夏に終わりが見え始めハリウッドの山々も季節の移り変わりらしく黄色くなり始める頃、続編映画の公開まではあと1ヶ月を切った。
そして映画の今後の展開を制作会社から聞いた監督はその事柄をスタッフと共有すべく、撮影スペースに設置された会議室に主演の私達を含む製作スタッフを呼んだのだった。
隙間なく押し込まれた部屋、人を掻き分けて椅子が並べられている中央へと腕を掴まれて導かれる。……ちょい? 今誰かケツ触ったか?
「まず映画の興行収入だけれど上の見立てでは一作目を越えるそうよ、素晴らしい出来だからね。伴って第三作目の制作も行われる。というか今のうちから徐々に行うわ」
監督が壇上に現れ初めのその言葉と共に全員が沸き立つ。やはり作られた作品が売れるというのは嬉しいことだ。笑みを浮かべてアンジェリーナに拳を向けると、彼女も拳を作り笑みを浮かべたままこちらの拳に合わせてきた。
「それで、アンジェリーナと優。二人にはお願いしたいことがあって」
しかし、歓声が止んで監督の次の発言を待ってみれば彼女の口から私達の名前が出る。何事かと首をかしげれば、監督は笑いながら言葉を続けたのだった。
「三作目で主演が増えるんだけど、そのオーディションを近々するから手伝って欲しいの。共演者としてこの人としたいとか、判断して欲しいのよ」
そう言われればアンジェリーナと目を合わせる。困ったように肩をすくめれば、彼女は笑って監督へと唇を開いた。
「私達に決定権を与えられても困るよ」
「最終的な決定権は私よ? ただこの人とはしたくないって思う人と共演させるわけにはいかないじゃない? 判断っていうけどそこまで深く考えなくてもいいわ」
本来なら私ら主演者にオーディションで人を選ぶ権利など無いのだが、している演技が演技だからか、監督は困ったように笑っていた。それもわだかまり無く作品を作ろうとする監督の思いなのだろう。
「それなら、まぁ……」
肯定を口にして、アンジェリーナもそれに頷くと監督の顔も明るくなる。いつ行うかは未定とのことだった。何度も篩にかけ、私達が判断するのは最終オーディションかららしい。正直言えば美人だと嬉しい、どのような人たちが応募してくれるのか今から楽しみである。
◆◆◆◆◆
男女の貞操観念が逆転したこの世界に於けるエロ同人誌とは、男と女の純愛物が主流。無理矢理するのは犯罪という意識があるのかイチャイチャと無糖珈琲が欲しくなるような甘いハッピーエンドしか日の光を浴びなかった。
そんな暗黒時代に映画が公開される。そして、新しく世に生まれたのは男が女に搾り取られるレイプ物だ。公式の許可はさておき、映画が公開された後の同人誌は私がアンジェに搾り取られる本が作られた。
女が主体のこの時代、やはり作られたのは騎乗位で私が搾り取られる本。しかし、前戯そこそこに入れてハメるだけという内容でも新しい展開が生まれたのは僥倖といえよう。計画的犯行ではあるがね。
しかし正直言えばもっと欲しい、私だってハメたい。とっととハメたろう。前戯だって体位だって種類がある。因みに前世の騎乗位は正常位と呼ばれ、前世の正常位という概念は意外にも存在しない。エゴサーチをしても殴られたい、靴になりたい、踏まれたいとのコメントはあるが犯されたいというコメントは殆んど見受けられない。
種の保存という神聖な行為では、やはり優位に立っている存在が行為の主導権を握りたいというのは必然的なのだろうか。
搾り取られるばかりで男性優位になる正常位が無いのは大変遺憾である、このままでは種付けプレスもだいしゅきホールドも、杭打ちピストンすらも産み落とされないのだ。訴訟も辞さない。
しかし映画が一般向けである以上その演出は映画では出来ない。イラストをかけるほど絵心が有るわけでもない。配信者として動画を配信するほど機械にも詳しくはない。
打つ手無しかと思われてたが、ふと掲示板のとあるリンクを目にする。開いてみればそれは有名同人誌作者のSNSリンクであった。夏のコミケではこの本を出しますと告知されていた、既出の本表紙をじっくりと眺める。
「本人として作者にシチュエーション伝えたらワンチャン書いてくれるんじゃね?」
思い立ったが吉日。直ぐ様SNSのアカウントを開設し、公式申請を出す。フォロワーすらいない生まれたばかりのアカウントを操作し初めての呟きをした。
黒木優 @kurokiyuu ✓ 5秒前
sns始めました
格好付けて火種になりたくないからと言っていたけど、やっぱりエロには勝てなかったよ。
通知を全てオフにし、そしてメッセージをこちらがフォローしている者かこちらから送った場合のみ以外では送れないようにして、スマホの画面を滑らせる。作者に伝えるのはアカウントが浸透してからでもいいだろう。
