貞操逆転世界旅行   作:貞操逆転すこすこ侍

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Take005

 続編映画の中身について初めての打ち合わせの時のこと。

 その打ち合わせに集まった面子は前回制作の時の面子と少々異なり、監督と脚本家と、その他撮影を通じて顔見知りとなったスタッフの方々という前回の顔ぶれの他にその場で初めて会う人が三名居た。

 

 一人の男と二人の女、年齢は全員四十路近い、ラフな服装が多いスタッフとは対照的に3人の服装はスーツであった。しかしこちらの顔を見るなりひそひそと密談を始めて時折こちらを眺められるのを繰り返されると少し気分が悪くなる。

 

 打ち合わせは監督と脚本家の挨拶で始まり、続いて本作を読み解いていきましょうという流れになったときに事件は起きた。続編としての本作のテーマの解説の途中、三人の内一人の女性が手をあげたのだ。

 

「スポンサーとしての要望で幾つかお願いしたいことがありまして。一番の要として作品のラストは夕日をバックに二人で重なるようキスして欲しいのです」

 

 突然の提案に打ち合わせ会場の空気が凍る。少しの間をおいて神妙な顔付きになった監督が口を開いた。

 一年前までは到底浮かばなかった発想だろうに金の匂いを感じるとすぐこれだ。キスをする側でないからといとも容易く伝えられる辺り、こちらのことは何も考えていないのかと勘ぐりたくなる。

 

「何故?」

「キスをする予備動作を予告に入れれば、その方が間違いなく数を稼げます。キスシーンなんて映像、他の映画にはありませんから間違いなく一作目より動員人数を大幅に稼げますし」

 

 恐らくその場に居たスポンサーを除いたスタッフの大半が心の中で溜息をついただろう。第一作品目をどう数を稼ぐかなど一切考えず、どう視る側を楽しませるか一喜一憂しながら皆で作り上げた側としては協力者が金のことしか考えていないのは聞いていて辛いものがあった。

 

「貴女方は日本語は話せますか?」

 

 周りから一言も出ないお通夜のような場の雰囲気に我慢できず思わず口を開いてしまった私がいた。

 

「いえ、全くできません」

「そうですか、それは残念」

 

 小さく肺の空気を出し、相手へ視線を合わせて微笑む。

 

「これがスポンサーがしゃしゃり出てって、作品が壊れるってことね」

 

 笑顔で日本語で吐き捨てるがこの場に居る全員が私が何と言っているか理解できないだろう。この行為が失礼極まりない行為だとは理解している。

 

「日本語で何と言ったのですか?」

「あぁすみません、独り言です。取り敢えず質問なのですがキスをするとなった場合、私には幾ら払われるのですか?」

「私達はあくまでスポンサーであり、出資先は制作会社になります。それ以降の動きについてはこちらは把握しておりません」

「わかりました、ありがとうございます。それではキスをする私からは反対ですと言っておきます」

「……理由を教えてもらっても?」

「私がそこまで身体を張る理由がない。対価が見合わない。私の原作キャラクターはキスをするような人物ではない。一般向けの作品におけるキスは恋愛要素の最上位に当たる行動であり安易に行うべきではない。作品で特定の人物とキスをすると当該人物と恋仲であると認識され、ファンの想像を制限する可能性がある。……取り敢えずパッと出るのはこの程度ですね?」

 

 処女厨という言葉がある。アニメキャラクターなどの架空の存在やアイドル、声優などの現実の女性にまで処女であることを過剰に求める人たちだ。処女信仰過激派と言ってもいい存在だが恐らくこの世界にも童貞信仰は存在するだろう、その過激派の童貞厨も下手をするともう発生しているかもしれない。

 

 映画で故意に一度でもキスをしてしまうと、恋愛要素におけるそれ以降の私の立ち位置はフリーの男からキスをした相手の男という物に変化する。そうなると視聴者が私と登場人物との関係性を想像する自由が無くなる。

