かないと心には決めた。

 某ラーメン屋同様に食後はもう行かないと拒否反応を示すが暫くすると行きたくなる、滞在する分には大変心地良い為にそうなりそうなのが怖い。

 実際一人で滞在している分には大変心地よかった。これがざっくりとしたUAE休暇の詳細である。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 そうして帰ってきた久しぶりの我が賃貸。ロサンゼルス郊外、1DKのサンクチュアリ、レンガ造りの安アパートが私の家だった。

 男独り身で格安アパートに住んでいる現状、会社の方からの金稼いだんだからもっと良いところに住めという引っ越し要請も散々無視を続けた結果、強制的に引っ越しさせられることになりました。

 住人の殆どがSNS映えとは無縁な老夫婦な事もあってか住所が晒される事もなく今日まで過ごせていた。それでも御上は心配なのだろう。

 

「独身男性の聖域で宝探しなんて良い趣味してるな。お宝は見つかったかな」

「どの宝箱もシケてるわね、聖域というより…………墓場?」

「差し詰め……私らは墓荒らしか?」

「振っといてあれだけどうら若き男の部屋を墓場呼ばわりは酷くね……? まぁ掃き溜めとか肥溜めとか言われないだけマシか」

「流石にそれはない」

 

 軽口も程々に、アンジェがタンスを引いては中の物をミラーシャに手渡し、手早く段ボールに詰めていく連携プレーが我が家で繰り広げられていた。

 強制的に引っ越しが確定し、嫌だ嫌だと駄々を捏ねていたところ二人が応援として押し掛けてきた訳である。

 

「別にこちとら引っ越さなくてもいいんだが」

「だってこうでもされないと引っ越さないだろう」

「男なんだし流石に不用心が過ぎるわ。どうして私たちより稼いでいて資産もあるのに安アパートの部屋を借りているの」

「居心地良いんだもん」

「ギルティ。アルカトラズにご招待」

「ラーゲリはどう?」

「二人とも洒落になってない、特にミラーシャ」

 

 新しい新居は現在の住まいから然程変わらない場所に位置する、物置小屋から電子的なセキュリティが入った上等な一軒家に変わるだけ。

 部屋数は増えるが、正直生活のテリトリーが然程変わらないのはありがたい。

 

 彼女達によってタンスは次々に開けられ、中身が段ボールに詰められていく。因みに下着などの彼女らに刺激の強い物は渋々だが作業直前に梱包させてもらった。

 私はといえば彼女らの行動を観察するという重大業務をしている。

 

 そんな二人が部屋に入った瞬間何をしたかといえば、バレないように深呼吸だ。

 女の子の部屋に入れば深呼吸をし、異性の香りを楽しもうとしてしまう男性と瓜二つ。人間やっぱりそういうことが好きなんだな、と再確認せざるを得ない。

 因みに彼女らの自宅にもお邪魔したことはあるが、鼻腔を擽ったのはうっすらとした香水の匂いである。

 

 私の部屋には消臭剤も無ければ香も焚かない。素の自分の匂いとはどういう匂いかはわからない、だが気になるからと深呼吸したことを弄り倒して彼女達に聞くことはしない。

 その点は優しさである。即ち私の匂いはバファリンと同じ、つまり私の匂いは痛みに効く。

 

 逆に考えれば独身女性の引っ越しを攻略対象の男二人が手伝うという謎シチュエーションであるが、乙女ゲームではよくある出来事なのだろう。

 密室に男二人と女、であれば何も起きないはずも無く……そんな事を考えながら彼女達の横顔を無心で虚空を見るように眺めていれば、二人は美人であると再確認してしまう。

 

 アメリカとロシアという表では仲の悪そうな国民同士だが二人の仲はとても良い。

 