自分が有名人になったらこういうことをしたいと前世で妄想していたシチュエーションがある。コスプレをしている人の前でご本人様降臨、出演している作品の同人誌を手ずから購入し作者の反応が見たい、という承認欲求を満たすためのクソのようなシチュエーションだ。これがついに叶えることができると考えると涎が出てくる。
「女性が男性を犯すのがレイプだから逆レで、……こうなって……よし」
黒木優 @kurokiyuu ✓ 10分前
sns始めました
黒木優 @kurokiyuu ✓ 5秒前
拙者逆レすこすこ侍
性的に搾り取られる展開はあれど、一方的に搾り取られ為るは遺憾にて、ついては某が食い散らかしたく候
世間の反応が実に楽しみである。
◆◆◆◆◆
会議から一週間後、三作目の女優の公募がされ、その三週間後続編は上映された。前作の動員人数を更新し順調な滑り出しを見せるが現場は既に三作目への準備へと進んでいる。公開から1ヵ月後の熱気冷めやらぬ時期に主演女優のオーディションは行われたのだった。
ギネス記録を更新したこのシリーズは後世に語り継がれる映画として君臨するだろう、そんな映画の主演を務める事は映画女優の夢に近い。送られた応募は幾度となく篩に掛けられ、最終選考を経て新しい仲間となる主演が決まった。
因みに最終選考で特筆すべきことは最終選考で演じられたのが仲間となる新しいキャラクターであること。一人を除いて全員がキャラクターを
役にしてはあまりにガチ過ぎて思わず鳥肌が立った。語ったところで一人しか残らない、残酷な世界だ。
そんなガチな演技をキメて主演を務める事になったのはロシア人のリュドミーラ。腰にまで付きそうな程長いプラチナブロンドの髪で身長はアンジェリーナと同じ程度、つまり180cmだ、この世界の女って背が高すぎでは?
因みに胸はない、皆無である。ケツも小さい。プリケツちっぱい青目が素敵なロシア風の女性。銀髪で青目とかアニメの中の存在じゃないのかと思い知らされた次第である。身長が高い故にズボン越しにもわかる健康的な太ももに視線が行ってしまう。
彼女の性格は主演が決まった後の出会い頭に手を握られ、更には感極まってハグをしてきたクソ陽キャ。その際はハグを解こうにも抜けられず逆に無意識にそのまま抱き締められ鯖を折られそうになった。触った感触はこいつも恐らく腹筋がヤバい。
アニメでテンプレート化したイメージはロシア人は静かでアメリカ人は金髪で片言日本語のよく喋るキャラクター、性格が逆ではないかと混乱したのはご愛敬。余談だが私が呼ぶ略称がミラーシャで、アンジェがリューシャと呼ぶのには何か理由があるのだろうか。
そんなこんなで親睦を深めるため彼女の現場への挨拶のあとに三人で喫茶店に来た訳だ。アンジェリーナと対面で席に座るとミラーシャは私の隣に腰を下ろした。珈琲を3人分注文すると待ち時間を利用してかミラーシャがこちらとアンジェを交互に見て笑いながら口を開く。
「ねぇ
この手の質問は本当に多いが、いつも否定している。その度にアンジェは悲しそうな顔をするんだが、そういえばアンジェリーナと腰を据えてこの話題について深く話したこともないか。それならこの辺りでキチンと説明しないといけない。
「付き合ってないよ。日本ではね、「好きです、付き合ってください」って告白して、それに対してOKを出して初めて恋人になるんだ。だからOKを出さない限り私は付き合っていないよって答えるよ」
「アメリカでは珍しいのね?」
「まぁ私日本人だし? 曖昧よりもはっきりする、良い風習だと思うけど」
「じゃあ
お前は異性になんちゅうことを聞いてるんだ、セクハラやぞ。
「そうだよ。そういうのは全部付き合ってから」
「そんなルールがあるなんて知らなかった……」
「あら私はてっきり
ガックリ肩を落とすアンジェとクスクスと笑うミラーシャ。対称的だが正直絵になる光景ではある。
「因みに今は誰とも付き合う予定はないよ? 既にパートナーが居るって訳じゃないけど、叶えたい夢があるんだ」
「え……?」
「あら」
「だから今は付き合えないけど、私が夢を叶えたときにまだ私のこと好きなら迎えに来てよ」
「早い者勝ちってことね?」
「それまでは?」
話に熱を帯びてきた頃、同じく熱を帯びた珈琲がテーブルへと届く。カップを手に取り湯気が舞うそれを吐息で払い除けるとゆっくり口内に流し込んだ。
「早い者勝ちって訳じゃないんだけどね? 言われたからってOK出す訳じゃないし。関係だって、今と同じ感じ? 友達以上恋人未満ってこと」