 キスだけで童貞を失う訳でないのだが、キスもするなら性行為もと考えてしまうのは必然である。そこに童貞信仰が混ざると悪い結果になるのは想像に難くない。何よりアンジェのキャラクターにも勿論ファンは居る、私とそのような行為をすると彼女のキャラクターにもヘイトが向くだろう。それを演じたアンジェリーナ本人にもだ。

 

「出来るか出来ないか聞かれたらアンジェとキスは出来ますよ、それをやるかやらないかで私はやりませんを選びます。物語と現実は違いますからよしんばプライベートで彼女とキスするなら役者同士の恋愛と認識されてまだ良いとしても、映画で演出としてキスをするのは一部の熱狂的なファンに対する裏切りに値するかと」

「一部のファンを失望させたとしてもより多くの新規のファンを獲得出来れば問題ないのでは?」

「その辺りはお互いの価値観が違うので平行線ではないでしょうか、私は一部のファンも失望させたくありませんし、何よりそれでファンが獲得出来るとも思えません。拒否権があるなら断りたいのですが、ありますか?」

「契約として成立している以上拒否権はありません」

 

 どうやら要望という言葉を使っていたが決定事項らしい。取り付く島は無い様だった。

 

「ではお願いがあるのですけど、指示された内容を間違えては困りますので具体的な指示は書面で頂けますか?」

「わかりました、上に掛け合ってみます。続いての要望ですが……」

 

 今日の帰りはハリウッドサインで好き放題叫んでから帰ろう。それに会話を聞いてげんなりしたのは私だけではないらしい、大半のスタッフが肩を落としていた。そのままスポンサーの要望を聞いて打ち合わせはお開きとなった。

 

 

 そして後日届いた内容がこちらである。

 一つ、どこかで半裸になっているシーンを入れよ。

 二つ、飲食シーンを使うときは当社の物を採用せよ、

 三つ、サービスシーンを多用せよ。

 四つ、映画の最後にキスシーンを入れよ。

 五つ、キスシーンを予告に使え。それらを守っていれば好きにしてもいいとのお達しだった。

 

 台本のこのシーンに、こういう演技をしろ、このような格好をせよ、と具体的な指示ではなかったのが救いではあるが、それを知らされた日に再び打ち合わせをすることになる。

 因みにその時スポンサーへの連絡は省かれた。打ち合わせと冠してるが中身はスポンサーへの罵倒大会である。そしてなるようにするしかないかと、溜め息混じりに呆けていた時に誤って口を滑らせてしまった。

 

「私今回は頑張るけど、次こういうの来たら続編出るの考えるなぁ……。……俳優やめたら何になるかな」

 

 私の言葉に深い意味はなく子供の頃の将来の夢は何だったかという勢いで吐き出した言葉だったが周りはそうは捉えてくれなかったようで、どうやら監督は制作会社へ直談判しようとしていたらしく、葬式のような雰囲気になった打ち合わせの次の日に制作会社へと赴いていった。

 

 その日の内に制作会社より原作者へ状況が通達され、一作目の出来が想像をしていたよりも何倍も良かったと感じたらしい原作者の意向を確認すると、撮影側の好き勝手やってくださいと原作者のバックを得られたのだった。

 

 戻ってきた監督が吹っ切れて「あのくそったれ共との縁は今回で切れるから。経営陣もキレてたわ」と大声で笑っていたのが印象的だ。

 経営側の人物に叩き上げと作品のファンが居るようで、事前に大金を落としたから今回は要望を汲み取らない訳にはいかないだけで、作品に対して口出しをするなら次からはもう必要ないと切り捨てるつもりだそうな。

 

「好き勝手やってもいいんだよね?」

 

 アメリカにおける原作者とスポンサーのパワーバランスはわからないが、監督の嬉しそうな表情から察するにそういうこと何だろう。現場の人間もその様子を見てから熱意が戻ったようで、今ではどう仕返ししようかと息を巻いているくらいだ。