 茶髪に銀髪、ショートヘアーにロングヘアー、巨乳に貧乳、安産型の尻に引き締まった尻。

 男性と比べても高めの身長と絞られた腹部等の共通点はあるが身体的特徴も真逆に近く、また恋愛面もお互い押されると弱いという共通点はあるが愛を甘く噛み締めるタイプに激しく貪って味わうタイプと真逆なのも面白い。

 

「二人って本当に美人だよね」

「流石にストレートに言われると照れるよ」

「ふふ、ありがと」

 

 そのまま甘露な雰囲気に変わりかけた瞬間、何を思ったのかアンジェがタンスから出てきた指輪ケースを開ける。

 中身は何のことはないただのダイヤモンドの指輪、熱心なファンからのプレゼントである。

 

「ダイヤモンドの指輪かな……?」

「あぁその指輪はプレゼントされたもの」

「ちょっとユーシャ、決して安くないんだからタンスに突っ込むのはやめてよ。せめて金庫にいれて」

「見れば分かるじゃん? 一万円の木製金庫、鍵はドアにサムターンがある」

 

 この部屋に金属製の金庫なんて物はなく、プレゼントされたアクセサリーの類は全て化粧箱に収納したままタンスに入れられている。

 総額数十億円はあるアクセサリーを溜め込んだ一万円のタンス、タンス冥利に尽きるだろう。

 

 次いでアンジェリーナがアラブ人から貰ったアクセサリーが入った箱を手に取り繁々と眺めている、その中身は蒼赤のダイヤモンドイヤリングセットだった。

 

「これは……二十四金の刻印入りか、もしかしてアンティークとか?」

「中身は?」

「……それはねぇ。……蒼と赤の宝石のイヤリング?」

「何の宝石なの?」

 

 アンジェが蓋に手を掛けミラーシャと共に中を確認した瞬間、二人から魂を搾り出したような溜め息が吐かれた。

 二人の顔には今日一番の疲労が浮かび上がる。それこそ映画の撮影が難航した時と同等の、これに並ぶ疲れた顔は久しく見ていない。

 

「あー両方ダイヤモンド、前に言ってたメル友の石油女王からのプレゼント。それ税金エグかったわ」

「……引っ越し祝いに私は金庫を送るよ、指紋認証出来るやつがいい。動かせないくらいが丁度良いかもね」

「……ママのお腹の中に常識を忘れてきたのかしら」

「まぁ強盗に入られたら大変っちゃ大変だよね」

「それはそうだし言いたいことはそうじゃないんだけど」

 

 結局彼女らのその疲れが響き、荷物の移動も含めて引っ越しを終えたのは次の日の夕方。

 そしてその翌日には重厚な金庫が家主に無許可で置かれ、持っていた貴金属は見届け人二名の同席の元、そこに保管されることとなった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 ところで諸兄ニキらはVtuberなるものはご存知だろうか。

 

 動画と共にまるで生きてるかのように動く半ナマ物。

 現在日本ではそれらが大変人気らしく、某動画配信サイトを見ればそれに準ずる配信と切り抜きがおすすめに表示される事も少なくない。

 

 その半ナマ同士の絡みの中から生まれた言葉。

 『てぇてぇ』

 

 『てぇてぇ』それは尊いということ。

 人と人との一時の絡み合いに尊敬の念を抱き、感嘆の余りに口ずさむ言葉。人々に幸せを与え、明日を生きる活力を与えられたと示す事象である。

 そんなてぇてぇが生命に活力を与えすぎる為に、同性によるてぇてぇをタブーとする宗教も今尚存在する。イエス(Yes)もてぇてぇの前では駄目(ノー)としか言えなかった。

 

 男性Vtuberと男性Vtuberの絡みはてぇてぇか、否か。

 答えは『てぇてぇ』

 

 男性Vtuberと男性Vtuberによる可憐な絡みは果実のように甘酸っぱく、見ているだけで微笑ましく、時にこちらもその薔薇の香りに挟まれる情景を想像し悶えてしまうほど。

 