「……それも悪くないけど、やっぱね」
「ふゥん…………細かい所は大体一緒か」
小さく呟いた様だがバッチリ聞こえている。世にはこうやって略奪愛が生まれるのか。
「ねぇユーシャ」
「ん? ユーシャ?」
「優だから、ユーシャ。ユーシャは恥ずかしくないの? 女の子に素肌見せて」
「恥ずかしくないよ。寧ろ嬉しい」
「どうして?」
「異性が自分に虜になってくれるって、嬉しくない?」
「ふふふ……確かに。虜になってるかも」
珈琲片手にミラーシャと仲良く談話していると靴先を何度か小突かれる。覗いてみればアンジェリーナの靴が私の爪先に当たっており、見上げてみればそっぽを向いて顔には不満ですとかかれた表情。
アンジェってこんなに可愛い女性だったか? 普段のさっぱりした女性と弄られると女の子になるギャップが絶妙だったのだが、やきもちを焼いて且つそれを敢えて伝える一面があるとは思わなんだ。
「なぁリューシャ」
「何かしら」
アンジェに呼ばれた瞬間先程までの私に向けられた笑みがぶっ飛び無表情ながら反応を返すミラーシャ。やっぱこいつロシア人だわ。あまりの様変わりにアンジェの頬も引きつっている。
「呼ばれた瞬間無表情になる理由ってあるの?」
「笑顔を見せるのは家族と好意的に捉えてる人と知り合いにだけ。私が笑顔を作って知り合って間もない彼女の方を見てたら何か
「それで無表情か? ……知らないと勘違いされそうだな」
「まぁ民族性だろうね」
「私は仲良くなりたいって思ってるんだけど」
そんな会話をしつつ私の靴先をリズムよく小突くアンジェ、見えない尻尾が見える見える、まるで大きな犬である。仮にこれがエロゲなら机の下で淫らな行為が始まるんだよなと妄想する。
「あ、そうそう。ロクに何もしてないけどSNS始めたんだよ。良かったらフォローしてくれない?」
一人増えた事で演技と日常にどのような変化がもたらされるのかは定かではないが、このような日常がいつまでも続いてくれればと切に願う。
◆◆◆◆◆
時は幾許か遡る。件の俳優のアカウント開設の報は世界中を駆け巡り、そして彼が前世のノリで呟いた何気無いコメントは日本を混乱させた。
日本のテレビ局のインタビューを受けようとしない彼が第一に発した言葉だ。テレビ局は視聴率を取ろうと必死になるのは必然だった。翌朝には特番が組まれ、彼の言葉の真意をコメンテーターが考察を始める。どのテレビを開いてもコメントに対する感想発表会が放映されていた。
『本日は警察庁性犯罪防止課の
『宜しくお願いします』
『宜しくお願いします』
『早速ですが、昨日SNSにて発表されました黒木氏のコメントにはどのような意図が含まれているかと思われますか』
『そうですね、重要なのは彼がどの立ち位置から発言したかということです。アメリカでは映画のインタビューを受けて役柄ではなく役者本人としての顔も知れ渡っておりますが、日本のテレビ局に対してはインタビューを受けたことはありません。そしてこのコメントが日本語であることも考えると俳優としてではなく役柄として受け取って欲しいと考えるのが妥当であるかと』
『では、そのような彼がいの一番にこのようなコメントをしたということは?』
『何故戦国時代のような言葉なのかは不明ですが……性の問題は声を大にして言える物ではないですから、彼なりの気遣いかと思いますね』
『性的に搾り取られるというのは強姦、レイプを示していると思われます。逆レとは恐らく逆レイプ、男性が女性を強姦するという意味合いになり、映画の中で黒木氏の役柄は男性にもかかわらず女性に優位に立っている存在ですから、役柄を考慮すると逆にレイプするという表現で間違いはありません』
『では食い散らかすというのは?』
『食い散らかすというのは作品での殺害の隠語と思われます。私はレイプされる側ではなく、する側の存在だ。する側は殺してしまえ。少々過激になりますが、このようなコメントになるのではないかと思いますね』
『黒木氏のコメントは役柄を通じて昨今の性犯罪に対して警告しているということですか?』
『そういうことになります』
『なるほど、ありがとうございます。それでは黒木氏について更に詳しく解説していきましょう』
余談だが彼が日本のテレビ局のインタビューを受けない理由は彼へと届いたインタビューオファーの殆んどが彼一人に対してであるからで、アンジェリーナと共に依頼が来るなら彼自身は受けるつもりでいた。二人セットの依頼もあったが先にインタビュー依頼を伝えられたアンジェリーナが難色を示し、インタビューは流れたのである。彼に単独インタビューをする肝っ玉はまだ存在しない。