 

「ええ。常識から外れてもいい、言われたことを守って守銭奴共に従いつつ……好き勝手やりましょう。キスに関してはしなくてもいいわ。上の連中は君を守ると決めていたの。君を守ってナンバリングタイトルを出した方が良いと判断したみたいね」

「それについては、責任持ってキスシーンは作るさ。でもキスはするけどしない。アンジェには結構悪い事はするけど良いやり方を思い付いたんだ」

 

 そうして続編の撮影は悪乗りをする方向で漸くスタートし、再燃した熱意を保ったまま半年後には続編の撮影を終えたのだった。余談ではあるが一作目の総観客動員数はギネス記録のダブルスコアを叩き出し、無事新しいギネス記録に認定された。

 

 予告が公開されればスポンサーから怒りの抗議の電話が間違いなく来る、その対応は製作会社と監督に放り投げるとして全てが落ち着いたら日本に一時帰国しようと思った。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

やぁおまえら!

『ハイウェイラジオの時間だぜ! 今日も今日とてイケてる情報を届けていくんだが、まず最高にクールな情報が世界に届いたんだ! 例の映画の続編の予告がついに公開されたんだよ! 運転中のおまえらは見ることは出来ないだろうが、気を利かせた私が音声だけを届けてやる! 感謝してくれよ! じゃあ、耳の穴かっぽじって聞いてくれよな!』

 

 

『昼から飲んでないで働け。ペアを組まされてから仕事が少ないんだけど、もう少し悪評を無くすよう心掛けたらどうなの?』

『スポンサーでも集めようか? じゃばじゃば金を落としてくれる素敵なスポンサー様』

 

 

『仕事の際はこの服装でお願いいたします』

『車は当社のロゴの入ったこちらをお使いください』

『仕事の始業と終業の際は打刻して頂きたいのですが』

『やっぱ口出ししてくるスポンサーって糞だわー……』

 

 

『今回君たちにはとあるターゲットを護衛してほしい。これが飛行機のチケットだ』

『場所はどこさ?』

『イギリスだ』

 

 

『ターゲットが二人雇った、白豚とイエローモンキーだ。ターゲット共々殺せ』

 

 

ちょッ。二人で狭いとこに隠れたって胸元に都合よく顔埋める人いる?

済まない、本当に済まない。わざとじゃないから

顔動かさないで、擽ったいから。諦めて私の匂いでも嗅いだら?

…………良い匂いなのが腹が立つ

うわぁ……本当に深呼吸しやがった

 

 

『こんな良い男を集団レイプしようとするなんて悪い人達』

『でも嫌いじゃないよ。美人だからね』

『ほらケツを出せ、鉛玉ブチ込んでやる』

 

 

『悪いけれどこんなのでも彼は今、私のパートナーなんだ』

『クソッタレな男だって、守らないと女が廃るわ』

 

 

『…………恥ずかしいから、見つめないでくれない?』

 

 

『イギリス料理って不味いらしいけど、案外いけるじゃん』

『お客様、こちらはフランス料理になります。イギリス料理をご所望ですか?』

『………………何これ』

『ウナギのゼリー寄せになります』

『……ごふッ!? ……まっず

 

『以上だ! 何がやべぇって映像でカーチェイスもしてるしキメ顔最高過ぎるし、一番は黄昏ていい雰囲気になってる二人のシーンがあってマジお前ら何する気だよ? もしかしてやっちゃうの!? マジどうなるのか本当に気になっちまうよ! HAHAHAHAHA!! 私は動画を見てるから伝わってるけど、おまえらはセリフだけじゃあ何が何だかさっぱりだよな! 兎に角やべぇんだよ! 今すぐ路肩に止めて動画を見てほしいくらいだぜ!! 上映は今年の秋だってよ!! あとで中身については熱く語るとして次の話題だ! 続いてはだな…………』

 

 

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