 雑談を仲睦まじく語り合い照れては恥ずかしがり、焦りを見せるその様子。人々はてぇてみを感じるだけで幸福感を得る。

 てぇてぇはDNAに素早く届く。

 

 ゲームで競い合いイキり負かされて悔しがり、勝てば誇らしげに笑い、最後には再戦を約束して認め合う。

 その様子に観客は子の成長を見届けた様な親愛と、スポーツ観戦と同様の熱狂を得る。

 てぇてぇは今まだガンには効かないがそのうち効くようになる。

 

 『てぇてぇ』それは何よりも美しく、かけがえのない物である。

 

 男性Vtuber、著作物の利用に関する包括的許諾契約、代表取締役としての力。この世のすべてを手に入れた某大手Vtuber事務所社長。彼女の就任に放った一言は、人々をネットの海へかり立てた。

『てぇてぇか? 欲しけりゃくれてやる。探せ! この世のすべてをそこへ置いてきた!!』

 女たちはグランドてぇてぇを目指し、枠を追い続ける。世はまさに、大てぇてぇ時代。

 

 えー……はい。そんな存在を眺めるだけ眺め放置した結果、この世界のてぇてぇの価値観は上記へと完璧に固定されてしまいました事をご報告致します。

 

 諸兄ニキらは動画配信サイトを開いたらポンコツAIにオス臭い語り合い本編と腐った幕の内弁当みたいな切り抜きをおすすめされる気分がわかるか? 

 前までは良かった、前といえば具体的に言えば日本で大炎上した直後くらいまでは、ちょっとホモ臭い男子高校の悪乗りを見ているようでまだ笑えた。

 

 しかし現在はやれ男同士でお泊まりだ、やれ一緒に風呂入っただ、裸を見た、あいつのちんぽが大きい、決め付けは男同士で可愛い好き好きだのとホモ臭いことこの上ない。

 そりゃ石を投げさせるのを止めるイエス(Yes)もホモてぇてぇの前では駄目(ノー)と言うわな。

 

 男性Vtuberと男性Vtuberの絡みはてぇてぇか、否か。

 答えは一切てぇてぇくない。生命に対する侮辱を感じます。

 

「どうしてこうなった」

 

 と……赤い再生ボタンが映し出される目の前で頭を抱えるのだがVtuber界隈が途端にホモ臭くなったキッカケはさておき、こうなることは必然であった。

 何故なら単純な話、性別を逆転させれば前世でもレズ営業は需要があり、てぇてぇてぇてぇと騒がれていたからである。

 

 需要も入れ替わり男性ライバーの需要が増え、百合(レズ)営業が薔薇(ホモ)営業に変わっただけ。

 アイドル箱は全員男、勿論彼女を匂わせるとユニコーンはフケります。

 ……童貞相手もユニコーン呼びは正解なのか果たして。

 

 この世界でも単独でエロ売りしても過激過ぎる物はチャンネルが爆発するか頭打ち、違う点はそれらをクリアしてもその上には高い壁()が存在するということ、結局のところ甘めな薔薇(ホモ)営業するしかないのである。

 

 この状況を見て思ったのは、貞操観念が逆転した世界でVtuberはやりたくないだった。

 私の女性にチヤホヤされたい欲求とホモ営業への嫌悪を天秤に掛けホモ営業への嫌悪が勝った、それだけの話。

 

 てぇてぇの価値観に話を戻せば、ここまで視聴者が調教されてしまえばもう修正は不可能であろう。向けたい方向は無いが()の開拓者としては勝手に耕されたのは悔しい限りだ。

 だがVtuber自体も貞操観念が逆転した世界で何が違うかと言われれば何も違わない。需要があるから供給(てぇてぇ)はあるのだ、部外者がとやかく言い過ぎるのはお門違いである。

 

 向こうは向こう、私は私。こちらはこちらで、世界規模でゆっくりと性癖を破壊していけばいいのだから。

 




語って欲しい要素、ネタあればください(切実)

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